【インタビュー】セカンダリーマーケットのさらなる高みを目指すマイネット ―『三国志乱舞』の運営移管の真意をマイネット、スクウェア・エニックスのキーマンに直撃


マイネット<3928>は3月23日、スクウェア・エニックスが運営する『三国志乱舞』の運営移管を発表した(関連記事)。『三国志乱舞』といえば、スクウェア・エニックスとしては初となる三国志を題材としたゲームとして、高い注目を集めた作品だ。実際に配信後も好調なセールスを記録しており、今回の運営移管のニュースに驚いた方も多いだろう。
 
今回、なぜ『三国志乱舞』を移管することになったのか、そしてなぜマイネットを選んだのかをインタビューで伺った。インタビューのお相手はマイネットの代表取締役社長・上原仁氏(写真左)と、スクウェア・エニックスの第12ビジネス・ディビジョンでディビジョン・エグゼクティブを務める渡辺泰仁氏(写真右)の2名。話を伺う中で、両社が思い描く今後のビジョンも徐々に見えてきた。

 

■『三国志乱舞』をさらに成長させるための運営移管


――まず、今回の取り組みの概要について、あらためて教えてもらえますか?
 
上原氏(以下、上原):マイネットとスクウェア・エニックスさんが業務提携し、『三国志乱舞』の運営を弊社に移管していただくことが主題となります。
 
渡辺氏(以下、渡辺):ゲームのパブリッシュは引き続き弊社で行いますが、実態としてはマイネットさんの中に開発ラインも敷いていただくことになります。現在は、その引き継ぎ作業を行っているところです。
 


――協業することになった経緯は、なにかあるのですか?
 
上原:実は渡辺さんとは個人的なお付き合いがあり、数年間に渡りお酒を共にしていたんです(笑)。最初に知りあったのは私たちが運営移管の事業を始めたころでしたね。

渡辺:当時からスクウェア・エニックスはスマートフォンタイトルの数が多くて、その中には当然伸びていくタイトルもあれば、徐々に落ちていくタイトルもありました。『三国志乱舞』はどちらかというと前者で、ランキングでも安定した推移を見せていました。その中で、マイネットさんに運営をお任せすれば、クオリティを落とさず、より一層上を目指せるタイトルになると思い、移管に踏み切ったのです。また、『三国志乱舞』を移管すれば、当社のスタッフが新しいタイトルに取り掛かれることもメリットと捉えました。
 
上原:『三国志乱舞』は私自身もそうですし、会社のスタッフも注目しているタイトルでした。なによりキャラクターを長所としている点は、当社の得意としている部分にも重なるので、以前から「『三国志乱舞』で一緒に展開できたらいいね」とは話し合っていたんです。そしていつしか、CroPro(クロプロ)で相互送客のコラボをしまして、今回はさらにもう一段先の取り組みをしようと考えました。
 

――『三国志乱舞』はスクウェア・エニックスさんの中でも長寿タイトルだと思いますし、それを移管するとなると、難しさもあったのではないでしょうか。
 
渡辺:確かに本作は、リリースしてから約2年が経ちます。また、弊社のスマートフォンタイトルの中でも異色の作品ということもあって、当時から高い注目を集めていました。それだけに、下手な手を打つわけにもいきませんので、マイネットさんともじっくり話し合う必要がありましたね。
 
上原:マイネットを信頼していただけた理由も、よければ教えていただけますか?(笑)
 
渡辺:上原社長の飲みっぷりが良かったのと、とても真面目だったところですかね(笑)。マイネットさんが業務を拡大している中で、他のメーカーさんからも似た話をいただく機会がありました。しかし上原社長のプレゼンが一番しっかりしていましたし、「この人はよく考えてくれているんだな」と率直に感じたからです。
 


――なるほど(笑)。ちなみに、具体的に取り組みの話が出てきたのはいつごろからだったのですか?
 
上原:具体的な話がまとまり始めたのは昨年の10月ごろなので、約半年前といったところでしょうか。もちろんその前からスタッフの方々とお話をさせていただいたり、逆に当社のスタッフを紹介する機会も作っていました。それらもすべて合わせると、1年以上前に遡ります。
 

――では、スクウェア・エニックスさんとしてもしっかりとチェックしたうえでの決断だったと。
 
渡辺:もちろんです。話の中で弊社の考え方や『三国志乱舞』の特徴を紹介して、逆に私たちもマイネットさんのことを理解していき、関係性を深めていきました。
 

――上原さんとしては、『三国志乱舞』にどのような魅力を感じたのですか?
 
上原:実は当社のスタッフに『三国志乱舞』プレイヤーがかなりいまして、評判の良さも充分に知っていたのです。ユーザーさんに長く楽しんでもらおうとするのは当然ですが、本作に関しては世界観をお届けすることも重視している点は魅力でしたね。私たちはすでに三国志をテーマにした作品を運営しており、その強さは知っていましたから。
 

――そしてこれから運営することになった際、方針に変化はあるのでしょうか?
 
渡辺:出だしとしては今までの運営方針を踏襲していただきたいと考えています。これも時間をかけて両社の考えを擦り合わせて、どこかのタイミングでマイネットさんのカラーも出してもらえたらと期待しています。
 
上原:『三国志乱舞』と当社の運営事業の噛み合わせが良いところは、コラボレーションだと考えています。本作はこれまでにも他タイトルとのコラボレーションを重視しておりました。それは私たちが持つタイトル群や、相互送客ネットワーク「CroPro(クロプロ)」との親和性が高いと感じていますし、コラボを活かす方向性は今後も継続していきたいです。
 
渡辺:『三国志乱舞』のサービスをする中で、ものすごくたくさんのコラボレーションを実施して、毎回趣向を凝らした内容だったと自負しています。一方で、コラボレーションは物理的に労力がかかるもので、継続することの難しさも感じていました。これをマイネットさんが続けてくれるというのは、マッチングがいいと思った点のひとつですね。
 

――現在のユーザーとしても、まずは安心感を持ってこのニュースを受け止められそうですね。
 
上原:とはいえ、もちろん今後のビジョンも考えていまして、キャラクターをもっとかわいくしたいです(笑)。
 
渡辺:ははは(笑)。
 
上原:私たちは現在、18タイトルを運営しており、月に合計で400体くらいのキャラクターを創出しています。これは量だけでなく質にもこだわっており、どんなキャラクターがどのようにウケるかをデータとして取っているのです。このデータとクリエイターの思いを掛けあわせ、ユーザーさんがもっとも喜ぶキャラクターを『三国志乱舞』でも提供していきたいです。
 

――今まで以上に愛される作品にしていくと。
 
上原:三国志の世界観も当社が得意とするとことですし、より高い価値をユーザーさんに届けられると思います。
 

――今後運営する中で、両社が協力する可能性はあるのですか?
 
渡辺:初めての取り組みなので、お互い思い描いていることがすべて実現できるとも限りません。やはりすり合わせていく作業は今後も必要ですし、その中でマイネットさんからの提案もあるでしょうし、我々から発言することもあると思います。その過程で、さらなる信頼関係を築いていきたいです。
 
上原:今回の移管提携は、ユーザーさんに対して、これまでと同レベルの運営を提供することを約束するものです。この約束がしっかり守れたとき、次のステップに行けるものと思っています。
 

――先ほどお話にありましたが、マイネットさんが掲げる相互送客ネットワーク「CroPro(クロプロ)」との相性もかなり良さそうですね。
 
上原:間違いないですね。『三国志乱舞』で取り組んでこられたコラボレーション先のタイトルとは、元々相互送客の関係が築けているはずです。また、当社が「CroPro(クロプロ)」で取り組んでいる事業者さんとも新たな連携を取れると見込んでいます。加えて、「CroPro(クロプロ)」のタイトルは共通のAPIを使って運用しているため、コラボのスピード感も高められると思います。
 

――渡辺さんとしては、今後のビジョンという点で期待したいことはありますか?
 
渡辺:我々としてはこの2年間、かなりの労力をかけて『三国志乱舞』を育ててきまして、やるべきことはすべてやったと言い切れます。それだけにマイネットさんには、新しい角度から『三国志乱舞』を見て、育てる余地を見出してほしいですね。当然人が変わればサービスも変わります。しかし、ユーザーさんの興を削がないようアドオンしてくれるのではと期待しています。
 
 
――『三国志乱舞』ですが、ユーザーさんからはどのような評価をいただいていたのですか?
 
渡辺:本作の大きな特徴として、継続率の高さがあります。以前調査したときには、運営を開始した月にプレイしたユーザーさんの20%が現在も残っているという結果が出ました。もちろん長く遊んでいただけるよう、私たちも努力してきましたが、それが実を結んでいるのは良い評価の表れなのではと思います。スタッフからも非常に愛されていて、その思いが伝わったのでしょう。
 

――では、マイネットさんに対しても自信を持って送り出せますね。
 
渡辺:運営移管というと、いまだにネガティブなイメージを持たれがちです。ですが『三国志乱舞』は売上、利益ともに出しているタイトルであり、これまでのイメージを覆す取り組みになると思います。
 
上原:私としても、スクウェア・エニックスさんの持つ運営の水準は最上のランクだと考えています。それと同じ水準を当社でも見せられることを、本作を通して証明していきたいです。
 

――マイネットさんとしても、大きなチャンスと捉えているのですね。
 
上原:今回の業務提携は、スクウェア・エニックスさんの特色を残しつつも、開発・運営のすべてを任せていただく形になっています。すべてを任されるというのはプレッシャーがかかる反面、成功すれば一層評価していただくチャンスになると考えています。スマートフォンゲームにおけるセカンダリーマーケットは受け身の事業であると思われがちです。しかしいつかは、運営のあり方として、定着させたいのです。
 
渡辺:ホテルなどの店舗に例えると分かりやすいかもしれませんね。ある一流のホテルがあって、まずは我々がホテルの経営をすることになったとしましょう。しかし、その1店だけでなく、同じレベルのホテルを他にも建て、同じブランドとして育てることになりました。第二のホテルも、同じサービスを提供するのは当然のことですよね。マイネットさんには、そこをお願いできればと思いますし、お願いしても問題ないと確信しています。
 


――しかし、これだけ多くのユーザーを抱えるアプリですと、引き継ぎ業務も苦労するのではないでしょうか。
 
渡辺:作業も当然多くなりますし、なによりもスタッフの思い入れが非常に強い作品です。スタッフ一人一人の考えや目標をマイネットさんに引き継いでもらいたいので、少しずつお話を進めているところです。
 
上原:そこに関してはスクウェア・エニックスさんにも、胸を張って「お任せください」と伝えております。これまでに16タイトルの移管を行ってきましたが、大きなミスを起こしたことは一度もありません。プロセスの中でスタッフのみなさんが持っていた思いも引き継ぐための時間もしっかりと取ってあります。また、タスクについては分解・可視化して、漏れなく引き継ぐことを使命と捉えています。
 

――ということは、スタッフのみなさんと話し合う場も作っているのですね。
 
上原:もちろんです。事業の考え方、作品の考え方のすべてを受け取って、初めて移管と言えるのです。
 
渡辺:かなりコッテリしたミーティングを積み重ねています。プロデューサーやディレクターだけでなく、末端のスタッフの意見まで聞いてくれるのは本当に嬉しいですね。今では、一部スタッフがマイネットさんのスタジオに常駐しながら作業をさせていてだいています。
 

――スタッフの方々の思い入れがそれだけ強いとなると、マイネットさんとしても、自然と強い気持ちで取り組むことになりそうですね。
 
上原:そうですね。もちろん今までの取り組みにも言えることですが、スタッフのみなさんの声を聞いていると、気が引き締まります。そしてユーザーさんからの思いも当然ありますので、すごく気合が入っています。
 

――とはいえ、これだけ大きく成長した作品ですと、移管時のトラブルには細心の注意を払わなければいけませんよね。マイネットさんとしては、具体的にどのような対策を考えているのですか?
 
上原:当社も16タイトルを移管する中で、さまざまなトラブルを体験し、乗り越えてきました。そこで得たノウハウを数百件におよぶリストにまとめ、ひとつひとつチェックしながら作用を進めています。『三国志乱舞』ほど巨大なプロジェクトの移管を、事業が発足して間もないころに実現できたかというと困難だったと思います。しかし、現在はバッドノウハウも積み上げてきましたし、胸を張って「成功させます」と断言できるのです。
 
 

■サービス運営のプロフェッショナルとしてユーザーにバリューを提供


――ちなみに、マイネットさんは近年運営移管に積極的ですが、その流れは『三国志乱舞』以降も続くのでしょうか。
 
上原:はい。私たちは「セカンダリーマーケット事業の圧倒的ナンバーワンになる」という目標は変わりません。そして、『三国志乱舞』が目標を達成するための大きな一手になることを期待しています。
 
渡辺:近年はスマートフォン市場に深く踏み込めてきたと思いますが、それでもリーチできていないお客様はたくさんいます。特に成功タイトルの能力が高いスタッフは、ひとつのタイトルに縛られてしまい新作を作れない状況があります。そこを運営移管でお任せできれば、弊社の優秀なスタッフが新たな作品に踏み出せます。マイネットさんがセカンダリーマーケット事業で成功することは、我々にとってもメリットがあるのです。
 
上原:その状況を解消することが、セカンダリーマーケット事業の意義の一つだと考えています。私たちはサービス運営のプロフェッショナルとして、ユーザーさんにバリューを提供し続けたいと思います。そうやって産業全体が盛り上がってくれるとよいですね。
 


――渡辺さんとしては、今回の運営移管で新たなチャレンジができそうな手応えもあるのですか?
 
渡辺:今はまだ移管のための準備を進めている段階ですが、これが一段落すれば、次のタイトルの企画も本気になって考えられると思います。そうして生まれた新作に、『三国志乱舞』のユーザーさんが入ってきてくれたら嬉しいですね。
 

――分かりました。では、今後ユーザーに期待してほしいところがあれば教えてください。
 
渡辺:コラボレーションの影響もあってか、いろいろな人や文化が入っている作品です。マイネットさんに運営が移ってからも、『三国志乱舞』独特の色は損なわれないと思いますので、引き続き楽しんでもらいたいです。
 
上原:ユーザーさんには長くワクワクしていただきたいと考えています。ゲームは仲間とともに楽しむ「場」でもあります。ゲームの魅力と場の魅力を両輪として提供して、コミュニティとしても強くしていけたらと思います。
 

――ありがとうございました。
(取材・文:ライター ユマ)




■『三国志乱舞』
 

公式サイト



 
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
企業データを見る
株式会社マイネット
http://mynet.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社マイネット
設立
2006年7月
代表者
代表取締役社長CEO 岩城 農
決算期
12月
直近業績
売上高87億1700万円、営業利益1億6800万円、経常利益1億2500万円、最終利益1億4300万円(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3928
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