【インタビュー】「ゲームの入り口を担う責任感で取り組んでいる」 女児向けゲームの雄・日本コロムビア島田良尚氏が語る"コロムビア流ゲームづくり"


日本コロムビア<6791>といえば、日本最古のレコード会社として知られているが、ゲーム事業も手がけていることは、一般ユーザーには意外と知られていない。実は女児向けのゲームについては業界トップクラスの実績を持っている。昨年11月にリリースしたニンテンドー3DS向けソフト『すみっコぐらし おみせはじめるんです』は推定実売数が10万本を突破するなど、実売10万本クラスの人気シリーズを複数展開しているのだ。今回、コロムビアのゲーム事業の責任者である島田良尚氏にインタビューを行い、ゲーム事業の成り立ちや代表的なタイトル、コロムビア流ゲームづくりのポイントについて話を聞いた。
 
 
 
■日本コロムビアのゲーム事業の成り立ち
 
――:本日はよろしくお願い致します。日本コロムビアの成り立ちを教えていただけますか?
 
当社のゲーム事業は、電子部品メーカーのTDKの100%出資子会社であったTDKコアの展開していたゲーム事業が母体となります。TDKが音楽やゲームなどのソフトウェア事業を売却することとなり、当社(日本コロムビア)が2007年に買収しました。それまで当社は、あくまでレコード会社として、ゲーム事業には参入してきませんでしたが、TDKコアのソフト部門買収をきっかけにゲーム事業を展開することになりました。
 
TDKコア時代のゲーム事業は、ゲームボーイカラーの頃にスタートし、年間2、3本のペースで出していました。『マクドナルド物語』『花より男子』『志村けんのバカ殿様』などキャラクターゲームを手がけており、当時から女児向けのゲームも出していました。「ニンテンドーDS」では、学習ソフトがブームになりましたが、社内で教科書教材事業もやっていたこともあり、漢字学習などのソフトも出しました。

 
 
――:女児向けのゲームにフォーカスし始めたのはどういう経緯だったんでしょうか。
 
本音ベースでお話をしますと、新規参入で参入規模の小さいメーカーですと、開発規模の大きなプロジェクトでは勝負できません。我々も最初から女児向けにこだわっていたわけではなく、手を変え品を変え、色々なところにチャレンジをしていくなか、気がつくと、女児向けのゲームの実績が非常に安定していて、結果として女児向けにフォーカスすることになった、といった状況です。
 
 
 
――:女児向けゲームというと、作るうえで独特の難しさがあると思います。気を使っている点はありますか?
 
気をつけている点としては、まず、当社のゲームは、お子さんが最初に手にされるゲームになる可能性が高いということです。ですので、大人の感覚では当たり前のことがお子さんには当たり前ではない、よくわからないということは、いつも気にかけています。初めて女児向けゲームを開発する際、UI(ユーザインタフェース)に関する難しさを痛感しました。例えば、「決定」はAボタン、「キャンセル」はBボタンという「ゲームの常識」も初めてゲームに触るお子さんは知らないのです。
 
もっと難しいポイントがありまして、低年齢の女児向けゲームの場合、購入者とプレイヤーが異なることです。購入者が親御さんやおじいちゃん・おばあちゃんで、遊ぶのはお子さんです。これが若者向けのゲームであれば、プレイヤーが購入者自身ですから、その若者自身が満足すればいいのですが、子供向けでは出資者である親御さんの気持ちも気にする必要があります。親御さんであれば、このゲームを遊ばせることで、子供に変な影響がないかどうかを心配するものです。また5000円弱の高額商品を買うわけで、お子さんには長い間楽しんで欲しい、と期待されるわけです。そのあたりは、青年向け、大人向けを制作する上では考えないポイントだと思います。

 
 
 
■高品質の理由――開発会社との長い付き合いと、キャラ愛の強いスタッフに恵まれていること
 
――:コロムビアさんはおそらく外注で開発をされているかと思いますが、ユーザーからはゲームの作りが丁寧と評判です。気をつけているポイントはあるんでしょうか。
 
ありがとうございます。開発を委託している開発会社さんとは、長く一緒に作ってきているところが強みだと思っています。ゲームの企画ごとに開発会社を変えていると、その開発会社の個性や強みは出ますが、コロムビアのカラーとして一貫性は出せません。当社も、何社もお付き合いさせていただいておりますが、長くお付き合いをさせていただくことで、コロムビアイズムというものを踏まえて作っていただいています。もちろん初めてお取引する時は子供向けであること、注意すべきポイントなど、しっかりとお話し合いをしています。
 
また、ゲームの出来に関しては、キャラクターやテーマに愛情を注ぐ開発チームにお願いできているところが大きいと思います。特にキャラクターゲームに関しては、そのキャラクターのことをしっかり研究していただきます。こちらから指示するだけでなく、ご本人たちに理解していただくことが重要です。結果的に、開発現場のスタッフ1人1人が「すみっコぐらし」や「こびとづかん」などのキャラクターが持つ魅力に、仕事を超えてハマってくれて、そうすることによって、作り手とエンドユーザーとの境界線が薄まっているようです。ファンの人が作っている感覚があり、自ずからファンの好みそうな要素をゲームに盛り込んでくれるようになります。
 
あと、「あこがれガールズコレクション」シリーズという女児向けの職業体験ゲームに関しては、最初のストーリープロットのところをよく議論をします。当社オリジナルのシリーズでもありますので、注意点の伝達には気をつけています。小さい女の子がウチのゲームを通じてその職業に憧れをもってもらわないといけないわけですから。このゲームで遊んで、この職業に就きたくないと思ってもらっては困ります。

 
 
――:外注を使ってゲーム開発をやっていると、「思っていたものと違う」ということはありうるかと思いますが、気をつけていることはありますか?
 
そういったことはまったくないといったら嘘になりますし、そうならないように日夜気をつけています(笑) とはいえ、1年近いゲーム開発の工程を、つきっきりでやるわけにはいきません。そのため、開発の初期段階での意思統一には特に時間を割いていますね。ですのでゲームが出来てきて「これじゃない」ということはそうそうはないです。初めてのお取引先で、まだ意思疎通がうまく出来ていない場合には、自分の発言が意図したように受け取られず、ゲームを見て「ああ、こうなっちゃったか…」と予想外の方向に行くことはたまにありますが、同じ開発チームと長くお付き合いをさせていただくことで、徐々に「突発事故」が起きないようになっています。
 
 

 
■「すみっコぐらし」「あこがれガールズコレクション」「ほっぺちゃん」が人気
 
――:代表作をご紹介いただけますか?
 
直近ですと、「すみっコぐらし」のシリーズが非常に人気ですね。キャラクター自体の人気の拡大とともに、ゲームの方もご好評いただいています。最初にこのキャラクターを知った時は、どんなゲームにするかとても悩みました。犬や猫のキャラクターだけだったらそれほど悩むことはないのですが、とんかつの端っこや、エビフライのしっぽなど、本来、生き物ではないキャラクターもいましたので。設定的にも、消極的で自信がなく、超ネガティブ気質なキャラたちなので、アクティブには行動させられない。もちろん、ペットのような飼育される対象でもないので、とにかく最初は掴みどころがなくて企画に難航したのが印象深いです。
 
 

しかし、開発チームに“「すみっコ」たちを愛でるゲーム”というコンセプトを伝えて方向性が定まってからは、とても楽しんで作れました。開発中、サンエックスさんの原作チームにも、積極的にゲーム制作に参加していただきました。監修する・されるの関係というより、一緒に仲良く作ることができたゲームですね。ゲームの内容に原作者たちの思いが活かせる作り方ができましたので、その辺がファンの方々に喜んでもらえているところかもしれません。
 
3月17日に任天堂さんから、3DSの人気作シリーズ「ハッピープライスセレクション」が発売されますが、その中に、「すみっコぐらし」シリーズの1作目「すみっコぐらし ここがおちつくんです」もラインナップされました。シリーズ・モノは1作目と2作目を併売するのは本来難しいのですが、幸いにして、両方とも現役でファンの方々に愛されているのは喜ばしい限りです。

 
 
 
――:先ほど少し話に出ましたが、「あこがれガールズコレクション」シリーズも人気ですね。
 
はい。このシリーズは、いわゆる職業体験モノで、今は『わんニャンどうぶつ病院 ステキな獣医さんになろう!』というゲームが人気です。動物病院の先生の見習いになって、一人前の獣医さんを目指す内容です。このシリーズの商品は、一気に何万本と売れるというわけではないですが、毎週、数百本単位で確実に積み上がっています。キャラクターゲームやマニア向けゲームは初速が出る代わりに、長く続かない傾向がありますが、この「あこがれガールズコレクション」シリーズは発売時から複数年にわたって、じわじわとバックオーダーがもらえています。
 
 
 
――:このシリーズは、どういう経緯で立ち上げようとお考えになったのですか?
 
あこがれガールズコレクションと銘打つ前も、漫画家や看護師などの職業が体験できるゲームは作っていましたが、いずれも散発的に終わっていました。ある時、ちゃんとしたブランドとして作っていくべきではないかということになり、ロゴを作って一貫したシリーズとして出すことにしました。これによって、気に入っていただいた方にリピーターとしてシリーズ作品を購入していただく、という流れが出来たと思います。先ほどの「わんニャンどうぶつ病院 ステキな獣医さんになろう!」で、シリーズは11作になりました。
 
このようなゲームは、良い意味で流行り廃りがないので、一昨年のように『妖怪ウォッチ』と『アナと雪の女王』がゲーム・玩具業界を席巻したときでも変わらず安定して受注をいただけました。とはいえ、世の中から広く認知されているかというと、まだまだだと思っています。我々のお客様は、成長すると、どんどん卒業していってしまいます。世代交代が早いのが特徴なのですが、だからこそ、普遍的なテーマのほうが定番化しやすいのだとも思います。

 

 
――:最近ですと、「ほっぺちゃん」シリーズも目立っていますね。
 
当社では「ほっぺちゃん」シリーズも人気です。2013年から3年連続で新作を出しました。「ほっぺちゃん」は、小中学生向けのプチプライスアクセサリーを専門に扱っているサン宝石さんのマスコットキャラクターです。大人の男性にはあまり接点がないので、知らない人は多いと思いますが、小中学生の女の子には大変メジャーなキャラクターです。2013年に発売した『ほっぺちゃん つくって!あそんで!ぷにぷにタウン!! 』はおかげさまで15万本を越えるヒット作品になりました。「ほっぺちゃん」たちがゲームの中で動き回る様子が、ファンのお子さんに喜んでもらえたようです。「すみっコぐらし」もそうなのですが、ぬいぐるみやマスコットとして持っているものがゲームの中で動き出す、というのは、お子さんにとっては、たいへん感動的なことのようですね。
 
 

流通の方からすると、普段接点がないキャラクターを扱ったゲームですので、「本当にこのキャラクターが人気なのか?」と言われることが多々あります。最近になって、「コロムビアのゲームの案内を見て、初めてそのキャラクターが人気だったことを知るんです」と言われることが増えてきました。私たちも、皆から熟知されているキャラクターよりも、これから広がっていくであろうキャラクターを見つけ、扱うほうが楽しいしやりがいがあると感じています。

 
 
 
■ゲームの入り口を担っているという責任感
 
――:キャラクターの見極め方はどうやっておられるのですか?
 
よく聞かれますが、感覚的なものですね。もちろん、マイナー感があるものよりはメジャー感があるものを選ぶ、といったところはあります。仕事柄、キャラクターの市場での人気を調べたりもしますが、いわゆるキャラクター認知度ランキングのようなものは、あくまでも参考程度にしています。上位にランクインするキャラクターのゲームを作っても、それが受け入れられるかどうかは、まったく別の話だと考えています。またゲームにするということを踏まえると、印象の暗いものやテーマの重たいものは扱いづらいですね。
 
実は、以前「こびとづかん」をゲーム化する時は悩みました。このキャラクターが「キモカワキャラ」で人気だと知ってゲーム化を検討しましたが、少し毒気が強く感じられました。そこで、自分たちなりに「こびとづかん」について研究しました。よく「キモカワ狙い」と見られがちなんですが、キャラクターに深く接していくと、実は、設定等が大変細かく考えられているためリアリティがあり、コビトたちの習性等を知れば知るほど、コビトたちの表情やしぐさ、行動がかわいいと思えてくるところがすごく面白く感じました。そこがこのキャラクターの魅力だとわかったとき、ゲーム化に自信が持てました。私たちも「こびと」の名前をいつの間にか覚えてしまい、一時は電車の中であたかもコビトたちが実在するかのように、コビトの習性について語り合っていたりしました。

 
 

――:子供向けのゲームの企画をされる際に気をつけているポイントはありますか。
 
前にもお話しましたが、「これから作るゲームソフトが、その子にとって初めてのゲームになるかもしれない」と思って企画しています。遊んでくれた子が、ウチのゲームにがっかりしたら、これから先、ゲームを遊んでくれなくなるかもしれません。すごく大げさにいいますと、ゲーム業界において、「子供たちの入り口」を担うという責任感をもって取り組んでします。少し言葉が悪いですが、「クソゲーで騙された」と親子で思われたら、ゲーム業界の将来に悪影響を及ぼすのではないか、とさえ思っています。
 
また、キャラクターのゲームであれば、キャラクターを愛でている人が何を欲しがっているのか、素直に考えるようにしています。大人目線で味付けをすると、ファンやお子さんのニーズから遠ざかってしまいかねないので。実は、それが一番難しいんですが(笑) 例えば、ほっぺちゃんですが、実物はシリコン樹脂を絞り出して作っているんです。手作りのため、顔つきや表情、アクセサリーの付き方がひとつひとつ微妙に違います。子どもたちは、お店で好みの顔つきになっているものを時間を掛けて探し出して購入しています。そこで、ほっぺちゃんのゲームで遊ぶ子が何を望むのかと考えた時、「自分がかわいいと思えるほっぺちゃんを作りたいのではないか」と考えました。そこで、ゲームは、ほっぺちゃんを「絞りだす」ところから始まるようにしました。開発現場も大変だったと思いますが、これがしっかりしたシステムとして完成すれば、ファンには確実に刺さると思いました。
 


――:子供向けのゲームのマーケットはどういった状況にあるのでしょうか。
 
あくまで私見ですが、ニンテンドー3DSは成熟期を迎えつつあると思います。一般的にハードウェアは、ゲーマー層から浸透し、徐々に一般層、そして、下の世代に行き渡りますが、いまは下の世代にも浸透してきた状況です。ハードが出た当時は小さいお子さんはまだ持っておらず、マーケットは小さい状況でした。その意味では、ハードが普及したいまの状況は、我々のように子供向けゲームをつくっている会社には非常に良い状況といえます。また、子供向けゲームは、青年向けに比べてスマートデバイス・アプリの影響を受けづらいです。ただ、どこの携帯電話キャリアも子供向けのスマートデバイスの展開を図っている状況であり、当社としても何か考えなくてはなりません。女児向けゲームは当社がもっとも得意とするジャンルですので、今後はスマートデバイス向けのコンテンツ供給もありうるかもしれません。その場合でも、「親子が安心して楽しめるゲーム」として出したいですね。
 
 
――:コロムビアさんは音楽や映像の資産も豊富かと思いますが、なにか大人向けの展開は考えておられるのですか?
 
はい。大人向けについては、時代の流れには逆らえないこともあり、スマートデバイス向けのビジネスをどう展開するのか、具体的に検討している状況です。日本コロムビアの持つソフト資産を活用したコンテンツ展開ができたらと考えていますが、これについては鋭意検討中です。
 
 
――:ありがとうございました。
 
(編集部 木村英彦)
 
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会社情報

会社名
日本コロムビア株式会社
設立
1910年10月
代表者
代表取締役社長 阿部 三代松
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