【インタビュー】『神獄のヴァルハラゲート』開発者に聞くUI改善の取り組み

グラニのリアルタイムバトルRPG『神獄のヴァルハラゲート(以下、ヴァルハラゲート)』が好調だ。すでに170万人(2014年5月現在)を超える会員を獲得しているだけでなく、リリースから1年以上経過した現在でも「GREE」の人気ゲームランキングでもたびたび首位を獲得するなど、「GREE」はもちろん、国内でも代表的なソーシャルゲームの一つとなっている。

ゲームがヒットした要因を考える際、企画やプロモーションといった施策に注目が集まりがちだが、今回は「UIデザイン」に着目した。「UIデザイン」は、ユーザーが快適に遊べるようにするための重要な要素だが、模範解答が存在せず、不断の見直しと改善が必要になる。そこで、グラニのUIデザイナーの清水愛子氏、フロントエンドエンジニアの吉野友人氏、久保田翔太氏の3名にインタビューを行い、『ヴァルハラゲート』の開発チームにおけるUIデザインの改善に関する取り組みについて話を聞いてみた。



■月1度のUIミーティングで改善を検討

―――:まず、担当されているお仕事の内容を教えてください。

清水:UIデザインを担当しています。ページのレイアウトを考えたり、バナーやヘッダーを作ったり、イラストレーターの作ってくれたカードの書き出しなどを行っています。ゲームのUIに関しては、実際に端末に表示されている画面と全く同じ画面デザインをPhotoshopで作成し、それをフロントエンジニアに渡して実装してもらうことになります。

吉野:フロントエンドエンジニアです。もともとWeb制作の仕事を行っており、1年くらい前にこの業界に入りました。Web制作とは少し勝手が違いましたが、比較的、無理なく入れたと思います。

久保田:同じフロントエンドエンジニアで、HTMLやCSS、JavaScriptなどを使って、ゲームのUIを実装しています。

―――:『ヴァルハラゲート』の開発チームではUIの改善に関してどういった取り組みをされているのでしょうか。

清水:『ヴァルハラゲート』のリリース当時のお話をしますと、UIデザイナーやフロントエンジニアが少なく、いわゆるフィーチャーフォン時代の影響を色濃く残していました。流行の表現手法を取り入れて、もっとゲームのUIを良くしたいという問題意識はあったのですが、人数の関係で十分できなかったのです。開発スタッフが増えたところで、月1回程度、ミーティングを行ない、実際にゲームで遊んで使いづらいところを洗い出して徐々に改修し、現在に至っています。

―――:月に1回程度のミーティングというのはどういったものなのでしょうか?

清水:「UI改善ミーティング」といわれていて、デザインを格好良くするだけでなく、「この部分を変えれば、もうちょっとアクセスがよくなる」「もうちょっと工程を短縮できる」といった、遊びやすさをいかに高めていくかが主眼となります。デザイナーやフロントエンジニアはもちろんですが、UI好きなエンジニアや企画職も自主的に参加しています。最盛期には十数名を超えていましたね。関係者が一同に介して話をするわけですから、判断と実行が本当に早いです。

吉野:フロントエンジニアとしては、デザインと技術のすり合わせの場としてはもちろん、技術ベースからの提案も行っています。例えば、こういう技術があるから、こういう表現手法を新たに入れることができるよ、といった提案です。私たちはデザイナーから上がってきたデザインを組み立てるわけですが、その際にインタラクションを付けたほうがいいのではないか、などと気付くことも多いので、ミーティングの場でも積極的に提案するようにしています。

―――:開発現場とのやりとりとはまた違うのですか?

清水:もちろん、現場でもやりとりはしますが、それはこれまでの経験や仮説に基づくものです。ミーティングでは、すでに実装されたものを実際に使ったうえで議論しますので、日常ではなかなかない意見ややりとりがあって、参加者にも発見が多く、とても面白いですね。

吉野:よくいわれていることですが、UIデザインでは、お客様がスムーズに遊べるようにすることが最優先となります。私たちも普段から意識していることなのですが、作っていくうちについ見逃しているところがありますし、後日、改善できるところもあるでしょう。もっと良くしていくために、定期的にミーティングを行っているわけです。



■UIデザインは注目されないことが理想

―――:UIに関しては変更するとユーザーからの反響は大きいのですか?

清水:そうですね。かなりあります。サポートやコミュティなどに寄せられるご意見はいつもチェックしています。特によく使われる場所の改善や大規模な改修を行った時には気をつけて見ています。戸惑いの声やお叱りをいただくこともありますが、それは変化への一時的な戸惑いからでたものなのか、本質的な問題に関するご意見なのかを見極めるようにしています。前者であれば、慣れていただければ以前よりも使いやすくなりますから。後者の場合、仮に使い勝手が悪くなるとログイン数などの数字に影響が出てきますので、こちらも注視しています。

吉野:UIデザインの改修を行う際は、改修の目的や、対象がどういった層なのかを意識しています。例えば、ゲームを始めたばかりの方が定着して遊べるようにすることが目的とすると、上級者の方々には使いづらい部分が出てくる可能性があります。そういう時、それでもやるべきなのか、どうすれば影響がないようにできるのかなど、様々なバランスをみて判断しています。

―――:UIデザインでユーザーから注目してほしいところは。

清水:基本的には、UIデザインが注目されないことを目指しています(笑) それがUIの目的となりますから。私たちとしては、ゲームで使われるイラストやカードがより着目されるようなデザインが理想と考えています。どこで、どのくらいの大きさでみせるか、どのくらいのプライオリティで見せるか、という点ですね。

久保田:あとは、UIデザインがゲーム性を損なわないようにすることですね。そもそもデザインが気にされるのは、ただ単に使いづらいと思われていることが多いですからね。

―――:これまでユーザーが使いやすくするために取り組んだ事例を教えてくれますか?

清水:ページの最後の方にバナーとしてピックアップ枠というものを設けた時がありました。ちょうどその時、月の中旬に実施したガチャイベントの売り上げが非常に伸びたことがありまして、これはUI改善の効果ではないかといわれたときがありました。これは成功したのかな、と(笑) ソーシャルゲームでは、イベントを絶えず打ち続けるため、どうしてもバナーが多くなりがちです。特に初心者の方には、どのイベントで遊ぶべきなのか、わかりづらい部分があります。その中で、プライオリティを付けることに成功し、多くの方に遊んでいただき、結果として売り上げにつながったと理解しています。

吉野:技術面ですと、普段静止しているイラストを動かしてみたら面白いのではないかと思い、トライしたことがありました。例えば、クエスト時に「ガチャP」を取得することがあるのですが、当初は取得時には動きがありませんでした。そこで、「ガチャP」をプカプカと動かしてみたところ、とても評判が良かったですね。ちょっとしたことなのですが、そういったトライを少しずつ続けています。クエストがフラッシュを使った画面でしたから、その後の画面で突然、静止するのは不自然だと感じていたことが背景にあります。今後もちょっとずつ動かせるものは動かして楽しさを演出していきたいですね。

 


【フラッシュで上下に「ガチャP」がプカプカ動くように演出】



清水:「ガチャP」をプカプカと動かす、といったことは企画書を書いてまでやることではありません。クエストの画面から突然、静止画になるという状況を不自然と判断して、改善していけるところがすごく面白いところですね。



■フロントサイドとしても表示速度の改善に注力

久保田:私は若干UIデザインとは異なりますが、ページがどれだけ早く表示されるかに力を入れています。「聖戦」のバトルページの高速化を行いました。現在も高速化に取り組んでいるのですが、それ以前は遅かったことが問題としてありました。ページの表示を早くすることは、通信環境が悪いところでも早くページが見ることができ、よりゲームが楽しめることになります。

―――:表示速度の改善はどういった意味があるのでしょうか?

久保田:「聖戦」ページでは、白熱したバトルになるほど、いち早く攻撃したい、エールや魔法を打ちたい、と考える方が多いですから、表示が遅かったり、エラーで入れなかったりするとゲームで楽しめなくなります。表示速度の改善は快適さを高め、ゲームをより楽しめるようにすることでもあります。レスポンスが改善されたといっても、なんとなくしかわからないものですが…。表示速度の改善は、フロントエンジニアとサーバーサイドのエンジニアが協力して取り組んでおり、数十ミリ秒単位で気にしているレベルです。他社に比べてもそこは特にこだわっているポイントです。

―――:レスポンスを早くするのは大変だったんじゃないですか?

久保田:そうですね。いちいち処理を変えるごとに計測して、うまくいかなかったらやり直して…というトライアンドエラーの繰り返しでした。時間をかけてやりましたね。手間ひまかけて改善を行った結果、処理速度が早くなりましたので、苦労が報われたなと思いました。
 



【『ヴァルハラゲート』では日々白熱した聖戦が展開される】




■伝えたいこととデザインとしての良さの葛藤

―――:こういうところで苦労したというお話はありますか。ゲーム開発は苦労ばかりかもしれませんが。

清水:デザインとしての良さと、伝えたいことのバランスをとることですね。表現的にきれいなものは情報が多くないんですが、ゲームとしては多くの情報を伝えたい、といったジレンマがあります。今日はこんなものがもらえる、明日はあんなもの、こういったイベントをやっています、などと多くの伝えるべき情報がありますが、デザインの良さを考えると、バナーをあまり出したくない…そういった葛藤です。チーム内でも議論になることもあります。

―――:お互い真剣だと、どうしてもそうなりますよね。

清水:気づいてもらえないと、せっかく作っても意味がないですから、たくさん情報を掲載したいという思いもわかります。ですから、たくさん情報を掲載する中でも、バナーを細くしたり、テキストバナーを入れたりと様々な工夫を施しています。議論の末、バナーを入れてみるとたしかに便利だなと思うことが多々あります。

吉野:できればきれいに見せつつ、伝えたいことも伝えることが理想ですよね。バナーを邪魔としか感じない人もいるでしょうが、人によってはバナーで初めて何かに気づく方もいるでしょう。その辺りのバランスを考えていきたいですね。

―――:万人に良いデザインはないと思いますが、どういった人を念頭に置いていますか?

清水:その時の状況によって変わります。たとえば、『ヴァルハラゲート』でテレビCMを打つ場合、初心者の方が多く入ってくるわけですから、そういった方々がより楽しめるようにする必要があります。

吉野:ゲームの規模も大きくなっていますので、全員にあったものは難しくなります。その時の施策に応じて、ターゲットを設定し、デザインの内容を考えていきます。もちろん、ターゲットにならなかった方々がこれまでと同じように遊べるよう、影響が出ないようにする、といった形にしています。

―――:例えば、テレビCMをやります、初心者にやさしいUIにしましょう、という感じになるのですか?

清水:「初心者の方にやさしくないデザインはどうすべきなのか」といったテーマでUIミーティングを行います。そこで、変更点を検討します。



■1秒の改善で数万秒無駄が削れるという喜び

―――:この仕事のやりがいや楽しさはどういった点にありますか?

清水:多くの人がこのゲームで遊んでくれていることですね。170万人を超える方々に登録していただけて、日々活発に聖戦が行われています。ちょっとした改善を行って、1秒改善できたとします。1万人がそういう状況になったとしたら、1万秒の無駄が省けるわけですよね。私たちのコストがユーザー様の1万秒になったというところが嬉しいですね。

久保田:とにかく多くの方から遊んでもらえているということが嬉しいですね。高速化の話に戻りますが、削った何ミリ秒という時間が全体で見たら何万秒単位で削れているわけですから。

吉野:私はゲーム開発の裏側を作っていることが面白いと思います。裏側というのは、システムというか技術的な拠り所で、開発しているスタッフがより開発しやすくなるように整えていくことです。そういうことをやることで開発の効率が上がると、最終的にユーザー様にもメリットがありますし、開発する側の士気も上がります。開発のメリットになることをやれることが面白いですね。

清水:やりたくてもやれない、これもやったほうがいい、あれもやったほうがいい、だけど時間がなくてできない、という話は業界内でよく聞きますが、そういう時間はフロントエンドエンジニアがやっているような、ちょっとした取り組みで少しずつ削れてきていて、スマートにできるものだということが証明されてきていると感じます。

―――:どういった証明ですか?

清水:『ヴァルハラゲート』では、新しいスキームのイベントや機能はよく出しているのですが、そういうことはどのゲームでもできているとはいいがたいと思っています。多くの開発者はやりたいとは思っているんでしょうけど、イベントやガチャなど日常の運用業務もやらなくてはなりません。『ヴァルハラゲート』で、それができているのはフロントエンドエンジニアの取り組みなども重要であることを示していると考えています。

吉野:ゲームは、リリースされてからが本番で、継続的に運用していくことが重要です。その先のことも考えていかないと、だんだんとスローダウンして、遊ぶ人も作る人もだんだんとモチベーションが下がります。そういうことを起こさないように、色々と改修しやすいようにしておくと、新しいことや技術的な施策が打ちやすくなります。そういう見えない仕事は、リリース時は難しいですが、ちょっとずつ時間をかけて整えています。

―――:こういった取り組みは以前からやっているのですか?

吉野:前職はWeb制作で、サイトの納入時に運用するためのガイドラインを作って納品する、お客さんがサイトを展開するための資料や部品を作る等の過程を見て学んできました。そういうことをしないと、うまく運用ができなくなり、ぐちゃぐちゃになってサイトが崩壊してしまいます。それはゲームでも同様で、意識的に取り組んでいかないとできないことです。

―――:以前、インタビューした時、谷社長はひとつのタイトルをじっくり育てたいとお話をされていて運用でもそれを感じています。デザインからの谷イズムはありますか(関連記事)。

清水:作ったものを作りっぱなしにしないで改善するために、時間や労力を当てられることに谷イズムを感じますね。おかげさまで、たくさんの方々に遊んでいただいている状況ですが、それで良しとするのではなく、もっと良くするために取り組もうという考え方や空気が社内に満ちています。エンジニアもプランナーも協力的なのでできている部分があります。

―――:谷社長のおっしゃることは口で言うのは簡単ですけどやるのは難しいですよね。

吉野:実際やるとなると難しいです(笑)

清水:社内には改善チャットがあって、好きなときに、忌憚ない意見を言い合っています。そこが盛り上がっているので新しく入ってきた人も「あ、自由に意見を言っていいんだ、もっとよくしていいんだ」といった空気に染まりやすくなっています。

―――:社内チャットは、設置するのは簡単ですが、実際にきちんと運用するとなると難しいところがありますよね。設置したはいいものの、メンバーがなかなか書いてくれなくて、寂れてしまうというケースがよくあると聞きます。

清水:チャットででた意見を「じゃあやっちゃおう」という感じで、すぐに改善・実装していった例がいくつも積み重なっているので、そこがうまく回っていると感じます。

 



【グラニの受付にはUFOキャッチャーが設置されている。遊び心あふれるオフィスも特徴だ】
 



■今後の展望

―――:ところで、皆さんの視点から『ヴァルハラゲート』の良さはどういったところにありますか?

清水:常に新しい遊びを提供できていることがいいと思っています。またプランナーがバトルのバランスを常に考えていて、成熟してきたから変えよう、イベントで一時的に変えよう、といったことも行っています。追加機能も常に水面下で作り続けていますね。コアなユーザー様が飽きないで楽しめているからこそ、ミドルやライトな方々もついてくるというサイクルができているので、誰が入ってきても楽しめる要素があるのがいいと思います。

久保田:「聖戦」ひとつとっても、イレギュラーバトルといって、特定の属性やアビリティがTP(テクニカルポイント、聖戦でアクションするときに使う)が0で使えるバトルが行われたり、魔法が超強くなるバトルが行われたりしています。またイベントに絡んだ聖戦も行われていますし、聖域争奪戦など、通常の聖戦だけでない、様々な遊び方ができる聖戦を提供できていることでしょうか。どの機能一つをとってもあきないようにしています。

吉野:2人と同じですが(笑)、常に新しい企画を打ち出し続けているので、そこはやはりすごいし、中から見てても常に考え続けて、そのままではダメになってしまうという意見がよくでます。ユーザー様がこう思っているから、こういった新しいことをやりたい、という提案や議論が活発に行われています。

―――:今後、『ヴァルハラゲート』をどうしていきたいとお考えですか?

久保田:『ヴァルハラゲート』は、フィーチャフォン時代の影響が残っていますので、さらにスマホに最適化したUIや演出を取り入れたいと思っています。もちろん、イラストやゲーム性を楽しむのを邪魔しないことが前提になりますけど。

吉野:『ヴァルハラゲート』でできることを増やしていきたいですね。技術的な側面から新しい提案を行なって、もっと長く遊べるものにしたいです。現在、技術的にはとがったことはしておらず、端末の流行や通信状況を読みながら、きちんと検証のとれた、最適な技術を選ぶようにしています。導入する技術に関しては、全体的に控えめですが、『ヴァルハラゲート』については、少しずつでも新しいものをいれてもいいかと思います。私たちとしてはつねに最新の技術を学んでいて、いつでも取り入れられるように準備をしています。必要なときになったら、こういう技術があるので行けますよ、と提案できます。

清水:『ヴァルハラゲート』を1年運用してきて、コアユーザーと呼ばれる方々がよりコアになって、初心者の方との差がものすごくあります。熱心に遊んでいただいているユーザー様がもっと楽しめるコンテンツをどんどん追加しているわけですが、リリース時といまの初心者の方ではゲームの見え方が全く違うと思います。今入った方ですと、ペットもいるし、聖戦も複雑になっているし、また新しい機能を追加する予定もありますしわかりづらいと思う方もいるでしょう。初心者の方はこれをやってください、よりコアな人はこっちも遊んでください、といった自分のレベルに応じて遊び方がわかる状況を目指したいです。

―――:長期間運用する大規模コンテンツならではの悩みでもありますよね。

清水:はい。でも幸せな悩みでもありますね。

―――:今日はどうもありがとうございました。



■関連サイト

株式会社グラニ

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http://grani.jp/

会社情報

会社名
株式会社グラニ
設立
2012年9月
代表者
谷 直史
決算期
8月
直近業績
非公開
上場区分
非上場
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