【連載】第6回「売れるゲームには◯◯がある」 - スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」


『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第6回「売れるゲームには○○がある」


売れるゲームと売れないゲーム、そこにある違いはなんでしょうか。それはずばりおもしろいかどうかです。これだけだと「なんだそりゃ…」なのでもう少し具体的にいうと「カタルシスを感じられか否か」。売れるゲームには必ずカタルシスを感じる部分があります。以前の記事(関連記事)でこれからは新体験が必要と書きましたが、今日はより根本的な話をしたいと思います。

カタルシスについて説明します。元は哲学用語で「魂の浄化」という意味らしいこの言葉は、エンタメ業界では頻繁に使われていると思いますが、私の場合は「感情が昂ぶって脳汁が出る瞬間」みたいな意味で使っています。

そもそもエンタメとは人を楽しませるものです。楽しいと思う時ってどういう時でしょう? 「おもしろい!」「かっこいい!」「かわいい!」「感動した!」「笑える!」などなど、一言で言ってしまうと感情が昂ぶっている時なんです。つまり、その瞬間はカタルシスを感じているんです。だからカタルシスがないものはエンタメではないし、よって売れない。

では、実際売れてるゲームのカタルシスを感じるポイントってどこでしょうか。スマホゲームでいくつか例を挙げてみます。

■『モンスターストライク』

・コンボや必殺技が決まって大ダメージを与えた瞬間。
・さらに思いもがけないコンボが決まった時すらあたかも自分の腕の良さで決めてやったと思えてしまうところ。
・みんなと協力して倒した強力な敵を倒した瞬間。


■『剣と魔法のログレス いにしえの女神』

・必殺技などで大ダメージを与えた瞬間。
・自分の役割をこなした時。
・みんなと協力して倒した強力な敵を倒した瞬間。


■(一応)『乖離性ミリオンアーサー』

・戦略やコンボがきまって大ダメージを与えた瞬間。
・自分の役割をこなした時。
・他プレイヤーとの連携が決まった時。
・みんなと協力して倒した強力な敵を倒した瞬間。


それぞれまだまだ細かいものがあると思いますが、結構共通点がありますね。さらに最近協力プレイものが売れやすいのは、協力プレイがカタルシスを盛り上げる一因となっているからです。達成感の共有だったり、「どやぁ」的感情が芽生えてさらに気持ちよさを味わえたりするのが、ソロプレイオンリーのゲームとの大きな違いです。

■売れるゲームの課金とは
いうまでもなく売れてるゲームの課金は、カタルシスを加速させるものになっています。決してストレスを軽減したりするためのものではありません。ストレスを軽減するように思えるものも、本質的にはカタルシスを味わいたいのにすぐに味わえない状況を解決しているだけにすぎません。

ここを勘違いして、課金=ただストレスを軽減させるものにしてしまうと売れません。それではお客様はなにもおもしろくありませんよね。おもしろさ、つまりカタルシスをもっと得たいから課金をするのです。
 
 

■カタルシスを加速させるのは



恐らくお気付きのことと思いますが、「必殺技などで大ダメージを与えた瞬間」という部分は、どのゲームにもあります。でも売れないゲームのそれにカタルシスは感じません。なぜか。それはそもそものゲーム性の違いが前提にあるものの、「カタルシスの連鎖」「テーマ」「演出」が大きく差を分ける一因になっているからです。

「カタルシスの連鎖」とは私が自分用に作った言葉ですが、要するにカタルシスが幾つも結びつき重なってより感情の揺さぶりを大きくする仕掛けです。例えば『乖離性ミリオンアーサー』のバトルシーンでいうと、「強力な効果×他ユーザーとのコンボ×大ダメージ×みんなで達成×役割を全うした」というもの。ひとつひとつのカタルシスをつなげて大きなカタルシスを作り上げるのです。格ゲーのカタルシスってコンボをつなげて大逆転! みたいなとこがありますよね。あれと同じです。小さなカタルシスもつなげていけば大きなものとなり、感情をより昂らせるのです。

「テーマ」については先週の安藤の記事(関連記事)にも「テーマとは、“なにを仕掛ければお客様が喜ぶのか? その柱となるもの”」とあったと思います。私もそう思いますが、私の中ではもう一つ解釈があります。「テーマ」とはゲームの顔、つまり「カタルシスを予感させるもの」であると思います。

例えば漫画や映画を選ぶ際、タイトル名やキービジュアルで選ぶことがあると思います。良いコンテンツはタイトル名やキービジュアルが秀逸です。単純に言葉が格好いいとか絵がいいとかではなく、テーマがわかりやすくアピールされているのです。お客様はそのコンテンツのテーマを知った際に「こういうテーマならこういうカタルシスがあるに違いない」という期待感を持ちます。それをきっかけにそのコンテンツに触れようと思う。だからテーマが浅いものはその時点で見向きもされませんし、テーマがしっかりしているものはプロモーションにお金をかけなくても人が集まりやすい。結果売れる確率が高まります。

そして「演出」。演出については単純にカタルシスを加速させるものです。例えば『乖離性ミリオンアーサー』でいうと、レア度の高いキャラの必殺技を撃った時のみ3Dの演出が入りますが、これは「強力な必殺技で大ダメージを与える」というカタルシスを加速させる狙いがあります。

また、OPムービーについても、テーマをみて予感したカタルシスへの期待感をゲーム冒頭でさらに盛り上げるものです。こういった演出によるカタルシスの加速は狙いが非常にシンプルですが、それだけに効果が高いです。スマホはガラケーよりも格段に表現の幅が広い。だから演出が得意なコンシューマゲームを作っていた会社が勝てるようになってきたともいえます

ここで触れておきたいことがひとつ。最近3Dもののゲームが増えてきましたが、「3D=最新でリッチに見えるから売れる」と思ったら爆死します。ただ3Dにするだけではなんの優位性もありません。逆に、容量を食う、動作が重くなる、見づらい、といったデメリットの方が目立ってしまいます。少なくともスマホゲームに関していうと、3Dはあくまでカタルシスを加速する演出としてのみ捉えた方がいい。だから『乖離性ミリオンアーサー』では、2Dと3Dのハイブリッドにしています。

ただし例外もあります。『スクールガールストライカーズ』はゲーム全編を通して3Dキャラがグリグリ動きますが、先述のデメリットを技術の力で解決し、3Dのいい部分のみ見せることに成功しています。自社のタイトルのこととはいえ、これはなかなかできないすごいことです。
 
 
 
▲『スクールガールストライカーズ』

以上、「カタルシスの連鎖」「テーマ」「演出」と、カタルシスをより盛り上げるための3つの要素について説明しましたが、レッドオーシャンとなったスマホ市場だからこそ、これらの重要性は今後さらに高まってきます。

 

■大事なのはタイミング


カタルシスを感じさせる上で、まだ大事なことがあります。それはカタルシスを、どのタイミングで感じさせるかです。エンタメ作品にはカタルシスがあるべきといいましたが、そのカタルシスを感じさせるタイミングは各分野ごとに適したタイミングがあります。

あくまで受け手視点でいうと、例えばアニメや漫画なら1話ごとに最低ひとつあるとベストで、後半に最大のカタルシスを持ってきて満足感とともに次回への期待値を高められると嬉しい。「魔法少女まどかマギカ」でいうと3話のマミさんの◯◯シーンや、8話のキュゥべえがある真実を明かすシーンなんかは、もうカタルシスをバンバン感じて続きが気になりまくりになりました。

スマホゲームの場合はどうでしょうか。30分視聴するアニメや腰を据えてプレイするコンシューマゲームと違い、スマホゲームのプレイ時間は大体10分前後。ライトユーザーならもっと短い。だから少なくとも2,3分(1クエスト)でカタルシスを味わわせる必要があります。こういった部分はゲームサイクルや課金との絡みがでてくるので、いわゆるスマホゲームの文法をおさえている人間が考えた方がいいでしょう。

こうやって考えていくと、スマホゲームの文法とカタルシスを出すことの両方をおさえていないと、ヒットを生み出しづらいことがわかってきます。ただ、これは従来のゲーム作りに近づいてきただけであって、ゲームクリエイター的にはとても健全なことだと思います。「ゲームを作る」あるいは「エンタメを作る」という意識で挑めばヒットに近づけると思います。

また、似たようなゲームを作って売れていた時代の成功体験にとらわれていると前に進めないので、そういったものはすべて捨てて挑んだ方がいいと思います。成功体験ほど人をダメにするものはないですから。

あと、会社ごとの得意不得意がはっきりしている状況ですから、今後益々会社間のコラボも増えてくると思いますが、役割分担をきっちり決めておかないと散々なことになるので注意したいです。逆に言うとちゃんと得意不得意を補完しあえる体制でのコラボなら次のヒット作が生まれる可能性は高いでしょう。ライバル同士ではあれども、業界全体で協力しておもしろいことを仕掛けていきたいですね。 ではでは今日はこのへんで!

P.S.
最近登場した女性向けイラスト投稿SNS「ホルネ」がキテます。近年急激な高まりを見せるBL市場に一石を投じたこのサイト。ありそうでなかっただけに一部で熱狂的な盛り上がりをみせるのでは、と予感しています。ただ、さらに注目したいのがそのネーミングセンス。「ホルネ」というサイト名もさることながら、賛辞を送るための「たぎったボタン」など随所にセンスが光ります。極めつけはマスコットキャラである「チンポップくん」。チンポップくん、て。思わず人に言いたくなりますね。しかもこのチンポップくん、語尾が「~ンポ」でして、某キャラの語尾を彷彿とさせるとことに愛らしさすら覚えます。「やられた!」と思い、思わず書いてしまいました。
 

 
■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。


■スクウェア・エニックス

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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)


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株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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