【上期総括】『三國志レギオン』のゲームシステムは斬新でユニークなものに…コーエーテクモゲームス常務執行役員の藤重和博氏に訊く2015年下期の展望


スマートフォンアプリ業界に身を置く方々に話を伺い、2015年上期の市場動向と下期のトレンドを読み解く特別企画「ゲームアプリ市場のキーマンに訊く2015年上期振り返り」。

コーエーテクモホールディングス<3635>の2015年3月期の第3四半期累計は、経営統合以来最高の利益を更新。同社の特徴は、海外で『戦国無双4』を発売し好評を博したほか、任天堂と共同で企画・開発し9月に発売した『ゼルダ無双』もワールドワイドで出荷が100万本を突破するなど、家庭用ゲームもきちんと利益を伸ばしつつ、さらにオンライン・モバイル事業においても、『100万人の信長の野望』などの「100万人」シリーズや、オンラインゲーム『信長の野望 Online ~覚醒の章~』なども堅調、マルチプラットフォーム展開を積極的に推進していることだ。家庭用ハードウェア向けゲームに軸足を置いていた他社が収益縮小を見てオンライン・モバイル事業に急速に力を入れていることがうかがえる中、他社には見られない独自の戦略が奏功した結果ではないだろうか。
 
今回、コーエーテクモゲームス、常務執行役員 ネットワーク事業部長の藤重和博氏にインタビューを行い、同社のオンライン・モバイル事業の取り組み、2015年後半へのビジョンを語っていただいた。

 

■『ぐるニャが』『信長の野望 201X』ともにスタートは上々…これからの可能性は大


コーエーテクモゲームス
常務執行役員
ネットワーク事業部長
藤重和博氏


――:まず藤重さんご自身のご紹介をお願いします。基本的にはモバイル領域のご担当ということでよろしいですか。

大きなくくりでいいますと「コーエーテクモゲームス」という会社の中には事業部が3つあります。家庭用ゲーム機向けのパッケージタイトルやアプリを作るソフトウェア事業部、私が担当しているネットワーク事業部、主に女性向けコンテンツを扱うメディア事業部。私たちのネットワーク事業部は、オンラインゲームのパッケージを出すこともありますが、基本はインターネットにつながるコンテンツやサービスを提供しています。


――:上半期、ネットワークに関わる事業はいかがでしたか。
 
ここ2年くらい色々なチャレンジをしてきているのですが、今年1月からでいいますと、新作スマートフォンアプリとして『ぐるぐるダンジョンのぶニャが』を4月に、『信長の野望 201X』を5月にそれぞれ配信しています。大ヒットが望ましいですが、スタートとしては両タイトルとも上々です。特に『信長の野望 201X』は継続率もよく、まだプロモーションを大きく打っていない状況を考えると、これからだいぶ可能性があると思います。
 

▲戦国武将+かわいらしさの融合『ぐるぐるダンジョン のぶニャが』


――:コーエーテクモゲームスさんの決算資料を拝見させていただいて、目を引いたのは、“コンシューマの売り上げ比率”の高さが特徴的でした。モバイルにシフトして長い他社は、売り上げ比率が逆転して、その幅も大きくなっているのに、御社はどちらも売り上げが出ているのが特徴かなと思います。(参考記事)

今おっしゃっていただいたように、同業他社さんと比べてもパッケージゲームは事業規模としてしっかりとしたものがあります。市場のシュリンクに合わせて下がってきている会社さんが多い中、当社は逆にキープ、むしろ伸ばしています。その大きな原動力は、自社で持っているIPを展開していることもありますし、他社さんとのコラボレーションが上手く成功していることも大きいです。

前期でいえばスクウェア・エニックスさんとの『ドラゴンクエスト ヒーローズ 闇竜と世界樹の城』、バンダイナムコエンターテインメントさんとの『ワンピース 海賊無双3』といったコラボレーションタイトルがしっかりとした数字を作り、お客様にもご支持いただけています。それを続けてきていることで、業界でユニークな存在にもなっているのかなと思います。どのような会社さんと組んでも成果を出し、お客様に受け入れていただける。そういうところがパッケージ事業が伸びている要因と思っています。
 
ネットワークは、正直そこまでまだ成果を出しきれていないのが実情です。モバイル事業へのシフトの要因は各社さんそれぞれあると思いますが、当社はどちらも伸びていたので、大きくシフトすることなくウェイトを変えるといった中でやってきたのが現状です。

 

▲【コーエーテクモゲームスのパッケージとオンラインコンテンツの比較(単位:億円)】

 
――:モバイル事業について、もう少し詳しくお話をうかがいたいと思います。御社は既存IPのマルチタイトルを展開しているイメージがありますが、一方で『のぶニャが』や『信長の野望 201X』のように、モバイルタイトルを独自に立ち上げる動きも見えてきました。このあたりは“徐々に”という感じなのでしょうか。それとも今後は矢継ぎ早に出していくのでしょうか。

まず一気にシフトといっても“度合い”はあると思います。私たちは企業として事業をしっかり続けていくことが重要です。それを一気にシフトしてしまうことですべてが台無しになってしまうのは、間違った方向性ですよね。まずは事業を成長させつつ、その中でチャレンジしていくことが大事だと考えています。それをここ2~3年やってきて、コストコントロールも含めて実になってきています。出ている利益の中で、どこまでを次のコンテンツに割くか。ある程度コントロールしながら、毎年チャレンジできる本数を増やしていこう、という意味合いでやっています。
 
「ロスが出てもやるか」というところまでではないと思っていますが、利益=体力を増やし、その幅の中でチャレンジできる本数を増やしていく。現状は次のさらに大きなステップに向けて力を蓄えている状態だと思います。まだ私たちは、他社さんに比べて成長の余地がたくさんあると思っていますし、そこに対してしっかりチャレンジしていかないといけない。そのための色々な準備という意味合いもあり、コストも含め色々コントロールした上で“チャレンジできる数を増やそう”というのが現状です。



――:モバイルタイトルもネイティブアプリにシフトしてから、予算も人員も相当かかるようになってきたと言われているのが業界の認識だと思います。御社のモバイル・ネットワーク事業の体制は、今のところいかがでしょう。
 
コーエーテクモゲームスの中に、開発部署は12部署あります。パッケージゲーム関連で7部署、私の管轄する開発部署・ネットワーク事業部内には4部署あり、そのうちひとつがオンラインゲームを作り、それ以外はソーシャルやアプリにチャレンジしています。


――:プロジェクトの成り立ちは、タイトルに対してプロジェクトを当てるといった考え方なのでしょうか。

当社の場合、ひとつのIPに対してひとつのスタジオや部署が当たるのではなく、複数の部署、チームで作ることもあります。ただ、全社的にオーダーする“IPプロデューサー”が1つのIPをある程度コントロールしながら、各ラインがそれぞれタイトルを作っていく形です。IPプロデューサーは管理・監修する立場で、実際の運用はその下の各チームのプロデューサーがやっていく。それも踏まえて、会社で「このラインを立ち上げて、このプラットフォームもしくはコンテンツを作っていこう」と戦略を決めてGO! という形です。


 

■内製比率の高さ=技術の蓄積が重要…海外のスタジオや子会社の有効活用も

 
――:内製比率はいかがですか。

当社の場合はほぼ内製でやっています。


――:他社さんとコラボされるところは、外注さんをうまく使いながら内製比率などをコントロールされたりしますが、内製にこだわっている理由はあるのでしょうか。

“技術の蓄積”がこだわりのひとつですね。どんな業界でも同じだと思うのですが、“知識”は組織よりも人についていくものです。もちろんできるだけ「人が変わっても組織に吸収していこう」としていますが、ゲーム開発をして、そこで色々学んだ知識、苦労して得たものは、現実としてはやはりその人につきます。外部の会社さんとご一緒する場合は、そのメリットと自社内の知識の蓄積を天秤にかけ、もし同じ状態だったら、自社でリスクをとってでも経験を残そうという意識が有るのだと思います。


――:昨今はいちタイトルと付き合う時間が長くなり、それは運営コストにも影響していきます。運営していかないと収益は出てこないし、とはいえタイトルを増やしていくとその分コストがかかっていきますし。コスト面ではご苦労が多いかと思いますが、上手く回していく工夫やポイントなどはありますか。

当社の場合、一番大きいのが、海外の子会社、スタジオを有効活用していることだと思います。それまではパッケージも含めネットワークコンテンツのサポートやフォローをしていたのですが、3~4年前に組織的にもネットワーク事業部の管轄内になりました。そういった意味では海外子会社は100%ネットワークにシフトしていて、業務はネットワークコンテンツを多く担当しています。
 
サービスをしていく中で「コストを抑える」ことを重視しすぎて、運用に関わる人を減らすとやはりクオリティはどうしても下がってしまいます。人を減らさずに少しでも人件費を抑えたいと思った時は、海外のスタジオを利用してクオリティを保つ。それを2~3年やってきています。特にこの2年間は海外へキレイにシフトしているので、日本のラインが空いてきたんです。その空いた日本のラインで新しいチャレンジをしていくことができるようになりました。
 
ただ、それにともない、頻繁に出張したり、現場スタッフを何回も海外スタジオに行かせたりといったコミュニケーションが活発になっています。毎月必ず誰かがどこか海外に行き、逆に向こうから来てもらうことを続けながら“現地のスキルアップ”に努めています。こちら側のカルチャーをうまく理解してもらいつつ、逆に運用していくスタッフのマインド、カルチャーを私たちも理解しないと、一緒にプロジェクトを進めていけないですからね。そういう意味でも交流を深めています。



 

■海外スタジオにも日本のカルチャーはちゃんと説明すれば理解してもらえる

 
――:御社の海外でのスタジオ展開は早期から取り組まれていたイメージがありますが、海外スタジオを作ってわかったこととか、実際やってみたら「こういうところが違った」とか、地域的な違いなどのエピソードはありますか。
 

当社はコーエーとテクモで経営統合がありました。お互い30年、40年とゲーム開発を続けてきた会社同士が一緒になった訳です。日本のゲーム企業のカルチャーもそれぞれ違うことを経験していますので、海外のマインドとの違いもそう苦にはなりません。私どもは中国の天津とシンガポールに子会社がありますが、それぞれ日本とはカルチャーが違います。「じゃ、現地じゃないとわからないこともあるだろうから、海外は海外の子会社に全部任せる」という方法もひとつの答えだと思うんですが、私がここ3~4年見るようになって、実は日本人のカルチャーや企業文化は「十分彼らに理解してもらえる」という発見がありました。

こちらから考えを押し付けてしまうと、それは理解を生まないのですが、ちゃんと説明すれば「こういう考え方でしているんだ」ということを彼らは十分理解してくれる。そのうえで「一緒にやろう」となってくれているのが、大きな発見かなと。正直、「国のカルチャーや企業文化が違うから、本質的に理解してもらえないんじゃないか?」という心配もありましたが、お互いにとって「いろんな意味でちゃんと会話できるんだな」という発見があったのではないかと思います。



――:海外で人集めの段階からスタジオを機能させるまで、相当色々なことをやらなければならなかったと思います。そこまでして作り上げた“強み”とはどのあたりにあるのでしょう。

やはり、品質のクオリティは一定以上日本側からコントロールできるので、社外の海外企業さんとご一緒するより担保できると感じます。自分たちで会社を持って事業をしていこうと思うと、人を育てたり、採用したり、色々なオーバーヘッドがかかるんです。先ほどの話と重複しますが、私たちは同じコストをかけてでも自社で開発を行うことで、最終的には人が育ち、その人の力が組織の力になるという考え方をしています。そのメリット以上に、社外の方にお願いするメリットがあれば、当然選択肢はゼロではないのですが、今はまだそこまでのメリットを見出せていないということです。


――:今モバイルでがんばっているメーカーさんは、韓国や中国といったオンラインゲームが流行っている、スタジオが多い地域に進出されているイメージがありますが、御社の海外進出先は特徴的です。逆に中国は規制などハードルが高いイメージがあるんですが“なぜそこ”なのでしょう。
 
中国については、天津(天津光栄特庫摩軟件有限公司)と、北京(北京光栄特庫摩軟件有限公司)にもCGスタジオがあります。従業員は、あわせると200~300人。ここ数年で進出された会社さんと異なり、私たちは20年以上前から、中国でのスタジオ運営を取り組んでいます。シンガポール(KOEI TECMO SINGAPORE Pte.Ltd.)のスタジオでも、丸10年になります。
 
20年前を考えたとき、中国は「マーケットが大きくなるだろう」、「人口が多く優秀な人がたくさん集められる可能性がある」という状態でした。当時まだコストもだいぶ抑えられましたから、優秀な人をコストを抑えつつ採用できたのです。シンガポールは土地的なメリットが大きいですね。土地自体は狭く、山手線内くらいしかありませんが、インドやアジア圏は当然、欧州から見ても地理的にいい位置にあります。なにより、そこで暮らす人たちは英語が公用語で、さらに2/3くらいの人は中国語もできる。ワールドワイドに展開していこうというときに、「三國志」など私たちのIPが強い中国がカバーできますし、英語圏はもちろん日本のフォローもできる。シンガポールは立地的な価値が凄くあって、しかも優秀な人がたくさんいるのが魅力です。
 
このようにメリットがそれぞれあって、中国はマーケットの大きさと人材の豊富さ、シンガポールは立地的なメリット。その大きなメリットに早く着目し、企業を作っていくようにしています。逆に、私たちは一回作ったら、そこを簡単に引くということはあまり考えていません。しっかりと育てていこうと考えます。企業として、会社をしっかり育てて、そこに根付く企業体にしていこう、という意気込みです。



――:進出したはいいものの、とはいえ「売り上げが立たない」となったとき、手を引くのが早い会社もあります。そうしなかったことで「得られたもの」、「続けてきて良かったもの」はありますか。

海外を続けてきてよかったのは、同じことを全部国内でやり続けていたら、私たちの成長の幅は、もしかしたら日本だけで止まっていたかもしれないですよね。人的交流もないですし、マーケットとしての交流も少なくなる。
 
海外子会社をしっかり運営していくことで、その土地やマーケットについて私たちは深く学ぶことができます。続けることでより大きなメリットを得てきたのかなと思っています。ただ、作ってうまくいかなかったら畳むことを否定はしていません。それは経営判断として当然ありえることです。


 

■独自エンジンを育ててきたからこそのメリット

  
――:御社はゲームエンジンを昔からしっかり作って育てていらっしゃるイメージがありますが、コストコントロールなどを含めて、工夫をされているんでしょうか。


ノウハウの共有を重視していますので、そのための組織体を、会社としてしっかり作っていっていることが大きいと思います。エンジンの話で申し上げますと、当社には技術支援部という研究開発専門の部署があります。そこで基礎研究、ライブラリ、ゲームのフレームワーク、エンジンの開発を行っているんです。フレームワークはゲーム性にあまり関係がない部分ですので、プロジェクトチームごとに別々に持つより、共有できた方が当然メリットになりますし、開発チームも恩恵を得られます。そういう部署を、組織として持っている事自体が強みと言えます。
 
研究開発部門は20~25年前からありまして、実は私も入社して4年間はそういう組織に所属していたんです。ライブラリや色々なエンジンを作り、そういったノウハウを25年蓄積し続けています。さらに「新しいコンソール機が出ました」という情報があれば、その部署がいち早く対応してライブラリ化していきます。上に乗るプログラムなどのリソースは当然それにあわせてチューニングしますが、1からいじらずに済むのです。
 
たとえば「PS Vita版を作りましょう」となれば、ライブラリがいち早く対応しているので、モデルを少しリダクションするコンバーターを作ったりして、できる限りエンジニアやプランナーの手がかからないような体制がとられます。さらにそういうリダクション作業も海外スタジオを使うことでコストを抑えることが可能です。ノウハウを共有する部署を作ることでコストをコントロールしていくことに加え、先ほどお伝えしたように運用時に海外子会社を使うことでもコストを抑えていく、というようなことをしています。



――:モバイルアプリにおいてもエンジン等は独自に開発されているんでしょうか。

アプリに関しても同様にフレームワーク……たとえばiOS/Androidに対応していっています。他社さんのケースでいうと、色々なプラットフォームに展開したいとなった時、1から自社開発をするのは凄く大掛かりになりますので、Unityなどが当然選択肢になってくると思いますが、私たちは元々そういったものを自前で持っているので、同様に展開するとき「iOS/Androidに対応させれば、そのあと全社で利用できるよね」と、どちらかというと自社のフレームワークを選択しています。
 
当社は何十年というゲーム開発で蓄積されたリソースがありますので、それを瞬時に持ってくることができます。アプリも、昔の1~2億で作れた頃は過ぎ、プロモーション費も含めると4~5億はかかるのがスタンダードになっている中、そのコストをできる限り抑えていくことが重要です。そしてそれは、チャレンジの回数を増やすことにもなってくるのです。



――:Androidは機種が多く、検証などにかかるコストも凄まじいと思います。御社のフレームワークはそのあたりにも上手く対応されていますか。

端末はたくさん出ますよね。我々は、基本それを全部揃えるんです。お客様が触れるものなので「触っていないものを配信するのはダメだよね」という共通認識が有ります。そこでチェックした際、「この端末とOSだと動かないポイントがある」というケースが出たならば、担当部署に連絡してすぐ調整し、チェックバックを受けて反映するようにしています。


――:内製だからこそ、そういうふうにできる。

そうですね、内製だからこそできます。他社さんのエンジン、例えばUnityを使った作品も数タイトルあるのですが、機種依存のエラーなどに対しての反応は、やはり社内でやったほうが早いです。自社でエンジンまで作るメリットは、開発コストを抑えられるだけでなく、機敏に対応できて、自分たちでコントロールしやすいこともあると思います。


――:対応の早さも、最終的にはコストなりに跳ね返る部分があると思います。

跳ね返ってきますね。リレーションも回数を重ねればコストがかかります。見えないですが、結構膨らんでくる部分なのです。あと各種の連絡についても、やはり人なので、同じ会社の人に伝えることと、他社さんに伝える場合ではどうしてもスピード感も労力も変わってきます。やはり自社内で完結するほうが、チェックバックの回数が減るので、結果としてコストが抑えられますね。
 
あとは“過度な機能を入れる必要がない”という点でも大きいと思います。外部ライブラリはたくさんの方が使われるので、そのニーズにあったものを提供しなければならない。私たちの場合は「今使いたいコンテンツにこういう機能が欲しい。こういう機能だけあればいい」というスタンスですので、早くできるのかなと思います。



――:必要なものだけ、ちゃんと入っている。

要らないものが入っていると、色々な意味で負荷になってきます。なので、「なくてもいいよね」となりますね。


――:運営では色々なことがあります。たとえば先日のアップルの値上げなど、色々なことが日々起こると思いますが、感触としていかがでしょう。

ネットワークタイトルを早くから手がけている分、様々な外部的要因に対応できるカルチャーができあがっていると思います。私も携わって丸十年くらいですが、ネットワークタイトルを手がけた最初のうちは「これ一生続くの!?」と、運営の大変さに戸惑いました(笑)。「パッケージ出して終わりじゃない」、「サービス開始しても休めない」。これは私だけではなく皆が同じように思っていたのですが、それも10年も続けると、大半の人はそれに“耐性”ができていて、マインドも変わっていますね。それが苦にならないような運用組織になっていますし、業務内容や担当割も整理できています。
 
それでも夜中に電話がかかってきて対応しなきゃいけないケースなどは当然あるのですが、それも連絡体制、システムを用意していますので、緊急時でも混乱せず対応できるような工夫はしています。それは他社さんも含め同じではないでしょうか。各スタッフがサービスとコンテンツを充実させ、お客様の満足度を上げていくところにできる限り集中していく組織づくりを意識しています。



――:バッファがある、というようなニュアンスですか。

開発者がゆとりをなくすと、運用・サービスの品質がどうしても下がってしまいますので、バッファを作る努力をしています。それはモチベーションのコントロールも含めて、ですね。ゆとりを持った上で「自分たちがお客様を直接見て、満足度の高いものを作っていくんだぞ!」とモチベーション高く仕事に向かえるような、目前の仕事だけに一杯一杯にならないような工夫を組織的にもしています。


――:10年間ネットワークに携わられて、開発者の変化などは感じられますか。マインド的な変化とか……。

先ほど申し上げたように、開発者のマインドが長年従事することで変わってきている面はあります。あともうひとつ、10年前でいうとネットワークコンテンツ、大型MMOなどはプレイ人数から見ると“ニッチな市場”だったと思うんですね。

それに対し今はスマホアプリやブラウザゲームをプレイするお客様の絶対数は大幅に増えていますし、新しくネットワークゲームを始められる方はネットワークコンテンツに対して苦手意識がありません。10年前は「ネットワークコンテンツは怖いので遊びたくないです」という方もいらっしゃったのですが、今はそういうことはないんですよね。この10年間で、プレイヤー側のマインドも変わってきていると感じます。


――:直近の2タイトルに関して、今の感触と今後の展開に関して何かお話していただけることがあればお願いします。
 
『ぐるぐるダンジョン のぶニャが』は、武将が猫になっている戦国時代が舞台ながら、内容は真面目に楽しめるゲームということもあり、お客様の層は今までの『信長の野望』タイトルより幅広いですね。キャラクターもかわいいので、女性の比率も高いです。さらにGPSと連動する機能もあって、色々な地域イベントやお祭りと協賛・コラボしながら盛り上げていっています。このようなアプローチは継続的に行い、しっかり運用してさらに伸ばしていきたいと思っています。『信長の野望 201X』は面白い設定で……。
 
 
▲現代兵装+戦国武将というビジュアルからつかみはOKの『信長の野望 201X』

――:いやもう、凄く興味深いです。「よくこれが企画として通ったな!」と思いました(笑)。
 
そう仰っていただけてありがたいですね(笑)。最初のビジュアルコンセプトなどで、皆が「これいけるんじゃない?」と盛り上がったのが印象的でした。こちらはゲーム内の仕様として、色々な企業様とのキャンペーンやタイアップができるような設定を盛り込んでいますので、それぞれ伸ばしていきたいですね。この2タイトルのほかにも、まだお話しできないタイトルもたくさんあるのですが、投入タイトルはだいぶ先まで決まっています。それぞれ丁寧な運用で、しっかりとヒットさせていきたいと思っています。


――:マーケティングはいかがでしょう。TVCM、予算配分、タイミングなど、色々な使い方がでてきて……御社的なポリシーや狙いどころなどはありますか。

パッケージやスマホを問わず、お客様にしっかり広く届けていくことを主眼に置いています。そういう中で、パッケージは「かけた費用に対し、どれくらい入ったか」が分析しづらかったのですが、今スマホは流入経路も測れたり分析できるようになっています。より計算できるようになったから、みなさん計算できるときはドカン! と予算をかけているのだと思うんです。私たちも分析はしていますので、そのノウハウが溜まり、計算ができるようになれば当然それに添って時には大きな予算もかけていくでしょう。
 
まだまだ勉強中で、クオリティアップしていかなくてはいけない、分析の精度もあげていかなくてはいけないところもあるのですが、まずはその大元になる“コンテンツ”を世にしっかり出すことが最優先だと考えています。まだまだ私たちには成長の余地があって、やらくてはいけないことがある。まずはしっかりとコンテンツを作って、お客様に伝えていく中で、広告やタイアップなども行っていくことになると思っています。


 

■長打やホームランを打ち続けられるまで、しっかりとコンテンツを作っていく


――:最後に、下半期のテーマなどがあればお願いします。

開発中のタイトルも何本かありますし、タイトルは成功するまで年間に必ず数本は出し続ける予定です。野球にたとえると、今まではヒットくらいのものはあったとしても、長打や満塁ホームランを私たちはまだ打てていない。長打やホームランを打ち続けられるまで、しっかりとコンテンツを作っていく。その中でコストコントロールもしっかり行い、運営、プロモーションのノウハウを溜め、打率を高めていく。下期もその過程で打席に立ち続けようと思っています。


――:業界、御社的に、2015年、特に後半はどんな年になりそうですか。

業界的には、スマホアプリはだいぶ広がってきて成熟し、さらに大きな成長を遂げていく時期だと考えています。正直、今の国内市場はだいぶ“レッドオーシャン”だと思うんですよね。当たれば大きなセールスが見込めるからこそ、皆さんそこに集まっていますので競争も激しい。新しい会社さんが新作をポンと出してヒットさせるのは、そんなに簡単じゃない状況になっていると思っています。
 
私たちはそういう中で体力を持ち、チャレンジし続け、2015年は大きな成功を収めたいと思います。スマホアプリ市場では、日本のマーケットが非常に大きくていいセールスをあげやすいと思うのですが、中国もすごい勢いで成長していて、一番大きなマーケットになるのもすぐの話です。海外市場もしっかり睨んで、今後色々な展開に取り組んでいきたいと思います。



――:北米や欧州に対しての構想などは。

北米も一気に……と申し上げたいところなのですが、今の段階でいうと北米は日本やアジアで成功した次かな、と思っています。まだ私たちには一気に戦線を広げてドカン! と手を拡げられるほど大きな成功例がないので、まずは日本とアジアです。その後はそれ以外の海外市場と一歩一歩階段を登っていくという捉え方をしています。


――:最後に、配信予定が発表されている『三國志レギオン』についてお話いただけることはありますか。

今夏のサービスインに向けて準備中です。だいぶユニークなコンテンツになると思います。もう少ししたらみなさんにお見せできると思うので、ぜひ色々な形でご紹介したいと思います。
 
 

――:「三国志」タイトルはたくさんありますが、御社としてのウリはどのあたりにあるとお考えですか。

当社の「三國志」シリーズというと、イメージされるビジュアルが有るかと思いますが、『三國志レギオン』はあえて今までの作品とは変えてアレンジしています。そこが最初の魅力になるのではないかと思います。もうひとつはゲームシステム。今「三国志」とつくタイトルが市場に多数ありますが、その中で見てもユニークなゲームシステムになります。今までにない「三国志」タイトルとしてお客様に触れていただけるのではないかなと思いますのでご期待ください。


――:「三国志」が元々好きな方や、まったく知らない人など、モバイルコンテンツは特に若年層も多いと思いますが、どちらにどうアプローチしていかれるんでしょう。
 
ビジュアルという点でいうと、若年層、「三国志」にちょっと興味を持ち始めた方にも、受け入れていただけるようなテイストを狙っています。今回の「諸葛亮」が凄くカッコイイんですよ! 今日イラストを持ってくれば良かったんですけど(笑)。 あと、女性が可愛いとか。

私たちが「三國志」シリーズを30年間と作り続けた中で培ってきたイメージを保ちつつ「こういう解釈とか見せ方もアリだよね」というアプローチをしています。様々なところで「三国志」に触れ、我々のゲームに新しく入ってきてくださる方々にも受け入れていただける素地を準備しているつもりです。また「三國志」シリーズをずっと遊んできてくださった方々が見てもキャラクター設定や台詞、演出などの“エキス”をちゃんと残しているので、違った楽しみ方「こういうアレンジしたのね」と思ってもらえるような工夫をしていますし、あとは何よりゲームシステムが斬新でユニークなものにできると思っていますので、そこを楽しんでいただけると思っています。



――:本日はお忙しいところをありがとうございました。
 
(聞き手:編集部 佐伯憲司、テキスト/Photo:豊臣孝和)


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株式会社コーエーテクモゲームス
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会社情報

会社名
株式会社コーエーテクモゲームス
設立
1978年7月
代表者
代表取締役会長(CEO) 襟川 陽一/代表取締役社長(COO) 鯉沼 久史
決算期
3月
直近業績
売上高681億700万円、経常利益341億6600万円、最終利益268億5200万円(2023年3月期)
上場区分
非上場
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