2014年のトレンドは「リアルタイム通信」 コロプラ馬場社長が語るスマホアプリ市場の総括と展望

2013年のスマートフォンアプリ市場は、急拡大を遂げた1年であった。『パズル&ドラゴンズ(パズドラ)』が社会現象といえるほどの大ヒットとなり、ガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>の業績・株価ともに飛躍的に拡大。さらにコロプラ<3668>も『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ(黒猫のウィズ)』や『プロ野球PRIDE』をヒットさせ、売上高230%増、営業利益283%増と大きく伸びた。

株式市場での両社の評価は、同セクターでも飛び抜けて高く、株価上昇率は年初比で760%を記録している(関連記事)。今回、コロプラの馬場功淳社長にインタビューを行い、2013年のスマートフォンアプリ市場の総括と2014年の注目点、そして、コロプラとしての取り組みについて話を聞いてみた。

 

■2013年はコロプラにとっては飛躍の年


―――: 2013年を振り返っての感想を教えて下さい。

コロプラにとってはまさに飛躍の年になったと思います。『黒猫のウィズ』など、新しいヒットコンテンツが生まれてくるとともに、株式上場したことで、優秀な人材が集まるようになり、会社としても1つ上のステージに上がりました。また、テレビCMも出すことができました。ゲームだけでなく、テレビCM自体もヒットしたことも大きかったと思います。

―――: 業界全体という観点ではいかがでしょうか。

この業界におけるブラウザゲームとネイティブアプリの論争にもほぼ決着が付いたと思います。その議論自体に本質的なものはないと認識していますが、いま新作ゲームをブラウザで作ろうという人は非常に少なくなっています。ネイティブアプリでいかにいいゲームを開発できるか、というところが勝敗を分けるという認識が広がってきたように思います。

―――: ネイティブアプリのマーケット規模も大きく伸びましたよね。

そうですね。まず、マーケットを切り開いたのは、ガンホーさんの『パズドラ』で間違いないでしょう。当社がそれをできなかったのは悔しいところなんですが…。そして、当社を含む他社がそれを追いかける形で、マーケットの裾野が広がっていき、その結果、日本におけるスマートフォンのネイティブアプリ市場が急速に成長していきました。当社の2013年9月期の売上も前年比230%増と大きく伸ばすことができました。

―――: この結果については、去年の時点で予想はできていたんですか?

えーと、あくまで個人的な目標として考えていたものですが、ある程度は当たっていました(笑)。2013年の年始に考えていたのですが、想定以上のペースで伸ばすことができ、9月の目標を1カ月前倒しで達成することができました。

―――: 『黒猫のウィズ』のヒットは注目を集めましたね。

『黒猫のウィズ』は、ヒットしたタイトルといっていいと思いますが、それでも『パズドラ』にはまだまだ及びません。会社としても、一皮むける必要があると思います。当社もオンラインアプリを多く作ってコンテンツのポートフォリオを形成していますが、アプリ制作力などの理由により、この構想に追い付けていません。とはいえ、その状況はだいぶ改善されつつあり、私個人の目から見ても、面白いゲームがこれから控えています。半年後、もういちど振り返って結果を見て、一皮むけたのかどうか、改めて考えたいですね。

―――: コロプラは、マーケットインで企画を進めていると聞いていますが、最近は市場を広く取るコンテンツよりもターゲットを絞ったタイトルが増えてきましたが、今後もこの傾向が続くのでしょうか。

確かに『蒼の三国志』や『戦国かぶき道』は、ターゲットを絞ったタイトルですね。ただ、その点は、配信するコンテンツポートフォリオが重要だと考えています。今後は、マスを狙ったものもありますし、さらに小さいユーザーにターゲットを絞ったタイトルもでてくるでしょう。半年経過したタイミングで、全体として計画したポートフォリオに沿ってバランスよくアプリを提供できていればいいと思います。

―――: 『蒼の三国志』は当初の予定からだいぶ遅れましたよね。

当初は、スロットをコアアクションとしたカードゲームとして開発していました。ただ、開発してみて、どうしても面白くなかったため、思い切って作り直した経緯があります。当初はブラウザゲームだったのですが、ネイティブに作り変えました。このため、計画では6カ月で完成する予定でしたが、さらに3カ月かかってしまいました。当初の企画のまま出していたら厳しかったでしょうね。

―――: 開発期間についてですが、全般的に延びたのでしょうか?

たしかに延びました。2014年1月目標で開発しているタイトルも当初は、昨年の夏に出す予定でした。だいぶ延びていますよね。結局、1年くらい開発していますが、市場の状況を考えると仕方のない側面もあります。大きく進歩しているネイティブアプリ市場で、より上質なゲームを提供しようとすると、どうしても開発期間がかかってしまいます。良質なゲームを提供しないと、ユーザーさんから受け入れてもらえないですから。

―――: スケジュールどおりに完成度の低いゲームを出して、失敗した事例もいくつかみられましたね。

はい。スケジュールを守るに越したことはありませんが、ユーザーさんにより楽しんでもらえる質の高いゲームを出すことの方が重要だと考えています。そのためには開発ラインをいかに増やすかが重要なのです。仮に1つのタイトルの開発が遅れても、多くの開発ラインを用意していれば、毎月のように新作が出せるようになるでしょう。そういった状態にすることが直近の私の課題です。

―――: 良いものを開発しようとすれば時間がかかるのはわかりますが、遅れる原因としてどういったことがあるのでしょうか。

半年後のリリースを目指してゲームを開発していると、どんなに精緻な市場予測を行ったうえで開発に入っても、予測できない要因でゲームが古くなってしまうことがあります。具体的には、新しい技術が出てきたり、自分たちの作ろうとしていたゲームと同じようなゲームを他社が出してしまったりと様々です。そこで、1つのラインの開発が遅れたとしても、複数の開発ラインがあればその遅れをカバーできると考えたのです。

―――: この業界、本当に予測が難しいですよね。

ゲームの流行は本当に不安定で、次の流行を予測するのは不可能です。リリース後、どのくらいのユーザーさんが遊んでくれて、売り上げが出るのか、本当のところ、見通しが立てられないのです。また市場におけるタイトルの供給ペースも早く、ゲーム内容が似通ってしまうことも多々あります。他社が同じようなゲームを同時期に出したために市場を分け合う形になって十分にヒットしなかったというケースも少なくありません。

―――: もうひとつですが、主に国内での話になるでしょうが、App StoreとGoogle Playの差が小さくなった1年でもあったかと思います。

確かに国内においては、App StoreとGoogle Playの差が小さくなった1年でもありますね。市場規模もそうですし、ランキングタイトルの顔ぶれもそれほど差はなくなっていると思います。マーケットの使い勝手もほとんど差がなくなっていますよね。ただ、アメリカではタブレット端末の中でもiPadが非常に強いですから、App Storeの規模が大きい状況だと思います。

―――: カードゲームのポジションも一時に比べて下がってきましたね。

カードゲームは、ジャンルとしては決してなくならないでしょうが、純粋なカードゲームを作っているところは少なくなったと思います。ゲームの世界では、どうしても流行り・廃りがあります。格闘ゲームが流行する時もありますし、シューティングゲームが流行するときもあります。それが今回、カードゲームだったわけです。しかし、「次はどんなゲームが人気なんでしょうか」とユーザーさんに聞いても答えは返ってきません。我々が新しいゲームを作って、ユーザーさんに「これはどうでしょう?」と提案していくしかないと思います。そのため、失敗する回数が多くなったとしても多くのタイトルを作りたいと考えているのです。流行を追っていくには他社さんの事例をみてもわかりません。自分たちで実際に作って提供し、様々なKPIをチェックすることで初めてできることです。

―――: なるほど。先ほどマーケットインで企画するというお話でしたが、『黒猫のウィズ』はどうして出したのでしょうか。その当時、クイズゲームは、ジャンルとしてとてもヒットしているとはいえなかったですよね。

そうかもしれません。アプリマーケットの売上ランキングの上位には、クイズゲームはほとんどなかったですから、それだけ見ていたらクイズゲームをあえて出そうという判断にはならなかったでしょう。ポートフォリオを作って、自分たちで実際にゲームを提供してユーザーさんの反応を見ながら、求められているゲームを探っていくプロセスが必要です。それはお金も時間もかかることですが、どうしてもやらなくてはなりません。その答えがヒットにつながり、会社の成長につながると信じています。

―――: そういえば、『黒猫のウィズ』に関してはテレビCMも好評でしたよね。

実はテレビCMがこんなにヒットするとは思いませんでした(笑)。テレビCMについては、私も参加して作っているんです。テレビCMを作る度にものすごい時間を費やしています。クリエイティブに関しては、ラフ段階から撮影、仮編、本編までほぼ全てに関わっています。テレビCMについては『蒼の三国志』や『プロ野球PRIDE』も関わっています。ただ、数字面や出稿量に関しては専門のチームに任せています。

―――: 会社として出したCMのクリエイティブにはほとんど関わっていたんですね。

はい。おかげさまでテレビCMの作り方についてはだいぶコツを掴みました。個人的に思うところでは、「スマートフォンで遊ぶゲームのCMです」ということを視聴者に認知してもらうことがまず重要です。ゲームを遊ぶ時間やゲーム画面を見せる時間を長めに取って、「スマートフォンでこんなゲームがあるんだ」と気づいてもらうようにしています。ゲームは、生活必需品ではありませんから、CMらしいCM、面白いCMでは刺さらないのではないかと思います。見た方の心に何かを残して、実際にアプリマーケットに行ってダウンロードしてもらうという行動に繋げなくては意味がありません。

―――: コロプラ社長という立場を離れて、個人的に2013年で面白いと思ったゲームはありますか?

本当にたくさんありましたね。e-dragon powerさんの『おしおきパンチガール』は最高です。ゲームとしても微妙なバランスで作られていて面白い。そして、日本人しか理解できないかもしれませんが、サブカルチャー的な世界観をきれいに作り上げている点も素晴らしいと思います。あとは、アカツキさんの『サウザンドメモリーズ』、エイリムさんの『ブレイブ フロンティア』、Aimingさんの『ヴァリアント レギオン』も面白いと思いました。


 

■2014年の展望…トレンドはリアルタイム通信


―――: 2014年のアプリマーケットについてはどうみていますか?

マーケットとしては引き続き成長するでしょう。トレンドとしては、同期型のリアルタイム通信を使うゲームに注目しています。直近の事例では『ドラゴンポーカー』や『モンスターストライク』といったゲームがあげられます。当社で開発しているゲームの8割は、同期型のリアルタイム通信を導入する予定です。最近、Kuma the Bearブランドからリリースした『クマのみんなでリバーシ!』や『なぞってネコちゃん!(なわばり大戦争編)』などが同期型のリアルタイム対戦が楽しめる事例ですね。ゲームとして面白いから作っているのはもちろんなのですが、技術的な足場を固める意味もあります。

―――: 数社にヒアリングした時も、リアルタイム通信は、2014年のテーマになると見ている会社さんが多かったですね。

そうでしょうね。ただし、リアルタイム通信の問題は電池です。既存のアプリに比べて通信をするので電池の消耗が大きいんです。ですので、自宅では電源を供給しながらマルチプレイで遊びつつ、外でも遊べるよう、一人でも遊べるようなゲームがおそらく多くなるでしょうね。

―――: 『ドラゴンポーカー』や『モンスターストライク』はターン制のゲームですよね。こういったゲームをイメージすればいいんでしょうか?

現状でているリアルタイム通信のものは確かにターン制が多いと思いますが、今後は、待ち時間が必要のないタイプが増えていくと見ています。例えば、『蒼の三国志』でPvP要素がありますが、現状実装されているものはあくまで非同期型となっています。これがリアルタイムで同期対戦できるとすれば、いまのものとは違った楽しさが出てくるはずです。あとは強力なレイドボスを倒すために他のプレイヤーと一緒に戦う、グループ同士で戦うGvGといった遊び方もいいでしょう。

―――: 実は、オンラインで他の人と同時に遊ぶことを嫌がる人が多いのかなと懸念していたことがあったのですが、『ドラゴンポーカー』や『モンスターストライク』のヒットを見るとどうもそうでもなさそうですね。

もしかすると1年前まではそういう傾向があったのかもしれません。ユーザーさんの求めるもの、好むものは変わっていきます。今求めていなくても将来求められるかもしれない。提供者としては、「この技術はない」と否定せず、「いまはない」と考え、こうした変化に機敏に対応したいと思っています。開発する立場からすると、いま求められているものを作っても仕方がなく、半年後、ユーザーさんがどういうゲームを好むのかを予測しながら作っていかなくてはなりません。

―――: 社長個人として作ってみたいゲームはありますか?

位置ゲーですね。コロプラらしさと言えば、やはり位置ゲーです。2年ほどかけてスマートフォンゲーム開発の修行をしてきたわけで、これまで一定の成果が出せるようになったと思います。ここまで培ってきた技術とノウハウを使って、新しく位置ゲーを作りたいと考えています。スマートフォンになって位置情報が扱いやすくなり、また、インタラクションもやりやすくなっています。そこにゲームテクノロジーを使えば、面白い位置ゲーを作れるのではないかと思います。2015年は位置ゲーの年になるかもしれません。

―――: 2014年の業界の課題についてはいかがでしょうか。

未成年者課金の問題はまだまだ根強く残っていますし、きちんと対応していく必要がある課題だと思います。スマートフォン向けのゲームは、出てきて間もない、新しいサービスですから、法的な問題をクリアするとともに、社会の理解を得ながら提供していく必要があります。この点は、当社としてもプラットフォーマーや関係官庁と協力して取り組んでいきたいと思っています。

―――: またエイリムさんとgumiさん、サイバードさん、グリーさんなど海外でのビジネス展開で成功を収めている会社も増えてきましたね。

そうですね。すごいですよね。これからも海外のビジネス展開で成功を収める会社が増えるでしょう。コロプラの海外展開については、多少成功しつつあるプロジェクトがありますが、大成功といえるものはまだ残念ながらありません。ひとつ成功できれば、それが足がかりになります。これから手を変え品を変え、試行錯誤して取り組み、成功体験を積んでいきたいと思っています。

―――: 個人的には『蒼の三国志』に注目しています。このゲームのFacebookページを見ると、中国系と思しき方々の書き込みがすごいですよね。

そうなんです! 香港や台湾の方々がわざわざアプリをダウンロードして日本のサーバーにつないで遊んでくれているんです。詳しい数字はいえないですが、衝撃の結果でした。相当な人数が来てくれています。できるだけ早く現地で出したいですね。

―――: あと、注目している会社はありますか?

うーん…。最近ヒットを飛ばしている会社さんが第2弾タイトルでどういうゲームを出してくるかに注目しています。2本目をヒットさせるって、すごく難しいんです。ヒットを出した会社には当然、優秀なクリエイターがいるのですが、そういった人は既存のプロジェクトに時間を取られるため、新作の開発には対応できないことが多々あります。2本目がヒットすると、ヒットを作り出した成功体験を会社内でうまく共有できた証でもあり、続いて3本目、4本目とヒットするでしょう。やってみるとわかりますが、チームって簡単に複製できないんです。

―――: 最後に2014年の抱負をお願いします。

将来的には世界ナンバーワンを目指していますが、2014年は、できるだけ頑張って、日本国内のスマートフォンゲーム市場でのナンバーワンを目指していきたいと思っています。2014年にリリースされるオンラインアプリは、フルネイティブで作られるゲームで、いままでのコロプラのそれとは全く違うものになります。Social Game Infoのようなビジネスメディアの観点からすると、第1弾と第3弾のタイトルに注目してもらえると良いと思います。

―――: ありがとうございました。
 

株式会社コロプラ
https://colopl.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社コロプラ
設立
2008年10月
代表者
代表取締役会長 チーフクリエイター 馬場 功淳/代表取締役社長 宮本 貴志
決算期
9月
直近業績
売上高309億2600万円、営業利益28億5800万円、経常利益32億7600万円、最終利益18億9300万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3668
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