【インタビュー】スマホゲームの動画シェアの先駆者Kamcordが日本展開を本格化 Matt氏「ガンホーとの協業は間違いなく面白いことが起きる」 

スマートフォンアプリ業界における大きなトレンドとして、ゲームをプレイしている様子を録画した「ゲーム実況」があげられるだろう。様々なプロモーション施策が実施されるなか、その位置づけはますます高まっている状況にある。
 
こうした流れを受けて、専門知識のない人でも手軽にゲーム動画を録画・共有できるサービスが日本国内でも出てきたが、2012年にサービスを開始した、本家本元ともいえるKamcordが日本オフィスを設立し、日本展開を本格化させつつある。
 
今回、Kamcordの共同創業者であるMatt Zitzmann氏にインタビューを行い、Kamcordのサービスや強み、とはなにか?」、そして「将来、どういったサービスと成長を目指すのか?」、「ガンホーとの協業は?」といった疑問に答えてもらった。
 
 

Kamcordをモバイルゲームの媒体・コミュニティに育てたい

―――:まず、日本のゲーム開発会社の中でもKamcordをご存じないところもあるかと思いますので、簡単に自己紹介をお願いします。
 
Kamcordは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の在学中に知り合った、Kevin WangとAditya Rathnamとともにスタートアップとして設立しました。社名の由来は、3人の名前からとったものとなります。3人ともゲーマーでもありました。私自身は、「Dreamcast」や「SEGA GENESIS」などセガハードで育ち、特に「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は大のお気に入りです。
 
事業アイディアを思いついたのは、Kevinです。そのアイディアとは、モバイルのゲームプレイを録画してシェアできる技術で、これを思いついた時点では競合はありませんでした。その一方で、あらゆるゲーム開発者がフォーラムなどでゲームプレイを録画することはできないのか、といった議論をしている状況にあり、これは絶対に良いアイディアだと思いました。
 
会社の状況をお話すると、設立してから2年半で、スタッフは26名まで増えています。日本オフィスは、初の海外オフィスとなり、スタッフは3名です。今回シリーズBという調達を実施し1500万ドル(約16億5000万円、1ドル=110円換算)を調達しました。調達した資金で、大量にゲーム動画が投稿される状況に備えたインフラ整備のほか、人材採用の強化など、今後大きな成長に向けた投資を行いたいと考えています。
 
プロダクトは、大きく2つあります。ひとつは、録画・動画投稿機能をゲームに導入するためのSDK(開発キット)です。現在、約400タイトルに導入されています。1秒に1ビデオがアップロードされており非常に大きく伸びています。もうひとつは、KamcordのiOS向けのアプリです。ゲーム動画に特化した、youtubeやニコニコ動画のようなサービスとお考えください。最終的にはモバイルゲームのコミュニティとして成長させたいと考えています。


 
【Kamcordのアプリ】

 
―――:そもそもの疑問なのですが、どうやって収益をあげていく考えなのでしょうか?
 
提供しているSDKは無料ですし、アプリもフリーダウンロードとなっています。2015年中をメドに、アプリ側に広告を入れたいと考えています。Facebookのフィードの中にゲームの広告が出てくることがありますが、それをイメージしていただけるといいかと思います。Kamcordにゲームの動画が並んでいる中に、ごく自然にゲームの広告が入ってくるイメージです。広告は、CPI(インストール単価)もしくはCPC(クリック単価)となる予定で、Kamcordをモバイルゲームの媒体として育てたいと考えています。

―――:今の段階は、ゲーム開発会社やユーザーにどんどん利用してもらう段階と理解していいんですね。
 
まず、会社設立以来、良い技術のサービスを作ることに注力しておりましたが、技術的にも一定の段階に達したため、現在は色々なゲーム会社に導入してもらう段階に入っています。直近6ヵ月は日本でのサービス展開に注力しており、様々な会社に導入していただくようになりました。
 
―――:どうして日本で事業所を設立して展開しようと考えたのでしょうか?
 
各種の調査資料などをみて、アジアはマーケット規模が非常に大きく、Kamcordとしても関心を持っていました。単に売り上げという観点だけでなく、ユーザー数も無視できない規模であると考えています。
 
アジア市場では中国、日本、韓国、東南アジアが大きいですが、そのなかでも最も大きな市場である日本を最初に手がけたいと考えました。現実問題として、サンフランシスコから日本に対して営業することは難しいですし、お客様と実際にお会いして関係を築き、きちんと営業活動することが重要と考えているためです。

 


■Kamcordの強みはグローバルに展開していること

―――:日本国内でも様々な競合サービスがでていますが、Kamcordの強みはどういったところにあるのでしょうか。
 
まず、競合サービスが出てきたということは、見方を変えますと、ゲーム動画のシェアの価値があることが証明された面もあります。われわれにとってはマイナスになることではなく、むしろ非常に大きなことであると考えています。
 
当社の強みは、国内サービスをメインに考えている他社と異なり、北米、欧州、アジアなどグローバルにビジネスを展開していることです。日本や韓国などのゲーム会社の方々とお話しをしていると、国内だけにゲームを提供するのではなく、世界中に配信したいと考えている会社が多いことに気づきます。われわれのサービスは、世界中でゲームを提供したいと考えるゲーム会社にぴったりと合うものです。

 
―――:実際に営業をされているかと思いますが、手応えはいかがでしょうか? そしてゲーム会社からはどういった反応がありますか?
 
強い手応えを感じています。すでに動画シェアをかなり調べていて、様々なサービスを比較検討している会社が多いですね。私たちでは、最初に登場した動画共有サービスであり、技術的にも安定していること、そして、なによりグローバル展開できることをアピールしています。すぐに入れていただく会社もありますし、逆に全てを比較してシビアに判断するという会社もありますが全体的に前向きなお話を頂いております。
 
2014年の年初に来日した時、ゲーム会社の方からは「Kamcordって何? 動画シェアって何?」という質問ばかりでしたが、いまでは「どうやって入れましょうか? 成功事例を教えて下さい」などと聞かれるようになりました。わずか1年ほどでものすごいスピードで進化しているかと感じました。



■導入事例:グローバル版『ブレイブ フロンティア』や『テラバトル』、『進撃の巨人』など

 
―――:日本での導入事例を教えて下さい。
 
日本における導入事例ですが、30のタイトルに導入されています。2012年初頭に最初にKamcordを導入してApp Storeに申請してくれたのは日本の個人ディベロッパーだったのです。そこから、われわれも多くのことを学び、改善を進めてきました。
 
日本での事例は、gumiさんとエイリムさんの『ブレイブ フロンティア』のグローバル版です。これはとてもいい導入事例で、シェア数も大きく伸びており、拡散性も高いです。あとは、ディー・エヌ・エー(DeNA)さんの『進撃の巨人 -自由への咆哮-』です。導入に際し、画面上に閲覧ボタンをつくっていただき、他のプレイヤーのアップした動画をすべて見られるような仕組みを入れていただきました。
 
このほかでは、ミストウォーカーさんの『テラバトル』にはローンチの時点で導入していただきました。御存知のとおりゲームも非常に人気になりましたので、大きなインパクトが有ったかと思います。あとは、スクウェア・エニックスさんの『聖剣伝説 CIRCLE of MANA』でも導入されています。
 
私たちとしては、動画のビュー数やコメント数、Like数などに関するデータを収集・分析を行っています。ゲーム会社にはそのデータに基づいた最適な導入を行ってもらえるよう、ご提案を行っています。そして結果がでなかったとすれば、ページ仕様も含めて「こうしましょう」と再度の提案を行います。いわゆる、PDCAを回して、導入の効果をよりあげてもらいたいと考えています。

 

【Terra Battle】

 
 
―――:なるほど。SDKを渡して、導入してもらってそれで終わり、というわけではないのですね。
 
はい。導入後のサポートはもちろんですが、最近では、ゲーム会社の方々も動画シェアについてだいぶ研究されているため、効果的な導入方法やページの作り方など、Kamcordの導入前からご相談を受けることが多くなってきました。



■ユーザー同士のつながりの強さが特徴
 
―――:少し目線を変えて、ユーザーからすると、アプリに動画シェア機能があるってすごく便利ですよね。
 
そうですね。例えば、あるユーザーが面白いゲームをダウンロードして遊び、ハイスコアをとったとしましょう。そして、「最高だ! 早速自慢しよう…録画できていないじゃないか! なんでKamcordを入れないのか!」とメールでゲーム会社に問い合わせるほど愛着を持ってもらえることを私たちは目指しています。
 
―――:動画をみて攻略方法を研究する人も少なくないですよね。日本のゲームは攻略要素が多いですし、日本のゲームアプリとも相性がいいと思います。
 
そうですね。人気のある投稿者を分析すると、大きく2つパターンに分かれます。ひとつは、ハイスコアを叩きだすような、攻略要素の強い動画です。ちょうどテレビで、マイケル・ジョーダンやタイガー・ウッズのプレイを見るような感覚です。もうひとつは、人を笑わせたい、人に興味を持ってもらいたい、といった面白い動画です。ごく普通の人が出演している様子を撮影したリアリティ番組(のような感覚で閲覧されています。
 
もうひとつ面白いのは、これはアメリカ特有かもしれないのでまだわからないところもありますが、Kamcordではユーザー同士でつながりあう傾向が強いと感じています。他の動画共有サービスで友達ができた経験がないのですが、Kamcordでは、ロシアに住んでいる人とサンディエゴに住んでいる人がゲームで一緒に遊んで友だちになるだけでなく、実際に付き合っているケースもあるようです。実際、コメント欄にSkypeのIDを入力して会話しようよ、といった投稿も見られます。私たちはゲームのソーシャルネットワークを目指したいと考えています。
 
また、6年ほど前から病気で寝たきりになってしまった女性からメールをいただきました。ずっと寝ているなか、スマートフォンでゲームを遊び、Kamcordでシェアしたところ、他の人とつながることができ、人生に色々な楽しみができてすごく嬉しい、とのことでした。私たちが求めているのは、動画シェアと人とのつながりを通じて、ユーザーがその人なりの価値や楽しみを見出してほしいという思いがあります。

 


■ガンホーとの取り組みでは間違いなく面白いことが起きる

―――:今後の課題を教えてください。
 
課題はいくつかありますが、量より質でやってきて、質にこだわってきました。しかし、世界的な需要を感じており、早急にグローバルで成長する必要があり、質を落とさずにいかに早く成長していくかが課題です。考え方も含めて変える必要があるかもしれないと考えています。
 
また、ユーザー目線でいくと、ユーザー一人ひとりがそれぞれ細かいこだわりや好み、趣向を持っています。全員が満足できるサービスにするのは非常に難しいですが、多様なコンテンツを入れることで、より多くの好みに合わせることができると思います。それが勝つために必要なことです。そのカギは、データを分析して、技術やサービスの品質を上げることですが、そのために本国では、Facebookの元プロダクトマネージャーを採用しました。今後も、優秀な人材を活用して勝ちたいと考えています。
 
もうひとつは、ローカライズです。言語だけでなく、UI/UXなど、その国ごとに最適なカスタマイズが必要です。その国・地域の文化を知っていて、その文化にあったローカライズを行った経験がある人を採用し、製品開発に入れていく必要があります。

 
―――:ゲーム動画が重要といわれており、サービスへの注目度も高まっています。しかし、その割に導入が進んでいないという印象も受けます。導入の障壁になっているものはなんでしょうか。
 
2012年のサービス開始当初は、技術的に先進的すぎて、ほとんど導入されませんでした。現在でもやはりまだ進化している最先端の技術です。このあたりが実際の導入に際して時間がかかっている要因とみています。
 
大きく成長するにはある程度のモメンタム(勢い)が必要です。しばらくはコツコツと成長させる段階が続き、あるタイミングをきっかけに急成長させることができると見ています。10年がかりで大企業に成長したFacebookやGoogleなどの事例からも明らかです。
 
そして、その頃にはKamcord内に大きなユーザーコミュニティができあがっているでしょう。ゲーム会社もKamcordを導入すれば、いろいろな人にみてもらえると考えてくれるようになるはずです。そして、こちらから売り込まなくてもゲーム会社が自主的にKamcordを導入してくれるのではないかと思います。

 
―――:最後にガンホーさんから出資を受けましたが、経緯と狙いを教えてください。
 
今回出資していただいたガンホーさんとは、7ヵ月前から様々なディスカッションをしていました。ビジネスやゲームに対する考え方やビジョンで共感するところが多かったですし、実際のビジネスの部分でも協業できるところが多いと考えていました。ちょうどそのころ、次のファンドを行う時期を考えていましたので、ガンホーさんにお声がけし、出資していただくことになりました。
 
協業に関しては、現在も既にいくつかのゲーム開発会社様をご紹介いただいていますが、具体的な取り組みについては、これから考えていくことになります。モバイルゲーム業界はいま大きく変わりつつあります。その中で、ガンホーさんも当社も、革新的でありたい、そしてグローバルでありたいという理念を持っています。そんな共通点を持つ2社が組んで何かをやるとなれば、間違いなく面白いことが起きるでしょう。ご期待ください。
 
(編集部 木村英彦)

 



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