【CEDEC2014】ゲーム業界は本当に女性が働きにくいのか? 問題点や改善案になる事例など普段話せない人事テーマを取材

2014年9月2日~4日に、パシフィコ横浜(神奈川県)で国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2014」(以下、CEDEC 2014)が開催。

開催3日目(9月4日)は、「ゲーム業界における女性の働き方」をテーマにした講演が実施された。昨今、ゲーム業界では開発環境も大きく変化し、女性開発者も増えてきたが、実際の就労環境はどのような状態なのか。いくつかの題材をもとにパネルディスカッション形式で催された本講演を取材。

 

■女性開発者の割合は12%、そのなかで5年以上の就労継続が5%


当日は、ゲーム業界で働く3名の女性がパネラーとなり講演が行われた。今回のモデレーターを務めたのは、マトリックスのディレクター・髙﨑奈美氏(写真右)。髙﨑氏は漫画家からゲーム業界に転身して、現在はスマートフォンアプリ開発の管理、ディレクションなどに携わる。

女性開発社が増えてきた昨今、「就労環境に変化はあるのか」ということに興味を持ち、女性の就労環境をテーマにした講演を、一昨年前から各所で行ってきている同氏は、講演に先立って「決して女性優遇を求めたり語ったりする会ではありません」、「ゲーム開発に関わる女性の就労についてを考えつつ、改善案になる事例、アドバイスを前提としています」と断りを入れてくれた。

今回パネリストとして登壇したのは、イニスの代表取締役・原田雅子氏、ゲームドゥの代表取締役・中村心氏、サイバーコネクトツーのサウンドプログラマー・渡邉愉香氏の3名。
 

▲左から原田雅子氏、中村心氏、渡邉愉香氏

まず髙﨑氏から2011年調査の女性開発者の割合が提示された。ゲーム業界の女性開発者の割合は12%、そのなかで5年以上の就労継続が5%となり、世間一般と比べて少ないことが分かった。比較のため、講演のスライドでも使用された厚生労働省発表の「女性の年齢階級別労働力率」のグラフを下記に掲載。

結婚・出産を機に20代後半から30代にかけて減少しているが、30代後半から復調を見せる「M字化減少」が一般的な構図となっている。しかし、下記のグラフはあくまでも一般的な就労環境であり、「これがゲーム業界では、そのまま復調せず落ちてしまうのではないか」と髙﨑氏は指摘した。

■女性の年齢階級別労働力率 (平成23年厚生労働省発表より)


ここからは、様々な議題をもとにパネリストたちが回答していった。
 
 

■本当に働きにくい? 「働きにくいと思わない」



【議題①】ゲーム業界って、本当に女性が働きにくいのでしょうか
前述した2011年調査によるとゲーム業界の女性開発者の割合は12%、そのなかで5年以上の就労継続が5%となっているが、果たして実際にゲーム業界は女性が働きにくいのか。この議題に関して3名とも「とくべつ働きにくいと感じたことはない」と回答した。男性の喫煙者のことで多少思ったこともあるようだが、大きな支障はないことを添えた。

現在スマートフォンタイトルの音楽も手掛けるサイバーコネクトツーのサウンドプログラマー・渡邉氏は、「力仕事ではないですし、メンタル面は女性のほうが強いと思います。そのため、とくに働きにくい環境ではないです」と力強いコメントをしてくれた。

【議題②】苦労したこと、働きにくくなったことはありましたか? その解決方法は?
この議題に関しては、中村氏が過去の経験を話した。同氏はハドソンで8年間プランナーした後、起業。「夫が会社をやめて、ほかの方と起業したことがありました。その際に“奥さんが会社に残っているのどうなの?”と、少々働きづらいなと思ったことはありました」と、結婚から起業を経て生じる思わぬ世間体が障害になったことを語った。

【議題③】働き方の変更、続けられる環境の提案
キャリアの変化やステップアップなど、働き方も多種多様。イニスの代表取締役・原田氏は、この議題について「女性が役職を持っていくなかで、プログラマーやデザイナーの立場からマネジメントに移行できるように、専門的な勉強ができるようなサポートを会社側することは大事かもしれません。実際に過去そういう事例もありました」と回答。

現在マトリックスで主任を努めるモデレーターの髙﨑氏からは、「男性と比べて体力が劣るかもしれないが、将来をどういうふうに考えているのかが大事。違うことやるのは、やはり自分の幅が広がります」と言葉を添えた。渡邊氏も「サウンドプログラマーからBGM・SEの制作やサウンドディレクションを希望したことがあります」とコメント。全員が希望通りにはいかないが、少なくとも登壇したみなさんは、好きな仕事だからこそ各々で続けられる環境を自然に提案・行動できたのかもしれない。

 

■高まる女性支援の新制度にも注目


続いて原田氏が自社のイニスで行う「子連れ出勤」の話題に移った。イニスでは、小さいお子さんを持つスタッフが子供を連れて出勤することが可能となっている。「もちろん毎日お子さんを連れてくる方はいませんが、保育園が受け入れてくれないときなど、仕方のないときに利用されています」と原田氏。

実際にベビーカーの横で仕事をしたり、小学生ぐらいのお子さんが会議室で夏休みの宿題をして待っていたり、みんなでお子さんと遊んだりと、社内全体で良い雰囲気が築かれているようだ。「賛否両論があるかもしれませんが、いまのところ問題は起きていません。今後何かあった場合はサポートしていきます」と言葉を添えた。

ここでモデレーターの髙﨑氏が、サイバーエージェントが2014年5月より導入した女性支援の新制度「macalon(マカロン)パッケージ」の事例を挙げた。サイバーエージェントでは多くの女性が活躍しており、全社員のうち女性社員比率は32%となっている。また、女性社員に占めるママ社員比率は14%となっており(2014年3月末現在)、2014年度の産休・育休後の復帰率は96.3%と非常に高い状況ということもあり、こうした女性が長く働き続けられる職場環境を促進するために導入したようだ。

■サイバーエージェント 女性支援の新制度「macalon(マカロン)パッケージ」
1. エフ休
女性特有の体調不良の際に、月1回取得できる特別休暇。今後、通常の有給休暇も含め、女性社員が取得する休暇の呼び方を「エフ休」とすることで、利用用途がわからないようにし、取得理由の言いづらさ、取得しづらさを排除します。(エフ=FemaleのFを指します)
2.妊活休暇
不妊治療中の女性社員が、治療のための通院等を目的に、月1回まで取得可能な特別休暇。急な通院や体調等に考慮し、当日取得が可。本休暇取得の際には「エフ休」という言葉を使用することで、周囲に知られず取得が可能。
3. 妊活コンシェル
妊活に興味がある社員や、将来の妊娠に不安がある社員が、専門家に月1回30分の個別カウンセリングで相談できる制度。このほかにも、専門医による社内セミナーの開催およびクリニックの紹介を実施。
4.キッズ在宅
子どもの急な発病や登園禁止期間など、子どもの看護時に在宅勤務できる制度。契約した労働時間を上限に利用が可能。
5.キッズデイ休暇
子どもの入園・入学式や親子遠足、参観日といった学校行事や記念日に取得できる特別休暇。年に半日休暇2回の取得が可能。
※プレスリリースより抜粋

「こうした制度を持つ事例がIT企業から挙がってきています。昔ながらのゲーム会社にも導入してほしいと思いますが、やはり一部の大企業や極めて女性社員が多い企業でしか難しいものがあります。あくまでも今回は一例として挙げました」と髙﨑氏はコメント。

この事例についてサイバーコネクトツーの渡邊氏は、「本社の福岡スタジオには出産後に復帰しているのが2名おります。東京スタジオは設立から4年と長くないため、既婚女性が私1人しかおりませんが、本社の復帰事例があるため私自身も安心して戻ってこれるのだろうと思います。やはり戻ってきやすい雰囲気を持つことは大事ですね」と続けた。
 
 

■“女性だから…”ではなく、将来何がしたいか


ここからは、髙﨑氏が女性開発者を中心にFacebookやTwitterで「講演で聞いてみたいこと」を募集して、パネラーが回答していった。

Q:女性向けゲームの仕事を受託したのですが、スタッフは男性ばかりで作っています。女性の雇用を増やす、または長く続けてもらうための秘訣があれば教えてください。
質問のなかでは、男性からの雇用の悩みが多かったとのこと。この質問に対して中村氏は、「会社の方向として“女性向けゲームに力を入れていく”のであれば問題ありませんが、これ一本のためでプロジェクトに呼ばれた方は心配になると思います。きちんと会社の方針を伝えて求人することが大事かもしれません」とコメント。

同じく企業の代表を務める原田氏は、「女性社員を雇用するということは、本当に些細なところまで気を配る必要があります。一般論では、人材募集におけるアピール不足もあると思いますが、“女性が働きたい”と思える環境作りも意識すると良いかもしれません。仮に内定後に断れたのであれば、面接対応や社内環境を見て女性が働きにくいと思った証拠です」と続けた。

なお、原田氏の余談であるが、別の会社で過去に女性社員を雇用したことにより、男性社員が身なりに気を遣うようになった事例があったとのこと。中村氏からは、“男性社員が結婚できるように女性社員を雇う”といったとある大企業の事例も話してくれた。


Q:仕事と家庭の両立について教えてください。
原田氏からは、「弊社の社員では、出産して復帰したのが2名おります。それぞれ裁量労働制を取り入れて時短で働いています。お子さんの迎えで早めに切り上げて退社しますが、ここが不思議でアウトプットは少なくなっていないのです。非常に集中して業務に打ち込んでおります。時間の感覚が長くとも、それだけ仕事ができるのは、意外とそうではないのかもしれません」と、自社の事例を紹介してくれた。
 

会場には、多くの女性開発者が聴講していたこともあり、講演の最後には登壇者それぞれが女性に向けたメッセージを贈って講演を締めくくった。

原田氏「弊社は、男女問わず外国籍など様々な人が集まる職場ではありますが、そのなかでお互い良い仕事をしております。やはりスタッフ全員が積極的に話せる環境作りが一番大事かと思っています。大きな会社と同じような福利厚生を用意することも大事ですが、どこもそんな余裕はないと思います。しかし、女性の相談窓口を作るなど、少しずつでも働きやすい環境作りは進めることはできます。会社任せではなく、現場全員で話し合いできればと思います」

中村氏「昨今、“女性開発者だから雇用する”という風潮があります。もちろん悪いことではありませんが、“女性だから”というのではなくて、人としての個人的な能力が認められるようになってほしいと思います。そうなるように私も日々頑張っていきます」

渡邊氏「私は小さい頃からゲームが好きだったので、これまでずっと好きなことをやってきました。そのため“男性だから、女性だから”ということは考えたことありません。結局は好きなことを続けたいかどうか、そして自分が何をしたいのかが重要だと思います。とくに若い人は、よく考えて欲しいことです。最終的にその考えが、将来に繋がっていくと思います」

髙﨑氏「私自身も男女国籍は気になりませんが、ゲーム業界における女性の就労環境について調べ始めていると、実際に悩んだままで終わってしまう人がいます。この数年でそれを知り、とても勿体無いことだと思いました。せっかく好きな仕事ができるのに、“女性だから○○”という理由でやめてしまうのは辛いです。能力を磨いて、高い意識を持つことで、仮にひとりで生きていく際に、本当の意味での女性の自立に繋がると思います。創作に対する自信をもって、諦めないでほしいです」