【インタビュー】「Dragon Graphic Box」を手がける「株式会社キラリト」が誕生 松尾社長に聞く設立の経緯と今後の戦略

「Dragon Graphic Box(ドラゴングラフィックボックス)」をご存知だろうか。スマートフォンアプリやソーシャルゲームで大量のイラスト制作を発注できるグラフィックソリューションサービスで、2012年3月よりサービスがスタートしており、現在、60社以上、100タイトル以上のソーシャルゲームやコンシューマゲームで利用されている。

今回、そのサービス運営を行う新会社が未来少年からスピンアウトする形で設立された。その社名は、「株式会社キラリト」。今回、代表取締役の松尾澄子氏に設立の経緯やサービスの特徴、今後の展開についてインタビューを行った。



■会社設立の経緯

―――:このたびは設立おめでとうございます。まず、会社の設立された経緯を教えて下さい。

株式会社キラリトは、電子書籍やゲーム、グラフィックソリューションを展開してきた株式会社未来少年のゲームとグラフィックソリューション部門を分社化する形で発足しました。

―――:分社化された理由を教えて下さい。現状のままでのいいのではないかと思うのですが。

キラリトは前身の未来少年のころより、美麗グラフィックのブームが来る前からグラフィックソリューションに注力してきました。提供できるグラフィッククオリティも上がってきましたので、独立した会社とすることでソリューションサービスをより強化し、成長性を高めたいと考えたことが理由のひとつです。2つ目の理由として、未来少年の戦略もあります。未来少年は、今後、持株会社となり、様々な新サービスを立ち上げてスピンアウトさせる形で子会社を独立させ、柔軟でスピーディな経営判断を確立していくという考えがあるからです。

―――:主力事業はグラフィックソリューションでしょうか?

はい。当社キラリトにおいて、「Dragon Graphic Box」が引き続き主力事業となります。このサービスは、ゲームのグラフィック制作のソリューションサービスとなります。平均して月間2000点を超えるグラフィックを提供しています。

―――:そんなに作っているのですか。驚きました。サービスの特徴を教えてください。

グラフィック制作管理ツールをCMS化して、制作に係るリソースを全てPC上で管理できることです。ゲームやプロジェクトごとに、進化差分の有無やフィードバックなどグラフィックの工程管理が全てできるようになっています。実はサービス開始当初は、エクセルで管理していたのですが、100枚を超える規模で発注していただけるお客様もいらっしゃるため、徹底したシステム化を行なうことで対応しました。

―――:100枚超になるとエクセルでは大変かもしれませんね。サービスとシステム化のメリットはなんでしょうか?

グラフィック管理の効率が大幅に上がることで、クリエイティブな作業により多くの時間を割くことができるようになる点です。つまり、さらなるハイクオリティな作品の制作に貢献できるのです。会社によって組織は違うでしょうが、例えば、アートディレクションチームがあったとします。アートディレクターがいて、その下にアシスタントが3~5人います。アシスタントは何をやっているかというと、作家や制作会社との連絡がメインで、作品の判断は、アートディレクターがやっていることが多いのです。当社のサービスを使うことで、アートディレクターが直接、管理画面上からグラフィックのチェックや色使いの指示、フィードバックができるようになり、グラフィックに係る管理工程を大幅に簡略化できます。制作リソースもPC画面上でアップロードされていますので1クリックでダウンロードすることが可能になるため、例えば、「PSDファイルを送ってください」「最新版を送ってください」などと連絡する必要もありません。

 


―――: サービスを立ち上げたのは松尾社長とお聞きしましたが。

はい。この事業を立ち上げたのは、私がゲームやアプリのディレクターの仕事をしていたとき、外部の制作会社に発注しても、クオリティやスピード、ボリュームの面で満足できませんでした。満足のいくグラフィックを用意するには、直接、クリエイターに発注するしかなかったのです。そうなると、何人ものクリエイターと連絡を取らなくてはならず、非常に手間だと感じていました。多くの有力なクリエイターに一括して発注できるサービスがあったら便利だなと感じていて、それならば自分たちで作ってしまおうと考えたわけです。そういうサービスでしたら、皆さんに喜んで作っていただける、という自信がありました。

―――:契約しているクリエイターは何人くらいいらっしゃるのですか?

契約しているクリエイターは国内・国外合わせて2万5000人くらいですね。サービス開始当初から2倍以上になっています。クリエイターの数は絶対的な目標ではないですが、3万人くらいに増やせたらいいなと思っています。またクリエイターについては、自分たちで地道に発掘しています。この部分は企業秘密です。これ以外には、国内外の専門学校とタイアップして、若いクリエイターの育成にも力を入れています。

―――:海外のイラストレーターさんもいるのですか。

はい。当社では、サービス展開に関しては、業界動向の予測を行い、それに基づいて先手先手を打つようにしています。例えば、ソーシャルゲーム業界で美麗グラフィックブームの到来する前からそれを見越して海外作家の発掘などを行っていました。社内にバイリンガル、トリリンガルのスタッフを採用して、彼らが海外の作家のアートディレクションを行っています。



■トレンドは3Dとキャラクター性

―――:なるほど。御社では今後の業界のトレンドについてはどうみておられるのでしょうか?

当社としては、コンシューマーゲームの歴史と同じような展開になっていくと考えています。ハードウェアのスペックが上がり、ファミコンやスーパーファミコンのドット絵から、プレイステーションでの3D、そして実写レベルと思わせるようなグラフィックになってきました。つまり、ハードウェアの進化に伴い、グラフィックも進化してきたわけです。

―――:そうですね。

これと同じ状況にモバイルもなっていくと見ています。2010年にMobageとGREEがオープン化し、2011年に「神撃のバハムート」が登場し、美麗グラフィックブームが到来しました。2013年は「パズル&ドラゴンズ」が大ブームとなりました。2012年頃、当社は3Dが主流になっていくとみており、そのための準備もしていました。





―――: 最近ではスマートフォンのネイティブアプリがリッチになってきていて、3Dモデリングを使う会社が増えていますよね。

はい。3Dモデリングのクリエイターさんとのネットワークがありますので、提供しています。おかげさまで、いずれも引き合いが増えています。またアニメーションの制作なども行っています。

―――: もう一つの流れとして、ドット絵を活用したゲームも増えていますよね。

そうですね。当社では、3Dがメインになるとみていましたが、スプライトシートとドット絵を活用した、原点回帰ともいえるゲームも出てきました。やはり日本人は2Dが好きなんだなと実感させられました。

―――: この点は誤算だったと。

いえ、実はそうでもありません。当社は、フィーチャーフォンが主流だった頃から、ドット絵を使ったアプリ開発を行っていましたから、ドッターとのネットワークもあるのです。ドット絵に関しては、国内でもトップクラスのクオリティであると自負しております。幸い、こちらも引き合いが多く、順調に推移しています。

 


―――:キャラクターイラストへのニーズも引き続き強いかと思いますが、この点についてはどうお考えですか?

その点については、今後は「キャラクター性」が重視されるとみています。グラフィックの数は減らしても、クオリティをより重視し、キャラクター性を強める傾向が出てくると見ています。今後、ゲームもこれまで以上に多様化していくでしょうが、その度に大量のグラフィックを用意するのは難しくなりつつあります。当社では、それを見越して当社専属の作家さんとの契約も増やしています。「この作家さんが描いたキャラクター」というブランディングがこれまで以上に重視されるでしょう。当社としても作家のプロモーションにも力を入れたいと思っています。

―――:キャラクター性といいますと。

例えば、表現するのはなかなか難しいのですが、表情や感情などが描かれていて、そこからキャラクターの性格やバックグラウンド、気分などが読み取れる、といった意味でしょうか。こういうことは日本人の作家さんが得意とする領域ですね。あとは、タクティクスゲームなどではジョブキャラクターやプレイヤーがありますが、ユーザーさんがのめり込めるようなキャラクターですね。そういうものを作っていけるような仕組みにしたいですね。ユーザーさんにより愛されるキャラクターづくりといったらいいでしょうか。

―――:なるほど。市場のトレンドをあらかじめ予測して、それにあったグラフィックを提供することが御社の差別化要因になっているわけですね。

そうですね。いままでのようにカードイラストを提供しているだけでしたら、他社との価格競争に巻き込まれてしまったと思います。常に市場のトレンドを予測して、最高のグラフィックサービスを提供するように心がけています。むしろ、次代のグラフィックトレンドを当社が発信していく。グラフィックの制作請負サービスの提供する会社ではなく、スマートフォンアプリやソーシャルアプリのグラフィック分野を切り拓く、ビジョナリーカンパニーでありつづけたいと考えています。流行しているゲームのグラフィックはすべてキラリトが作っている、という状況を真剣に目指しています。

―――:クオリティを上げるための取り組みは

社内にアートディレクター10名ほど在籍しており、キラリトとしてのグラフィック全体のクオリティを上げるための取り組みを行っています。イラストで重要なのは、絵を描くのが上手というだけでは不十分で、いかに流行に対応できるか、なんです。雲や絵の描き方などをとっても流行がありますから。当社には、イラストの流行を追いかけ、そして流行をつくり上げるための仕組みを取り入れています。ですから、当社のアートディレクターには、流行に敏感であり、先読みの能力が求められます。



■システム化の徹底で「神の一枚」を生み出したい…株式公開も視野に

―――:ところでシステム化のメリットとして効率性がアップするかと思いますが、他には何かあるのでしょうか?

「Dragon Graphic Box」のシステム化を徹底することで、効率性を上げることができますが、将来的には究極のグラフィック「神の一枚」を作りたいと考えています。「神の一枚」は、作家さんとやりとりしているだけで生まれるものではなく、そのための仕組みを作って初めて生まれるものであると考えています。スタッフの教育はもちろん、管理ツールやスタッフの働き方のルール、作家さんとの接し方などのシステムを作っていくことで、グラフィックのクオリティが上がってきました。そして、システム化を徹底的に追求したその先に、システム化しきれない、なにか絵の真髄のようなものがあると思っていて、そこに到達したい、というのが当社のもうひとつの目標です。

―――:なるほど。

新しく同事業を推進する社長としては、今後、クオリティの高いスタッフが育成できる仕組みをつくりたいですね。普通の能力を持った社員が50人いる会社よりも、5人分の能力を持ったスタッフが10人いるような会社を目指していきたいです。キラリトに入ると、スーパープレイヤーになれると思ってもらえるといいと思います。

―――:最後に将来的には上場を目指しているのですか?

はい。そうすべきだと考えています。美麗グラフィックブームやpixiv、コミケなどで、クリエイターの仕事が評価される、良い環境が生まれつつあります。クリエイターは、当社にとっては宝ですから、当社が成功するには、クリエイターもいっしょに成功する必要があります。私たちのような会社が上場することで、クリエイターにも新しい市場やチャンスが提供できると考えています。

―――:お忙しい中、ありがとうございました。



■関連サイト

株式会社キラリト
株式会社キラリト
http://www.kirarito.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社キラリト
設立
2014年2月
代表者
松尾 澄子
直近業績
非公開
上場区分
未上場
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