【インタビュー】中国で“日本式”ゲームアプリを成功に導いたShareJoy高社長が語る中国アプリ市場の攻め方

ここ数年の中国のアプリ市場は、世界中で最も高い成長を遂げた市場と言われており、いまや世界トップクラスの市場規模となった。ただ、中国市場は市場規模が非常に大きいものの、競争も厳しい市場でもある。日本のゲームメーカーはこれまで何度となく中国市場で挑戦したものの、その多くが失敗に終わった。

今回、”日本式”のゲームコンテンツを中国で複数提供し、大ヒットに導いているShareJoy Network Technology CEOの高楠楠氏にインタビューを行い、ShareJoyのこれまでの取り組みや強みなどを紹介してもらいつつ、中国の”オタク”市場に対する見方や取り組み方について話してもらった。



■中国でACGファン向けにゲームコンテンツを提供

―――:御社の紹介をお願い致します。

ShareJoy Network Technology(以下、「ShareJoy」)は、2013年に設立されました。設立当初のミッションは、全てのゲームプレイヤーに対して、全てのデバイスで楽しめるサービスを提供することでした。
 

とはいえ、当社は、小さいベンチャーですので、ニッチな市場にフォーカスする必要があると考えました。そこで、ターゲットとしたのは、いわゆる中国の"オタク"です。”オタク”は、中国では「ACG」あるいは「二次元」と呼ばれており、日本のアニメやマンガなどのオタク文化を好みます。当時、競合する企業が少なく、先行者になれると考えました。そして、2014年で1億元(約20億円)の売上を達成しました。

中国では”オタク”ユーザーが集まるサービス・プラットフォームとして、「嗶哩嗶哩(ビリビリ)」が著名です。当社は、Bilibiliのゲーム業務を独占し、様々なゲーム会社と協力して、優秀なゲームを最速でコアユーザーへ届けて来ました、そして目覚ましい結果を達成しています。

現在、60名のスタッフが在籍しており、ほぼ全員が1990年代以降の生まれとなります。彼らは、まさに自分の好きなもの対する情熱を持っていて、仕事がたくさんあっても徹夜してでもこなします。ユーザーや仕事に対するコミットは非常に強いです。




■事例紹介:『崩壊学園』を成功に導く

―――:これまでの提供事例を教えていただけますか?

まず、miHoYoというディベロッパーの『崩壊学園』があります。日本でもリリースされていますが、「ビリビリ」でも提供されており、トップクラスの売り上げです。miHoYoは、中国の開発会社ですが、世界観やキャラクターデザインはオタクユーザーの好みに合っています、、さらに日本人の有名声優も起用しました。。最初の2ヶ月は「ビリビリ」での独占配信権を得て、そこで2カ月で1000万元(2億円)の売り上げを達成しました。

このゲームをリリースして1年ちょっとですが、もしかすると日本式のゲームとしてもっともユーザーが多く、活性化しているタイトルだと思います。当社と「ビリビリ」が共同で累計300万人のユーザーを獲得しました。「ビリビリ」とシェアジョイの貢献としては、中国本土でゲームを特定のユーザーへプロモーションしたことで繁体字市場や東南アジア、韓国、日本でのプロモーションやブランディングに効果があったことです。
 
2つめの事例としては、台湾のFunYoursが開発した『幻想戦姫』です。2月14日からのクローズドβを経て、現在、正式オープンしています。Android版のみの数字となりますが、初月ですでに数百万元(数千万円)の売り上げが出ています。近くiOS版もリリースする予定ですが、その際には大きなプロモーションを展開するつもりです。
 



■「ビリビリ」とはなにか?

―――:そもそもですが、「ビリビリ」とはなんでしょうか?

日本で人気のある「ニコニコ動画」のような動画共有サイトをイメージしてください。ゲームプラットフォームもあります。日本のアニメやマンガ、ゲームなどを好む若者が利用しており、カラオケを歌ったり、ダンスを作ったり、漫才をしたりといった動画が毎日数千単位で投稿されています。DAU600万人以上の若者のコミニティになっており、その中にゲーム大好きなユーザーも沢山います。
 

また、最近では日本の動画共有サイトで流行している「実況プレイ」が中国でも人気になっています。上手な人が攻略法や腕前を披露するといったことはもちろんですが、ゲームと連動して面白い話をしたり、ダジャレをつくって広めたり、といったことも行われています。

メインとなっているユーザー層は、中国で「90年後」とよばれる90年代生まれです。「90年後」のユーザーがデバイスにインストールしているオタクアプリでは「ビリビリ」がトップクラスです。DAU数は毎年倍のスピードで増長しています、2015年にはDAUが1000万を超える見通しで、急速に成長しているプラットフォームです。

当社は、「ビリビリ」以外にも100件くらいのサブカルチャー系のメディアや掲示板、コミュニティと協力関係を結びました。サイバーエージェントさんの『ウチの姫さまがいちばんカワイイ』の中国でのパブリッシングでは、サブカルチャー系のサイトを活用し、初動で大きな力を発揮しました。いまデイリーで600万のアクティブユーザーに対するプロモーションをするベースインフラができています。


―――:「ビリビリ」で人気のあるコンテンツはどういったものでしょうか?

やはりアニメが人気です。中国と日本のオタクは好みが違っていますが、中国と日本のオタクユーザーの違いは、日本だと特定のコンテンツを長く愛する傾向にあるのに対し、中国は複数のコンテンツを同時に楽しみ、そして好みの入れ替えも非常に速いです。
 

―――:中国のACGの愛好者はどのくらいいるのでしょうか?

当社では、3000万人~8000万人になると推計しています。その中心は、90年代以降に生まれた世代です。中国のサブカルチャー世代は、正義感が強く、版権を尊重する意識が強い世代です。そして、今後、経済的に大きなボリュームゾーンになると言われています。ただ、中国には、ハイクオリティのゲームが不足しており、日本の会社と業務提携し、ゲームを紹介していきたいと考えています。



■日本のゲームアプリはなぜ中国で失敗するのか

―――:中国における割合は少ないのですが、やはり規模がケタ違いに大きいですね。日本のゲームアプリが中国に進出していますが、成功事例は限られており、ほぼ失敗しているという印象です。なぜでしょうか?

初めて中国で知られた日本の正式なゲームとして、スクウェア・エニックスさんの『拡散性ミリオンアーサー』があります。中国のACGユーザーからは認められてきました。ただ、その後は日本のタイトルが多く中国に進出しましたが、全体的には苦戦している状況といっていいかと思います。

いくつか理由がありますが、当社の分析ではまず、中国でリリースする際、ゲームをいじりすぎていることがあげられます。例えば、「VIPシステム」は中国のゲームアプリでは一般的に導入される要素なのですが、日本のゲームを好きなユーザーには好まれていません。

2つめは、中国から日本のサーバーに直接つないで遊んでいる人が多いことです。つまり、日本と中国で出ているバージョンが比較されるわけです。中国ではデータサイズを抑えるために、ストーリーとアニメーションの削除、ゲームの画像のクオリティが損なわれていることがあります。また、課金を促すために中国の方がドロップ率を低く設定していることが多く、それならば日本語版で遊ぼうと考える方も多いそうです。

3つめは、現地での運営チームの人たちにローカライズ・カルチャライズのノウハウが少ないことです。ユーザーにきちんと伝わらずに損をしている事例をみかけます。ユーザーに受け入れてもらうために、どういった翻訳ならいいのか、どういったキャッチフレーズを使ってゲームを宣伝するか、いずれもノウハウが必要です。運営を担当する中国のゲーム会社では、「お知らせ」の中に、お客様が喜ぶようなネット(オタク)スラングを盛り込めないところも少なくありません。

当社では、創立時からACGユーザーにフォーカスし、様々な研究を重ねることで、彼らの動きや嗜好を把握できるようになりました。この1年半ではかなりのノウハウが貯まりました。そして、日本でどんなゲームがでているのか、専門スタッフがチェックしています。評価チームが新作をプレイし、中国市場に合うかどうかの検討も行っています。いいと思ったら、ゲーム開発会社にアプローチし、中国でのパブリッシングを提案しています。




■ShareJoyの強み

―――:御社の強みを教えて下さい。

ACGユーザーの気持ちを考慮した運営ができること、中国のゲームプレイヤーに合わせてゲームをどこまでいじったらいいか、そのさじ加減がわかっていることがあります。日本のゲームの良さ、美しさをすべて伝えるため、IPの特徴を無視した改変は行わないように気をつけています。

もうひとつの強みは、中国で最も多くのACGを好むユーザーが集まる、「ビリビリ」プラットフォームのゲーム業務の独占していることです。ここではゲームだけでなく、様々なコンテンツが提供されていることもあり、高い継続率を実現しています。当社の提供するゲームアプリのワンデイリターンレート(翌日継続率)は平均で60%、タイトルによっては80%となります。

「ビリビリ」は、若者のコミュニティです。例えば、ある人気アニメが題材のゲームをリリースする時、アニメの放映と連動した広告宣伝を行うことができます。それだけでなく、グッズ販売も行うことで、ゲーム以外の売り上げも出すことができます。弊社は、デザインや生産、販売まで行えますし、IPのブランド効果を向上させることもできます。

ゲームが好きになってくれた場合、ユーザーたちの動きは驚くほど活発となります。ゲームのイラストを描いてくれたり、チャットや掲示板などで話したりしてコミュニケーションをとったりして、イメージを広げるための起爆剤になっています。

また、当社は、ACGを好むユーザーに対して、細分化してコンテンツを提供することも可能です。これも強みと言えます。オタクの男性向けにいわゆる萌えゲームを提供するだけでなく、やや年齢層の高い女性ユーザーに恋愛シミュレーションゲームを提供する、といったことも行っています。




■パブリッシングは契約から5カ月で提供開始

―――:御社と一緒に中国でパブリッシングをする場合、どのくらいの時間がかかるのですか? 収益の分配方式はどうなるのでしょうか?


5ヶ月でできた事例もあるので、非常に速いと思います。3ヶ月がローカライズ(APKの圧縮やセキュリティの確保、通信速度の調整、UI・UXの調整)、さらに2カ月でユーザーテストとフィードバックを受けての調整です。一般的にはかなり速いほうかもしれませんが、もっと早くして、日本とほぼ同時にリリースする状況を目指しています。早い段階からパートナーシップを組みたいです。また収益分配はレベニューシェアとなり、相談しながら決めています。

―――:御社とゲームを提供する場合、どういう形がいいのでしょうか?

色々なやり方がありますが、おすすめは、ソースコードを渡していただくことです。ゲームコンテンツが完成に近いものであれば、ソースコードはなくても可能ですが、中国市場の動くスピードは非常に速く、市場の変化に対応できない可能性があります。

―――:今後の展望を教えてください。

当社では、中国のゲーム開発会社に投資しており、今後、日本のゲームアプリを中国市場で広めていきたいと考えています。また、日本でも開発力のあるゲーム会社が多く存在していますので、業務提携だけでなく、資本提携などもできたらいいと考えています。同時に、これまでのようにオタクユーザーだけでなく、中国の一般のユーザーに向けて日本式のゲームの特徴や魅力を伝えるような取り組みも行っています。

―――:ありがとうございました。
 
(編集部 木村英彦)


■関連サイト
 

シェアジョイ(ShareJoy)



【お詫び】
当初掲載された記事では、Happy Elements株式会社『メルクストーリア』に関する情報に関して、事実関係に誤りがありました。該当する記述を削除するとともに、Happy Elements株式会社及び関係会社の皆様にお詫び申し上げます。