【連載】安藤・岩野の「これからこうなる!」 - 第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」


【「これからこうなる!」は毎週火曜日12時頃に更新】
『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、数々のスマホゲームアプリをヒットさせた、ゲームプロデューサーの安藤武博氏と岩野弘明氏。そんなふたりが毎週交互に執筆を務める「安藤・岩野の“これからこうなる!”」では、スマホゲーム業界の行く末を読み解く、言わば未来を予言(予想)する連載記事を展開していく。

メディアやコンサルが予想するのとは大きく異なり、ふたりは開発者であるがゆえ、仮説を立てたあとに実際現場のなかでゲームを手掛け、その「是非」にも触れることができる。ゲーム開発現場の最前線に立つふたりは、果たして今後どのような未来を予想して、そして歩むのか。


今回の担当:岩野弘明氏

 

■第30回「新規アイドルゲームに未来はあるのか?」

 
今年もはや10月に突入し、一年が終わろうとしていますね。ここから12月まで特に何もなければですが、個人的に今年の自分の中でのヒットアプリは『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』『エレメンタルストーリー』になりそうです。(なお、ちょっとだけ宣伝すると私が担当している『アリスオーダー』というアプリも今年中にリリース予定なのでもしちょっとでも気になった方がいらっしゃれば是非プレイしていただけると嬉しいです!)
 

ということで、今日は『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』、通称『デレステ』にスポットライトを当てつつ、今後のアイドルものについて話していきたいと思います。

 

■『デレステ』はアイドルものアプリの終着点?



既に『デレステ』をプレイされた方ならお分かりの通り、このアプリの完成度の高さはとんでもないです。元々モバゲーで展開されている『アイドルマスター シンデレラガールズ』にて蓄積された素材が豊富にあり、かつイラストの魅力を限りなく踏襲しつつ3Dで動きを加えてキャラの魅力を高めていく見せ方。おそらくこの方向性でのアイドルものアプリとしては、これから先しばらくの未来も含めて最高峰の出来だと思います。ひとつの終着点といってもいいかもしれません。

このクオリティをいちから作り上げようとすると途方もないお金と時間がかかりますが、今から『デレステ』と同規模の人気・売上をあげることは、ただお金と時間をかけるだけでは到底難しく、普通に考えたら無理です。

理由は、『アイドルマスター』というIPがこれまで築いてきた歴史とファンがいるからです。そんな歴史を持ったIPに立ち向かおうとすれば、同じことをやっていてはその歴史分すでに遅れをとっているわけですから、土台無理があるわけです。

では、いまからアイドルもののアプリでヒットを狙うということは無理なのか?

…というと、答えは「NO」です。

あくまで個人的な考えですが、アイドルアプリを今から仕掛けてヒットを狙うことは可能です
(ヒットの定義は、ストアの売上ランキングでTop20に入ってくるような規模とします)

 

■これからアイドルものでヒットを目指すには?


そもそもアイドルものにユーザーが期待することは、アイドルとしてのキャラクター性やキラキラ感、成長していく様といった「アイドルの魅力」を、ユーザーがどういった立ち位置で楽しめるのかということ。『デレステ』他アイマスシリーズはプロデューサーという立場で、『スクフェス』(『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』)はともに活動する仲間として、彼女たちと向き合いがんばっていきます。その中でゲームとして何をやって、その結果何を得られるのか、が重要です。
 

最近、アイドルもの=音ゲーみたいなイメージが強くなっていますが、そのゲーム性にアイドルもののカタルシスがあれば必ずしも音ゲーじゃなくてもいいわけです。むしろ、音ゲーが得意ではない、あるいは流石に毎日音ゲーをやり続けるのは面倒、という方に対しては音ゲーじゃない方がいい。そんな今だからこそ、音ゲーじゃない方向性でアイドルものを作ることでヒットは狙えると思います。

なお、「音ゲーにしない」というところまではわりとやろうとする方もいらっしゃると思いますが、アイドルもので最も大事なのは「アイドルの魅力」をいかに伝えていくかにつきますので、故に「脱音ゲー」をしたところで簡単ではありません。とはいえ、少なくともスマホアプリで音ゲーという土俵で勝負するよりは可能性ははるかに高まるのでは、と思います。

ただ、時代に合わせて完成度を高めなくてはならない、ということは大前提なので、いずれにしても時間やお金がある程度かかるのは覚悟しておかなくてはならないかと思います。

 

■せめて、アイドルらしく


ここから先は、描いていきたいアイドルの形にあわせて

・打ち出し方(ターゲット)
・ゲーム性(アイドルの魅力を伝えるのに相性の良い仕組み)
・アイドルものらしくあること(イロモノにしすぎない)


といったことを決めていく感じかと思います。

なお、最後の「アイドルものらしくあること」については、差別化にとらわれて本来見せていかなくてはいけない「アイドルの魅力」を十分に見せられないということには防ぐべき、という意味です。スマホアプリ以外のものも含め、差別化を狙い過ぎた結果「それ既にアイドルじゃなくない?」といったものを散見します。これは多くのアイドルもの好きからしてみたらアイドルものではないですし、もちろん他のお客様には刺さりづらいので失敗の確率が高いです。

以前、「ラブライブ!」の魅力について書いた記事(関連記事)でも触れましたが、「ラブライブ!」の魅力の一つは「王道であったから」です。やはり、アイドルものとして期待されていることは素直に届けるべきで、そこをおろそかにしていてはアイドルものではありません。(これはどんなジャンルにも共通して言えることですが)

これからアイドルものを世に送り出そうとされている方々におかれましては、アイドル戦国時代ではあるものの、そこはぶれずに「アイドルの魅力」を素直に伝えていって頂きたいと、いちアイドルものユーザーとしては願う次第です。 ではでは今日はこの辺で!

P.S.
結構頑張っているのですがSSR杏が出ません。
 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki
 
■スクウェア・エニックス

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©窪岡俊之 ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
株式会社スクウェア・エニックス
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会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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