KLab決算説明会 真田社長「売上が増えなくても黒字出せる体質作る」…大幅なコスト削減を実施、開発効率化や海外戦略転換でヒット目指す

KLab<3656>は2月14日、2013年12月期(16カ月間の変則決算)の連結決算を発表し、都内で決算説明会を開催した。第5四半期(5Q、2013年9~12月)は実質的に前四半期比で減収に転じ、13年12月期通期は特別損失の計上などで25億円の最終赤字に転落した。真田哲弥社長は説明会で「新作で巻き返せるという期待をしていたが巻き返せなかった」と自身の驚きを述べ、既存タイトルについても『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』と『幽☆遊☆白書 ‐魔界統一最強バトル‐』の2作品以外を減損処理した。

真田社長は今期について「売上高を伸ばして黒字化するという方針から、売り上げが増えなくても黒字を出すために、コスト削減を進める方針に転換する」と述べ、大規模なコスト削減策を提示した。一方で、開発体制の効率化や、海外展開の軸を東アジアに移すなどの施策を実施し、「ヒットタイトルの創出率を上げる」方針を示した。(以下、かぎ括弧内は真田社長の発言)
 
▼2013年12月期は16カ月間の変則決算となっている
 

■「新作が売れなかったことが驚き」…5Qの売上は減少


4カ月間となった第5四半期(9~12月)を4分の3にして3カ月換算し、4Q(6~8月期)との比較を公開。換算値では売上高は41億円と4Q比で11%減、営業損益も2億円の赤字(4Qは1.5億円の黒字)に転落した。実質的に売り上げが1割減少したことになる。
 


売上不振の理由として、4Qにリリースした新作が不振だったこと、昨年前半好調だった海外の『Lord of the Dragons』が低迷したこと、新作のリリースを延期したことの3点を挙げた。

とりわけ新作の不振については「過去最大級の開発コストをかけた作品が低迷したことが大きな衝撃だった。新作で巻き返せるという期待をしていたが、巻き返せなかった」と驚きをもって説明。この不振を受けて、新作のリリース計画を変更したという。「ゲームロジックや演出部分を根本的に見直す」とのことだ。

なお、『ラブライブ』の好調を背景にGoogle Play向け売上高が成長し、全体に占める割合が3割強とApp Store向けを上回った。一方、Mobage、GREE、mixi向けの割合は合計で34%と全体の3分の1程度に縮小した。海外売上高比率は、新作リリースがなかったことや既存タイトルの不振で、3%程度にまで縮小している。
 

 


■特損16億円…『ラブライブ』と『幽白』以外を全て損失処理


5Qの売上不振と特別損失の計上により、2013年12月期(16か月間)は25億円(12カ月換算で19億円)の最終赤字に転落した。売上高も今期はラブライブが好調に推移したにも関わらず、12カ月換算では前の年度比較で3.5%の伸びにとどまっている。

2013年12月期に計上した16億円の特別損失の内訳についても説明した。3Q(3~5月)に計上したソフトウェアの減損損失2.55億円に加えて、5Qには事業構造改善費用として13.5億円を計上した。

事業構造改善費用13.5億円の内訳はゲームソフトウェアの減損が8.67億円、子会社の合併による評価損や減損が3.25億円、拠点の縮小移転に伴う引当金などが1.6億円だ。

 
 

目立つのは9億円近いゲームタイトルの減損。『ラブライブ』と『幽☆遊☆白書』以外のタイトルは収益が見込みにくいとして、資産計上を止めたために発生する損失だ。今回、『ラブライブ』と『幽☆遊☆白書』の計1億円以外のゲームタイトル資産をすべて減損処理。「収益が低下傾向のものをすべて減損した」という。
 
 


■総額約46億円の資金を調達へ、現時点で27億円を調達済み

 

特別損失で大きく純資産が減少することもあって、KLabは昨年後半に大型の資金調達を実施した。

事業売却で5億円、Qihoo360との資本業務提携で6億円弱、ドイツ銀行を利用した新株と新株予約権の発行で35.5億円、総額約46億円の資金調達を実施し、現時点でうち約27億円を調達済だ。13年12月末の純資産残高は40億円、現預金額45億円となっている。
 



■「売り上げが増えなくても黒字出す」…損益分岐の月商13.5億円に


徹底的にコストを削減し、月次売上高13.5億円で利益が出るような収益体質を目指すという。「売上高を伸ばして黒字化するという方針から、売り上げが増えなくても黒字を出すためにコスト削減を進める方針に転換する」とのこと。大幅なコスト削減をはかる一方で、ヒット率の向上で売上増加のチャンスを探るのが今期の戦略だ。
 

なお、月商13.5億円の内訳だが、ブラウザゲームの減速を『ラブライブ』など人気タイトルで補うことにより確保していく計画だ。「ブラウザゲームの既存タイトルは緩やかに減速しているため、状況が厳しいものは撤退・減損を進め、人気タイトルをしっかり残す方針だ。『ラブライブ』はテレビCM以降、順調に拡大している。今後も拡大する可能性は高い。ここまでで13.5億円は確保可能。新作タイトルがヒットしていくことで上積みを目指す」という。

なお、1Q(1~3月)の新作は「5Qからの延期などで、1Qは通年のなかでもリリースタイトル数が多い四半期になる。そこでヒットを出すことが、13.5億円から上積みできるかどうかのポイントとなる」とのこと。

会場からは、縮小均衡路線ともいえる方針に転換したことについて、モバイルゲーム市場の成長一服をにらんでいるのか、という質問が出てきた。真田社長は「日本市場もまだまだ伸びるとみている。MAU(月間アクティブユーザー数)自体はそろそろ、伸びが鈍化するのではないかという認識は持っているが、ブラウザゲームと同様にMAU自体の伸びがとまってもARPU(ユーザー1人あたりの売上)が高まってくる」と回答。また「世界は、各国で差があるが、全体でみれば当然伸びる」と述べた。

市場は拡大するものの、競争が激しくなっているため、コスト削減を進めるという。「国内ではブラウザゲーム企業、家庭用ゲーム大手がネイティブアプリに注力しているほか、海外企業のゲームが進出しており、昨年以上に競争環境が激しくなっていく」と見ていた。
 


■コスト削減:人員2割減、オフィス縮小、10タイトル撤退…広告費は増やす


決算説明会ではコスト削減策の詳細を発表した(関連記事)。グローバルの人員数をピーク時から約2割削減するほか、六本木ヒルズの本社オフィスを1フロア解約するなど、オフィスの整理縮小も進める。コスト削減を通じて、月次売上高13.5億円で利益が出るような体質に変えていく。
 

同時に、10タイトルのサービス終了・撤退・運用移管も決定した。人員を削減する一方、高利益案件のみに絞り込む。
 

なお国内の人員削減については有期雇用者の雇い止めが中心という。「アルバイトや契約社員など有期雇用中心に増やしてきたため、契約満了とともに雇い止めをする」と説明。加えて、転職などの自然減も考慮すると、正社員はそう多くは減らない見通しだという。海外は北米や中国の削減を進める一方、人件費が相対的に安いフィリピン拠点は増員するという。

一方、唯一増やすのが広告宣伝費という。過去の分析から、同社にとって開発費よりも広告宣伝費が大きい方が「必勝パターン」になるという。なお、コスト削減は進捗中のため、1Qは赤字見通し。コスト削減はおおむね3月までに完了させる予定だ。
 


■ヒット率を上げる:開発ライン絞り込み、カジュアルゲームへ集中


収益体質を改善させる一方で、ヒットゲームを生み出す確率を上げていく計画も示した。大きく分けて、共通開発部分の増加、開発規模のバランス、ゲームポートフォリオの設定、海外戦略転換の4点だ。なお、真田社長自身、「これまでゲームの現場にかかわらなかったが、今はゲームの現場にどっぷり入って、ゲームの内容について議論している」とのこと。

ヒット率を上げるための施策の一つ目として、今後は共通開発する部分の割合を増やし、効率化を図っていくという。「今まではブラウザゲームを引きずったタイトルが多かった。今後は『ラブライブ』のプレイ感覚に近いものを出していく」と話した。

会場からはブラウザゲーム時代のカードバトルゲームのように、システムを使いまわして類似ゲームを量産するという意味か、という質問が出た。「ゲームの仕組み、ロジックを共通化するわけではなく、部品化を進めるイメージ。共通化と言っても『ラブライブ』のガワ・モチーフだけを変えたリズムゲームアプリを量産するわけではない」と回答した。

なお、会場から『ラブライブ』成功の秘訣は何か、と聞かれた際、詳細の回答は控えたが「IP(知的財産)の力はあるが、IPだけでなくゲーム性が評価されたと考えている。加えて、ユーザーからゲーム版のグラフィックに対して高い評価を得ていると考えている」と述べた。

また、開発規模のバランスも絞り込む。前期まで1.5億円規模の大規模開発ラインが6本走っていたが、今後は小規模(8000万円以下)2~3ライン、中規模(8000万円~1.5億円)2~3ライン、大規模1ラインという体制を新規開発の常時ライン数にする。

アプリポートフォリオの設定では、世界的に市場規模が大きくなってきた「カジュアル」と「カジュアルコア」に集中していく。なお、開発中の『エイジオブエンパイア』は「コア」から「ミッドコア」のゾーンで、「固定ファンにがっかりされないような作りにして、高いARPUを狙っていく」方針だ。
 
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■海外:東アジアに軸…自社配信方針を転換、国内向けをローカライズ


海外展開への説明にも時間を割いた。今期から海外展開の「仕組みも変えた」という。これまでは、海外向け専用タイトルを作っていたが、今期は国内向けに開発した作品を海外向けにローカライズしていくという。加えて、自社配信路線を転換し、域内の最大手級パブリッシャーと提携していく方針だ。

国内向けタイトルのローカライズ方針に転換した理由について、アジア市場の拡大を挙げた。これまでは北米が最大の市場だったが、東アジア市場が拡大、世界最大の市場が日本となっている点を指摘。台湾や香港など「言語を変えるだけで通用する市場が伸びている。軸を北米から東アジアに移すほか、グローバル向けではなく東アジアのみに向けたタイトルも出していく」とのこと。
 

なお、中国最大級のスマートフォン向けアプリ配信プラットフォームであるQihoo360と、中国でのゲーム提供で提携する。Qihoo360はKLabのゲームのローカライズなどに協力し、KLabはQihoo360に優先的にゲームを提供する。その後、中国の他のプラットフォームにもゲームを提供する。他のプラットフォームに提供するときはQihoo360がパブリッシャーの役割を担うという。
 



なお、『ラブライブ』についてはQihoo360との提携よりも先に盛大遊戯(シャンダゲームズ)と交渉をしていたため、シャンダがパブリッシャーとなっているという(関連記事)。「ラブライブはアジアでも人気に火がついてきた。これから加熱していくという、良いタイミング」と自信を述べた。


また、今期は海外向けの売上比率が大きく上がるのでは、という期待感を示した。『エイジオブエンパイア』のほか、現在世界向けに作成しているサッカーゲームへの自信をにじませた。ちなみに『エイジオブエンパイア』のリリース時期については、「順調に開発は進んでおり、今期中であるのは間違いない。ただ、具体的な時期は非開示。近日中に公式ウェブサイトが立ち上がり、案内が始まる予定」との回答にとどめた。

会場からは中国のアプリケーションストアの手数料動向について質問があった。「中国国内のストア手数料は、いま劇的に変化しつつある。中国最大のネット企業テンセントのもとでストア8割、開発企業2割という厳しい(収益分配の)状況だったが、現在は手数料率の値下げ合戦まっただ中。アップル、グーグルと同程度に収斂するのではないか」と述べた。

 

■ドラクエ返金問題は「開発ではなく表示方法の問題」


『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』の返金騒動について、開発に影響はあるか、という質問も出た。「業界団体で集まり協議している。ガイドラインに従ったゲーム作りをしていく。この問題で大きくゲーム作りが変わるとは思っていない。今回の問題はゲーム作りではなく表示方法などにあったと考えている」と述べた。



■関連リンク

決算説明会資料
KLab株式会社
http://www.klab.com/jp/

会社情報

会社名
KLab株式会社
設立
2000年8月
代表者
代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
決算期
12月
直近業績
売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3656
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