スマホ・ソーシャルゲーム業界の求人・求職動向…ネイティブアプリ隆盛で家庭用ゲーム出身者に脚光。​リクルートキャリア山田氏に聞く

ソーシャルゲーム・スマートフォンアプリ業界では、ガンホー・オンライン・エンターテイメントを筆頭にネイティブアプリに注力する企業が高い成長を達成している。伸び盛りに見えるネイティブアプリだが、その開発費やプロモーション費用の問題が顕在化してきた。

他方、市場における競争状況を見ていくと、日本メーカーの海外市場への進出が進み、アプリストアで上位に入るなど一定の成果を残す一方で、SuperCellやKingなど海外の大手ディベロッパーも日本国内に進出し、アプリストアで大きな地位を占めるようになっている。

引き続き業界環境がめまぐるしく変わっているが、業界の求人・求職動向にどういった変化が出ているのだろうか。今回もリクルートキャリアの山田 大貴氏に最新の求人・求職動向についてインタビューを行った。

 

■企業側の求めるレベルが上がる


―――:よろしくお願いいたします。昨年10月以来のインタビューですね。まず、全体的な状況はいかがでしょうか?

求人の件数自体は減っていませんが、求められるレベルが上がっています。入社してすぐに活躍できる人でないと採用できない、という会社が増えています。ユーザーの求めるコンテンツの水準が上がっていますので、リリース時点から作りこんで高いクオリティのゲームを出していかないとユーザーから認知されない、もしくは遊んでもらえない状況になりつつあります。特にハードルが上がったのはプランナー系の職種です。

―――:プランナー系が厳しいのですか。

はい。ネイティブアプリが主流になると、ブラウザゲームプラットフォームと違って自分たちでユーザーを集める必要があります。それを行う前提として、市場に合わせて高いクオリティのゲームを出したいと考える会社が増えています。先日の決算発表でも開発費の高騰と開発期間の長期化が指摘されるようになりましたが、1年後に流行するゲームを先読みできる人もしくは新しいゲームロジックを導入したゲームを考えられる人が求められています。いわゆるソーシャルカードゲームでは運用系の人が多く、ゼロから立ち上げることに不慣れな方が多いようです。

―――:以前のインタビューでもゼロから立ち上げる人が求められているというお話がありましたが、その傾向が進んだ感じですか。

1年前からもそうしたニーズはありましたが、その時はまだブラウザゲームからネイティブアプリに移行しはじめたばかりでした。ブラウザゲーム中心の企業でも余裕のある会社ではポテンシャルを評価して採用したり、社内の人材を移動させたりして取り組んでいました。歴史の浅い業界がゆえに経験よりもポテンシャルに期待して採用する傾向はあります。その結果として、ネイティブアプリでゼロから立ち上げた経験を持つ人が増えてきてはいるものの、ヒットさせた経験を持つ人が少ないのが実情です。転職活動で開発実績を示しても、会社側は「そのコンテンツがわからない」となって評価しづらいと聞きます。前回よりも増して、家庭用ゲームソフトの企画・開発経験者が求められています。

 

■企画職:採用基準が上がり厳しい状況続く


 

―――:それでは個別の職種についてお聞きしたいのですが、まず企画職についてはいかがでしょうか。

求められる水準が高まっています。運用を得意とする人ですと、欠員の募集には対応できるのですが、新規プロジェクトの立ち上げといったポジションにはフィットしづらいようです。ゲームの開発期間が伸び、開発コストが上がってくると、1本1本のリリースがその会社にとっての勝負コンテンツになりますので、実力のある人に担当してもらいたいと考えるからです。その場合、外部から人を採用するか、自社の優秀な開発者をアサインするかのいずれかで、後者の場合、移動した優秀な人の欠員となりますので比較的、採用されやすい状況にありますね。

企画職の採用事例を見ていると、新規プロジェクトには家庭用ゲームソフトの経験を持つ人を採用し、運用についてはソーシャルゲーム業界からという方が多いです。ただ、ネイティブアプリについては、ブラウザゲームと少し異なる運用ノウハウが必要になりますので、ブラウザゲームをメインで運営していた方の中にはキャッチアップに苦戦している方もいらっしゃるようです。

―――:ブラウザゲームの運用に関する求人はいかがでしょうか。

市場に占めるブラウザゲームのニーズは若干下がっているものの、しっかりとマネタイズできている領域ですので、そちらにも力を注ぎたいと考える会社が少しずつ出ています。一気にネイティブアプリに舵を切っていこうとしているものの、収益の出るブラウザゲームにも力を入れないと会社経営の観点から厳しいという判断です。そろそろブラウザゲームの求人案件も増えはじめると見ています。

―――:プラットフォーマーの決算を見ても、ブラウザゲームは、フィーチャーフォンの売上が落ちているものの、スマートフォン向けはそれほど落ちてないですよね。

そうですね。PC向けのオンラインゲームのような立ち位置になっていくのかもしれません。PCオンラインゲームも一定のコアユーザーがいますし、ブラウザゲームとネイティブアプリはそれぞれ独立したジャンルになるかもしれません。

―――:このほかに特徴的な動きはありますか?

ネイティブアプリの開発費やマーケティング費用の高騰を背景に、リスク分散の観点から、自社で開発とパブリッシングの両方を行っていた会社が他社と組んで開発もしくはパブリッシングに専念する傾向が出ています。IP(知的財産権)を絡める動きもありますね。この結果、パートナー会社と組んで開発できる人や、IPホルダーとの調整ができる人など、ピンポイント化した求人も出ています。これまでの家庭用ゲーム業界のようにパブリッシャーとディベロッパーのように分業することが一般的になるのかもしれません。

 

■デザイナー:3Dデザイナーでミスマッチが発生


―――:デザイナーはいかがでしょうか。

まず、特徴的なのが3Dデザイナーです。コンソールゲーム業界では、3Dデザイナーと一口に言っても、モーションやモデリング、エフェクト、背景などと細分化されています。Unityで3Dコンテンツを作る場合、業務を細分化して開発するわけですが、ソーシャルゲーム業界ではこうした分業の経験を持っていない会社が多いです。そのため「3Dデザイナー募集!」などと漠然としたイメージのまま採用活動をするわけです。

一方、求職者側は、自分のことを「モーションデザイナー」「モデラー」のように特定のキャリア・スキルを高めている方が多いので、会社側が「スキルが狭すぎる」などと判断してミスマッチになってしまうケースが出ています。実際、すべてできる人などほとんどいませんので、延々といない人を求め続ける傾向があります。旧来ブラウザゲームで主流であったFlashだと、スクリプトやアニメーションまですべてできる方が多く、そういった感覚が残っているようです。

―――:採用する側も再検討したほうがいいかもしれませんね。ところで最近、ドット絵を使う会社も増えていますが、いかがでしょうか?

そういったゲームを作っている、作りたいという会社からのニーズはありますが、全体として目立って増えているわけではありません。ソーシャルゲーム業界ではあまりなかった職種ですし、コンソールゲームやオンラインゲームでもドット絵を使うゲームは一部ですから。市場自体にスキルを持つ人が少ないですね。

―――:イラストレーターはいかがでしょうか?

イラストレーターの求人は、減っていますね。カードゲームのニーズが落ち着いたことと、イラスト制作をクラウドソーシング化する会社が増えていますから、自社で採用する必要はないと考える会社が増えています。かつてイラストのクオリティが競争優位になっていた頃は採用ニーズが強かったのですが、最近ではゲーム性やゲームロジック、リッチ化に重点を移す会社が増えています。

―――:UIデザイナーは。

引き続きニーズは強いです。とはいえ、良い人がいれば欲しいといった会社が多く、積極的に増やそうという動きでもないです。基本的にはネイティブアプリであってもUIデザインはブラウザゲームとあまり変わらないことが多いです。ネイティブアプリの場合にはUIデザインに加えてUXデザイナーのニーズが高まりますが、なかなか経験者が少ないというのが現状ですね。

 

■エンジニア:CやC+が使えるエンジニアに強い需要


―――:エンジニアの状況はいかがでしょうか。やはりコンシューマーゲーム系のエンジニアへの需要が強いのでしょうか。

そうですね。サーバーエンジニアについては揃ってきている会社が多く、CやC+を使えるクライアントサイドのエンジニアへのニーズが強いです。ただ、「文化」への適合という面でミスマッチが生まれていますし、エンジニアの人数も少ないため、採用に苦戦している会社が多いです。

―――:「文化」ですか?どういうことでしょう。

CやC+を使えるエンジニアは、コンソールゲーム業界もしくは業務用の組み込みエンジニアが多いわけですが、職人気質な方や寡黙な方が多いです。その一方で、ソーシャルやスマートフォンゲーム業界では、コミュニケーションの活発な会社が多く、スキルは十分だけど社風にマッチしないという理由で採用に至らないケースが多いのです。そういうものだとわかっている会社はうまくいっているのですが…。

―――:転職を希望する人も少ないのですか?

少ないですね。結婚や子どもが生まれたなどライフイベントに合わせて年収を上げたい方が少し出ている、といった状況です。家庭用ゲームソフトのエンジニアですと、金額的な条件よりも、「家庭用ゲームソフトを作りたい」といった、ご自分のやりたいことを重視される方が多いです。

最近では家庭用ゲームソフトの開発会社もスマートフォンゲームの開発にも力を入れていますから、両方やっている会社でネイティブアプリの仕事をしている方がいつか家庭用ゲームソフトの開発にも取り組めるかもしれない、と考えて転職を思い止まるケースも増えています。

―――:組み込み系からの移動は多いのでしょうか?

あくまで一部です。いま余裕を持って採用できる会社が少なく、ゲーム開発が相当好きという方でないとなかなか採用に至らないようです。以前、ソーシャルゲーム各社がSIerからLAMPエンジニアを大量に採用した時期がありましたが、今回はそういった動きはなかなか出ていません。むしろ、家庭用ゲーム業界出身者を採用しようと考える会社が多いです。

―――:もうひとつお聞きしたかったのですが、最近、UnityやCocos2d-Xなどのツールも出ていますよね。

あくまでご本人の技術力がベースになりますが、開発ツールを使える人へのニーズは高いですね。全体的には3Dにする必要がない場合、「Cocos2d-X」を採用する会社が多いように感じられます。そもそも3Dで作ることが本当に競合優位になるのか、といった議論も出てきています。

―――:ブラウザ系のエンジニアはいかがでしょうか?

CやC+のエンジニアほどではありませんが、一定のニーズがあります。退職者が出れば欠員を補充する必要がありますから。とはいえ、エンジニアについてはすでに揃っている会社が多く、積極的に採用するムードは少ないですね。

 

■今後、大阪が熱くなる地域に


―――:その他の職種の動向はいかがでしょうか。

マーケティング系の求人がもっと増えると思っていたのですが、予想したほどでもありません。ネイティブアプリは、ブラウザゲームと異なるプロモーション手法が求められますし、以前と異なり、プラットフォーマーとの共同ではなく、独自でテレビCMを出す会社が出ていますから。

これはあくまで仮説ですが、スマートフォンアプリの広告代理店が力をつけていて、アプリディベロッパーは、広告代理店の提供する豊富な広告商品を使うだけで十分対応できているのかもしれません。一つ成功事例があると、他社がすぐに模倣しますよね。ディベロッパーとしては良いものを作ることに注力しているのではないかと考えています。

―――:マーケティングとは少し違いますが、広報やPR系の職種はいかがでしょうか。

オフラインイベントや動画サイトなどを使っている会社が多いですが、その多くは家庭用ゲームソフト会社です。多くのディベロッパーは、まだそこまで手が回っていないのかもしれません。モノづくりを重視する会社が多いですから、リソースを開発に投下する傾向にあります。今後、パブリッシャーとディベロッパーの役割分担が明確になってくれば、求人は活性化するかもしれません。業界全体として、一つの会社が開発からパブリッシングまでやったほうがいいのか、役割分担したほうがいいのか、判断の分かれ目に来ていると考えています。

―――:ヒットタイトルを抱える会社でも、社長さん自らがリリースを送ってくださるときがありますね。質問を返しやすく、私どもとしてもありがたいのですが…。

なるほど。あと、以前触れましたが、経営企画的なポジションにコンサルティング出身者を充てるケースが少し目立っていたのですが、最近はめっきり減ってきました。一時のブラウザゲームでは、出せばヒットする状況で、いかに効率よく開発するか、といった生産管理・業務管理的な仕事が求められていたのですが、いまは出せば必ずしもヒットする状況ではありません。こうしたなかで開発にリソースを寄せていく動きが出ていると見ています。

―――:もうひとつの大きなトレンドとして、海外ディベロッパーの日本進出が盛んです。現状では日本法人はあくまでローカライズ・マーケティング拠点という位置づけの会社が多く、労働市場への影響は少ないと見ていますがいかがでしょうか。

そうですね。グローバルで見た時、一番ホットな市場は日本という見方が強く、海外のディベロッパーが日本に続々と参入しています。採用面への影響は、となると、ご指摘のように、日本法人をマーケティング拠点と位置づける会社が多いため、目立って求人は増えていません。今後日本のスタジオからゲームをリリースするという会社が出てくれば変わるでしょう。

―――:職種とは少し視点が異なりますが、地域的な求人・求職動向はいかがでしょうか。

地域的にホットになるだろうとみているのが大阪です。関西圏は誰もが知る有名家庭用大手ゲームメーカーがたくさんありますし、有力な家庭用ゲームソフトのディベロッパーもモバイルゲームに進出し始めています。今後、求人が増えていくかもしれません。ブラウザゲームが主流の頃、関西のディベロッパーの多くは参入に積極的ではありませんでしたが、近年では状況が変わりつつあります。ネイティブアプリも一つのゲームとして認知が進んでいることが背景と見られます。同じくメッセージングアプリの新たなプラットフォーム企業や有力開発会社の多い福岡なども注目される地域ですね。


 

■ゲーム業界の成長はまだまだ続く 見切りをつけるのは早い!


―――:今後の見通しを教えて下さい。

今の状況は変わらないとみています。採用する側の求める条件がピンポイント化し、1人の求職者を取り合う状況になるでしょう。4社、5社と内定が取れる人が出る一方、全く取れない人に分かれていくでしょうし、現在もそうなりつつあります。ネイティブアプリの知見が増え、活躍する人の条件が徐々に見極められるようになってきたのだと思います。

―――:転職活動を行う際に気をつけた方がいいポイントを教えて下さい。

まず、企画職は、従来、分析タイプが重要視されてきましたが、ゲームのエンターテイメント性が強まるとともに、クリエイティブ要素が求められる傾向にあります。数値分析だけでなく、ユーザーから定性情報を集めつつ、どんなゲームが面白いのかと突き詰められる人が求められるでしょう。今働いている方もそういったことを意識して仕事をされるといいのではないかと思います。

先ほどブラウザゲームの企画職の方の転職が厳しいとお話しましたが、スキルや経験以上に、スタンスを重視する会社もあります。業務をルーティン化させず、いかに自分の工夫や発想を盛り込んだか、ちょっとした意識の違いが結果にも出ています。これは企画職に限ったことではありませんが…。

続いてデザイナーですが、採用する側がどのような組織体制にするのかを検討する必要があります。3Dデザインができる人はどのような会社でどんなキャリアを持っているか把握した上で、どういったキャリアの方を何名採用したらいいのかを固めることでスムーズな採用活動ができるでしょう。

採用する側が再検討する余地があるのはエンジニアも同様です。ネット企業と家庭用ゲーム会社の文化の違いを考慮に入れる必要があります。企業の中には、元々の企画職だった方が開発部長になることが多く、コミュニケーション能力が足りないという理由で不採用にしてしまうケースが散見されます。エンジニア職で本当に高いコミュニケーション能力が必要なのか、いまいちど採用する側も考える必要があるかもしれません。

―――:最後にメッセージをお願いします。

ネイティブアプリがどうなるのか、ブラウザゲームがどうなるのか、そもそもゲーム業界自体がどうなるのか、が見えづらい状況ですが、自分自身が何を得意とするのかを見定めていく必要があるかもしれません。モバイル向けブラウザゲームプラットフォームが盛り上がって以来、ゲーム業界の就業人口が増えている中、自分自身のキャリアの方向性を定めて自分のコアとなる専門性を持っていくといいかもしれません。

あと、転職活動をされている人の中には、いま在籍している会社の業績が悪いため、ゲーム業界の先行きが不安だ、ゲーム業界から出たいと考える方もいるのですが、マクロで見ると日本のモバイルゲーム業界全体としては伸びています。エンターテイメントなので当たり外れや浮き沈みがつきものですので、ゲームが好きで業界に入ったようであれば、諦めず引き続き頑張っていただければと思います。



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