未来のゲームを想像するために必用なこと…『もじぴったん』中村隆之氏が登壇したDeNA主催「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」を取材


ディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)が主催する学生&若手ゲームプランナー(=ゲームデザイナー)向けの勉強会「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾~未来を担う人に伝えたいこと~」。5月20日に渋谷ヒカリエ DeNA本社で開催された第12回では、元ナムコで『ことばのパズル もじぴったん』シリーズでプロデューサー・ディレクターをつとめ、現在は神奈川工科大学でゲームデザイン教育研究を進める中村隆之氏が登壇した。

ねぶたのリズムで北海道の本州侵攻を防ぐ『アオモリズム』など、東京ゲームショウの学校ブースで異彩を放つタイトルを学生と共に発表し続ける中村氏。本勉強会でも大学での授業をベースとしたユニークな講義で知られ、今回で第3回目の登壇となる。

今回中村氏が掲げたテーマは「ゲームプロデュース入門/コンセプトを伝える方法」で、俳句をひねりながらゲームコンセプトを凝縮するという、他に類をみない内容となった。


 

■商品がもつ2つの力「コンセプト」と「パフォーマンス」



▲中村隆之氏

冒頭「消費者は『買う前』と『買った後』で2回評価をしている」と切り出した中村氏。一般的に商品レビューは「買った後」に行われると考えがちだが、そもそも「買う」という行為自体が一種の評価に当たるというわけだ。特にソーシャルゲームではタイトル数が非常に多いため、「遊んでおもしろかった」だけでは市場で埋もれてしまう。そのためには「商品の魅力を的確に対象ユーザーに伝えること」が重要になる。

「『おもしろいゲーム』を作りたい人はたくさんいますが、『おもしろそうなゲームを作りたい』という人はなかなかいません」(中村氏)。もっともクリエイターであれば前者に集中すればいいが、プロデューサーには後者の視点が重要だ。プロデューサーの役割はプロジェクトの収支に責任をもつこと。そのため役割範囲も企画・資金調達・制作管理・運営・プロモーション・マーケティングなど、プロジェクト全般に及ぶからだ。

中村氏はこれを「コンセプト」と「パフォーマンス」という言葉で解説した。コンセプトとは「商品を買う前に欲しいと思わせる力」のことで、消費者のニーズや期待感に直結する。これに対してパフォーマンスは「商品を購入後、買って良かったと思わせる力」で、消費者の満足感に影響を及ぼす。中でもゲームタイトルやキャッチ、パッケージデザインは、誰もが等しくできるコンセプトの伝達方法であり、真剣に考えるべきだとした。
 



実際に2008年に発売されたWii向けゲームソフトの『ブームブロックス』は、良質な内容にもかかわらず、パッケージデザインでコンセプトを伝えきれずに失敗した好例だという。これに対して『ことばのパズル もじぴったんDS』では、「どんなゲームか」「何が良いのか」「対象ユーザーは誰か」が一目でわかるようなパッケージにするように、タイトルやキャッチ、デザインなどに苦心したと振り返った。

なお、中村氏はこれらの知見を「ヒット商品開発ーMIPパワーの秘密ー」(同文舘出版)から学んだという。著者の梅澤伸嘉氏はカビキラー・スキンガード・禁煙パイポなどのロングセラー商品の商品開発に携わった人物。他に「未充足ニーズ理論(したいやりたい、でもできない、という強いニーズに応える商品が売れる)」などが実例と共に解説されている。ゲームデザイナーをめざすなら、ぜひ一読して欲しいと紹介された。





 

■俳句を作りながらコンセプトを凝縮させる



後半のワークショップでは、これまでの内容をもとに、仮想のゲームアプリのカテゴリー名・キャッチコピー・タイトルを考えるグループワークが行われた。なお、カテゴリー名は「どんなゲームか」。キャッチコピーは「何が良いのか」。タイトルは愛称を意味しているのは言うまでもない。そして、これらすべてが渾然一体となって、対象ユーザー層を間接的に表現することになる。

お題として出されたのが、「猫ドリフト観戦ゲーム/ドリフトキャッツ(仮称)」だ。スマートフォン向けのゲームで、すばやいアクション操作などを必用とせずに、いつでもどこでも隙間時間に猫が走り回る様を見ることができ、可愛らしい動きで癒されるというもの。プレイヤーはアイテムで猫にちょっかいを出すことができ、プレイする度にさまざまなアイテムが入手できる。典型的なスマホゲームだといえるだろう。

ここで中村氏は「商品の魅力を伝えるために、俳句を作る」という課題を出した。俳句といっても季語は必要なく、字余りでも問題ない。というのも「特に日本語では5・7・5というフレーズに区切ることで、印象的なキャッチコピーを作ることができ、商品の魅力を短く、ゴロ良く伝えられる」のだという。こうしてたくさんの俳句を作り、それらをヒントにキャッチコピー・カテゴリー・タイトルを考えてみようというわけだ。
 




ワークショップは自己紹介も含めて50分程度と非常に短いものだったが、それでも時間内に完成したグループが数多くみられた。いくつか紹介しよう。

キャッチコピー:猫だってドリフトしてもいいじゃない
カテゴリー:猫ドリフトちょっかいゲーム
タイトル:わがねこ~吾輩は猫である~あたなのために舞い踊る


キャッチコピー:眺めてつついて猫レース
カテゴリー:猫応援レースゲーム
タイトル:猫すべり


キャッチコピー:猫まみれ家にいないけどかけっこだ
カテゴリー:癒されにゃんこかけっこゲーム
タイトル:かけっこにゃんこ


中村氏はいずれも元のコンセプトをうまく生かしていると講評したうえで、「内容が凝縮されたにもかかわらず、より魅力的になっていることを実感して欲しい」と指摘した。また実際には俳句の17文字も長すぎることが多く、もっと凝縮することを考えて欲しいという。今回は1時間弱のワークショップだったが、もし2時間あれば、これを仮タイトルとして再度検討することで、さらに凝縮できるというわけだ。

これに対して本勉強会の旗振り役をつとめるDeNAの馬場保仁氏も「プロとアマの違いは『凝縮』できるか」だと補足した。きっかけとなるアイディアがあれば、そこからどんどん膨らませていくことは、それほど難しくない。しかし、本当に大事なのは膨らませた内容から余分なものをそぎ落とし、凝縮させることだという。そして、ぜひここで学んだ内容を持ち帰り、学校や職場で広めて欲しいと語った。

なお、本勉強会では出席する度にメンバーズカードに判子がもらえ、4個ためるたびに初級・中級・上級とステップアップする。上級に昇格するには昇段試験にパスする必要があり、失敗すると判子2つを削減された状態でやりなおしだ。今回はじめて上級挑戦者が2名登場し、みごと試験にパス。記念品として本勉強会の第1回から5回までの映像が収録された特別DVDが手渡された。
 

 
(取材・文:小野憲史)


 

■第13回は6月20日(月)開催 エントリー受付中


次回(第13回)は第7回に引き続き、「ルールズ・オブ・プレイ」の翻訳などで知られる、ゲーム作家・文筆家の山本貴光氏をむかえて、6月20日に実施される。講演テーマは「人をその気にさせるには? ーーゲームにおける誘惑の技法」で、応募は公式サイトから可能だ。

◆参加資格: 
・ゲーム企画職(ディレクター、リードプランナー、プランナー)を目指す学生 ※学生は学年不問 
・若手のゲーム企画職の方 ※32歳以下

◆参加費:無料

◆参加エントリーはこちら 申込締切:2016年6月12日 結果連絡:2016年6月14日
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※事前エントリー制ですので、必ずお申込みください。
※定員を超える応募があった場合は抽選となります。
※当日はメディア取材、写真撮影が入る場合がありますが、撮影について配慮させていただきます。
 
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
https://dena.com/jp/

会社情報

会社名
株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)
設立
1999年3月
代表者
代表取締役会長 南場 智子/代表取締役社長兼CEO 岡村 信悟
決算期
3月
直近業績
売上収益1349億1400万円、営業利益42億0200万円、税引前利益135億9500万円、最終利益88億5700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
2432
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