【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、スクウェア・エニックス所属のゲームクリエイター・安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第14回「ゲームを売る上で一番大事な人」



開発初期段階に考えることとして、これまで「運営を意識した構造にすること」「商品をどうするか」について触れましたが、今回は「ゲームの売り方」について書きたいと思います。

スマホゲーム市場は既にレッドオーシャン。たとえ面白くてもそれだけでは埋もれてしまいます。これはコンソールゲーム市場がたどった道と同じで、同様に成熟したスマホゲーム市場においても売り方はちゃんと考えないと売れません。そして売り方もまた開発初期段階でイメージを固めておくべきことの一つです。

でも売り方を考えるといってもどう考えればいいのか。ゲームの特性によってアプローチは様々だと思いますが、どんなゲームでも必ず共通することがあります。それは、ゲームが売れるかどうかは「ファン」がどれだけいるかで決まる、ということ。だからいかにファンを増やし、大事にするかということを念頭に売り方を考えるべきです。

 

■ファンを増やすしてゲームを売るために…


ファンを獲得し増やすには、とにもかくにも新規ユーザーを獲得し、獲得したユーザーを定着させファンにする必要があります。その観点で大事なことが5つほどあります。

①話題性
ユーザーを増やすには、まずそのゲームに話題性がないと話になりません。話題性を高めるには「目を引くテーマ」「スタッフ」「パッと見のクオリティ」など方法は様々あります。スマホゲーム黎明期にリリースした『拡散性ミリオンアーサー』は当時のスマホゲームになかったスタッフや声優の豪華さや、3DモデルやアニメPVなど見た目のインパクトで話題性を高めました。『乖離性ミリオンアーサー』についてもその戦略は同様で、さらにその度合いを高めることを意識しました。

なお、今や豪華なスタッフや声優というのは当たり前になっているので、そこをアピールして話題性を高めようというのはスマホ黎明期よりも難しくなっているのですが、重要なのはそのスタッフや声優が作品のクオリティを高めていて、そして何より彼らにファンがいることなので、やはり大事にしたいポイントなのです。

例えば、先日発表した『ALICE ORDER(アリスオーダー)』もまた「ファンを増やす」ということを意識した作品です。イラストレーターのhukeさんにシナリオの七月鏡一さん、音楽の林ゆうきさんと、「超能力×ミリタリー」というテーマに対して思わずプレイしてみたいと思ってもらえるようなチームを作りました。

【関連記事】
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あと、話題性という意味ではコラボもすごく有効です。リリース前後ではできないことですが、運営が落ち着いた頃にとる手段としては最も効果的です。ただ、ゲームとコラボ先がまったく交わらないようなテイストのコラボは、いくら新規ユーザーの獲得が狙いと言えど意味がないばかりか、既存のファンが離れるきっかけにもなりますのでお勧めできません。


②ゲームの仕組み
新規ユーザーを獲得するには「プロモーションをがんばる」と考えがちですが、ゲーム自体に新規ユーザー獲得の仕組みを入れておくことは可能です。というか、そもそもかつてのソシャゲはその仕組みに特化していたといっても過言ではありません。スマホゲーム隆盛となりゲーム性を高めることの重要性が増しはしましたが、同じ携帯電話端末のゲームである以上拡散の仕組みは当然必要。ただし、今のゲームにおいては、ゲーム性や時代にあった拡散のさせ方を考えるということが何より重要なのだと思います。最近だと、『モンスト』や『乖離性MA』で実装している協力プレイなんかは拡散する仕組みのトレンドで、ユーザーのセルフプロモーションを促すきっかけになります。

あと、スマホゲームではありませんが、秀逸だと思ったのが『プリパラ』の「パキる」システムです。名刺交換的なやり取りが背伸びしたい年頃の女の子にばっちりハマっていますし、コレクション要素にもなりうる上攻略のお助け要素としても機能しています。(すごい!)
 

▲(※編集部注)プレイヤーのマイキャラが記録された「プリチケ」を、パキッとふたつにわることで、トモチケ(上)とマイチケ(下)に分けることができる。

 
また、獲得した新規ユーザーを定着させるための仕組みも、またとても重要です。根強く効果的な仕組みとしては「GvG」がありますね。「GvG」はコアユーザーの離脱を防ぐ仕組みとしてとても有効ですし、コア向けではあるものの少ないプレイヤー数で安定した収益をあげられるのが良い点です。(既にGvGモノも多いため新規で課金していただけるお客様を獲得するのは難しくなっていますが)

そして第11回の安藤の記事(関連記事)にもありましたが、対戦要素があればエンドコンテンツとして機能するだけでなく、大会などのイベントが盛り上がります。そしてゲームだけでなく、上手いプレイヤーにも人気が出てくればそのプレイヤーにもファンがつき、ゲームがより盛り上がっていきます。


③情報の出し方
どのように情報を出していくのかも大事です。最近はタイトル数が増えて情報が被りがちなので、ただ情報を出すだけではすぐに埋もれます。ちょっと前まではリリース前のプロモーションはほとんどなかったスマホゲームも、最近だとコンソールゲームのようにリリース数ヵ月前から小分けに情報出しをしているタイトルが増えてきました。とはいえ、それだけでもやはり不十分で印象的なやり方で継続的に情報を出すことが重要です。

また第4回の記事で「IPを育てよう」(関連記事)という話をしましたが、これはよりそのコンテンツの注目度を挙げて売りにつなげるためです。であれば、ゲームだけでなく作り手がIPとなる方法もあるのではないでしょうか。例えばミストウォーカーの坂口さんやレベルファイブの日野さんは自身が既にIPとなってファンがついており、「この人が手掛けたゲームなんだったらとにかくやってみよう」という気持ちにさせます。

もちろん上記で例に挙げた2人は実績もありトップオブトップのクリエイターなので当然ファンがいるわけですが、必ずしも彼らほどの実績がないと成り立たないわけではないと思います。

今はニコ生主の人気が芸能人に迫るほどの勢いになっています。じゃあ彼らに元から実績があったかというとそうではない。とにかく面白いことをやって注目を集めるということから始めています。立場や目指すものは違えど、我々だってまずは注目を集める努力をすることで認知度が上がっていき、ちょっとずつでも応援してくれる人を増やしていき自分の手掛けるゲームを遊んでくれるきっかけにつなげていける。私はそう思っています。

またそれはユーザー向けに限った話ではなありません。インディは別として、基本的にゲームは一人では作れません。一緒に作る仲間が必要です。でもその仲間を集めるには、発起人に信頼がないといけない。その信頼は会社の名前だったり、自身の実績だったりするわけですが、より個人の信頼を高めるための動きはできます

この連載も私自身のノウハウを結構書いているのですが、普通に考えたら無料でノウハウを出すことにメリットはない。でも記事を読んでくれたクリエイターが「こいつとだったらゲームを作りたいな」と少しでも思ってくれるなら、その方がいいと私は思うのです。


④面での展開
いわゆるメディアミックスです。情報を広げる場所はひとつよりも複数あった方が当然広まりやすいです。そのため『ミリオンアーサー』では漫画やバラエティ番組、ライブなどの展開も行ってきました。こういった展開は新規ユーザーを獲得するだけでなく、既存ユーザーをファン化させることができますし、「このタイトルにはまだまだ力を入れていくつもりだ」と、ファンへの安心感を与えることができます。そして、そういったファンが増えていくによりタイトルはIP化していきます。

こういった展開を進めるにはとにかくスピードが重要で、かつそれぞれのメディアで儲けに走りすぎず、IPの成長を第一に考えることが大事です。ちなみに『ミリオンアーサー』はというと、実はまったく想定通りに展開できていません。色々と突破しないといけない壁があったり、そこに立ち向かう戦力が不足していたりと色々悩みがあり、まさに今年の課題ですね。手伝ってくれる方絶賛募集中ですw


⑤オフラインイベント
海外では既にe-Sportsが盛んですが、日本でもこれから確実にきます。「③ゲームの仕組み」でもちょっと触れましたが、e-Sportsで勝つという目標のためにプレイヤーはそのゲームを遊び続けますし、そんな彼らにファンがつき一緒にゲームを楽しみます。そうしてそのゲーム自体のファンが広がっていく。『ストリートファイター』シリーズや『リーグオブレジェンド』などはまさにその成功例です。

個人的にはゲームというエンタメにおいて、これほど熱狂的にファンを作り出す仕組みは他にないとさえ思います。そんなe-Sportsでファンを増やすために、今後はスマホゲームと言えどe-Sportsで盛り上がるような要素を軸に作るのは王道になってくるでしょう。

また、e-Sportsだけではなくファンミーティングのようなイベントは定期的にやるべきです。例えば音楽でいうと、ライブに行かれた方ならわかっていただけると思うのですが、CDで曲を聞いているよりも、生でアーティストの熱を感じながら曲を聞いた方が印象に残りますし、アーティストとの距離感が近づいた気がしてより一層応援したいという気持ちが強くなります。

この手のイベントは実際の効果として数字を取りづらいので懐疑的に思われる方がいますが、本当にそんな考え方は早々に捨てた方がいい。

特にデジタルエンタメは基本的に生の体験がないだけにすごく有効なんです。

最近『ナナシス』もライブを開催していましたが、『アイマス』『ラブライブ!』などのアイドルものは積極的にこういったイベントを催していますし、アイドルもの以外でも『テイルズ』シリーズなどもこの方法でファンを定着させIPの拡大につなげています。

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また、ガンホーは元々PCのオンラインゲームでこういった動きを盛んにされていたこともあり、スマホビジネスにおいても積極的にオフラインイベントを展開されていますね。会社が一丸となってこのような動きをされているのはとても素晴らしいと思います。

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以上、「ファンを増やす」ということをキーワードにゲームの売り方をいくつか挙げてみました。今後はいよいよおもしろいゲームをつくっただけでは売れない時代に突入してきますので、いかにファンを増やしてゲームの外側から盛り上げていくかがテーマになってくると思います。そのためにはどんなことでファンが喜ぶのか、自らが体験することも大事になってきそうですね。ではでは今日はこの辺で!

P.S.
『スプラトゥーン』(WiiU用ソフト)が話題になっていますね。品切れ状態でまだ入手できていないのですが、「イカ」をデザインテーマにポップな雰囲気になっているのがかっこいいです。そして早々に「イカ娘」とコラボされているあたり、実に素晴らしい!

何を隠そう私の飼っている猫の名前が「イカちゃん」(イカ娘にカラーリングが似ているから)でして、日々プレイせざるを得ない気持ちが高まっているのでした。
 
 
 
 


■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。
 

■スクウェア・エニックス

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■スクエニ 安藤・岩野の「これからこうなる!」 バックナンバー

第13回「市場のピンチを知らせるクリエイターからのSOS」 (安藤)

第12回「F2Pゲームにおける最強の商品とは?」 (岩野)

第11回「今後どんなゲームが売れるのか、全力で考えてみた」 (安藤)

第10回「開発初期段階で必ず決めなくてはいけないこと」 (岩野)

第9回「これからはプラットフォームの垣根が無くなると言ってきたけど、どうも違う。という話」 (安藤)

第8回「打席に立つために必要なこと」 (岩野)

第7回「ほとんどのターゲット設定は間違っている」 (安藤)

第6回「売れるゲームには◯◯がある」 (岩野)

第5回「ゲーム制作、これが無いとヤバイ。」 (安藤)

第4回「IPを育てよう」 (岩野)

第3回「制作費が二億円を超えそうなときに読む話」 (安藤)

第2回「岩野はこう作ってます」 (岩野)

第1回「ここに未来は予言される」 (安藤)

 
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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