【TpGS】「大手・中小問わずチャンスあり」…台湾ゲーム市場を30年以上けん引してきたSoft-worldの王会長に訊く日中の過去・現在・未来


2016年1月28日~2月2日、台湾は台北世界貿易センターにおいて、「台北ゲームショウ2016」が開催。台湾と言えば、人口2300万人ほどにも関わらず、Google Playの世界売上で、中国・日本・アメリカに次ぐTOP5にランクインするほど、成長著しい市場だ。今年は、台湾・香港を中心に世界各国から300社以上のゲーム企業が出展した。

本稿では、30年以上に渡って台湾ゲーム市場をけん引してきたSoft-Worldを取材。同社と言えばコンシューマを皮切りに、PCオンラインゲームやモバイルゲームなど多様なプラットフォームのほか、メディアやプリペイドカードなど、様々な事業を抱えている、台湾を代表するゲーム企業だ。中国本土はもとより、コーエーテクモゲームスやカプコン、ソネットなど日本タイトルのパブリッシングも務めている。

今回は、Soft-Worldの取締役会長である王俊博氏にインタビューを実施。長年、台湾ゲーム市場及び日本タイトルの動向を見つめてきた王氏に、昨今の日中モバイルゲーム市場の雑感と今後の展開について聞いてきた。 

 

■「大手・中小問わずチャンスあり」…日中の過去・現在・未来



Soft-World 董事長 (取締役会長)
王俊博

現在台湾のモバイルゲーム市場は、7割近くが中国本土発のゲームタイトルが人気を博していると同時に、売上も三分の二を占めている。しかし、王氏は台湾市場について「日本のゲームタイトルの受け入れ度は高い」という。これまでもコーエーテクモゲームスの『信長の野望 Online』をはじめ、様々な日本ゲームタイトルを台湾市場でリリースしてきた同社だけに、「台湾ユーザーは日本のコンテンツに対して親しみを持っている」と言葉を続けた。

というのも、台湾ユーザーは既に幼少期から日本の漫画やアニメに触れているとのこと。年数回行われる台湾のアニメ展示会でも日本のコンテンツがほとんど占めるようだ。「台湾には、日本の文化に触れている消費者が多く存在。彼らは単純に遊ぶだけではなく、ファンとして定着している。そのため、将来的には日本のタイトルが台湾でもっと売れる可能性は高い」と王氏。

だが、直近のアプリストアのトップセールスを覗いてみるとTOP30に日本タイトルは非常に少ない。「私の見方としては、日本の開発会社は台湾での市場展開について、まだあまり積極的ではないのかなと思っています。台湾の市場を重視していない」と王氏は語ったが、続けて「ただ最近は日本の大手モバイルゲーム会社も台湾に子会社を設立させるなど、台湾市場における進出の重要度も年々上がっているかもしれない」と言葉を添えた。
 

開発・販売・メディアなど、台湾のゲームに関する多くの事業を手掛けているSoft-Worldだが、なかでも主力事業となっているのが、かれこれ10年以上続けているプリペイドカード「mycard」だ。そもそも台湾では、プリペイドカードによる決済方法が主流となっている。

もちろんキャリア決済などを利用する人もいるが、多くはクレジットカードを保有していない、または登録したくない人が多く、結果として購入するタイプのプリペイドカードが中心になっているほか、PCオンラインゲーム時代からプリペイドカードを使って遊ぶのが習慣となっているのが大きい。なお、台湾で展開する世界各国のゲーム会社の8割は、この「mycard」を利用しており、一般の利用ユーザー数も300万人にものぼる。

主に「mycard」は、コンビニをはじめ、量販店や電気店などあらゆる場所で販売されており、その提携・販売店舗数は全部で2万店舗ぐらいという。また、これら店舗にて広告宣伝やイベントなども実施し、プロモーションの場としても活用されている。単なるプリペイドカード事業としては終わらず、リアルの広告展開を持っているのが何よりの強みだという。加えて、今年の「台北ゲームショウ」に出展している3割の企業のブースやイベントは、Soft-Worldが担当しているとのこと。
 

▲「台北ゲームショウ2016」会場の様子

台湾市場のプロモーション施策について聞いてみた。「基本はテレビCM、WEB、リアルの3つですね。先ほども話しましたが、なかでも弊社はリアルのプロモーション活動に強い力を持っています」と王氏。もちろんWEBマーケティングにも力を入れているため、「海外企業が台湾・香港・マカオと繁体字地域に進出される際は、そういうトータルのサービスを提供できます」と言葉を添えた。

日本のゲーム企業が台湾に進出する際に、ユーザー層を分析することの大切さにも触れた。各社でも言われている通り、台湾ゲームタイトルはサイクルが早く、同様にユーザーも様々なタイトルを取っ替え引っ替えで遊んでいる。そのため、リリース時から多額の費用をかけて大規模プロモーションを打ち出し、一気に人気を上げては短期間で回収するパターンが多い。対して、日本のゲームは長期で遊んでもらえるような運営施策に長けている。 

こうして見ると、初回から大規模プロモーションを投下できる現地の大手ゲーム企業しか、台湾市場では通用しないのではないのかと思う。しかし、王氏いわく「中国のやり方をそのまま真似してもよくない。そもそも台湾には、日本のコンテンツが好きなユーザーが多くいます。とにかく最初は彼らの心を掴むことが重要。とくに若い学生や女性、本当に日本のコンテンツが大好きです」とのこと。公言している人もいれば、日本好きな潜在ユーザーも非常に多くいるとのことで、「中国や台湾の色に染まらないでアピールしていくのが大切」とした。

王氏は、改めて日本企業による台湾市場への進出は大きなチャンスだと語る。「日本のタイトルに合わせたマーケティングを確立させて成功させる。その後、台湾をステップにして、中国大陸への展開も非常にやりやすくなるので、大きなシェアが見込める」という。

具体的なマーケティング方法は、リリース当初から大規模に投下する中国式とは異なり、「予熱期間として、まずはリリースの3カ月前からプロモーションを展開。その期間にタイトルの目標となるターゲット層を探し出す。見つけることが出来れば、その層に向けたクリエイティブや施策に変更していく」と王氏。一番コアな層を通して、友達に紹介してもらうなどのバイラル効果を見込む形となり、少ないコストで効果的にプロモーションを展開するという。
 

今後の台湾モバイルゲーム市場の動向については、「世界各国の開発会社は、台湾市場に注目しています。そのため、今後も競争が激化していくでしょう。そのうえで、ひとつのタイトルに頼ってはいけません。多角的な展開を見据えることが大事です。中国はヘビーユーザーが多くいる印象ですが、その反面、台湾ではLINEなどのカジュアルゲームも非常に人気です。そのため、大手・中小問わず、カジュアルゲームをきっかけにヒットに結びつくことも可能性はあります。重要なのは、いかにうまく運用していくかです」。
 
そして、最後に2016年におけるSoft-Worldの展望について聞いてみた。「今年もより日本のタイトルに力を入れたいと思っています。弊社の戦略としては、中国語で“分衆市場”という言い方で、ジャンルごとに様々なゲームをリリースすることです。何もトップセールスでTOP30に入らなくてもいいと思っています。ユーザーに長く遊んでもらえることが出来れば、必ずそれなりの見返りがあると思っています」と述べた。

また、長期的な目標としては、「弊社は30年もの歴史があります。パッケージ、PCオンライン、モバイルとそれぞれの時代に適したサービスを送り出してきたが、その都度、ユーザー・市場を深く・広く理解することに努めてきました。それらを達成するために、弊社では5つの心を唱えています。細かい心、注力する心、長く耐える心、気配りする心、熱い心。この心を胸に刻んでこれからも成長していきます」と力強い言葉で締めてくれた。
 
30年以上もの間、台湾ゲーム市場のみならず、日本企業へのサポートに努めてきた王氏だが、会長の役職になったにも関わらず、未だ第一線で事業・経営の手腕をふるっている。インタビューして気付いたのは、王氏が変わらぬ若い感性を持ち続けていること。ユーザーのニーズも刻一刻と変化する流れの早いゲーム市場において、王氏はきちんと的を捉えているのが伺えた。Soft-Worldのサポートを機に、より多くの日本企業が台湾市場へ進出し、チャンス・成功を掴んでもらいたい。
 
(取材・文:編集部  原孝則@ha_tatsu
(取材協力:スパイスマート


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