リアルタイムバトルでgloopsのデータマイニングがどう進化したのか…伊藤学氏が語る

gloops『大戦乱!!三国志バトル』、グラニ『神獄のヴァルハラゲート』、クルーズ『アヴァロンの騎士』、ポケラボ『運命のクランバトル』、アソビズム『ドラゴンリーグX』、バンク・オブ・イノベーション『征戦!エクスカリバー』…MobageやGREE、App Store、Google Playでは、これらリアルタイム・ギルドバトルゲームが有力なゲームジャンルの一つとなっている。

リアルタイム・ギルドバトルゲームとは、仲間とギルド(チーム)を組んで、定期的に開催されるチーム同士のリアルタイムバトルに参加し、勝利を目指すゲームだ。仲間との連携や、作戦が勝負の鍵を握るため、従来のゲームに比べて、密度の濃いコミュニケーションが求められる。

このゲームジャンルは、運営力が試されるゲームでもある。サーバーやネットワークの負荷はもちろん、止めてしまったギルドやユーザーを排除しつつ、力の近接したギルド同士をマッチングさせていかに白熱したバトルを演出できるかがポイントになる。

今回、マッチングのカギを握るデータ分析に焦点を当てた。初期のバトルゲームやカードゲームと比較して、データマイニングの手法や考え方はどう進歩・変化していったのか。リアルタイムバトルで最も成功しているgloopsのデータマイニンググループマネージャーの伊藤学氏にインタビューを行い、gloopsにおけるデータ分析の進化と社内における役割の変化を聞いた。

 

 

金融業界からの転身

―――:本題に入る前に、伊藤さんのキャリアをお聞きしたいのですが、以前はどちらの業界にいらしたのでしょうか?

前職は金融業界にいました。主に資金の運用やファンドなど、どうやったらマーケットで勝てるのかというロジックの構築を担当していました。国内だけでなく、海外市場もターゲットでしたし、株式市場、先物市場、債券など多種多様な金融商品を分析していました。

―――: なるほど。全く違う業界から入られたわけですね。

はい。ただ、対象は異なっていても、分析の仕方そのものはソーシャルゲームと大きく変わりません。いわば分析対象がコンテンツとなっただけです。コンテンツを国や企業体として考えれば、その内部を探るという意味ではほとんど分析は同じです。例えば、金融業で分析していた資金の流れは、ゲーム内通貨の流れに似ていますし、アイテムも需給バランスがあって利用する価値や購入する価値が出てきます。ゲーム内通貨やアイテムなどの流れ、そして需給バランスがどう変動し、それによってユーザーのモチベーションや課金される状態がどう変化するのか、など分析方法においては共通点が非常に多いと思います。

―――:入社されてからもすんなり業務に入れたわけですね。

 

 

部分的な分析から全体的な分析へ

―――:さて、本題に入りますが、gloopsではデータマイニングの導入時はどういった分析をしていたのでしょうか。

ソーシャルゲームの業界自体の歴史が浅いこともあって、導入当初は、イベントでユーザーの動きがどう変わるかを分析していました。当時はデータの蓄積がないため、イベントの分析などに限定されていたのです。遊んでいるユーザーがストレスに感じている点はどこか、どうやって取り除くと快適にプレイしてもらえるか、といった分析・提案をおこなっていました。

―――: それがどう変わっていったのでしょうか。

当社も含めて多種多様なソーシャルゲームが提供されるなか、ユーザーの目は、常に新しいコンテンツに向かい、そして求められるコンテンツ・サービスの質が上がりました。ユーザーが求めるクオリティは1年前から比べても格段に高くなっています。それとともに、イベントという部分的な分析だけでは不十分となり、分析対象をコンテンツ全体に広げるとともに、月日が経つにつれてユーザーがどのように変化・成長していくのかを把握しておく必要がでてきたのです。運営していく中でそれに耐えうるデータの蓄積が可能になったことも大きいですが。

―――: バトルゲームや初期カードゲームでは分析対象が限られていたわけですね。それがリアルタイムバトルなどの普及に伴い、対象範囲が広がったわけですか。

はい。ユーザーからは、爽快感や日々のプレイのなかで着実に成長していることが実感できるゲームが求められるようになりました。インストールされた直後、なかなかレベルが上がらないし強くなるイメージがもてない、爽快感がない、楽しくないと思われてしまうと、すぐに離脱されてしまうのです。以前のように、多少厳しくても遊んでもらえた状況ではありません。非常に厳しい環境になっています。

―――:なるほど。爽快感ですか。少し前ですと、ビジュアルやUIの重要性が指摘されてきましたね。

ええ、ビジュアル面やUIのクオリティが重要で、ゲームとしての面白さが少し感じられれば良かったのです。いまはそれだけでは競争に勝ち抜くのは厳しいです。見た目の良さに加えて、ゲームとしての本質的な面白さが求められています。ソーシャルゲームは、スキマ時間に遊ぶゲームでしたが、いまはある程度の時間をかけて遊ぶ必要があります。またネイティブアプリでは、表現の自由度が高くなり、面白いゲームが求められています。コンシューマーゲームに例えると、1年前はファミコンレベルでしたが、いまやスーパーファミコンを超え、ユーザーの求めるクオリティが急激に高くなっています。

 

 

白熱したバトルを演出するマッチング

―――:本当に急激な変化ですね。

最近のソーシャルゲームは、ユーザー同士が助けあって一つの集団として、ともに強くなっていくゲーム設計になっています。ギルドバトルでもレイドバトルでもそうですが、ユーザーの強さの違いに対する考え方が変わりました。ユーザーの間で強さに差異が生じる要因として、課金の有無やゲームで遊ぶ時間がありますが、以前のソーシャルゲームでは、そうした差が自分の強さを感じられる実感として重要だったのです。しかし、いまはゲームの面白さが失われる要因になりかねません。リアルタイム・ギルドバトルですと白熱したバトルを楽しみたいとユーザーは考えています。力の開いたチーム同士で戦うと一方的な戦いとなり、お互いに白けてしまいます。白熱した接戦を楽しむためには、我々が適切なマッチングを行う必要があり、そのためには、個々のユーザーを評価してあげる必要が出てきたのです。

もう一つは無課金ユーザーの重要性を認識し始めたことも大きな変化ですね。無課金ユーザーは、収益性に関係がないため、おざなりになる傾向がありましたが、時間をかけて遊んでいる方にも楽しんでもらう必要があります。無課金ユーザーは、母数が多いので、その方々とのコミュニケーションはソーシャル性のベースとなります。その方々が飽きたり、面白くないと感じたりして離脱してしまうと、いわゆる過疎った状態となってしまいます。お金を使っている方々もそういった状態を望んでいません。そのバランスを最重要視しています。いま特にそれを分析上でいかに的確に表現するか、そして具体的な提言につなげるようにしています。

―――: 力差のあるギルド同士をマッチングさせたら大変ですからね。

苦情となって、ユーザーから届いた時点で失敗です。マッチングについては、以前は力のあるギルドと強くないギルドを対戦させてしまい、苦情がきていたのですが、最近はだいぶ減ってきました。とはいえ、苦情をいわない方がかなりいることを常に想定して、ユーザーのバトル履歴を検証しながら、チューニングをかけています。本当に細かくやらないといけません。

 

 

 

データの取り方や分析の手法が複雑化

―――:データの取り方も変わりましたか?

はい。以前は、イベントなど部分的にデータを取っていればよかったんですが、いまは前のイベントと前回のイベントなど抽出範囲がかなり広くなっています。また、取得する情報量も格段に増えました。これまでは1日単位で取れていれば問題はなかったのですが、いまは分単位で情報をとっています。そこまでやらないと、ユーザーの求めているものの具体化ができないのです。これは弊社だけでなく、他社も同様かと思います。ユーザーから日に日に求められるものが高くなっていますし、企画サイドから求められるデータもどんどん質が高くなっています。

―――: 分析の手法はいかがでしょうか。当然、高度なものが必要になったかと思いますが。

これまでは統計学的な技術はそれほど使用していませんでしたが、母数が増えると単純な表やグラフだけでは現実が把握できません。分析上の表現を豊かにするため、数理的な表現や技術が必須な状態となっています。

―――: そんなに変わったのですか。

例えば、当初使っていたグラフですと、平均的なユーザー像を把握するには十分だったのですが、ユーザーを適切に評価するには、きちんとセグメントに分け、ユーザー像を鮮明化させる作業が必要です。上位のユーザーと下位のユーザーの間の差は1カ月経過するとものすごく大きくなります。そうなると、平均を追いかけているだけでは実像とずれます。平均的なユーザーに合わせると、われわれが爽快感のあるゲームや面白い企画を作ったと思っても、多くのユーザーに訴求しないものとなります。イベントを企画する際、ある部分は中級者に遊んでもらう、上級者向けにはこういう部分を付加しておく、といった形で、各々の力量の沿ったキメ細かいイベント設計ができます。そうなると、今回のイベントはここまで達成できたけど次のイベントはここまでやりたいと思ってもらえるような、ユーザー自身が自己成長に目が向きます。それを演出するには統計的な技法を使って、ユーザーのクラス分けを行う必要があります。

―――: クラス分けについてお聞きしたいのですが、どういったものがあるのでしょうか?

一つの定義にそって、ユーザーを大雑把に振り分けます。最初に振り分けた集団がその中でどのくらいの開きがあるのか、統計量をとってうまくいかないようであれば、定義を見直して再度振り分けます。例えば、その定義が「強さ」であれば、強さが近接した状態を作っていく必要があります。いわゆる最適化です。最初作るのは大変ですが一度作れば、微調整していけば2、3カ月使えます。その後適宜モデルの精査を行い、モデルが使えないと判断すれば、もう一度モデルを組み直すことになります。

―――:どのような統計手法を使うのですか?

最も使うのは多変量解析で、回帰分析とそれに属するものです。複数のモデルを用いて最適なモデルを組み立てます。一つのモデルができれば、その値を利用してユーザー層を分けることができます。あとユーザーの振り分けに関しては、ユーザー分布を作り、その分布が適切な分布なのかどうか、他のクラスと分布が違う状態だと、どこかに偏りがありますから。どの層にも一定の分布ができているかどうかを確認します。特殊な所では、ユーザーの行動やログインを分析するため、時系列解析を使っています。ただ、時系列解析は扱えるメンバーがそれほど多くないので、適宜知識の補充を行っています。

 

 

爽快感はどうやって把握する? 体感は裏付けを持って

―――: 素朴な疑問なのですが、初めの方に出てきた爽快感は統計的にどうやって把握されているのですか?

最も簡単な方法としては、ゲーム内でユーザーが何かアクションを起こすと、何かの数値として累積されるようになっています。バトルであれば、一回行動を起こすとポイントが積み重なっていきます。その積み重なりのスピードが早くなると、ユーザーが活発に動いていることになるわけです。爽快感のポイントは、ユーザーの活性度合いが上がっているかどうかで把握します。爽快感があるのにユーザーが動かない状況は考えづらいです。ユーザーのモチベーションが高いことが結果として、爽快感につながっているのではないかと考えています。また物理学の指標を使ってユーザーのスピード感なども把握する、といったこともしています。

―――: 爽快感のようなものは、数値だけでなく実際にプレイして確認したりもするのですか?

もちろんです。しかし、その体感は、現在のように十人十色状態になったユーザーの体感と差が出ている可能性があります。以前ですと、平均的なユーザー像に沿った動きをしていたのですが、いまは人それぞれです。自分の体感した感覚が大多数のユーザーの体感と異なっている可能性が高いのです。その体感が間違ったアウトプットを出してしまう可能性がありますので、メンバーには自分の体感は主観であること、そして自分の体感が大多数の体感に合っているかどうかデータの裏付けをとるように話しています。大多数のユーザーの体感と合っているという裏付けがとれれば、重要なデータとなりますから。

 

 

ユーザーの多様化の原因

―――; ユーザーの多様化ですか。これも素朴な疑問ですが、多様化の要因はなんでしょうか。

ユーザーの多様化の原因は、月日の経過に伴って、累積したプレイ時間や使った金額が大きく影響していると見ています。例えば、毎月数百円課金したユーザーと、毎月数万円課金しているユーザーとではゲームを止める・続けるの判断が異なるのは当然ですよね。かけた金額が多くなるほどゲームに名残惜しくなるのが心情だと思いますし、愛着も出てくるでしょう。1年、2年と続けてきて、毎月数百円、数千円、数万円とかけた金額によって細分化されていきますので、ユーザーも細分化されていきます。絶対的な母数とあらゆる値の累積具合が広がりますので、分析もそれに合わせないといけないわけで、データの取り方や分析が細かくなっていくのは必然です。

―――:ところで、何かの施策を行ったとして、データ分析ではどうやって評価をされるのでしょうか。

分析の目的が、決済を直接上げるためか、間接的に決済に結びつけるかどうかで変わります。間接的な部分は、ゲームを面白いと思ってもらい、その先にもっと強くなりたいという、いわば「楽しむ」ことの延長線上で課金していただくようにすることです。ですから、面白いと思ってもらうようにする必要があります。その場合の評価は、主要KPIや設定したKPIなど意図した数値がしっかりと反応しているかどうかです。平均の接触時間やイベントの達成率、ターゲットに設定したユーザーがきちんと動いてくれているかなどですね。

―――:決済に関しては、売上高を見るのでしょうか?

必ずしもそれだけではありません。課金アイテムに関しては、ユーザーの多様化に対応した商品設計を行い、意図した層に購入してもらえたかどうかを重視しています。先ほど話したようにユーザーが多様化すると、提案する商品も多様化しなくてはなりません。上級者にはそれに応じた商品を、初心者にはそれに応じた商品を、です。ですから、このミスマッチがないかどうかを注視しています。例えば、初心者向けのセット商品を上級者に販売してしまうのはまずいですよね。使えないと思われてしまいますし、こちらの説明不足でもあります。ですから日々観測し、必要に応じて改善策を提案しています。

 

 

複雑化・大規模化には組織的に対応

―――:仕事のやり方も変わったのでしょうか。

相当変わりました。いま分析に関しては、一旦モデルを作ってしまったら、しばらくはチューニングをかけていくだけですので、全体で使ってもらっています。空いた時間は知識の習得に使います。ワーキンググループを作って、研究課題を設けて、1カ月スパンでグループごとに研究事項を作って研究しています。それを実用レベルに引き上げて実践に応用します。常に研究して、新しい手法を編み出していくようにしました。個々の対応では難しく、力量にも差が出てきますので、組織的に動いています。

―――:プロジェクトに担当者が張り付くといったやり方はしていないのですか?

原則、1つのプロジェクトに1人の担当者がつきますが、複数人でみる体制も作っています。ユーザーが多様化すれば、データマイニングも多様化に対応しなくてはなりません。精度を上げるためには少しでも主観が入るとまともなアウトプットができなくなります。一つのミスが大きな問題につながりますから責任重大です。イベントも見た目はシンプルですが、内部構造が相当複雑になっていて、間違ったデータを入れると全ておかしくなります。各担当者には精度の高さを求めています。

―――:ワーキンググループでの研究テーマはどいうものがありますか?

例えば、時間の経過に伴うユーザーの動きの変化や、ユーザーが成長している・面白いと感じる要因の分析などがあります。あと最近は他のコンテンツを遊んだらポイントやアイテムをプレゼントするといったgloops内のコンテンツ間を行き来する仕組みがあり、1人のユーザーが1つのコンテンツで遊ぶことが少なくなっています。複数のコンテンツをまたいだ時、ユーザーがどこに面白いと感じるのか、別の発想であるのではないかといったテーマも分析しました。

―――:『大連携!!オーディンバトル』や『大戦乱!!三国志バトル』が1年以上人気を保っているのは、データマイニングの力が大きいわけですね。

そうであってほしいですね。より接戦状態を楽しんでいただくためマッチングの精度を上げることに力を入れたり、イベントで少しでも止まるところはアラートを出したりと、細かいところをチェックしています。

―――:最後にソーシャルゲームにおけるデータ分析の課題は何でしょうか。

ユーザーの心理や動きをより的確に捉えられる技術の習得ですね。これは永遠につきまとう課題で、現在もメインテーマです。ユーザーの心理や動きはどんどん変化していきますので、今までの手法はすぐに過去のものになってしまいます。新しい問題を捉えて、ユーザーの状態を的確に表現できるようにしたいですね。

―――:ありがとうございました。

株式会社gloops
http://gloops.com/

会社情報

会社名
株式会社gloops
設立
2005年8月
代表者
李 仁
決算期
12月
上場区分
非上場
企業データを見る