【インタビュー】バンダイナムコスタジオ・バンクーバーの中山淳雄氏が語るモバイルソーシャルゲームの北米エリア事情

 
モバイルソーシャルゲーム興隆期より、北米は日本と並ぶ大きなゲーム市場である。一方でこの3年程、日本発のゲームは多数北米でリリースされているが、継続的なヒットは生まれていない。今回、そうした中で「日本のゲームメーカーにとっての、北米エリアのモバイルソーシャルゲーム事業の課題と展望」について、 バンダイナムコスタジオ バンクーバースタジオヘッドの中山淳雄氏にインタビューを行った。(インタビューアー:デロイトトーマツ   美田和成)

 

■モバイルソーシャルゲームの北米エリア事情


――: よろしくお願いいたします。まず、基本的なことを伺いたいのですが、お仕事について教えていただけますか。

中山氏:はい、仕事はモバイルゲーム開発のカナダスタジオ立ち上げです。0から人を集めて、戦略から人事制度づくり、ゲームデザイン、ゴミ出しまで何でもやってきました。 1年たって従業員も25名まで増え、ようやく開発スタジオらしくなってきました。もともとDeNAでゲームの海外展開はやってましたが、海外に住んでの立ち上げも、もちろんゲームスタジオをつくるなんて完全に未経験でした。

新規事業は昔から大好きで、前職のリクルートでも新規飛び込み営業から海外新規事業ですとか、デロイトトーマツでもコンテンツ業界の新規海外展開など、様々な業界・職種渡り歩いて新規事業をやってきました。今はそうした経験の総合力が問われる仕事をしていて、本当にエキサイティングです。「大企業のなかのベンチャー事業」をやっています。



――: 北米のモバイルソーシャルゲームのトレンドはいかがでしょうか?

中山氏:ハード面ではこの3年でApple/Googleが完全にドミナントなポジションを築いており、Amazon・WindowsやVR、スマートTVなど新興市場の成長が期待されますね。

ソフト面でいうと、「パズル」「カジノ」「箱庭シミュレーション」が鉄板3大ゲームジャンルですが、ユーザーもくっきり違うので、ここ数年その割合はあまり変わってません。 ただ最近、こうしたゲームトレンドはあまり精緻に分析すべきものではないな、と感じます。ユーザーの境界は決して言語と国境によって分断されるものではなくなってます。さすがに「欧米圏」「日本」「韓国」「中国・東アジア」「東南アジア」などRegional Trendみたいなものはありますが、我々も北米というよりは「北米発コンテンツを需要できる世界中のユーザー向け」みたいな気持ちで開発を行っております。


――: 日本のゲーム会社が参入する上での優位性、また課題となる部分はどこでしょうか? バンクーバーで0から組織を立ち上げられた中山さんのご経験を含めお聞かせください。

中山氏:日本のゲーム自体は非常に競争力がありますね。良質なモバイル開発会社は北米だと一か所に集積してないので、東京であったり、他にロンドンとか北欧のほうが成功タイトル経験者は集めやすいです。何より日本は世界最高品質の人材供給国です。

比較的給与が安定しており、ロイヤリティが高く、正念場で踏ん張りが効く日本開発者は、絶対的な優位性ですね。今、世界のモバイル売上トップ企業20のうち半分は日本企業ですし、手触り感など細かいところも含め、よい開発市場だなと思います。



――: 日本の開発者は優秀でゲームも世界最高品質なのですね。とはいえなかなか北米では日本発のゲームでヒットが生まれておりませんが、ゲームユーザー自体が北米と日本で大きく異なる事が原因でしょうか?

中山氏:実はこの1年数十名の北米ユーザーを丁寧にインタビューして、どういうユーザーがどんなエンタメを遊び、いくらくらいどのタイトルに課金しているかをFace to Faceで1人ずつみっちりと調査してきました。

そこで気づいた事は「意外なほど違いはない」ということです。Mobileなのでプレイの場所は非常に多様ですし、ゲームプレイ時間が日本人より圧倒的に長かったり、課金額は比較的低かったり、といった差分はありますが、日本のドメスティックなゲームも意外に普通に受容されて遊ばれてます。色々な攻め方があっていいし、日本のアイドルゲームだって、こっちでそこそこはいけるんです。

 
 

――: なるほど。ゲーム時間や課金傾向は異なるものの、ゲームユーザーの行動パターンは基本同じなのですね。では何が課題なのでしょうか?

中山氏:課題は3つあると考えております。「集客」と「マネタイズ」については、すべからく失敗しております。また「開発体制」にも課題があると考えております。


――: なるほど。まず「集客」面での課題についてお聞かせください。

中山氏:はい。集客については、以前から護送船団方式で日本の広告代理店と一蓮托生に海外に乗り出すというのが一般的でした。ところが、代理店に完全にお任せで、開発側に集客ノウハウがたまらない。またマネタイズも海外の消費者にあわない日本型のままなので、圧倒的に低い継続率で客をこぼして終わる。バブリーに大量集客して、ごく一部残ったユーザーだけでマネタイズする「焼畑農業」、というのがこの3年間海外展開してきた日本企業の攻め方でした。


――: 「マネタイズ」面で北米の消費者にあわないというのはどういうことでしょうか。

中山氏:北米と日本ではゲーム内容の違いもさながら、課金手段の違いが近年際立ってきました。ガチャで高課金者と並走していく日本と異なり、低中課金者の層が厚い北米ではプレミアム、時短、コスチュームなど課金バラエティが広いゲームが多いです。

2014年のモバイルアプリの収益内訳でみても日本は81%がアプリ内課金ですが、米国は37%しかない。むしろ63%、過半数以上の売上はアプリ内広告からきているのです(Appannie/IDC調査より)。こうしたビジネスモデルの違いすら、日本にいると実感しにくいです。日本市場ってものすごくユニークで、かつ同質的なので、日本型マネタイズってユーザーにはすごく歪に受け止められてます。もちろんKPIも全然伸びません。



――: 「開発体制」面での課題はいかがでしょうか?

中山氏:輸出型で欧米的なゲームをつくるのに難しいなと思うのは、ユーザー側というよりは開発側の問題が大きいなとつくづく実感します。見えないユーザーに対してコンテンツを作るというのは、開発期間の長期化・投資リスクの高騰に悩む最近のアプリ開発では致命的です。

こんなゲームがこんなふうに遊ばれるって構想があったとしても、その拙い構想に20人集めて1年間3億円かけてつくるなんて、集団自殺みたいなものです。

構想に根拠と明確なディレクションがあればいいのですが、日本人だけで作っていると常にブレます。結局、色々な議論で丸くなってキメラのような混合型のコンテンツができる。明確なイメージのもとにConsistentな開発をしないと、絶対に良いゲームにはならないです。だから「欧米にこういうユーザーがいて、こうやってプレイしているんだ」というイメージが開発者の中で明確に共有できるかどうか。ここが今後の日本企業の攻め方の肝だなと思います。



――: それは北米と日本の距離を考えても、難易度の高い課題ですね。

中山氏:はい。こればっかりは、知見をためて体で覚えていくしかありません。でも、各社この3年くらい色々やってみて想定よりうまくいかないため撤退、という逆流が強くなっているのが現状です。マネジャーも育っておらず、日本から入れる経営資源も定義されておらず、という状態で数年単位で明確な成果が出ないことはメーカーの海外展開をみていても明らかです。

日本人で北米モバイル開発の経験者は随時募集しているのですが、数えると業界全体でも50人もいません。という無い無いづくしですが、未経験でもチャレンジできる志ある人材雇って、とにかく全員総攻撃のような事業をやってます。この1年で4つくらいプロジェクトを立ち上げて、この夏にまず1発目のタイトルがでます。(HipstarWhale社との協業案件”Pacman256”のリリース記事

今後は投資余力の限られる大半の会社にとって、「まずは日本市場で勝って、その次のステップで海外で売る」という過去30年やってきたゲーム業界のビジネスモデルにおとしこまれていくのでは、と思います。ただそれではダメなんです。やはり輸出でなく現地開発のものでないと究極的な意味ではTier1のゲームは出来ません。なので我々はバンクーバーで踏ん張って北米からグローバルで支持されるゲームを開発していきたいと考えております。

 
 

――: バンダイナムコさんのような大手さんの取る戦略としては有効ですが、そこまで体力のない企業にはハードルが高いですね。

中山氏:もともとハードウェアプラットフォーマ―という強い母艦がいたので、中小含めたゲームメーカーが外で勝負できたんですよね。これがアニメや映画になくて、ゲーム業界がなしえた素晴らしいビジネススキームでした。だからこそ、世界のゲーム市場って日本の存在感が非常に大きかったんです。ただモバイルになると、これが丸裸になる。純粋なコンテンツ開発だけでなくマーケティングも含めた、総合的なモバイルメーカーとして勝負しにいかないといけない。

とはいえ、もちろん中小だとしてもチャンスは常にあります。Supercellもそうして新しい市場をつくりましたし、BeelineやNubeeなど日本由来の企業でも海外でネームバリューをもつ企業はいます。特殊プラットフォーム、特殊エリア、ニッチを攻めればチャンスが存在しない市場などありえないです。



――:モバイルは開発だけでなくマーケなどやるべきことも増えるが、ニッチ含め、戦い方次第ではチャンスは残されているんですね。企業の戦略ではなく、ゲーム会社で働く個人としてみたときに、北米で働く遣り甲斐や可能性のようものはいかがでしょうか?

中山氏:そうですね、これからは企業というより個人軸で、やりがいというより必要性として日本人が挑戦して「いかないと」いけない話だと感じてます。弊社には、この1年で1200名くらいのダイレクトな応募者が集まったんですが、そのうち日本人は数人でした。
 

欧州だけでなく中東や中国・韓国などアジアからもダイレクトでどんどんと応募がくるのに、日本人はほとんど存在感がありません。いきなり英語、というハードルもわかるのですが、ワーキングホリデーで来て、「帰国直前になんとか入社をつかみとろうと粘ってくる人」など見ていると、いまグローバルに出なきゃ生きていけないという世界全体の温度感を感じます。


――:日本にいると実感しにくいですが、グローバルで働くことを決意した人材の危機感、切迫感は凄まじいものがありますね。御社のバンクーバースタジオで働く方々はいかがでしょうか?

中山氏:カナダって本当にマルチカルチャーで、弊社の従業員はアメリカ・カナダだけでなく中国・韓国・フィリピンにチリやフランス、パレスチナと、もう10か国近くから集まるチームで構成されてます。バンダイナムコ出身者は数名で完全にマイノリティです。今後こうした異質の中での自分のユニークさを自覚した作り方を経験した開発者が、個人としてポテンシャルを広げ、会社を養っていく時代だと思ってます。

ゲーム開発って常にベンチャーですしね。市場が安定しすぎて、産業本来の形を忘れてしまっている開発者が多すぎるように見えます。そういう意味では一度海外に出て、Competitiveな風にあたるというのは非常によい経験になると思います。「リスクをとって勝負をしないリスク」自体を認識したほうがよいな、と今強く感じますね。



――: 本日はありがとうございました。



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