【イグニス決算説明会】2Qは減収・赤字に 中・大規模アプリへのシフト断行 『ぼくドラ』好調で通期売上予想を増額 「追加要素とイベントでまだまだ伸ばせる」


イグニス<3689>は、5月13日、東京都内で2015年9月期の第2四半期(14年10月~15年3月期)の決算説明会を開催した。
 
同社は、それに先立つ5月13日、決算発表とともに、2015年9月期の業績予想の下方修正を行い、売上高を従来予想の33億1400万円から17億円、営業損益を10億円の黒字から5億400万円の赤字、経常損益を10億円の黒字から5億5300万円の赤字、最終損益を6億円の黒字から5億8200万円の赤字にそれぞれ引き下げた。売上高が当初予想から半減、各利益項目は一転して赤字予想となった。
 
 
主力サービスである小規模アプリから中・大規模アプリへのシフトにより、開発期間が伸び、一時的にアプリリリース本数が減少し、国内MAUが減少したことがあげられる。また、中規模以上の無料ネイティブアプリは当初想定以上に本格的な収益化に時間がかかることも要因となった。また、全巻無料型ハイブリッドアプリは想定よりもユーザー獲得が伸びず、広告収入と課金収入が減少したという。
 
 
一方、ネイティブソーシャルゲームの第2弾『ぼくとドラゴン』の好調ぶりは、明るい材料となった。当初の予定よりリリース時期が遅れたものの、リリース後、すでに80万ダウンロードを超えるなど、ユーザーの獲得が順調に進んでいるだけでなく、売上ランキングでも上位の常連となっている。このため、ネイティブソーシャルゲームの通期の売上高は当初予想を上回る見通しだ。

決算説明会に臨んだ銭錕社長(写真)は、下方修正に至った要因の説明に多くの時間を割いた。アプリ市場での競争激化や広告市場の変化などを交えつつ、これまでのように小規模アプリで収益を獲得することが難しくなりつつあること、そして、それを見据えて、中・大規模の更新型アプリにリソースをシフトしたことを明らかにした。以下、説明会の模様をレポートしよう。
 
 
 
■第2四半期は減収・赤字転落
 
さて、下方修正と同時に発表した第2四半期決算は、売上高5億0600万円(前年同期比35.7%減)、営業損益2億4200万円の赤字(前年同期1億3100万円の黒字)、経常損益2億7300万円の赤字(同1億3000万円の黒字)、最終損益3億1100万円の赤字(同7300万円の黒字)だった。
 
 
無料のネイティブアプリに掲載する広告掲載料を主な収益源としているが、減収・赤字となった要因は、無料の既存ネイティブアプリの国内MAU(月間アクティブユーザー数)が減少したことに加え、中規模アプリの開発のためアプリリリース本数が一時的に減少したことがあげられる。また、海外のアプリディベロッパーの日本国内でのプロモーションの方針変更に伴い、広告需要が減少し、広告単価が下落したことも一因だった。
 
なお、ソーシャルゲームアプリ『ぼくとドラゴン』はリリースしたものの、Android版を2月20日、iOS版が3月13日と第2四半期後半でのリリースとなったため、第2四半期への収益貢献は限定的だった。
 
 
 
■下方修正の要因
 
銭社長は、下方修正となった要因と今後のアクションプランの説明に多くの時間を割いた。まず、ジャンル別の売上高予想の変化を見ると、
 
・無料ネイティブアプリ…19億8800万円から6億7800万円
・全巻無料型ハイブリッドアプリ…7億5000万円から7200万円に引き下げ
・ネイティブソーシャルゲームアプリ…5億7400万円から9億4800万円に引き上げ
 
となった。以下、それぞれの状況をまとめていこう。
 
 
 
(1) 無料ネイティブアプリ
 
アプリ市場の競争激化に伴うマネタイズの難易度が上がっている。イグニスは、これまで小規模アプリを200本以上出してきたが、アプリの7割以上が10万ダウンロードされ、売り上げにも大きく寄与してきた。銭社長によると、今年になって小規模アプリのマネタイズの難易度が上がってきたという。どういうことなのか? 感覚的な表現と断りつつ、ランキング10位に入るために必要とされるクオリティが従来は100あればよかったとすれば、いまは150や200ほど必要になっているという。
 
 
広告の収益単価が下がっていることも一因だ。14年9月期を100とすると60くらいに下がっているそうだ。そして、広告単価が下がる理由は、ひとつは新しい広告フォーマットのリリースが落ち着いてきたことがあるという。スマートフォン広告は、2年間にわたって右肩上がりを続けていたが、この要因として、広告フォーマットが増えていたことも大きいそうだ。「広告フォーマットが増えるとユーザーにとって目新しいものと映るため、自然とクリック率が上がる」。
 
もうひとつは、広告単価に影響を与える需給の状況である。これまで積極的に広告出稿を行ってきた海外系のディベロッパーが費用対効果を考慮に入れた広告出稿に変わってきたこともあげられる。SupecellやKing、中国系のゲーム会社は、比較的、単価の高い広告出稿を行っていたが、単価を下げてより効率のいい広告出稿を心がけるようになってきたとのこと。
 
ただし、広告単価は永久に下がり続けるものではなく、足元でも下げ止まりの兆しが出てきたそうだ。
 
 
 
(2)アプリポートフォリオの変化
 
もうひとつは、収益貢献のタイミングが想定よりも遅いことがわかったことだ。中・大規模で、更新性のあるアプリ開発を行うと発表し、無料アプリに関わっている開発スタッフの8割を割り当てるなど大胆にリソースの転換・配分を行ったという。これから更新型の中規模・大規模プロダクトが続々とリリースされるが、実際に開発を進めてみると、想像していたよりも収益化に時間がかることが判明したとのことだ。
 
非更新型のアプリの場合、すぐに売り上げはピークに到達するが、更新型のアプリは収益化までに時間を要するという。例えば、更新型アプリの事例としては、子会社ALTR THINKの暇人同士をマッチングする匿名SNS『ひまチャット』があげられる。このアプリは、リリースして1年半になるが、ユーザー同士のメッセージ数は今年に入ってから急激に伸び、1億メッセージを突破した。その後も急激な伸びは続いており、まもなく2億メッセージを超える勢いだそうだ。
 
 
中・大規模で更新性のあるアプリは、鏡アプリや電池チェッカーなど単一機能を提供する小規模アプリと異なり、アプリが複雑で、ユーザーにフィットするまでに時間がかかり、その結果、マネタイズまでの期間も長くなる。ただ、今後は、『ひまチャット』のように本格的な拡大まで1年半はかかるものではなく、既存アプリの運営で得たノウハウを活用することで期間短縮を図ることが可能とみている。
 
 
 
 
(3)競争が激化する全巻無料型ハイブリッドアプリ
 
全巻無料型ハイブリッドアプリも誤算だった。同社が他社に先駆けて始めたサービスだが、リリース当初の2年前は無料で読めるメガヒットタイトルが現在に比べて少なく、利用者にとって目新しいサービスだった。今年に入って新規参入する競合が出てきたほか、大手出版社が自ら有名タイトルの映画公開に合わせてシリーズタイトルの一部を無料で読めるアプリや電子書籍を出しており、「色々なところで有名マンガが無料で読めるようになっている」。
 
 
この結果、ユーザーにとってサービスの新鮮さが薄れるとともに、競争環境が厳しくなっているという。実際、ドリコムも競争激化を理由にこのサービスから撤退している。同社では、マンガのメガヒット作品1タイトルあたり1億円で7タイトルをリリースする計画だったが、結果として1本にとどまった。「今年1本目のタイトルが最大のヒットタイトルだったが、2年前に出したタイトルに比べてKPIが悪かった」という。今後、韓国でも展開していく予定。
 
 
 
(4) 好調な出足となった『ぼくとドラゴン』 第3弾の情報も
 
全体的に厳しい決算だったが、明るい話題は『ぼくとドラゴン』だろう。アプリのリリース後、順調にユーザー数を伸ばしており、App StoreとGoogle Playの売上ランキングでもTOP100に安定して入っており、TOP50に入ることも珍しくない。これを受けて売上高予想を引き上げた。
 

 
銭社長は、「『ぼくとドラゴン』は好調だが、やりたいことがすべては入っておらず、ゲームとしては未完成だ。想定していたベストなユーザー体験にするにはあと数ヶ月かかる。追加要素を引き続き開発するとともに、平行してイベントなども行っていくので、売り上げは伸びていくだろう」とコメントした。
 
また、第3弾となるタイトルについても言及があった。「これまでネイティブソーシャルゲームは2本リリースしたが、やってはいけないこと、やるべきことのノウハウを貯めることができた。3作目にもチャレンジしたい」と述べた。今期は『ぼくとドラゴン』の追加開発に集中し、その後、開発スタッフを新作開発に移行させていく考え。2016年9月期中のリリースを考えているという。
 
 

 
(編集部 木村英彦)
株式会社イグニス
http://1923.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社イグニス
設立
2010年5月
代表者
代表取締役社長 銭 錕(センコン)/代表取締役CTO 鈴木 貴明
決算期
9月
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