【イベント】法政大学で開催された講演「『グランブルーファンタジー』に見る業界」を取材 TGSや二次創作、キャラソン等…気になる要素に迫る


去る2015年11月2日、法政大学 市ヶ谷キャンパスで、第68回 自主法政祭 CLC イベントとして「『グランブルーファンタジー』に見る業界」が開催された。当日はCygames取締役兼『グランブルーファンタジー』プロデューサーの春田康一氏が登壇し、ソーシャルゲーム業界やユーザーとメーカーの関係性、これからのゲーム業界についてなどを含むトークショーが展開。これまで多数のメディアに出演してきた春田氏だが、学生の前で講演するのは初めてとのこと。

本稿では、プレイヤーのみならず、進路選択に迷っている学生など、幅広い方たちが来場した同イベントを取材。なお、当日は法政大学の学生が進行役を務めた。

 

■TGSで今年最大規模のブースを展開した同社…次回の開催は?


『グランブルーファンタジー』は、「星の民」や「神々」をめぐるストーリー、「星晶獣」と呼ばれる大いなる獣の存在など、ファンタジックな世界観を基調とする王道スマホRPG。本作の開発には、これまで数多くの大作RPGの制作に携わったCyDesignationのグラフィックデザイナー皆葉英夫氏と、サウンドコンポーザーとして様々なゲームに楽曲を提供する植松伸夫氏が参加している。

多彩なマーチャンダイジングはもとより、バラエティに富んだテレビCM放映の数々、また先日の「東京ゲームショウ2015(TGS)」では同年の最大コマ数で『グランブルーファンタジー』の世界観を再現、会員数も600万人を超えるなど、王道スマホRPGとして今もなお天井知らずの成長を続けている。
 

※キャンペーンは終了しています


さて、そんなヒット作のプロデューサーを務める春田氏だが、今回法政大学のイベントに登壇。何か縁があるのかと思いきや、「じつは昔、こちらで1週間ほど芝居の公演を行っていて、懐かしい気持ちになりました」と思い出を振り返った。

最初の話題は、「TGS」の振り返りについて。Cygamesとしては初出展となった今年のTGSだが、春田氏は「やって良かったなと思います」と率直に感想を述べた。というのも、『グランブルーファンタジー』はリリース以降、ユーザーと直接コミュニケーションを取るリアルイベントが無かったため、今回のTGSで実質初めてユーザーの顔を見ることができたようだ。

前述したように、やはり語るべきは今年最大の126コマを使用したCygamesブース、その大きさについてだ。初出展ということもあり、春田氏は「どうせなら大きなブースでお客様を迎えたい」とそのブース展開の経緯に触れた。

Cygamesのブースで特徴的なのは、出展タイトルを『グランブルーファンタジー』の一本に絞ったこと。同社と言えば、『神撃のバハムート』を筆頭に、『ナイツオブグローリー』や、子会社では『リトル ノア』などのタイトルも保有しているほか、受託開発では『アイドルマスターシンデレラガールズ』、『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』といったIPタイトルにも携わっている。

春田氏いわく「『グランブルーファンタジー』の世界観をどっぷりと楽しんでもらいたい意図があった。ひとつのタイトルの世界観を実際に表現するのに、126コマを使用したことを考えると、ほかのタイトルも取り入れたら500コマぐらい必要かもしれない」と笑いながらコメントしてくれた。
 
【Cygamesブースの様子】




今後もTGSの出展を考えているのかと聞かれた春田氏は、「仮に出展するならば、その場所でどのようなイベント・コンテンツを提供できるかを、きちんと考えなければならない。個人的にやるとするならば、前回よりはもっと大きなものも考える」とし、続けて「幕張メッセではなくて、飛行船とか空の上で出来たら面白いですよね(笑)」と出展は明言せずとも、その並々ならぬ意気込みと夢を語ってくれた。

 

■ユーザーとメーカーの距離の変化 二次創作の勢いについて


続いて「『グランブルーファンタジー』は何故成功したのか」…という話題に移った。前述しているように、同作は会員数600万人を超えたほか、アプリストアの売上ランキングでも常に上位をキープするなど、その勢いとヒットの理由は数値として表れている。

同作と言えば、ネイティブシフトが著しい当時、あえてブラウザゲームでリリースしたタイトル。しかし、従来のいわゆる“ポチポチゲー”と呼ばれていたソーシャルゲームとは一線を画し、プレイヤーを引き込む物語、魅力的なキャラクター、戦略性の問われるバトルシーンなど、純粋なゲームとしての面白さが評価されて、今では王道スマホRPGとしての地位を確立している。

春田氏は、ヒットの要因とも取れる開発の流れとして、「過去、自分たちが面白かった歴代のファンタジーRPGなどを、モバイル上で表現するやり方で開発を行った」と言葉を添えた。また、サービスを続けていくに連れて同作に携わる社内スタッフも増えていき、そこからまた各スタッフが考える“面白い要素”がゲーム内で表現されることが、さらなるヒットに繋がっているようだ。
 

ここで司会を務めていた法政大学の学生から「ユーザーとメーカーの距離の変化」について訪ねられた春田氏。これに対して春田氏は「近すぎず、遠すぎず。もちろんユーザー様から寄せられる意見には目を通しているが、すべてを反映させるのではなく、あくまでも僕のフィルターを通してから吸収するようにしている」と述べた。

たとえば、どのタイトルにも簡単・難しいというゲームバランスが存在するもの。仮に簡単という人が50%、難しいという人が50%の半々になっているとき、春田氏なら「そのままにすると思います」とコメント。バグなどメーカー側の落ち度ではない限り、コンテンツの変更は誰かひとりの意見で反映されることはせず、プロデューサーとしてその是非を正確に見極める必要があるという。

次に「ユーザーの創作活動」の話題に移った。2016年3月でリリースから2周年を迎える『グランブルーファンタジー』だが、ここ最近はユーザーによる同作の二次創作の勢いが増している印象。これについて春田氏は「流行感も出るし、面白い展開や可能性が見出せるので個人的に大賛成な文化」と好意的な意見を述べた。

そもそも春田氏自身もテレビCMのプロモーションをはじめ、エイプリルフールネタなど、認知拡大に繋がる創作で『グランブルーファンタジー』を売り出している。「完全に趣味のようなものある。お祭り的な要素として、多数の点が存在するような形だが、これらをいずれ線として繋いでいきたい」と春田氏。

余談だが、エイプリルフールネタと言えば、『グランブルーファンタジー』の女性キャラクターたちがアイドルに扮して歌を披露し、さらにはCD化・テレビCMにも起用するなど、多角的な展開を見せたのが印象深く残っている。
 
【キミとボクのミライ MUSIC VIDEO】

ちなみに、このキャラクター選定には春田氏の趣味も含まれているが、決して適当に選んでいるわけではなく、きちんと意味を満たすように「まず普段喋らない主人公(女性)が喋ったら面白いと思い選抜。もちろんヒロインのルリアは登場するし、その流れにヴィーラも加わって歌ってくれる流れになる。でもこれだと天然・ド天然・変わり者という構成になってしまうので、明るいキャラがいるかなと思いマリーを取り入れた」と詳細に選定理由を述べてくれた。

また、この企画は幸いにも好評で、キャラクターソング企画第2弾としてCD「ソラのミチシルベ ~GRANBLUE FANTASY~」が12月23日に発売される。第2弾では、前述した4人のキャラクターではなく、フェリ、シェロカルテ、ドランクの3人が選抜された(歌うのはフェリ<CV:米澤円>)。
 

▲左からシェロカルテ、フェリ、ドランク

じつは、この3人が選ばれたのにも理由がある。「前回の4人を見て、『グラブル』のなかで“私もやってみたい…”と羨ましがるのはフェリだろうと。次に、そんな彼女に協力してくれるキャラクターを探したときに、世話焼きのシェロカルテとお調子者のドランク」ときちんと関連性があることを語ってくれた。

 

■夢は広がるばかり、ゲーム作りの楽しさ


「噂では最低12年は続くようですが…」。司会者が春田氏に訪ねる。というのも、『グランブルーファンタジー』では干支に因んだキャラクターが登場する。2015年1月には、羊のキャラクターが出てきたこともあり、ユーザーのなかでは「全部の干支を見るには、最低12年がかかるのでは?」という思惑から “最低12年は続く”なる噂が一人歩きしたようだ。

春田氏は「出来るならば終わらせたくないです」と切り返した。実際に2016年の干支である猿に因んだキャラクターも制作中とのことに加えて、「ファンタジーの世界を旅するのと同じで、今後もユーザー様が楽しめるような新しいコンテンツを導入していく。12年とは言わず、一生続けたい」とした。

今後実装してみたいコンテンツを聞かれた春田氏は、「何でもいいのであれば、地球1個分ぐらいの広さもある『グラブル』の世界を作りたい(笑)」と夢を語ってくれた。ちなみに、実際にボツになった機能として、現実の天候に応じてゲームの世界の天気が変わるというものが紹介された。「風が吹いたらゲームでも木々が揺れたり、雨が降ったらゲームでも雨が降ったりというもので、開発メンバーからは“それよりもやることあるだろう”と言われてボツになりました(笑)」と開発秘話を披露してくれた。

続いて話題は「これからのゲーム業界に求められるもの」に。春田氏は、今後のソーシャル・スマホゲーム業界について「リッチ化が進んでいる。開発コストをかけているタイトルが非常に増えてきて、コンシューマ市場と同じようなことが現在でも行われている」と現状を指摘。同時に「ユーザー様から求められるものの水準も高くなってきている」と言葉を添えた。
 

「そうしたなかで、学生には何ができるのでしょうか」と司会の法政大学の学生が質問。これに対して春田氏は「ゲームって誰にでも作れますよ」と返答した。たしかにパソコンとネットが繋がっていれば、ゲームを作るための書籍やツールはもちろん、それを披露するストアだって存在するので、学生だからといって臆せず作りたいものが作れる土壌がある。

ただ、春田氏のようなプロデューサー職に進むことを考えている学生に対しては、「ビジネスの成り立ちも考えること」を付け加えた。このほか、幅広い視野を持つことで「どこにでも企画のチャンスは転がっている」ともコメント。

また、新しいコンテンツの作り方として、「やはり遊んでいるなかで生まれてくる」と説明。それは、普通にテレビゲームをしたり、麻雀したり、トランプしたり、ブランコに乗ったりと様々。開発メンバーも同様に遊んでいるときにアイデアを思いつき、それらを現場のなかで何気ない会話のなかで話すという。そうしたアイデアを、Cygamesでは足並み揃えて開発・リリースまで進めていくとのこと。

「たとえば、プランナーが企画書・仕様書を書いて、デザイナーがイラスト作って、エンジニアが作って、デバッグがチェックして、上司が確認するやり方。一般的だが、このやり方では100本中95本はつまらないものが生まれる」と春田氏。

というのも、何事もひとりで進めていくと、その業務を担当している人も目が慣れてしまい、面白いものが出来ているかそうでないかの判断が鈍るというのだ。そのためCygamesでは、要所要所に「みんなでレビューする」ことを心がけているとのこと。「スタッフ全員が同じ意識を持っているのが大切。仮に失敗しても、すぐメンバー全員と足並み揃えて改善に動けるのは強み」とCygamesにおける開発現場の特徴について触れた。

続いて「ゲームを作るうえで大切にしていること」について訪ねられた春田氏は、「個人的に大切にしているのは、自分が面白いと思っていることを伝えること」とコメント。じつは、当初『グランブルーファンタジー』は2013年12月17日にリリース予定であったが、急遽リリースを2014年3月に延期した背景がある。春田氏は「自分たちが本当に面白いと思ったものではないと出したくなかった」と語り、いかにゲームのクオリティを追い求めていたのかを覗かせた。

最後に、司会者が『グランブルーファンタジー』に対する春田氏の思いを聞いた。

春田氏は「このタイトル(のプロデューサーとして)で人生を終わらせてもいいぐらい。命に代えてでもこのタイトルを守りますし、24時間常に『グラブル』のことを考えている」と、まさに親のような目線で本作に対する思いを語ってくれた。ただ、「そうでなければ、良いものなんて生まれない」とプロデューサーだからこその思いも言葉として添えてくれた。苦悩の連続ではあるが、最後に「僕はゲームばっかりの人生。ここまで思えるタイトルと出会えたことに幸せを感じる」と、ゲーム作りの楽しさを学生に語って、講演を終えた。

なお、現在Cygamesでは新しいスタッフを募集中だ。
 
(取材・文:編集部  原孝則)


■『グランブルーファンタジー』