Super Evil Megacorpユン・テウォン氏インタビュー 『Vainglory』は課金の有無で勝敗が決まらないゲーマー向けタイトル 持続可能な”真のeスポーツ”を目指す​


Super Evil MegacorpのMOBAゲーム『Vainglory』がAndroid版のリリースとともに、いよいよ正式サービスに移行した。これに伴い、ゲーム内容のアップデートとともに、課金要素が追加されるなど、ゲームも大きく変わることになった。

本作が注目を集める理由の一つは、モバイルeスポーツに取り組んでいることがあげられるだろう。7月13日と14日に韓国で世界大会が開催されるが、リリースから大会開催まで異例ともいえる早さだ。今回、Super Evil Megacorpのアジア太平洋ゼネラル・マネージャーのユン・テウォン氏にインタビューを行い、世界大会に期待すること、同社としてのeスポーツに対する取り組み、そして日本での展開について話を聞いた。


 
■『Vainglory』とは

3人編成の2チームがリアルタイムで戦うマルチプレイヤー向けバトルゲーム(MOBA)。各プレイヤーは、それぞれひとりのキャラクター(ヒーロー)をコントロールして、チームメンバーと戦略を立てて、敵チームの基地の中心にある巨大なクリスタル「Vain」を破壊することがバトルの目的となる。
 


 
■課金の有無で勝負が決まらないようにしたい
 
―――:まず、御社とゲームの紹介をお願いできますか?

当社は、カリフォルニアに本社があるスタートアップ企業です。従業員の半分は、Blizzard EntertainmentやRiot GamesといったPCゲームに携わった経歴を持っており、残りの半分はモバイルゲームです。2人の創業者は、Riot Gamesで『League of Legends』の開発に携わっていました。私自身は、PCゲームでのバックグランドがあり、Blizzard Entertainment、Wargaming、Electronic Artsに勤めていました。

当社は、次世代のモバイルゲームを提供する会社となるべく取り組んでいます。いままでのモバイルゲームは、カジュアルゲームが主流でしたが、ゲーマーが楽しめる"真のモバイルゲーム"を作りたいと思い、『Vainglory』を作りました。『Vainglory』は、『League of Legends』に代表されるMOBAゲームと呼ばれるジャンルの作品で、私たちは一からゲームを作りました。

本作のユニークな点は、UnityやUnreal Engineではなく、独自開発したゲームエンジンを使っていることです。これによって、興味深いことがありました。1つめはパフォーマンスが飛躍的に改善され、コンソールゲーム機と同等のグラフィックスを実現したことです。2つ目は、ゲーム自体がプレイヤーのタッチに敏感で最適化されていることです。この意味で、次世代のモバイルゲームとなりうるのではないかと考えています。


―――:リリースされて半年ほどになりますが、手応えはいかがでしょうか?

圧倒的にポジティブなリアクションが多いですね。まず、iOS版は、中国本土を除く国・地域のApp Storeでリリースされましたが、各地のユーザーに遊んでいただき、月次アクティブユーザー数は150万人を超えました。特に日本のプレイヤーは、想定した以上に熱心にゲームに遊んでいただき、私たちもとても嬉しく思っています。
 
 
―――:Android版もリリースされましたが、ゲームシステムが大きく変わった印象です。

そうですね。iOSアプリ版のリリースから半年が経過していますが、その間、コアなゲーム要素を徹底的に磨いてきました。この意味で、Android版はゲームとしてかなり洗練されているだけでなく、新しいビジネスモデルが採用されます。この意味で、真の公式リリースとなります。iOS版を先にリリースしましたが、こういうやり方はモバイルゲームだからこそできるものです。PCやコンソールゲームではこのような状態ではリリースできないでしょう。

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―――:新しいビジネスモデルとはどういったことでしょうか?
 
当社では、モバイルゲームプラットフォーム向けにハードコアなゲームと同じくらいのクオリティのゲームを作りたい、そして、ビジネスモデルも従来のゲームとは大きく異なったものを採用したいと考えていました。F2Pのゲームは、無料でアプリをダウンロードできるといっても、課金しないとバトルに勝てないものが多いですが、私のようなゲーマーにとってはそういったゲームには違和感を覚えます。

『Vainglory』は、課金額の有無・大小がゲームでの勝敗に影響しないものにしています。そして、課金をしなくてもいくらでも遊べます。採用しているビジネスモデルは、少数のユーザーが大金を課金するのではなく、多くのプレイヤーに少額でもいいので課金してもらいたいと考えています。

販売するものは、ゲームの中で使うスキンと呼ばれるアイテムです。他のプレイヤーと違って目立ちたいという時に課金するものですが、こういった部分で他のゲームと違うと思ってもらえたら、と考えています。ユニークなスキンを購入してもゲームプレイには影響を与えません。将来的には別のビジネスモデルの追加も考えていますが、ゲームプレイに影響を与える課金要素の導入は極力避けたいと考えています。



 
■世界大会を開催 草の根レベルから盛り上げて持続可能なeスポーツを目指したい

―――:今度、世界大会を開かれるとのことですが。

世界大会は、7月13日、14日に、韓国ソウルで開催します。日本やアメリカ、ヨーロッパ、韓国などから18チームが参加するグローバルな大会です。オンラインではなく、1つのロケーションに集める理由ですが、このゲームのロケーションは、地域によって5つのロケーションに分かれているからです。今度開催するイベントは、私たちが初めてeスポーツという形で主催するイベントとなります。

iOS版のリリース後、プレイヤーが自分たちで草の根の大会やトーナメントを立ち上げてくれるのではないかと期待していましたが、想定以上に早い段階で立ち上げてくれました。ファン主催のトーナメントは、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、韓国、日本、台湾で継続的に行われています。その中でスキルセットの高いベストプレイヤーを一つのロケーションに集めてトーナメントを開催したいと考えました。


―――:モバイルのeスポーツは世界でも非常に少ないと考えています。今回の大会でどういったことを期待していますか?

世界大会に関しては、私自身もワクワクしています。コミュニティのみなさんが自分でリーグを立ち上げて対戦をしているわけですが、私たちがプロフェッショナルリーグとしてプラットフォームを提供するという初のイベントとなるからです。

eスポーツという草の根レベルの活動をしてきたプレイヤーにこのような形でプロのイベントになる機会を提供することは、私たちにとっても初の施策になります。今回のイベントから多くのことを学び、将来的に色々と活かせることではないかと思います。また私自身もゲーマーですので、ベストプレイヤーによる戦いが観戦できることが楽しみです。

当社がどのようにeスポーツを考えていて、アプローチしているのかをお話しますと、eスポーツのタイトルがいくつかでていますが、私自身、いまのeスポーツのエコシステムは壊れた状態である、と考えています。つまり、持続維持可能ではない、ということです。ゲーム会社がプロリーグを開催あるいはサポートしなければ、大会が成り立ちません。

サッカーを例に取りますと、子供の頃、サッカーは庭などで遊び、そして、学校でプレイしたり、地域のクラブに入ったりして、つまり、非営利活動として活動します。そして、上手なプレイヤーは、プロリーグや全国レベルに進み、ワールドカップやオリンピックに出場します。スポーツは、草の根レベルの競技があってこそ、と考えています。

 

これに対して、いまのeスポーツは、プロプレイヤーのリーグしかありません。草の根レベルの活動がごっそりと抜けているわけで、持続可能ではないと考えています。プレイヤーが自分たちでプロレベルの試合をやりたい、みてみたいという形でeスポーツは開催されるべきだと思いますので、今回開催するイベントはこうした趣旨に基づくものとなっています。

そういう観点からいうと、eスポーツは、コンソールゲームやデスクトップPCよりもモバイルゲームにより向いていると思います。サッカーや野球するとなったら、ボールや道具を持っていけばすぐに遊べます。コンソールゲームを友だちと遊ぼうとしても、ハードウェアを裏庭に持って行って遊ぶのは難しいですね。モバイルゲームは端末を持ち寄ればすぐに一緒に遊べます。プレイヤーがコミュニティを形成するのはモバイルで出ているタイトルの方が向いています。
 
―――:モバイルのeスポーツは世界でも非常に少ないと考えています。実際に大会を実施していく上での課題としてどういったものがありますか?

一番難しいと感じたのは、世界中のベストなスキルセットを持ったプレイヤーを選別して、実際に韓国に来ていただくことでしょうか。イベントのオーガナイズ自体は難儀なことではありませんでした。何もないところから作るのではなく、すでにプレイヤーが自主的にトーナメントを開催するという下地があったからです。過去1年間にわたって、私たち自身もオンラインのゲームコミュニティの育成にも力を注いできました。

―――:草の根の大会ですが、把握されている限りで結構ですが、どのくらいあるのでしょうか?

多すぎて数えられません(笑) 動画に関しては、『Vainglory』の動画を配信するチャンネルが「Twitch」には450ありますから、少なくとも450の動画が配信されています。また、アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア、韓国などで『Vainglory』のセミプロのチームが立ち上がっており、日本でもリーグを立ち上げようという動きも出ています。そして、こういった人たちの対戦を「Twitch」で動画配信し、スキルの高いプレイヤーがいたら世界大会に参加していただこうと考えています。


 
■重視するKPIは課金額でもDAUでもなく動画の共有・視聴件数

―――:正式ローンチとのことですが、日本でのプロモーションは考えていますか?

もちろんです。日本でのプロモーション活動は色々と考えていますが、他のモバイルゲームの会社とは違ったやり方を考えています。通常は、テレビCMやWEB広告を打つことになるのでしょうですが、当社はコミュニティへの働きかけに特に力を入れたいと思っています。

例えば、プレイヤーがゲーム動画を配信するお手伝いをしたり、Android版がリリースされる日に「Twitch」チャンネルで24時間、動画配信を行ったりする予定です。「Twitch」で配信する動画は様々な国で配信します。もちろん日本向けも行います。また、GoogleとAppleとも連携をとっておりますので、フィーチャしてもらえると期待しています。

また、日本では、東京中を『Vainglory』の広告でジャックするのではなく、東京にいるパートナーと協業したいと考えています。例えば、動画配信を行うパートナーさんに協力していただき、日本のプレイヤーがもっとうまく動画配信が行えるように改善するお手伝いがしたいです。

われわれとeスポーツに関するビジョンを共有できる方がいれば、ビジネスストラクチャーをいっしょに構築していきたいです。当社としては長期間、持続可能なビジネスモデルを作りたいと思っています。それには、ひとつひとつの活動を地道に続けていくことが重要で、一夜にしてできることではないと考えています。

 
 
―――:御社は運営にあたって、どういったKPIを重視しているのでしょうか?

ゲームのKPIとして、売上や利益、DAUといった指標ではなく、何人のプレイヤーが「Twitch」で動画共有をしていて、何人がそのアップロードされた動画を視聴しているかを重視しています。動画を配信したり、視聴したりする人がかなり増えてきました。日本ではニコニコ動画で、韓国ではAfreecaTVで動画が配信されています。オンラインコミュニティを育成してきたわけですが、『Vainglory』は遊ぶのが楽しいだけでなく、観るのも楽しいゲームとなっています。

―――:これから始めるプレイヤーは将来的に世界大会に出ることは可能なのでしょうか?

もちろんです。『Vainglory Cup』に日本のプレイヤーが参加してくれることを楽しみにしております。また、eスポーツは、日本人にとっては新しい概念だと思います。新しいということは、それだけ可能性を秘めているということですから、日本の方々に『Vainglory』がeスポーツの代表的なタイトルと認知されるようになればいいですね。

―――:日本でどういったポイントをアピールしていきたいですか? またこれから始める人はどういったことに気をつければ上達するでしょうか?

ベストな方法は、友だちと集まって一緒に楽しむことではないでしょうか。皆で一緒に遊ぶほうが長く楽しめます。ゲームの中には「ヒーロー」がいますが、仲間同士で一致団結することで初めて力を発揮することができます。それこそが日本のプレイヤーにアピールしたいポイントであり、日本文化に刺さるものだと思います。

また、『Vainglory』のユニークなポイントのひとつですが、アイテムの集め方によってその後の戦略がかなり変わってきます。日本のプレイヤーの方がどういう形でアイテムを集めて戦略に生かしていくのか、とても楽しみですね。日本のプレイヤーはとてもクリエイティブに遊ぶことはよく知られていますから特に注目しています。


―――:ありがとうございました。
 
(編集部 木村英彦)
 
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