良質なKPI分析のために会社がするべきこととは IDCフロンティア、ORATTA、ドリコムが語るデータ分析の重要性


6月28日、IDCフロンティアが主催する「ゲームのKPI管理を極める!ゲーム×データ分析活用セミナー」が開催された。スマートフォンアプリを成功に導くために、DAU、ARPUなどの基本的なKPI管理を徹底し、テータを分析することは必要不可欠になっている。その一方で、データマネジメントが上手くいかず、アプリも軌道に乗り切れない事例も数多く存在するのが現状だ。
 
本セミナーでは、 効果測定などで得られたデータをもとに次のアクションを起こすデータドリブンを積極的に取り入れるORATTA、ドリコムの担当者が登壇。データ分析・KPI管理のノウハウや、データマネジメントの手法を紹介してくれた。
 


 

■良いデータとツールがあって、はじめてKPIが生まれる



▲IDCフロンティア ビッグデータグループ所属 高階誠氏

まずはIDCフロンティアより、ビッグデータグループに所属する高階誠氏が登壇。「ゲーム向けクエリのチューニング事例」と題したセッションを行った。高階氏が所属するビッグデータグループとは、IDCフロンティアが持つビッグデータ基盤サービスのプリセールスから導入サポート、さらにはプロモーションまでを担当する存在だ。ここでは、各企業がデータをどのように活用しているか、そしてどんな相談がよく寄せられるかが焦点となった。
 

まず前提としてIDCフロンティアは、ビッグデータの収集・保存・分析をワンストップで提供するクラウド型のデータマネジメントサービス「Yahoo!ビッグデータインサイト」を提供している。このサービスにより、ECサイトの行動分析やKPIの作成、ゲームのユーザー分析が、クラウド基盤で手軽にできるというものである。

とある企業ではこのサービスを導入したことで、1日ごと、1時間ごとなど任意のタイミングでイベントの効果を測定できるようになったという。また多様なKPIを一覧化できるため、ゲームの状況をさまざまな切り口で把握できるのも強みとなったとのこと。

そして今回のセミナーにも参加しているORATTAも、同サービスを利用している企業のひとつだ。ORATTAは以前だと、自作のKPIダッシュボードからDBへクエリ発行して、必要なKPIを取得する方法をとっていた。しかし現在は「Yahoo!ビッグデータインサイト」を活用し、DAUや課金額といったKPIを効率的に確認可能になったという。
 
 
サービスの基本的な説明を終えた高階氏は、続いて導入する際のサポート体制について話を進めた。高階氏はここで「データの分析は料理と似ている」と持論を展開する。良い材料(データ)があり、調理器具(ツール)を適切に使って、はじめて良い料理(KPI)が生み出せる、という意味だ。
 

「Yahoo!ビッグデータインサイト」は調理器具に当たる部分だが、高階氏はこれを「適した利用方法のサポートも含めた『サービス』として提供している」と話す。商品として売って終わるのではなく、利用者からの質問にも迅速に答えて使いやすくしているというのだ。具体的には、データインポートや環境整備、クエリチューニングなどが、よく質問されるポイントとのこと、
 
スクリーン上では実際に行ってきたサポート事例として、データインポート方法の1つであるtd-agentの設定例や、ログからKPIを取得する流れ、クエリ改善例が紹介された。クエリチューニングでは「もっとクエリを早くしたい」「7日、5日、3日のFQを取りたいが上手くいかない」などの質問があるそうだが、高階氏はひとつひとつを丁寧に対応。要望に応えるだけでなく、多段構成も整理して他の人が見ても分かりやすい仕上がりにすることを心がけているという。
 
 


 

■ORATTAの「Yahoo!ビッグデータインサイト」導入までの道のり



▲ORATTA 代表取締役CTO・上杉健太郎氏

続いて登壇したのはORATTAの代表取締役CTO・上杉健太郎氏とエンジニアリーダー渡辺淳氏。まずは上杉氏から、同社が以前使用していた旧KPIツールの紹介が行われた。かつての状態を知ってもらうことで、「Yahoo!ビッグデータインサイト」を導入した経緯を把握してもらおうというのだ。

ORATTAのKPIツールは、アプリごとのDBをKPI集計DBが取得、同時にペルソナ定義を柔軟に設定し、ペルソナごとにデータを分析する機能も備わっていた。このツールは各ゲームのディレクターを中心に使用されていたものの、社長自らが作ったソースコードのため、問題が起こったとき他の人が修正できないなどの大きな問題点を抱えていたという。またチューニング不足とデータの増量も影響しパフォーマンスの低下も問題点だった。末期のころは、データを抽出しようと思っても10分かかってしまったとのこと。
 


上杉氏はデータ分析を、仮説ありきで知識の裏付けをする「仮説検証型」と、データから仮説を発見する「データマイニング型」の2種類が存在すると語る。「データマイニング型」は非常にパワフルである一方で、それだけではゲーム運用に活用しにくい。ゲーム運用にデータを活用するためには、データマイニングが得意な「相関関係」だけでなく、「因果関係」まで分析することが必要だという。ORATTAのKPIツールは仮説検証のPDCAサイクルを回しやすくるすことで、因果関係まで分析することにこだわったものの、前述のとおり徐々に使いづらさが目立ってきた。そこで現場リーダーである渡辺氏が、外部のツールを導入するという思い切った手段に打って出たのだ。
 

▲ORATTA エンジニアリーダー・渡辺淳氏

渡辺氏がこだわったのは、簡単に使えて簡単にメンテナンスができることはもちろん、規模が大きくなっても安定している点だ。これらをクリアしたツールとして「Yahoo!ビッグデータインサイト」を上杉氏に提案したところ、返ってきた言葉は「それってお金になるの?」「今のツールを直せば?」だったとか。
 

ここから渡辺氏は、上杉氏を始めとした経営者を説得するために奔走する。必要だったのは、経営者がやりたかったことを把握して、それを改善するための提案をすること、そして導入するにあたってのコスト面をカットしていくことだった。
 
導入コストに関しては、IDCフロンティアが一丸となって乗り越えてくれたものの、ツールを社員が使えるようになる教育コストも発生する。旧KPIツールは使いにくかったものの、それでも変化を嫌う社員はいたそうだ。そこで社内サポート体制を構築し、勉強会やSlackサポートを用意。社員の移行を促した。次に既存のKPIツールから必要なデータを洗い出し、全移植してから運用を始めたという。これにより既存のツールと同じデータが取れるようになり「こっちでもいいかな」と思わせることに成功したという。
 

さらに各データを分かりやすくするために可視化ツールも導入する。このときもコストが低いものを選定した結果、Microsoft Power BIに行き着いたという。このツールは月額最大1,090円の価格面もさることながら、操作の分かりやすさ、ディレクターが自由にグラフ化できることも採用の決め手になったとのこと。
 
最後に渡辺氏はデータ分析で得られたデータをもとに次のアクションを起こす「データドリブン」の重要性を説いた。データを分析すればユーザーが求めているものがなんなのかを判断できるが、今までは数少ないKPIを元に、ディレクターが過去の経験則で施策を決めていたと語る。しかし「Yahoo!ビッグデータインサイト」を導入してからは、過去の施策を振り返りながら最適な方法を選択できるのではと期待を込めた。
 


 

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■データ分析のために会社全体で取り組んだドリコム



▲ドリコム 執行役員テクノロジー担当 白石久彦氏

本セミナー最後の登壇者となったのは、ドリコム執行役員テクノロジー担当の白石久彦氏と、サービス推進部の中村竜太郎氏だ。セッションは「ドリコムにおける組織と仕事の組み立て方」であり、まずは白石氏からドリコムの歴史と、流れの中で見えたデータ分析の重要性を解説した。
 
ドリコムは2010年頃からMobage、GREEといったプラットフォームにゲームを提供し始め、同時にWebマーケティング的な考え方でKPI分析を開始した。このタイミングでデータサイエンティストと呼ばれるスタッフの強化も行っている。 

しかし2013年頃から業界がネイティブゲームへシフトを始めるが、ドリコムはここで苦戦を強いられる。このとき社内では「分析よりもゲームの面白さが重要では」という論調が強まり、結果として順調に集まっていたデータ分析チームのコンディションが悪化してしまったというのだ。


白石氏が担当になったのは2014年秋頃で、チームのコンディションを立て直すことを第1の目標に定めた。そのためにまず、当時行っていた業務を構造と要素で整理し、優先度の高いものを探しだす。そして優先度の高い業務の中から、さらにゲーム事業に影響をあたえるものを最優先で担保していったという。データを使った課題解決を行う分析実務と、それに必要なエンジニアリング、その2点の担保を最優先に進めたと白石氏は述べる。
 
 

加えてビジネススキルに関する再考も重要視。この場合のビジネススキルとは、自社サービスの理解を深める「事業理解」、課題を発見する「論理的思考」、提案力やコミュニケーション力の「基本的ビジネススキル」の3点。これらビジネススキルを深めるために自社のゲームをやり込むなどの取り組みも導入したという。さらに変化したスタンスを体現するため、部署名をデータ分析グループから「データコンサルティンググループ」に変更。今までよりも現場に近く、頼りにされる部署でありたいという思いが込められているそうだ。
 
白石氏はさらに、学術系スキルへの取り組みについても教えてくれた。ドリコムでは現在学術系の領域は研究開発として取り組み、ビッグデータとマーケティングは新しい技術系ソリューションのキャッチアップとして推し進めた。学術系領域への取り組み方はさまざまだが、未来のためには重要であるとまとめて、マイクを中村氏に渡した。

 

▲ドリコム サービス推進部 中村竜太郎氏

中村氏から語られたテーマは「結果に繋がるデータ分析の仕事の組み立て方」だ。闇雲に分析をしても効果が薄く、ゲーム運営にはあまり役立たない。ドリコムも以前はアプリのリリース後からデータの分析が始まるため、プランナーが考える目標値が不明瞭だったりと多くの問題を抱えていたという。
 
そこでデータ分析チームがアプローチすべきタイミングを変更、企画段階から積極的に介入し、目標値やプロセスKPIを共有。リリース後の分析がスムーズになっただけでなく、アプリの改善点も明確になったという。
 
ドリコムではプランナーとデータ分析チームのコミュニケーションを活発にするため、どうやって運用していくかを書き記した企画時設定シートをプランナーに書いてもらうという。ここには想定するユーザーシナリオ、ユーザーがどんな動きをするかを必ず書かかれており、どんなデータを重点的に取るかを分かりやすくなる。

同じく目標・計画立案のアプローチも変更。以前はディレクターとデータ分析チームで目標と計画が共通認識になっておらず、施策が後手に回っていた。アプローチの変更後はデータ分析チームが計画立案に携わることで共通認識を作り、目標達成に向けた動きが迅速になったのだ。
 


最後に中村氏から、ドリコム社内KPIシステム「DragonEye(ドラゴンアイ)」の紹介も行われた。「DragonEye」はアプリごとの基本KPIはもちろん、事業の計画進捗度の確認などを備えたシステムだ。これが社内の中心にあることで計画の共通認識化が容易になり、さらに他プロジェクトメンバーからのアドバイスも容易に受け取れる。
 

中村氏は「ビジネスは意思決定の連続」だと語る。だからこそ、アクションを起こす際には経験や直感だけでなく、数値とロジックが寄与しているかがポイントだという。意思決定で起こるはずの数値・ロジックでの裏付けが機能していなければ、経営層を巻き込んででも業務フローを改善することをおすすめしていた。

 
(取材・文:ライター  ユマ)

 
 
 
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株式会社ドリコム
http://www.drecom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ドリコム
設立
2001年11月
代表者
代表取締役社長 内藤 裕紀
決算期
3月
直近業績
売上高108億円、営業利益22億8100万円、経常利益21億9200万円、最終利益11億5900万円(2023年3月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3793
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株式会社ORATTA

会社情報

会社名
株式会社ORATTA
設立
2010年7月
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