【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第二回「企業×学校×学生」


ディー・エヌ・エー(DeNA)<2432>の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。現在同氏は、DeNAのスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任している。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。

 

■第二回「企業×学校×学生」


前回(関連記事)は、そもそも論として、
 
企業は 人材不足を叫び
学生は 数多くが業界に就職したい!と叫ぶ
 
でも、なぜかどの企業も毎年採用に苦しみ、数多くの業界を夢見た学生は、見えない壁にはじかれ、実際問題、なかなか就職できないで苦しんでいる事実があることは前回お話いたしました。

今回は、企業と学校と学生、各々の立場にたって、この点をもう少し深堀りしたいと思います。(今回は、「企画」人材に関するものに限定して取り上げますので、その前提でお読み下さい)
 

~企業が求める企画人材とは…?~
 
わたしも、長年、企画人材の採用に関わってきていますが、果たして企画職ってなにをもって見極めたらいいのでしょう? おそらく、多くの企業の人事の皆さんは困っておられると思います。

たいていの場合において、
 
★企画の採用に使われている手法★
・エントリーシート
・SPIなどの筆記試験(学力+性格判断など)
・企画書提出
・面接 複数回

 
などを課すという感じではないでしょうか? 間違っているとも思いませんし、正しいとも言い切れません。企画に求められる「本質」がなんなのか? の定義によるのかもしれません。実際問題、「人間性」を見極めるのに、面接以上に有効な方法はなかなかありません。で、あるが故にゲーム業界に限らず採用の選考から新卒採用、キャリア採用問わず使われている手法となります。
 
さて、話を戻して、では、いったいどんな人材が必要か? と問うと、皆さん、口ごもるケースが多いと思います。
 
★企画に「本質的に」求められそうな要件★
・アイデアが考えられる人
・面白い人であること
・いろいろ遊んでいる人

などなど

企業側は好き勝手なことを言い、学校はそれを聞いても効果的な講義や演習を簡単には用意できず(いや、そりゃこんな曖昧な定義に対して演習を用意できるなら、あっという間に企画力は向上しているでしょうし、そもそもが、この場でわたしが論じている必要もありません(笑))、学生さんは戸惑うわけです。面白さの本質や、これ以上分解できない細かい要素まで企画の面白さの本質を細分化、抽象化した人間が少ない(いない、わけではないと思っています。カイヨワにせよ、ホイジンガにせよ)からですね。
 
では、企画に求められる本質とは何か? 一言でわたしが語ることができたら、とっとと書籍にまとめた方が世の中の役に立てると思います(笑)。

ただ、いくつかのベクトルにのっとって考え、定義できるのではないか? と思っています。
 
1、着想→発散→凝縮のプロセス
2、伝える
3、構造化

 
大まかにこの3つが企画にはとても必要な能力だと思っています。非常に曖昧な定義ですが…「ゲームの面白さを論ずる、発想する力については関係ないの?」と思われるかもしれません。

1は、企画書や仕様書を書くプロセスで必要です。着想するだけでは、実装にむかえません。拡げて、良きものだけを選別・生き残らせる=凝縮することで、商品にのせられるアイデアに近づくことができます。
 

2の、「伝える」は、まさに、面接にせよ、プレゼンにせよ、企画書にせよ、その意識なくしては進めることができません。開発チームのメンバーに伝わらないものを、作り上げることはできませんし、そもそもが、会社から予算を調達することもできません(笑)。

そして、それよりなにより、お客さんに伝えることができません。

ただ、ここで1つ間違えてはいけないのが、
 
「わからない」と言われた時の対処
 
です。わからない=だから、「ボツ」ではありません。伝わりにくくてわからないのか? そもそも、わけわからなくて、わからないのか? これまでの価値観や市場において例をみないので、わからないのか? 様々な要素が絡んで「わからない」という曖昧な言葉で返されることが多いからです。

そこは、諦めないで、わからない意味を問いただし食い下がらなくてはいけません。そして、前例をみないからわからない、既視感少ないのでわからない、であるならば、
 
リスクはありますが、チャンスがあります!
 
なぜならば、新たな価値の創出である可能性がある! からです… というようなことを考えられるか? です。そして、ここにきて4つめの能力、
 
4、諦めない心
 
これが大事になってきます。ただし、感情だけではダメです。論理が伴っている必要があるのです。「企画を通せない人」の言い訳に、
 
「いや~、俺は面白いと思うんですけどね。上の好みにはまらず、理解されなかったから、GOでませんでしたよ。俺『は』面白いと思うんですけどね!」
 
というのをまま聞きます。本当に面白いと思うのであれば、諦めない、改善する、論理かパッションで押し切るだけのものが必要です。正解のない海に漕ぎ出す以上、諦めないで、粘る、常にPOSITIVEに動くことが大事です。構造化については別の機会に展開しますが、この諦めない心こそ、企画職においてはもっとも大切なことかもしれません。

これを見極めるのは、たしかに面接くらいしかないのも事実です。ですので、昨今では、卒業年の前の年の夏休みなどにインターンなどで実際に一緒に働いてみるというのを実施する企業さんが増えてきたのでしょう。諦めない、のは、学生さんに限らず、企業も同じことです。採用だけして、「はい、確保できたからOK!」などと思っている企業はないはずです。本人のキャリアパスを考えての育成は採用と一対だからです。

なので、良きところを見て、可能性にかける、そして、諦めないで育成する、このマインドのある企業が、よき学生さんと巡り合い貴重な人材を確保していけるのではないでしょうか?

 

■学校と学生の悩み「どうすればいい?」


学生さんにとって、就職活動は、人生において、何度もない大切な機会です。

学校さんにとって、特に専門学校さんにとっては、学生さんが就職していくことは次の学生さんを呼び込むことにつながる大切な成果指標です。学校さんは、ゲーム業界への就職は決して甘いものではないことは、熟知されています。なので、入学時もですし、就学中も、就職活動について口を酸っぱくして指導をされていると思います。

ただ、ゲーム業界は市場に限らず、必要とされる技術も含めて移ろいやすく、常にアンテナを張り巡らせておかないと時代から取り残されかねません。そのために、トレンドを追うためにも、コンテストにエントリーしたり、ハッカソンに参加したり、と積極的に動かれている学校さんも数多くあります。

プログラマ、デザイナーの技量の向上や、自分たちが全国の中でどれくらいの位置にいるのか? などがそれによってわかることは少なからずあります。が、相対的なことはわかっても、結局絶対的な評価としてはどうなのか? 且つ、企画は結局どうすればいいのか? ということは解決できていません。ここに大きなる悩みが存在します。
 
また、学生さんにとっても、ともすれば企画の仕事、能力はアイデアを出すことに終始すると思っているので自分では無理だ、とか、逆に、プログラムも絵もかけないから、企画を目指します、というような子もいます。悪いことは言いませんのでそのマインドであれば諦めましょう。諦めるな! と前の章で言っておきながらなんですが、
 
やる前に負けることを考えて挑戦しないのはNG!!


だからです。この諦めるラインが早すぎる人は、この世界は向いていません。早々に新たな別の道を目指したほうが自分のためになると思います。

では、学生さんはどんな勉強をしたら、企画としての力を向上できるのでしょうか? 1000本ノックのように企画書を書きまくればいいでしょうか? それも、間違っているとはいいません。何事も、1000回もやれば「道」となるからです。ただ、それも、単に好き勝手書きなぐっているだけでは厳しく、しっかりと他者からの客観的な評価を受ける必要があります。

それ以前に、企画書を構成するPrimitiveな面白さの要素をもっと真剣に考えないといけません。そういった基礎力の向上のために、わたしは、
 
座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾
~未来を担う人に伝えたいこと~
https://www.facebook.com/groups/377312002472114/


を毎月、実施しています。こちらは、プロアマ問わず若手であれば、誰でも参加でき(会場の都合で、毎回抽選させていただいていますが)異なる講師陣(遠藤雅伸さん、簗瀬洋平さん、中村隆之さんなどがこれまで登壇)が、様々な角度から講義・演習をしてくださいっています。毎月実施してますので、ぜひ、参加ください! 最後は番宣のようになってしまいすみません(笑)。

今回は、これまで!
 


■著者 : 馬場保仁
DeNA プロデューサー 兼 採用担当。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。DeNA入社後は、スマホアプリの開発にプロデューサーとして従事。現在は、プロデューサーとしてゲーム開発を行うと同時に、人事も兼任し、ゲーム業界の人材育成のためにも尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。


■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」


 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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