【インタビュー】KLab森田氏が語るゲーム事業の展望 『ブレソル』は"原作らしさ"の実現に注力 『Glee Forever!』や『AOE』で世界市場に挑む

KLab<3656>がスマートフォンアプリ市場での存在感を一段と高めている。『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル(スクフェス)』に続き、『BLEACH Brave Souls(ブレソル)』も本格的なプロモーションを行う前にも関わらず、アプリストアの上位の常連となるなど人気タイトルの仲間入りを果たした。さらに『Glee Forever!』をリリースし、『Age of Empires: World Domination(AOE)』も控えており、日本だけでなく、世界市場での展開も注目を集めている。今回、KLabの専務取締役CGOの森田 英克氏にインタビューを行い、ゲーム事業の振り返りとともに、今後の展望を語ってもらった。

(※)インタビューの収録は『Glee Forever!』の正式リリース前となる。このため、話している内容は、リリース前の情報となっていることにご留意いたきたい。


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■『ブレソル』は『BLEACH』らしさの実現に注力

―――:上半期のゲーム事業を振り返るといかがだったでしょうか?

非常に良かったと思います。新作はリリースできませんでしたが、既存タイトルが良好でした。『スクフェス』はもちろん、オリジナルタイトル『天空のクラフトフリート』が好調でした。年末年始にテレビCMを実施して以来、安定的に推移しています。また意外と知られていませんが、『幽☆遊☆白書-魔界統一最強バトル-』もロングランヒットです。『幽遊白書』は、いまもアプリストアのランキングでもいい順位に入りますし、「GREE」版も引き続き収益に貢献しています。

―――:『ブレソル』が好調ですが、森田さんとしてはどういった点がよかったとお考えですか?

あくまで私見ですが、ものすごい人気のIPを使わせてもらったこと、そして、作品の熱心なファンに受け入れてもらったことが大きかったと思います。ただ、あそこまで勢いよく順位が上がるとは予想していませんでした。もう少しじわじわと盛り上がっていくと思っていましたね。
 

―――:IPタイトルは、熱心なファンがいる反面、ファンの期待に応えられないものになると大失敗してしまいます。御社として今回、どういった点に気を付けていたのでしょうか?

最初に、『BLEACH』ファンがどういう作品を期待しているのかを時間をかけてディスカッションしました。「刀で敵と戦うアニメだから、そこは絶対に外せない」「各キャラクターがもつ特徴的な必殺技を繰り出す格好良さ」、「刀で敵を薙ぎ払っていく爽快感とカタルシスを大事にしたい」といった点を大事にしました。あとは原作の再現性ですね。ストーリーをゲームの中に取り込むだけでなく、登場キャラクターがゲームの中でも格好よく動くようにしました。

―――:企画にはどのくらいの時間をかけたのですか?

ライセンスの契約をしてから、半年ほどはディスカッションをしながら、モックを作ってはつぶして…を繰り返していました。企画を固めるまでに時間をかけましたが、開発フェーズに入ってからは比較的、順調に進ちょくしました。開発だけならば、1年もかからなかったのではないでしょうか。

当社では、プロトタイプをつくって、社内のディレクターやプロデューサーが遊び、方向性が定まるまで作り続けます。ですから、企画で半年かけるのは珍しいことではなくなっています。


―――:御社として初の3Dアクションゲームとなりましたが、開発はスムーズに進んだわけですね。

はい。3Dのアクションゲームは、当社として初めて取り組んだゲームでしたが、開発スタッフが頑張ってくれました。KLabとしてノウハウがない分、開発経験のあるスタッフが持っている知見を活かしてチームを引っ張ってくれましたし、初めてのスタッフも自分で研究・勉強してくれて、チームとしていいタイトルに仕上げてくれました。

―――:ほかにどういった企画があったのですか?

2Dの横スクロールのアクションゲームや、タワーディフェンスなど、いくつかのパターンを製作しました。私たちとしては、売れるものを狙って作ったというよりは、『BLEACH』らしいゲームをいかに実現するかに最も重要視しました。

1年前の時点で、確実に売れるゲームを作ろうとしたら、今のゲームは作らなかったと思います。当社には、「当てにいく」というよりは、チャレンジしたタイトルを作りたいと考えているスタッフが多いですね。


―――:当てに行ったら、違うゲームになったでしょうね。

さすがにカードバトルはなかったでしょうが、コマンドバトルなどを選択した可能性はあります。でも、『BLEACH』のゲームであれば、刀を使って切りたい、切る爽快感を楽しみたいと考える方が多いですよね。


 
■最後の3カ月のブラッシュアップが完成度を高めた

―――:チャレンジということでしたが、会社として後押ししているのですか?

私や真田のように意思決定をする立場からは、開発スタッフには、新しいユーザー体験のあるものを出してほしいと伝えています。いわゆる側替えなど同じものをつくっても、前以上にはならないでしょうから…。

―――:実際に作っていて、あるいは運営していて苦労した点は。

運営については、まだ始まったばかりなのでなんともいえないですが、開発については開発の遅延につながるような、苦労した話はなかったですね。もちろん細かい話は現場にはたくさんあるでしょうが、全体として順調に進みました。

最後の3か月のブラッシュアップでクオリティが相当上がりました。当社ではプロジェクトチームが完成しましたと宣言した後、社内テストを実施し、他のプロデューサーやディレクター、役員が1か月ほど遊んでみて、スプレッドシートにひたすらフィードバックをひたすら書き込んでいきます。その項目数は500を超えました。

その後、重要な指摘をピックアップしてすべて直してからリリースしました。その最後のブラッシュアップのプロセスが重要です。これ以外にも、UIとUXのレビューや、エンジニアによるレビューなども行われました。会社全体として、新しいタイトルをリリースするときは、みんなで協力して品質を上げる文化が根付きつつあります。


―――:プロジェクト外の人も手を止めるわけですよね。

はい。社内ではいいものを作っていくためには必要なことと受け止められていますね。自分がほかの人にアドバイスをすれば、自分が作っているときもアドバイスがもらえます。アドバイスにしたがって品質を上げることが重要ということが共通認識としてできつつあります。

―――:いつごろからはじめたのですか?

2年前くらいからやり始めました。最初は、執行役員の藤好(藤好俊氏)や私が最終レビューをやっていましたが、徐々にメンバーを増やして、プロデューサーやディレクター、プランナーにも参加してもらうようになりました。当社は、タイトルを量産するわけではないので、ノウハウやガイドラインなどの蓄積・整備を進めていき、大規模かつ本格的にやったのは『ブレソル』が初めてかもしれません。

―――:組織作りの面から協力を促すようなことをやったのですか?
 
KLabGames事業本部には、下部組織はなく、プロジェクトだけがあるような状態です。必要に応じて人がプロジェクト間で入れ替わったり行き来したりするというイメージです。プロジェクトは全部の機能が入った状態で、ゲーム作りをしていますが、ポイントポイントでプロジェクトをまたいで相互にレビューしたり、アドバイスをしたりといったことを日常的にやっています。それがうまくいっているのかなと思います。

―――:ガンホーさんの組織に似ていますね。『ブレソル』の展開を教えていただけますか。

説明会でもお話ししたように、マルチプレイは、9月に入れる予定です。エンドコンテンツができることでお客様にも目標が出てきます。熱心なお客様ほどそうかもしれません。あとは、原作のファンの方にもっと楽しめるよう、ストーリーを追加して、それに合わせて出ていなかったキャラクターも追加していく予定です。


 
■ネイティブシフトの成功要因は早く始めて成功・失敗体験を積めたこと

―――:ネイティブシフトの成否が分かれている状況ですが、御社は成功したケースかと思います。その要因は何があると考えていますか?

他社に先んじて実施したからではないでしょうか。ネイティブシフトを始めたのは、2011年の4月頃です。この段階で新規開発の3分の2はブラウザからアプリにシフトしました。『真・戦国バスター』をはじめ、『Lord of the Dragons』、『召喚アルカディア』、『真・三国志バスター』、『Eternal Uprising』、『恋してキャバ嬢GP』、『Rise to the Throne』など多くのラインが走っていました。成功したタイトルが出た半面、うまくいかなかったものも少なくありませんでした。
 

早かった分、先に失敗も成功もして、ノウハウを積めたところが大きかったと思います。技術的にはもちろん、企画の面でもブラウザゲームとアプリではかなり違っていて、実際にやってみて初めて分かることが非常に多かったです。

マーケティングのやり方もブラウザゲームとは大きく違います。いろいろとアイディアを考えて工夫しないとお客様に遊んでいただけません。プラットフォーム上で広告を出せばよかったブラウザゲームとは大違いです。この点のノウハウ習得も早く実行したことが大きかったですね。


―――:当時、ブラウザゲームの収益は大きかったかと思いますが、特に悩まなかったのでしょうか?

もちろん、悩みました。当時は、ブラウザゲームとネイティブアプリの両方やっていこうというムードが強かったです。全部やるくらいの勢いでした。

―――:シフトするときに苦労したことは?

一昨年の業績でも苦戦を強いられた時期がありましたが、苦労したことはたくさんありました。Unityのエンジニアが不足していましたし、作り手側にとって作るものが全然違いましたから、最終的に完成するプロダクトに対する意識を合わせる必要がありました。

いきなりネイティブアプリに着手した会社であれば、かえってブラウザゲームのやり方にとらわれずに作れたと思いますが、KLabはブラウザゲームの成功体験があったので、それをネイティブに生かそうというところから始めていました。ネイティブでゲームを作ろうとしたらそれだけじゃないですよね。


―――:ネイティブシフトに関しては、どの会社も苦労されていますからね。

当社は、2012年から2013年にかけて体験しました。2年早かったのは大きかったですね。開発費が高騰していないうちにネイティブシフトを始めましたので、失敗しても出血が少ない時期でした。当時は1タイトルの開発費は1億円以下でした。

いまからだと1本開発するのに3億円程度かかる場合もあります。そうなると、失敗したときのダメージがとても大きいですよね。先行者利益は、売上だけでなく、失敗した時の痛手が大きくならないという点でも大きいと思います。


―――:今思えば、という反省点はありあすか?

数を絞ったほうがよかったかな、と思いますね。たくさんのタイトルを作って、開発者が分散していました。1本1本のクオリティの高いものを出していればよかったかもしれない、と思うことはあります。移植物をたくさん出すよりは、ゼロベースで2、3個つくるのがよかったのかもしれません。


 
■『Glee Forever!』は約45曲の楽曲を用意 より良いユーザー体験を目指して改修中

―――:話は変わりますが、『Glee Forever!』のテストの状況を詳しくお聞きできればと思います。

KPIは良好でした。とはいえ、いろいろと発生した課題に対応したうえで近日中に出せると思います。継続率や課金率などの数字上の課題だけではなく、お客様からのフィードバックや、FOXさんとの協議などを参考にして、よりよいユーザー体験を生むための改修を行っています。
 

―――:楽曲はどのくらい用意される予定ですか?

初期に用意する楽曲数は、約45曲です。アーティストさんから使用許諾は多くいただいておりますので、イベント曲などの形で順次追加していく予定です。ファンの方にとって、楽曲はとても重要な要素であることはよくわかっています。80曲くらいリストアップして交渉を進めており、かなり多くの楽曲が導入される見通しです。

―――:決算説明会で真田社長が権利者と話をされているとのことでしたが。

主なレコード会社とお話をしています。楽曲によっては、レコード会社だけでなく、アーティストさんにも説明する必要があります。ゲームのプレゼンなども行い、理解を深めていただいたうえで許諾をいただいています。

―――:楽曲の準備は一番大変だと思っていましたが、相当気合を入れてやっておられるのですね。リズムゲーム部分は『スクフェス』と似ていると思いましたが、ユーザー体験は違うものになっているんでしょうか。

大きく違う点としては、Facebookを活用した、いわゆるソーシャルゲームだということです。Facebook上の友だちとスコアを競い合ったり、友だちのスコアが表示されたりと、友達同士で楽しむ要素を重視しています。あとはキャラクターの育成も、カード合成ではなく、キャラクターを集めて強化剤で育成していくというシンプル設計となっています。
 

―――:日本のスマートフォンゲームに関しては、ブラウザゲーム以来のカードゲームの文脈がわかっていないと遊びづらいのでしょうか。

そうですね。今回、当社の日本本社が開発を行い、米国子会社がデザインと企画をやっています。さらに、FOXさんからアドバイスをいただくという形でつくっています。このゲームの企画を担当したのは、アメリカ人のゲームデザイナーですが、「カード合成とか意味不明!なぜキャラクターが消えるんだ?わからない」といわれました。「俺たち欧米人でもわかるようなゲームを作っていこう」という考えでゲーム開発を進めてきました。

今回、北米向けのゲームをアメリカのチームと一緒に作って勉強になりました。日本人だけで作っていたら、こういうゲームには仕上がらなかったと思います。かなりウエスタン風味の強いゲームです。ディスカッションを重ねて作っていきましたので、西洋のゲームの作り方に対する気付きも多くありました。

例えば、UIひとつをとっても、日本人だと利便性や効率を求めます。トップ画面にいろいろなボタンが集約されていて、すべてワンタッチで行けることが求められます。米国のスタッフが日本式のUIをみると、ボタンの多さに悲鳴をあげます。日本人からみてシンプルに見えるUIすらも、ごちゃごちゃしているといわれました。日本が普通だと思っているUIが実はかなりカルチャライズされていると思いました。


―――:あと、『AOE』は、説明会でテスト版をみせていただきましたが、はじめは『Clash of Clans』のようなゲームかと思いましたが、まったく違うゲームになりそうですね。

はい。『AOE』をモバイルに最適化する中で、同期対戦というものは絶対に実現したいというところで作っていました。以前よりグラフィックや動作はよくなってきていますが、コンセプトは変わっていません。軍勢対軍勢の戦争をどれだけ面白く作れるかというところをやっていました。

『AOE』らしさは、建てながら攻めるといったところですね。対人で遊ぶと相当熱いゲームになると思います。企画には相当時間がかかりましたが、ブラッシュアップされてきています。既存のモバイルストラテジーゲームとは違った文脈からアプローチしていますので、かなり新鮮に受け止めてもらえると期待しています。



 
■ごまかしの利かない市場になった

―――:マーケットの上半期を振り返っての状況を。

僕自身はあんまり気にしていません。気にしても仕方ないと思っています。開発期間が1年や1年半かかる以上、現在の状況を気にしても、ゲームが完成したころには市場がまったく違う状況になっていますよね。

ですから、「自分たちが作りたい、面白い」と思うものを信じてやりきるしかありません。その結果として、ユーザー体験の新しいものが作れれば、マーケットを変えることができると思いますし、できなければそこそこで終わると思います。

もちろん、3Dのゲームや演出のリッチなゲームが増えた、あるいは、ゲーム性の高いタイトルが増えたとは思いますが、それはコンシューマゲームの歴史を見ていれば、十分想定されたことですよね。

気になっているのはマーケティングの手法が変化したことですね。twitterや、Youtubeやニコニコ動画での実況にみられるように、お客様自身の発信力が高まったと思います。ネット環境や様々なツールが整備された結果、お客様自身が面白いものを自ら判断して、拡散していくようになりました。

これはどういうことかというと、本当にお客様が面白いと思うものを作らないことにはヒットにつながらない、ということです。ゲームメーカーは、お客様の心に引っかかるものを追及していくことが大事です。影響力のあるyoutuberや生主さんが紹介してくれるだけで、何千人、何万人がゲームに注目してくれています。

ごまかしがすごく利かない時代になったと思います。広告宣伝を大量にやって、盛り上がっている空気を醸成すれば、みんながついてくる世の中ではなくなり、中身が悪いと愛想を尽かされてしまう。運営が悪くてもすぐに情報が広がってしまいます。本当にちゃんとやらないといけない市場になったと思います。何を作るにしてもまじめに面白いものを追及して、お客様の期待に応え続けることが強く求められています。

海外市場も気になっています。北米は巨大市場ですし、中国の市場規模もものすごく大きくなっています。また、ヨーロッパや東南アジアもどんどん伸びていますね。こういった市場にどうやって進出していくかに興味があります。そのためのタイトルとして、『AOE』と『Glee Forever!』を作ってきました。国内だけでなく、当社の世界展開にもぜひ期待していただければと思います。


―――:ありがとうございました。


 
(編集部 木村英彦)



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2000年8月
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売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
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