【連載】岩野Pの「なれる!プロデューサー」 - 第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」


『乖離性ミリオンアーサー』や『アリスオーダー』など、数々のスマホゲームを手掛けてきた、スクウェア・エニックスのプロデューサー・岩野弘明氏。同社に勤務してから10年以上もの歳月が経っているが、そんな彼にも新人時代があった。上司や先輩に教わったこと、成功や失敗から得たこと、様々な経験を経て今がある。この連載は、岩野氏がプロデューサーになるまでの道のり、その後に直面する幾多もの気付きを形にしてくれた、自叙伝。
 
 


 

■第2回「いまいち今の仕事が好きになれないあなたに」


早いもので連載開始から1ヵ月が過ぎました。以前の連載記事「これからこうなる!」が2週に一度の更新だったので、月一更新の本連載はわりと余裕を持てて嬉しいです(笑)。

さて、自分のこれまでの仕事歴を振り返りながら、ゲームプロデューサーとしての考え方をまとめていく「なれる!プロデューサー」、第1回はスクエニに入社したての2006年の出来事について触れた(関連記事)のですが、今回は2007年にフォーカスしてみます。

<2007年>
『ロードオブヴァーミリオン』『ドラッグオンドラグーン』などの生みの親である柴プロデューサー(柴貴正氏)のアシスタントになりました。廣重さん(※1)や渡辺さん(※2)のアシスタント業務も並行しつつ、徐々に柴プロデューサーのアシスタント業務の割合が増えていき、仕事内容はPCオンラインゲームばかりだったものから、コンソールゲームの仕事中心へと変わっていきます。

※1 廣重演久氏:現在はコーエーテクモゲームスで『のぶニャがの野望』をプロデュース
※2 渡辺範明氏:現在は「ドロッセルマイヤーズ」というボードゲーム屋を経営



 

■言われたことをただやるだけはつまらない



新米でまだ責任の重い仕事を任せてもらってなかったこともあり、入社1年目はあまり怒られることはなく、かなり優しく育てていただいたような気がします。2年目からは徐々に重要な仕事を任せてもらえるようになってきたのですが、ただその分怒られることも増えてきました。特に柴プロデューサーは厳しい方なので1年目の雰囲気とのギャップもありかなりスパルタ教育な感じでした(笑)。

そもそもエニックスのプロデューサーは他の多くのゲーム会社と違い、企画やプログラマー、あるいはデザイナーといったクリエイターからの流れでプロデューサーになるのではなく最初からプロデューサー採用であったこともあり、プロデューサー候補生は先輩プロデューサーのアシスタントとしてキャリアをスタートします。それだけにプロデューサーとアシスタントは師弟関係のような絆が色濃くでます

また、基本的に仕事は見て盗めという方針(のように僕は見えました笑)なので、「獅子は我が子を千尋の谷へ突き落とす」かのごとく、上司によって厳しさは様々ですが、そこから這い上がってきたやつだけ認められるような感じでした。

柴プロデューサーは僕が新米だった当時から売れっ子プロデューサーで、柴プロデューサーのアシスタントになると決まってから「どんな感じのプロデューサーなんだろう」とドキドキしていたのですが、実際に一緒に仕事をしてみると、とにかく仕事に対して厳しい姿勢の人でちょっとでも僕がいい加減な仕事をしているとめちゃくちゃ怒られました。

当時はもう怒られてばかりで、それが嫌で怒られないように空気を伺いながら仕事をしていたように思います。野球のピッチャーでいうと置きにいく球ばかり投げていたような感じで。ただ、そういう仕事の仕方ってすごくつまらないんですよね。だから会社に行くのが憂鬱になる時期もありました。

が、そこで渡辺さんに教わったことを思い出します。つまらない仕事を面白く変える方法です。


 

■つまらないをおもしろいに変える


それは、つまらない仕事にこっそり自分の興味を持てるものを取り入れる、という方法です。

例えば、当時からキャラクターが数十数百と出てくるゲームは存在していたのですが、その中のキャラクターデザインの一部を自分の好きなイラストレーターにお願いしてみるとか、BGMのコンポーザーが決まっていなければ好きな方を提案してみるとか。

もちろん、そのプロジェクトに合った方であることが前提なのですが、プロジェクトの根幹の部分ではなくても、一部に自分の匂いを残すというか、興味を持てる部分を作るというのは、その仕事に対するモチベーションを持つ意味ですごく大事だと思います。

実際、僕もその方法で自分の色を出すことを意識しだして以降、仕事をするのが格段に楽しくなりました。

もちろん、度を超したことをして怒られることも度々あったのですが、前向きに動いた結果怒られたということで、それ以前に怒られていた時よりも落ち込むことはなくなりました。むしろ「この方法はダメだった。じゃあ次はこういうのはどうだろう」みたいな感じで、隙あらば自分の匂いを残してやろうという気持ちが高まりました。

アシスタント時代だと、方向性が決まっていて自分のクリエイティブ性をなかなか発揮しづらい仕事が多いです。アシスタントだからそういう状況が多くなるのは当然なのですが、自分の考えたゲームを作りたいと思ってゲーム会社に入っているのですから常にクリエイティブな仕事をしたいものです。だからそういうことを意識して仕事をすれば楽しく仕事ができる、と思うわけです。
 

よく新米社会人の「思っていた仕事と違う!」という嘆きを耳にしますが、大体どんな会社でもそんなもんです。むしろ思っていた仕事に自分でしてやるくらいの意気込みで仕事に向かっていくことで、仕事を楽しめるようになるんじゃないでしょうか。

そんな感じで前向きに仕事をできるようになってから、もちろんまだまだ怒られることはあったものの、任される仕事の幅が広がったように思いますし、柴プロデューサーにも多少認めてもらえたような気がしなくもなかったり…。(気のせいではないことを祈ります…!)

また、先述の仕事に対する考え方に気付いたという意味で、柴プロデューサーのアシスタントとして仕事をできたのは本当によかった(実は他にもよかったと思うことがあるのですが、それはまた次の記事で)。

おそらく、廣重さんや渡辺さん同様、柴プロデューサーとの仕事をなくして今の自分はなかったと思います。大事なことを教われる先輩が近くにたくさんいてすごくラッキーでした!

というわけで、2年目の僕はこんな感じで過ごしました。3年目は仕事の規模や責任も大きくなり、また新たな気づきが生まれるのですが、それはまた次回の記事で書きたいと思います。

ではでは今日はこの辺で!


P.S.
7月から以前連載記事の中でもちょろっとご紹介した「NEW GAME!」という漫画原作のアニメが始まります! 僕の隣の席に座っている新卒社員をして「NEW GAME!みたいなかわいい女の子がゲームを作っていることを期待して入社しました!」と大変夢見がちな発言をさせてしまうほど、ゲーム会社のかわいい女の子社員たちが活躍する罪作りなコンテンツです。

中でも主人公で新入社員の青葉ちゃんが、初めての社会人生活に四苦八苦しながら仕事を覚え自分の個性や力を発揮していく様は昔の自分を思い出して共感できるのです。

とても残念なことに僕の所属している部は男子校のごとく男ばかりで若手もほぼ男性社員なのですが、彼らも青葉ちゃんのようにがんばっていち早く一人前のプロデューサーになってくれることを願うばかりです!
 

■著者 : 岩野弘明
スクウェア・エニックス第10ビジネス・ディビジョン(特モバイル二部) プロデューサー。『乖離性ミリオンアーサー』を筆頭に、同シリーズ全体のプロデュースを担う。新作は超能力×ミリタリーRPG『ALICE ORDER /アリスオーダー』。

岩野氏のツイッター:https://twitter.com/Iwano_Hiroaki


■バックナンバー

第1回「2006年4月、スクエニ入社」

 
 
 
 
    
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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