ソーシャルゲーム・スマートフォンゲーム業界の最新の求人・求職動向…リクルートキャリア 山田 大貴氏に聞く

ソーシャルゲーム・スマートフォンアプリ業界では、ネイティブアプリのプレゼンスが日に日に高まっている。大手ゲームメーカーはもちろん、ブラウザゲーム中心にゲームを提供してきた会社もネイティブアプリに一気にかじを切る会社も出てきた。さらにSuperCellやKingなど海外メーカーも国内に進出し、アプリストアで大きな地位を占めるようになってきている。

業界環境がめまぐるしく変わっているが、業界の求人・求職動向に変化はあるのだろうか。今回、リクルートキャリアの山田 大貴氏とデロイト トーマツ コンサルティング美田 和成氏に、企業側の採用動向や求職者の最新動向、そして経営組織の変化についてインタビューを行った。前編では、山田氏が雇用動向を、後編では、美田氏が開発組織の変容について語っている。

 

■全体的な動向:求人企業の構成に変化

―――: よろしくお願いいたします。前回インタビューしたのは6月ですが、業界全体として、求人・求職動向に何か変化はあったでしょうか?

山田氏: まず、採用ニーズの高まっている会社の構成が変わってきています。これまでは、インターネット事業からソーシャルゲーム事業に進出をした数百名規模の企業からの採用ニーズが高い傾向がありました。現在も大手SAPはピンポイントに採用は続けているものの、もともと家庭用ゲームソフトを手がけていたパブリッシャーやデベロッパー、オンラインゲーム運営会社、そして、数名~100名未満のネイティブアプリ開発に特化する小~中規模企業からの求人が増えている点が目立った変化かと思います。

―――: オンラインゲームの運営会社ですか。最近、進出が目立ちますね。

山田氏: これまでPCオンラインゲームを中心にサービス提供をしてきた会社がここ最近のスマートフォンアプリの拡大を受けて、勝負をかけてくる採用ニーズが目立ってきましたね。日本国内でオンラインゲームを開発している企業はもともと少ないので、韓国や欧米の外資系企業からの日本市場進出がかなり積極的と感じています。

―――: それは大きな変化ですね。プラットフォーマーや大手SAPの求人は急減したと?

山田氏: いえ、求人が急減したわけではなく、求める求人要件がピンポイント化してきたといえます。これまでのように広くプランナー職、エンジニア職、デザイナー職といった募集ではなく、開発会社の管理が得意な人やネイティブの特定技術に強い人、3DCGデザインに得意な人などといったように要件がより明確になりました。

―――: 大手SAPやプラットフォーマーの中にはネイティブに大きく舵をきった会社も出てきましたが、その影響もあるのでしょうか。

山田氏: それもあります。特に最近主流のネイティブアプリでは、ゲームとしての面白さや楽しさを構築し、その後、課金などのビジネス部分を考える状況になっています。ブラウザゲームを中心に手がけてきた会社は、これまで蓄積してきたノウハウだけでは対応できず、ネイティブアプリの開発・運用にフィットしたスキルを持つメンバーを求めています。

―――: なるほど。

山田氏: 一方、求職者側からみると、大手SAPやプラットフォーマーは、かつてアグレッシブに採用のプロモーションを行っていたためか、比較的入社しやすいと考えている方が多いようです。しかし、大手SAPやプラットフォーマーは、現在では要件やタイミングが合わないと原則、採用に踏み切れないことが多く、結果的に入社難易度が上がっている状況にあるといえます。

―――: だいぶ状況が変わっていますね。

山田氏: それともうひとつ大きな変化があります。ソーシャルブラウザゲームからネイティブアプリへの移行に伴い、開発プロジェクトが大規模化・長期化する影響で、開発体制を見直す会社が増えてきました。ブラウザゲームとは、開発期間や開発予算、開発手法だけではなく運用面、マーケティング手法までもノウハウが異なることを痛感している企業が多いかもしれません。ブラウザゲームの体制のまま、ネイティブアプリを開発・運用しても結果に結びつかないケースが増えていますので、どういう組織体が望ましいのか、人員規模や職種構成、適切な開発期間などに悩む会社が多いですね。プロジェクトによっては、1年以上、億単位の予算をかけて開発するコンテンツもあるため、開発サイドとしてもリスクが伴うので、家庭用ゲームの開発スタイルに近づいていくかもしれません。

―――: 求人への影響はどうでしょうか。

山田氏: 採用ターゲットが頻繁に変更されたり、募集ポジションがクローズすることが増えてきました。これまでは、プランナー・エンジニア・デザイナーの主要職種はどの企業でも募集をしていましたし、半年~1年のスパンでゆるやかにターゲット変わったのですが、開発体制の見直しを頻繁に行うため、必要な人材が変化し、採用ターゲット・採用ポジションは頻繁に変化します。計画していたゲームがリリースできず、売上計画を割ってしまうといった決算発表も見られましたが、いかに面白いものを作るかという課題とともに、いかにスケジュール通りに開発できるかを課題と考えている会社が多いようです。

―――: なるほど。それでは職種別の状況についてお聞きします。

 

■企画職:採用活動は積極化

―――: まず、企画職の状況はどうでしょうか。6月にお聞きしたお話では、かなり消極的になったということでしたが。

山田氏: 確かに4~6月については、企画職の採用に慎重になった会社が多かったです。ネイティブアプリが大きく伸びるとわかっているし、そちらに舵を切りたいのですが、そのスキルの要件が明確になっておらず、積極的な採用に動きづらいという事情がありました。この点は、エンジニアやクリエイターと違いますね。

―――: ここにきて積極的になってきたと。

山田氏: そうです。運営と開発で求める企画職の要件が固まってきたためだと思います。運営側の企画職ですと、ユーザーの定性的な情報を集めて、運営に反映させるといったスキルが求められているのが、新たな傾向です。今までのブラウザゲームはどちらかというと数値至上主義というか、数値面からのアウトプットに長けた方が求められている傾向にありました。もちろんネイティブにおいても数値を見る力は必要なのですが、数字だけではなく定性的なユーザーの声からのアウトプットも重要視するようになっています。PCオンラインゲーム運営会社にいる運営プランナーの方がお持ちのスキルに近いイメージです。定性情報と定量情報からユーザーに求められるアウトプットが必要なので、難易度があがりますよね。

―――: 開発側の企画職はまた異なるわけですか。

山田氏: はい。こちらは前回と引き続きといった状況ですが、家庭用ゲームのプロデュースやディレクションの経験のある方が求められる傾向にありますね。ゲームをしっかり作りこむスキルに加えて、プロジェクトが長期化しますので半年~1年後にヒットする面白いゲームを考えられることが求められます。少人数でコミュニケーションを取りながら開発を進めていくのではなく、世界観や作りこみにこだわり、仕様書を作成し、外注パートナーも含めたプロジェクト全体を管理できる人が求められています。ただ、ネイティブ特化型の開発会社の中には、驚くほどのスピードでネイティブアプリの開発ができる企業様もいらっしゃり、その場合には仕様書や外注パートナーディレクションよりもスピード感やコミュニケーション能力といった従来のブラウザゲームの開発スタイルを続けている企業もあります。

 

■エンジニア:CやC++のエンジニアへのニーズが急増

―――: 続いてエンジニアですが、こちらは引き続きニーズが強いですか。

山田氏: そうですね。かつてブラウザソーシャルゲームの市場拡大期にLAMPエンジニアへのニーズが非常に強くなったことがありましたが、家庭用ゲームやアーケードゲームの開発経験をC言語やC++言語でお持ちのエンジニアへの採用ニーズが爆発的に伸びています。特に家庭用ゲームやアーケードゲームのデベロッパーのご出身者ですと、人によっては年収が倍増、200万円、300万円アップで転職するケースもでてきています。

―――: それはすごいですね。

山田氏: ええ。ただ、求人を出す側もかつてのLAMPエンジニアでの採用時の経験で学習した会社が多いのか、かつてのように誰に対してでも年収を大幅に引き上げる、多額の入社準備金を出す、というわけでもなく、支払う人をきちんと選んでいるようです。

―――: 引く手あまたの求職者サイドですが、何か特徴はありますか?

山田氏: はい。コンソールゲームやアーケードゲームの開発出身のエンジニアは、年収を第一の判断基準としていない方が多いですね。例えば、あるエンジニアが、「好きなことができるA社」と、「好きなことはできないがA社よりも200万円年収が多いB社」から内定を得た時、年収が低くても好きなことができるA社を選択したい、という強い意志を持った方が多いのです。好きなゲーム開発に携わりたくてゲーム専門学校を卒業し、ゲーム会社に入社した方が多いですから。

―――: 他のエンジニアはいかがでしょうか。

山田氏: インフラ系ですと、ニーズはありますが、積極的に採用するというよりも良い人がいたら採用したいという会社が多いですね。またHTML5を使うフロントエンドのエンジニアも一時に比べて落ち着いてきました。フルネイティブで開発する動きが強まっていますし、技術の過渡期にあるのかもしれません。

 

■クリエイター職:アートディレクターの募集増える

―――: クリエイター職はどうでしょうか?

山田氏: アートディレクターの求人がかなり増えている点が特徴的なことですね。以前のソーシャルゲームでは、ゲーム全体のクリエイティブコンセプトなどよりも開発スピードやレアカードの絵柄を重視してきた傾向がありました。今の傾向ではゲームの世界観をどう作るか、どういうクリエイティブコンセプトでゲームを作るか、ということが重視されています。コアゲーマー向けや作りこみを重視するネイティブアプリが増えており、世界観をしっかり作ってからクリエイティブに落としこむことを積極的に行う会社が増えてきました。とはいえ、こういうことをできる方はなかなかいないのですが…。

―――: もしそういう人がいたら引く手あまたということですか。また先日、iOS7が出ましたが、UIデザイナーはなにか変化があったでしょうか?

山田氏: 需要は引き続き旺盛ですね。おっしゃるように新しいOSが出ると、それにともなって、新しいクリエイティブ、UIやUXが実現できるので、求人要綱へ反映されるのですが、なにぶん、新しい技術ですので…なかなか充足しません。

―――: 自社にいる人材でまかなうということですか。また最近、3Dやアニメーションを使うリッチなタイトルが増えてきましたが、3D系のデザイナーへのニーズはいかがでしょうか?

山田氏: 求人は増えていますね。ただ、3Dを多用するとどうしてもアプリ自体の容量が多くなりますので、その点を検討されている会社が多いですね。あまりにも重いとユーザーが離れますし。リッチなクリエイティブでかつ容量の軽いものを作るにはどうしたらいいのかが至上命題となっています。家庭用ゲームですと、ハードのスペックがどんどん上がり、クリエイティブもリッチにできますが、スマートフォンの場合、ハードのスペックは、新機種が出るといっても突然は大きく変わらないですし、古い端末にもある程度対応しなくてはなりません。リッチな作り方に慣れている家庭用ゲームクリエイターがこの対応で苦労されています。一方、ブラウザソーシャルゲーム出身者がこの領域を得意としており、両者のノウハウの融合が解題なのかもしれません。

 

■その他の職種

―――: マーケティング職などはどうでしょうか?

山田氏: 各社のマーケティング戦略の考え方がばらつきが出ていますね。例えば、アプリストアのランキング上位に表示させてユーザー獲得を目指す会社もありますし、多くのゲームをつくってそこからユーザーを回遊させていくという会社もあります。そのため、会社の戦略の違いによって求人の内容も変わります。前者ですと、リスティング広告やSEOなどの経験者がフィットしますし、後者ですと、ブラウザソーシャルゲームや、プラットフォーム内でユーザーを回遊させた経験のある方が求められています。あとは、パブリシティやリアルイベントなど、家庭用ゲームのプロモーションに近い手法にも注目が集まっています。

―――: データマイニングについては一時かなり活発でしたよね。最近あまり聞かなくなったのですが、どうでしょうか。

山田氏: 以前は、かなり需要が旺盛でしたが、だいぶ落ち着いてきました。データから導かれるアウトプットがはたしてユーザーに対して良い結果をもたらすのか、最近、疑問を持つ企業が増えているようで、定量的な情報と定性的な情報をいかに組み合わせるかが重要になっているのかもしれません。理系的な発想と、クリエイティブな発想の融合でしょうか。もちろんインターネットサービスの側面もあるので、数値は重要なのですが、どこまで信じるかを各社検討している傾向にあります。

―――: ネイティブ系のプロデューサーの中には、データは全く見ないと公言する方も目立ってきましたね。考え方が変わっているのでしょうか。

山田氏: そうですね。ヒットタイトルのプロデューサーの取材など拝見すると、「たまたまタイミングが合いました」や「ヒットしたのは運がよかったからです」など、仰る方もいらっしゃいますが、意外と本音なのかもしれませんね。もちろんヒットコンテンツに対する努力や創りこみはかなりきめ細やかにされていると思うのですが数値以外の感性も重要であると言えるでしょう。開発納期ももちろん重要ですが、納得がいくコンテンツができるまでリリースをしないといったポリシーの開発会社もでてきていますね。

―――: 海外系はどうでしょうか。最近、海外スタジオの閉鎖や縮小などのニュースが伝えられておりますが。

山田氏: そうですね。開発の一部を海外に出したり、海外にスタジオを作ったりと海外事業を担う人材を求める動きが昨年まではプラットフォームや大手SAPであったのですが、最近はあまり聞かなくなりました。プラットフォーマーなどは体力があるので、規模を縮小しても継続できるのですが、SAPとなると収益的にも体力的にもきついため、海外の拠点の閉鎖や縮小して日本に呼び戻している会社がでてきました。また、海外の大手ゲーム会社が日本市場に参入しているという背景もあるので、国内の会社も危機感を覚えているようです。その一方、日本の大手家庭用ゲーム会社やオンラインゲーム企業は、海外に既に拠点がありますので、粛々と海外展開を続けています。通信インフラの環境や文化などの課題はありますが、東南アジアや新興国などこれから伸びそうな国・地域に拠点を作り、布石を打っていますね。

 

■今後の展望

―――: 今後の展望としては、いかがでしょうか?

山田氏:いわゆるフィーチャーフォン向けのブラウザソーシャルゲームの落ち込みやコンプガチャ問題などを発端に「ゲーム」=負のイメージが一部あり、ゲーム業界全体を不安視されている方も一部いらっしゃいますが、スマートフォンネイティブアプリ市場は確実に伸びておりますし、海外展開もしやすい環境が整いつつあります。

各種報道では、ソーシャルゲーム限界説や業績に苦しむ企業の報道にのみスポットが当たっておりますが、日本が世界をリードできる可能性を秘めている産業が「ゲーム」であることも事実です。日本が世界に誇る産業をご支援できる責任と楽しさを感じながら、引き続き業界に対して貢献をさせていただきたいと思っております。お問い合わせやご相談など大歓迎ですので、いつでもご連絡ください。引き続きよろしくお願いいたします。

 

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