【GGG#3】スクエニ窪洋一氏が明かす『ミリオンアーサー』で解消したゲーム開発にまつわる様々な"乖離" 


ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>は、7月10日、東京・渋谷にある「渋谷ヒカリエ」でクリエイター向けセミナー「Game Graphics Groove #3」を開催した。今回、スクウェア・エニックス、グリー、ポケラボのゲームグラフィック担当者が登壇した。

スマートフォンゲームアプリ開発では、Unity、Unreal Engine、Cocos2d-xなどのツールが活発に利用されているが、こうしたなか、スマートフォンゲームの画質も大幅に上がってきている。今回のセミナーでは、クリエイティブ面でのゲームの進化をさらに加速させるため、現役のクリエイターが最新ヒットタイトルの開発ノウハウを共有するという。


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今回の記事では、スクウェア・エニックスのデザイナーの窪 洋一氏による「乖離から始まった本質への回帰」と題するセッションの模様をお届けする。ゲーム開発の仕事に携わって25年になる窪氏だが、これまでのゲーム開発において感じていた様々な"乖離(=ギャップ)"が埋まってきているという。ゲーム開発で感じていた乖離を振り返りつつ、なぜなくなりつつあるのかを語った。
 

窪氏は、これまで関わったタイトルは20本(うちお蔵入り3本)で、メガドライブからプレイステーション1~3、スマートフォンなどのゲーム開発に携わった。代表作は、『サンダーフォースIV』『フロントミッション2、3』『ファイナルファンタジーX、XII、XIII』『拡散性ミリオンアーサー』『乖離性ミリオンアーサー』がある。ドッターとしてキャリアをスタートし、3Dグラフィックや仕様策定、マネジメントなどを行っているとのこと。

窪氏がギャップと感じたのは、まず、ゲーム業界に入った時だった。「誰しも経験があることだろうと思うが」と前置きしつつ、遊ぶ側から作る側に立場が変わり、遊ぶ時間が取りづらくなったことや、楽しむのではなく開発者として観察することがメインになったこと、想像していたよりも地味な仕事の積み重ねと感じたことをあげた。
 

作り手となって、関わったゲームがリリースされたが、本当に自分の作ったゲームがユーザーに楽しんでもらえているのか、自分の仕事は自己満足ではないか、という疑問も感じたという。そして、アーケードゲームの開発に関わっていた時、2年かけて開発したゲームがロケテストで惨憺たる成績となり、お蔵入りになったこともあった。アマチュア感覚で作っていたことを痛感し、プロとしての心構えができたきっかけになったそうだ。
 


時は流れ、ゲームの主流は、2Dから3Dとなり、自身も1996年からスクウェアに移籍した。プレイステーションやプレイステーション2のころは、ハードウェアの性能の上限がわかりやすく、ゲーム開発を行う側もそれを意識してチャレンジしたゲーム開発に取り組める時代だったとのこと。
 

プレイステーション3などさらなるハイエンド機が出てくると、開発に関わる労力が飛躍的に増加し、背景制作に関しては3~5倍かかるようになった。ハイエンドムービーをリアルタイムでどこまで動かせるのか、手探りしながら開発を進めていった。それにしたがって、開発規模や開発期間も大きくなり、リソースの配分やコンセンサスをとるのも難しくなり、ゲーム開発がより複雑になり、「毎日何らかの拷問を受けていました」という。
 

その後、組織をまとめるような管理の仕事をするようになり、5年ほど制作実務からは離れていた。2009年末にハイエンド機の開発から離れることになった。
 

そうしたなか、2010年にフィーチャフォンでソーシャルゲームが大流行し、2011年からスマートフォンが普及し始め、ブラウザゲームからネイティブアプリへのシフトがあった。フィーチャーフォン向けのゲーム開発に関して抵抗があったものの、なぜここまで爆発的に広がっているのか興味を持っていたとのこと。実際に遊んでみて、「ながらゲームだと感じた」という。無料で遊べて達成感があるとも。
 

2011年にリリースされた『拡散性ミリオンアーサー』に携わった。安藤武博氏と岩野弘明氏によるプロデュース、鎌池和馬氏のシナリオ、ヒャダイン氏の楽曲、50名以上のイラストレーターによるカードゲームをネイティブアプリとして出すことに「すごいこと」と感じていた。窪氏は、主に背景の制作を行い、4年間で936枚も制作したという。
 


リリース時に、ダウンロードやセールスランキング、Twitter、そしてKPIなどが観察でき、その圧倒的なライブ感から配信から2ヶ月間ほどは気になって仕事が手につかなったとのこと。同時に、それまで感じていたギャップが解消されてきたことに気づいたという。ゲームをしっかりと遊ぶことができているだけでなく、遊んでいる人の反応をみながらゲームを作れること、5年間のブランクがあっても前線に復帰できたことなどをあげた。







その後、『拡散性ミリオンアーサー』は、運営上で打った施策がユーザーと激しく乖離したことや、様々な事情が重なり、サービスが終了した。しかし、それらの失敗や経験したことは、すべて『乖離性ミリオンアーサー』に生かされたという。ゲーム性やビジュアル、演出など、すべての面で前作から進化させることができ、ユーザーとの大きな乖離も飛び越えることができたのではないか、とまとめた。
 
 
(編集部 木村英彦)
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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