【インタビュー】「つねにフルスイング」…話題のTVCMや未曾有のコラボ等『モンスト』宣伝の舞台裏とは 同スタジオのマーケティング部に訊く


現在ミクシィ<2121>の「XFLAG™(エックスフラッグ)スタジオ」では、今後の事業拡大のため、様々な職種で採用面に力を入れている。

同スタジオの代表作『モンスターストライク』(以下、『モンスト』)は、直感的な操作性はもとより、友人たちと集まってわいわい遊ぶマルチプレイなど、口コミを通して若年層を中心に広がり、瞬く間に日本を代表する大ヒットゲームアプリへと成長した。そして、同スタジオでは、新作タイトル『ブラックナイトストライカーズ』のリリースも控えている。

今回「Social Game Info」では、エックスフラッグスタジオでマーケティングに携わる田村征也氏にインタビューを実施。テレビCMのクリエイティブや企画コンセプトをはじめ、求めている人物像などについて聞いてきた。

■ミクシィ
 
 
 

■「いかに面白く、かつ仕掛けにもこだわる」…定性的な反応も重視

 

株式会社ミクシィ
エックスフラッグスタジオ マーケティング部 部長
田村征也


――:本日はよろしくお願いします。はじめに田村さんのご担当について教えてください。

エックスフラッグスタジオのマーケティング部で部長を務めています。おもに『モンスト』をはじめとするゲームのプロモーションやグッズなどの商品開発、動画の制作及びイベント企画など、マーケティング活動全般を担っています。また、マーケティング部は、広告宣伝、イベント企画、動画制作、クリエイティブとそれぞれ複数のチームに分かれています。


――:御社では、プロモーションに際してどのようなことを意識しているのでしょうか。

他社がやったことのない、新しいことにチャレンジすることを一番に意識しています。プロモーションでは、集客面にフォーカスしすぎて、どちらかと言うと説明的な広告が多くなりがちですが、弊社では宣伝の媒体もひとつの“コンテンツを表現する場”と捉えており、見た人が喜んだり、驚いたりしてもらえるような広告展開になるよう心掛けています。逆に他社が同じような施策を展開してきたら、我々は恐らくやらなくなると思います。やはりつねに想像を超えていかないと、なかなかお客様の印象には残りません。


――:思えば『モンスト』関連のプロモーションも説明的というよりは、かなりインパクトがあり、印象に残るものが多いですよね。

はい。あとはお客様のなかで話題になってくれるかが重要な指標でもあります。過去に行ったケースですと、「夏だ。アツまれ。」と銘打った夏の大型キャンペーンでは、ゲーム内イベントはもちろん、「SUMMER SONIC 2015」や「青森ねぶた祭」に出展するなど、多角的な施策を展開しました。

テレビCMもキャンペーン用に制作したほか、同時期に同じフレームで『ストリートファイターIV』とのコラボCMも放映するといったように、かなり立体的にプロモーションを仕掛けていきました。



――:話題を持続させるために、様々な施策でアプローチされていたのですね。
 

そうですね。ゲーム内のイベントをはじめ、テレビCM、WEB施策、OOH広告、リアルイベント、すべて連動しているという流れを作りました。夏休み期間ということもあり、立体的なプロモーションを仕掛けた結果、定常的に『モンスト』に触れていただける方が増えて、期間中はアクティブ率もつねに高い数字を記録しました。もちろん新規ユーザーの増加にも繋がりました。


――:具体的にどのように企画されているのでしょうか。

大枠としては、キャンペーンを企画するに際してまず社内のブレストから始まります。ブレストでは、まずお客様に何を伝えたいのかをきちんと決めていき、そこに合わせてどのようなメッセージを伝えていくかを考えていきます。たとえば、夏のキャンペーンでは、大型連休もあるのでみなさんに“集まって遊んでほしい”という想いのもとから、施策の内容を考えたり、コンセプトワークを手掛けたりしていきました。


――:KPIなど、指標としているものについてはいかがですか。

もちろん数字的なことも重要ですが、我々は定性的な反応に重きを置いています。ゲーム単体でみてしまえば、アクティブ率やダウンロード数などの数値で測れるかと思います。マーケティング部では、TwitterなどのSNS上でお客様の反応を定期的に調べて、こちらが思い描いた反応をしてくれているか、ポジティブな印象を持っているかといったように、日常的にチェックしています。そのほか、アンケート調査も行うなどして、色々な角度からお客様の反応を調べています。


――:個人的に『モンスト』では、交通広告や屋外広告などOOH施策のインパクトが印象深いです。

OOHは設置場所が定常化されており、言わば日常の風景にあるものだと思っています。日常で触れるからこそ、お客様にはある一定の違和感を覚えさせて、印象に残すことをかなり意識して行っています。あとは見てくれる人が楽しんで、さらにそこから「面白い!」と思い写真に撮って、SNSやメールで他の人に伝えてくれるかどうかにも気を配っています。


――:渋谷109をはじめ、渋谷の屋外広告も大々的に展開されていましたよね。

こちらはレッドリドラ、ブルーリドラ、グリーンリドラそれぞれのケーキで三面を使わせていただきました。それぞれひとつずつの広告ではありますが、スクランブル交差点から109方面に目を向けると、三面を同時に見られるといった形になっていました。渋谷は女性が多いため、クリエイティブはなるべく可愛くなるように意識して、2周年をお祝いしているケーキにしました。ケーキは実際に作ったものを写真で撮影しています。また、109にはレッドリドラの顔のアップ、渋谷駅の上には3匹が一緒に2周年の感謝を伝える広告になっていました。

ちなみに、よく見てみるとこの5つの広告は連なっています。それぞれケーキにはかじったあとと、各リドラの影が写っているのですが、これは食べながら移動しているようになっており、109と渋谷駅の広告はリドラたちの口元にクリームが付いています。このように、OOH広告のクリエイティブをひとつとっても、お客様のなかでどれだけ物語を感じ取っていただけるのか、ということも意識しています。ただの宣伝広告で終わらせるのではなく、いかに面白く、かつ仕掛けにもこだわって楽しませるように手掛けています。

 




――:これまで『モンスト』に携わる様々な職種の方々にお話を聞いてきましたが、みなさん一貫して「遊び心」や「楽しい仕掛け」を意識して業務に臨んでいます。こうした想いは、スタジオ全体に浸透しているのでしょうか。

そうですね。マーケティング部で言えば、何のためにテレビCMを放映するのかは、すべてはお客様に楽しんでもらうためだと思っています。楽しませたり、驚かせたりするのは、エンターテイメントの真髄だと思いますので、逆に「つまらなそう」と思われた瞬間、ゲームに興味がなくなりますし、既存ユーザーも離れてしまいます。つねに活動の根底には、お客様に感動や驚きを提供し続けることだという想いがあります。

ただゲームで遊んでもらえればいいという考えは一切なく、「楽しいからみんなも遊ぼうよ」というコミュニケーションをベースにした施策は本当に意識していますね。これはプロデューサーの木村(ミクシィ取締役木村弘毅氏)の想いでもあります。



 

■“当てた”だけでは感動は生まれない…「つねにフルスイング」


――:テレビCMがバラエティに富んでいて、毎回楽しみです。ここのクリエイティブの発着や判断は、すべて制作会社や代理店に任せているのでしょうか。

いえ、ベースアイディアやコンセプトなどは、すべて弊社側で考えています。先ほども申し上げましたが、たとえば夏のキャンペーンのテレビCMでは、はじめに“夏だから集まって遊んで欲しい”、というお客様をどういう気持ちにさせたいかをベースに考えています。そこから、“どうやれば伝わりやすいか”とアイデアを出していきます。企画やコンセプトが固まったら、そこから広告代理店に依頼して一緒に具体的な形にしていきます。


――:だいたい2ヵ月に1回のペースで新しいテレビCMになるかと思いますが、四季折々のクリエイティブになっていましたよね。始めの頃から振り返っていかがでしょうか。

最初のテレビCMは、『モンスト』の特徴である“引っ張って放すだけの簡単なゲーム”という立て付けの内容で放映しました。ターゲットも明確にして、学生やサラリーマン、女の子たちでも遊べるようになど、様々なプレイスタイルを伝えるようにしました。

引っ張ったら何かが起こるというインパクトを残しましたが、比較的、まだ当時はオーソドックスなCMでしたね(笑)。その後は、ラスカルやLINEなどのコラボCMを展開していきました。



――:あのラスカルを吹っ飛ばしたCMは衝撃的でした(笑)。ただ、わざわざコラボを題材にしたテレビCMを展開するのは、これまで例が無かったと思います。CMの最後に「コラボ実施中!」や「今なら貰える!」などのぶら下がりはよく見ますが……。

そうですね。そもそもコラボは何のために実施するのかは、こちらも他のプロモーションと同様にお客様を喜ばせるためだと思っています。だからこそ、もっと踏み込んで、コラボを実施していることをみなさんに知ってもらうため、コラボ中のキャラとマッチしたCMのクリエイティブも考えなければなりません。


――:そういう意味では、超・獣神祭を題材にしたテレビCMも放映していますよね。コラボもそうですが、ゲーム内キャンペーンをメインに据えたCMも珍しいです。

毎月、月末月初に流しています。たしかにこれも他社には無い取り組みのひとつですね。いわゆるコラボCMと同じような考え方で、ゲーム内キャンペーン訴求として展開しています。「いま『モンスト』ではお祭りやっているよ」というお客様を呼び込む形と、そのほか定期的に放映することで恒例行事のように「今月もそんな時期か…」と印象に残るきっかけにもなるかと思っています。


――:個人的に織田信長と明智光秀のテレビCMが大好きです(笑)。普段ゲームを遊ばない一般層の間でも非常に話題となりました。


ありがとうございます(笑)。このCMは、現代社会でも度々起こる上司と部下の微妙なすれ違いや関係性をあの時代に当てはめて、歴史上の人物が演じるという内容となっています。そこでは『モンスト』がキーとなり、ふたりの仲を取り持ち、「あの時代に『モンスト』があったら、もしかしたら“本能寺の変”は無かったかもしれない」と想像できるユニークさも兼ね備えました。


――:その語られないところも想像できてしまう点が面白いですよね。シンプルに見えて、かなり巧妙なクリエイティブだと思います。

これまで放映したCMのなかでも一番人気が高くて、CMデータバンクの好感度の全体ランキングで7位にランクインしました。CM好感度ランキングの上位のCMを見ていると有名なタレントを起用しないCMで上位に入っていることは少ないのですが、それだけ多くの方々にご支持をいただけたということで嬉しく思っています。


――:ゲーム内コラボに関してもマーケティング部が主動でやっているのでしょうか。

はい。ゲーム内コラボは、マーケティング部でパートナー様と交渉しています。その後は、ゲーム側の企画開発のメンバーと、具体的にどうゲーム内でコラボしていくかを一緒に考えて形にしていきます。


――:最近では「ルパン三世」とのコラボがありました。単純なゲーム内コラボだけに留まらず、実際に渋谷・表参道に隠れているルパン一味のポスターを撮影してツイートするといった、独特なリアルキャンペーンも展開していました。

まずルパンと『モンスト』がコラボしたら、どんなことが起きるのかを想像します。まあ……何か盗まれるだろうなと(笑)。

実際には、『モンスト』のなかの至宝である「獣神玉」を盗みに来るというルパンからの犯行予告が届き、それらを阻止するために、街に点在するルパン一味のポスターを撮影したり、キャンペーンサイトに出てくるルパン一味を見つけて目撃情報をツイートしていく施策になっていました。ある一定のツイート数まで目撃情報がたまると、コラボ開始時に全員にキャラクターをプレゼントするという内容です。

せっかくコラボをさせていただいているので、お互いのアセットを持ち寄って、いかにお客様に楽しんでもらえるのかを考えなければなりません。こういう仕掛けは珍しいですが、今後も積極的に行って、お互いがWin-Winの関係を築けるようにします。

 
©モンキー・パンチ/TMS・NTV

――:リアルイベントも次々と新たな展開が予定されています。直近では、賞金総額5000万円の「モンストグランプリ2016 闘会議CUP」ですね。スマホでは珍しいですが、これからe-sportsにも取り組んで行くのでしょうか。

そうですね。海外では盛んですが、まだ日本の取り組みは少ないですので、弊社でも積極的にe-sports文化を拡げていくお手伝いができたらと思っています。ゲーム大会と聞くと、一見敷居の高い印象があると思いますが、スマホゲームの場合は手軽に遊べるため、普段ゲームを遊ばない方でも参加して欲しいですね。これをきっかけに、e-sports文化の裾野が広がれば幸いです。


――:そして現在御社では、新しい人員を募集しているとのことですが、どのような人物像を求めていますか。
 
人を喜ばせたい、楽しい気持ちにさせたい、そういう想いを持っている方とは、ぜひ一緒に働きたいと思っています。もちろん最低限なマーケティングにおける知識や数字のことも重要ですが、先ほど申し上げたように、対象者にどのようなリアクションがあったのかなど、定性・定量と双方バランスよく見ることが大切です。

どうしてもビジネス視点ですと、定量的な反応しか見なくなるのですが、これらは結果として見ればいいだけで、我々が意図して行ったマーケティングは、本当にお客様に伝わったのかなどは、定性的な反応でしか確認することができません。

「こういうことをやりたい」「世の中を驚かせたい、楽しませたい」…そんな想像力があり、熱い気持ちをお持ちの方は、積極的に採用していきたいです。



――:そうした想いがあるからこそ、印象に残るマーケティング制作ができるのだと思います。

過去の事例をなぞることはしませんし、新しいことをどんどんとやっていきたいと考えています。というのも、我々はつねにフルスイングしているのです。いわゆるビジネス思考ですと、当てに行くことが重要ですが、結局それだと感動や驚きを生むことはできません。


――:たしかに。いまのフルスイングという言葉で妙に納得しましたが、そうでもしないとユーザーの心には残りませんよね。
 

ええ。仮に我々が当てに行ったら、だいたい“当てたぐらいの反応”しか返ってこないと思います。人を驚かせたり、心を動かしたりと、数値では測れない想いの部分を採用では重視しています。

あとは柔軟性もベースにあれば幸いです。ソーシャルゲームのサイクルは早いので、「これ行けるぞ」と思っていた企画が次の日ダメになるなど日常的にありえることですので、すぐに切り替えて次のことを考えられる柔軟性が必要だと思います。



――:分かりました。それでは、最後にチーム全体としての展望について教えてください。

スタジオ全体としては、「仲間とワイワイ楽しめるコンテンツを提供し続ける」「皆で楽しめる様々な遊び場を作っていく」というコンセプトがあるのですが、引き続き、それに紐づくようなマーケティングを行っていきます。

今後は『ブラックナイトストライカーズ』(関連記事)、『マーベル ツムツム』(関連記事)という新作も控えているため、『モンスト』同様に多くの方々に遊んでいただけるようなマーケティングを展開していきたいと思います。タイトルが変わっても我々のマインドは変わらないため、どのように展開していくのかは今後しっかり考えていきます。ぜひ、ご期待ください。



――:本日はありがとうございます。
 
(取材・文:編集部  原孝則) 


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会社情報

会社名
株式会社MIXI
設立
1997年11月
代表者
代表取締役社長 木村 弘毅
決算期
3月
直近業績
売上高1468億6700万円、営業利益248億2000万円、経常利益182億5000万円、最終利益51億6100万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
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