【インタビュー】Cygamesが買収したゲーム開発会社・WithEntertainmentとは? 細井代表に訊く今後の展開と『セブンズストーリー』開発秘話



Cygamesは、去る2014年12月1日、株式会社WITHの株式を取得し、子会社化を発表(買収金額は非公開)。そして2015年3月には「株式会社WithEntertainment」(以下、WithEntertainment)に社名を変更し、新たな一歩を踏み出した。

WithEntertainmentは、「Mobage」でソーシャルゲーム『セブンズストーリー』を配信していたゲーム開発会社。Cygamesでは、今回買収した理由について「小規模ながら優れたゲームを制作してきており、弊社の持つグラフィック力と組み合わせることで、よりよいゲーム制作のための相乗効果が大いに期待できるため」と説明している。

なお、2013年12月にリリースされた『セブンズストーリー』は、重厚な物語と洗練されたバトルシステム、多機能コンテンツなど、カードゲームが中心だった「Mobage」の他社作品とは一線を画するクオリティで、エンドユーザーはもちろん、クリエイター陣からも高評価を得た作品。

本稿では、WithEntertainment代表取締役の細井敦氏にインタビューを実施し、子会社化の経緯や今後の展開、そして『セブンズストーリー』の開発秘話など、気になるところを聞いてきた。

■WithEntertainment
 


 

■医療機器メーカーからゲーム業界へ



株式会社WithEntertainment 代表取締役
細井敦


――:よろしくお願いします。本日はお時間いただき、ありがとうございます。じつは当媒体でWITH子会社化に関する記事を掲載したところ、多くの反響がありました(関連記事)。
 
あ、そうだったんですね(笑)。いやいや、ありがとうございます。


――:すぐにでも子会社化に関する内容をお聞きしたいところですが、まずは順を追って細井さんのご経歴を起業までも含めて教えていただけますか。

じつは私、もともと医療機器を製造していたメーカーに長く勤めており、特別ゲーム業界にいたわけではないんですよ。


――:なんと…これは驚きました。これまた何故ゲーム業界に。

ひとつは子供の頃からゲームが好きで、いつかはゲーム開発に携わりたいという思いがあったからです。そして2013年5月に、私と当時勤めていた会社の部下とふたりで起業しました。ただ、起業した理由には、もうひとつ理由があります。


――:その、もうひとつとは。

ええ。私自身、前職から“スタッフが働きやすい環境を整理した会社”を作りたいという思いがありました。ご存知の通り、前職の医療業界というのは古くからある業界です。当時勤めていた会社も年功序列的な体制のため、個々の評価基準体制なども様々な問題を抱えていたほか、会社の規模も大きいためか部署間とのコミュニケーションが取れておりませんでした。

私が思う会社というものは、社長や取締役が別に偉いわけではなく、やはり第一線で働いている社員の方がメインで事業を進めているからこそ、組織は成り立つものだと思っています。会社は、社員を一番の財産だと思えるようにならなければなりません

また、なかでも社内で問題だったのが、お客様からのご意見に耳を傾けず、フィードバックができなくて、次の製品に生かせなかったことです。幸いなことに私自身は良い待遇を受けておりましたのでその点では不満はありませんでしたが、組織としてこうした現状があるのは、やはり大きな問題でした。良い製品を作るためにお客様の意見を取り入れて、改善していくことで、より良い製品作りができます。



――:なるほど。起業したのはそういう理由があったのですね。ちなみに、細井さんも含めておふたりの職種は何になるのでしょうか。

ふたりともプログラマーです。そのため、企画やイラストなどもすべて自分たちで行いました(笑)。


――:ふたりともプログラマーじゃそうなりますよね(笑)。

 

■「イラストも自分たちで」…『セブンズストーリー』開発秘話


――:それでは、ここからWithEntertainmentの第一作目となった『セブンズストーリー』のお話について伺っていきます。そもそもコンセプトは、王道シミュレーションRPGという感じですが、プラットフォームは「Mobage」ですよね。

そうです。はじめに人との繋がりを大事にしたかったので、「Mobage」さんでWEBのソーシャルゲームとしてリリースすることを決めました。ただ、当時はクエストの進捗がスタミナ消費系のタップで進んでいく、いわゆる“ポチポチゲー”が主流でしたが、『セブンズストーリー』では他作品とは全く異なるタクティクス形式のバトルシステムを取り入れました。


――:その当時にブラウザでシミュレーションRPGというのもなかなか珍しいですよね。また、先ほどイラストも自分たちで手掛けたとおっしゃいましたが、外注することは考えなかったのでしょうか。そのあたりは費用とのご相談もあると思いますが……。



もちろん費用面もありましたが、やはり最初の作品ですし、自分たちだけで一から作ってみたいという思いがありました。そもそも私はプログラマーですし、絵を描く楽しさも大変さも分かりません。当然イラストを外部に発注する選択肢はあったのですが、私自身が今まで絵を描くことに対して、どういう行為なのか理解できないと、お願いできないと思ったのです。

自分たちで手掛けるのは、工数もかかりますし、経験もないため大変なのは分かっていたのですが、最初の作品だからこそ、ふたりでプログラムを開発しながら絵も分担し、『セブンズストーリー』を完成させていきました。



――:“自分が理解できないと…”確かにその考え方は言われてみればそうですね。あのイラストには何か狙いがあるのかと思ったのですが、そういう理由があったのですね。

いえいえ、何も狙いはありません(笑)。もちろん「絵をなめるなよ」とおっしゃる方もいると思います。ただ、発注する際に描く楽しさも大変さも分からないまま「お金払うから絵を描いてよ」というやり方があまり好きじゃなくて


――:そういう意味では、今回の経験はご自身で絵を描く楽しさと大変さを理解できたのかと思います。

そうですね。おかげさまで我々には絵のセンスが全くないことが分かりました(笑)。
 


――:(笑)。そういえば『セブンズストーリー』はコンテンツも豊富でしたよね。ウサギを育てるペットシステムなど、メインストーリー以外のところでも遊べたのが特徴的でした。

ペットシステムは、ユーザー間の繋がりを拡充させるために取り入れました。そのなかで、プレイヤー同士で人参を与え合うというシステムで交流できるようにしました。ギルド用のガーデンを搭載し、人参はみんなで生産して手に入れる仕様にしました。

また、当時キャラクターのアバターシステムを搭載するタイトルが多く出てきましたが、本作ではキャラクターではなくて、ウサギのほうにアバターシステムを採用し、見た目にも楽しめるようなコンテンツにしました。





――:ウサギもバトルに登場して、プレイヤーのサポートを行いますよね。自身が弱いと積極的に攻撃して、逆に自身が育つとサポートにまわるなど、洗練されたAIも特徴的でしたね。

それが実際に上手く動いていたかどうかは分からないのですが、タップで進捗するという他作品に対して、どうしても本作はユーザーの操作を経てクエストを進捗させないといけませんでした。ユーザーも操作的に分からないところが出てくると思い、最初はウサギが前に出て戦闘の手本となるようにプログラムを入れ込みました


――:実際に『セブンズストーリー』を運営されていたときは、ユーザーさんからの反響はいかがでしたか。

かなりたくさんのご意見をいただきました。当初は、特殊なことをやっておりましたので、否定的な意見が来ることを予想していたのですが、実際は否定的な意見が全くなかったことに驚きました。むしろ「こうすればより良くなるんじゃないか」という改善案をたくさん送ってくださって、我々としては大変嬉しかったです。貴重な意見に関しては可能な限り取り入れて、改善は最優先で進めていきました。


――:ご意見BOXも設置されていましたよね。運営とユーザーさんのキャッチボールの早さは、御社ならではの特徴でもありました。そういう意味でも、先ほど起業理由でもお話しされた「お客様の意見を取り入れ改善する」が、実現できている体制だったのかもしれません。

ただ、『セブンズストーリー』の規模だからこそできるものだと思っています。これが大規模なサービスになった場合は、様々なご意見もありますし、全てに対応できるかと言われると難しいですね。とはいえ、そのなかで優先度の高いものを改善して、ユーザーが喜んでいただけるように努力はしたいです。

 

■子会社化の経緯…そして新作開発のためスタッフも募集中


――:そして、惜しくも2014年5月にサービス終了となった『セブンズストーリー』ですが、やはり売上の面が影響していたのでしょうか。

おっしゃる通り、ひとつは売上ですね。とはいえ、まだ遊んでいただいているユーザーもいたため、サービス終了にするかは本当に最後まで悩んだところです。

当時は出来る限りのものを作ったつもりですが、今後機能を拡張するにあたり今のシステムでは難しいと判断しました。そのときはネイティブで作り直そうと思っていました。



――:なるほど。ちなみにサービス終了した2014年5月には、もうCygamesとは接触していたのでしょうか。

はい、もうお会いしています。じつは『セブンズストーリー』をリリースしたのが2013年10月12日で、その直後にCygamesの方からご連絡いただきました。「一度会いたい」と。


――:え、リリース直後ですか? 全く面識ないんですよね。

全くないです(笑)。


――:Cygames側も『セブンズストーリー』を遊んでみて何か感じるものがあったのですかね……。もちろんお会いしたときは、まだ具体的な話はなかったですよね。

ええ。最初にお話させていただいたときは、「どういう思いで作ったのか」など、今回のインタビューみたいなことを話して、そのときはそれで終わりました。その後も何度かお会いする機会はありましたね。


――:そこからどのように投資・子会社化の話になったのでしょうか。

『セブンズストーリー』サービス終了後に、Cygamesの代表取締役社長の渡邊さんと再度お話することになりました。いつもは複数人でお会いしていたのですが、そのときは渡邊さんがお一人で来られたのが印象的でした。


――:承諾する決め手は何だったのでしょうか。先ほどの細井さんが掲げる会社・組織の在り方、目指すものなどもあったかと思います。

最終的に決断したのは、ゲーム作りに対する熱い思いをひしひしと感じたからです。当時は、私が起業して当初から掲げているものと、Cygamesのなかで組織を作っていくことは本質的にズレが生じるのではないかと思っていました。しかし、渡邊さん自身もCygamesにいらっしゃるスタッフに対して、「みんなに幸せになってほしい」というお考えを持っており、これは自身が目指すべき組織作りにも合致するのではないかと思い、今回のお話を承諾しました。たしか2014年10月頃の話です。


――:子会社化のプレスリリースは2014年12月1日。実際に移転されてご勤務が始まったのは同年12月4日でしたよね。まだ移転されて間もないですが、現状はどういったポジションでしょうか(インタビュー時は12月上旬)。

我々は変わらずWithEntertainmentとして、新作タイトルを開発します。途中ひとりスタッフを追加したので、現状は3人チームになりますね。ちなみにフロアは、Cygamesと同じになります。


――:Cygamesの雰囲気はいかがですか。

まず素晴らしい制作環境に驚きました。ゲーム開発においては、かなり集中できる最高の環境ではないかと思います。また、なかでも驚いたのが、管理部門のレベルの高さです。必要なことがあれば、それぞれの専門部署の方が親身に相談に乗ってくれて、書類作成や機材手配、環境構築に至るまですぐに対応してくれます。またそれらの状況は関係する部門間で常に共有されています。より早く、効率的に問題を解決する体制と部門間の連携の強さには本当に驚きました。だからこそみなさん、集中してゲーム開発ができるのだと思います。


――:今後の展望を教えてください。

いままでブラウザゲームの開発のみを行っていましたが、今後はネイティブゲーム開発にシフトしていきます。我々は現状3人のため、今後スタッフを増やしていきたいと思っていますが、最初はCygamesの優秀なスタッフの方々にもお力を借りながら開発に臨みます。ちなみに開発中であった『ペットモ☆アイランド~虹の風物語~』は、現在ペンディングしております。


――:そういう意味では、『セブンズストーリー』のネイティブ版が出てくることもありえるのでしょうか。

正直なところ何も決まっていません(笑)。


――:とはいえ、細井さん自身は、いずれ開発してみたい思いはありますか。

もちろん作りたいです!


――:分かりました。それでは、最後に「Social Game Info」読者にメッセージをお願いします。


Cygamesは、ゲームを開発するうえでは最高の環境ですし、恐らく入社された方は将来的に自分の好きなことを実現できるようなチャンスもたくさんある会社だと思います。

これからWITHは「WithEntertainment」に社名変更し、この優れた体制、環境を継承しつつ、能力や実績が評価される組織を作り上げていきます。現在WithEntertainmentではこの新しい組織を一緒に作っていくスタッフを募集しています

求める人物像はシンプルで、“自分が作ったゲームをより多くの方に遊んでもらって楽しんでもらいたい”という熱い想いを持っている方です。ぜひ、ご応募お待ちしております。



――:本日はありがとうございました。
 
(取材・文:編集部 原孝則)


■WithEntertainment
 



© WithEntertainment, Inc.
株式会社WithEntertainment
http://www.withent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社WithEntertainment
代表者
細井敦
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