【サイバーエージェント決算説明会】ゲームとネット広告で収益を稼ぎつつ「AbemaTV」を中長期的な柱に 「順調な立ち上がりだが収益化はまだ先」

サイバーエージェント<4751>は、7月21日、2016年9月期第3四半期(15年10月~16年6月期)の決算発表を行うとともに、東京都内で証券アナリスト・機関投資家向けの決算説明会を開催した。発表した決算は、売上高2250億円(前年同期比21.6%増)、営業利益325億円(同20.7%増)、経常利益318億円(同16.6%増)、四半期純利益122億円(同0.1%増)だった。

また、第3四半期(16年4月~6月期)を見ると、売上高764億円(前四半期比QonQ2.4%増)、営業利益83億円(同26.0%減)、経常利益80億円(同26.2%減)、最終利益10億円(同80.6%減)となり、四半期ベースでは過去最高の売上高となった。
 

同時に2016年9月通期の業績予想を上方修正し、営業利益は従来予想の280億円から350億円、経常利益は同274億円から340億円に引き上げた。営業利益と経常利益は当初予想から一転して増益となる見通しだ。売上高3000億円(前期比17.9%増)、営業利益350億円(同6.9%増)、経常利益340億円(同5.2%増)、当期純利益140億円(同5.4%減)を見込む。

決算説明会に臨んだ藤田晋社長(写真)は、「全体として順調だった」と振り返った(以下、「」内は藤田社長の発言)。そして、「『AbemaTV』で本格的な投資が始まった。下期だけで90億円(第3四半期で34億円)を投じる予定だったが、全体が順調だったことを受けて、さらに上積みする可能性がある」と述べた。「AbemaTV」のユーザー数は順調に拡大しているが、先行投資を継続する。気になる収益化の見通しについてはメディアとして成長させることに注力するため、「当面は考えていない」という。広告事業とゲーム事業で利益を積み上げつつ、メディア事業をグループの中長期的な柱に育てていく考えだ。
 


また、グループ社員に決算賞与を支給することも明らかにした。「決算説明会や社内向けで今年は決算インセンティブを出さないと話してきたが、昨年を上回る営業利益になる見通しのため、支給することにした」と説明した。営業利益が350億円を上回る分について、決算インセンティブとする予定。「これは未来への投資だ。(他の業種に比べて)設備投資は必要ではない分、それを支える人が全て。これから成長をけん引する人材に投資したい」と述べた。


 
■第3四半期はゲーム事業が好調

第3四半期の状況を見ていこう。まず、売上高はQonQで2.4%増の764億円だった。インターネット広告事業とメディア事業が減収となったものの、好調だったゲーム事業がカバーし、全体として増収を確保した。ゲーム事業では、Cygamesの新作『Shadowverse』が好調な滑り出しとなり、ゲーム事業の伸びをけん引した。
 


また、営業利益は同26.0%減の83億円と減益となった。ゲーム事業が拡大したものの、4月11日に開局した「AbemaTV」への先行投資34億円が響いた。先行投資は、広告宣伝費とコンテンツ調達などに係るコストがメインとなる。下期は56億円投じる計画だったが、足元の状況が良好なことを受けて投資額を増やす計画だ。
 
 
▲販売管理費の推移。広告宣伝費が第2四半期の44億円から65億円に増えた。「AbemaTV」とゲーム事業でそれぞれ10億円ずつ増やした。
 
▲グループの役職員数の推移。4月に新入社員(244名)を中心として社員数が271名増えた。第3四半期に大きく増え、その後横ばいで推移している。


 
■セグメント別の状況

ゲーム事業

事業セグメント別に見ていくと、ゲーム事業の売上高が前四半期比(QonQ)で10%増の306億円、営業利益が同19.9%増の83億円と好調だった。Cygamesの新作『Shadowverse』が大ヒットしたことが主な要因。6月に締まった第3四半期ではわずか2週間の貢献だったが、収益へのインパクトは非常に大きかった。また広告宣伝費も10億円増やしたが、それを吸収した。
 


『Shadowverse』について、藤田社長は、「リリース前はもちろん期待していたが、海外市場を強く意識していたゲームということもあり、国内でここまで大ヒットするとは思っていなかった。この夏から展開する海外市場でもさらに広がっていくのではないか」と今後の収益貢献に期待を示した。

サイバーエージェントグループとして『グランブルーファンタジー』や『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』『夢王国と100人の王子様』など複数のヒットタイトルを抱えているが、「いずれも巡航速度で伸びている。特定のヒットタイトルに依存していない。コロプラはミルフィーユ型とコメントしていたが、当社も同じ状況だ」。
 
▲市場シェアでは、コロプラ<3668>に差をつけており、ガンホー・オンライン・エンターテイメント<3765>に迫る勢いだ。


なお、2016年9月期中に合計4タイトルをリリースする予定。ゲームアプリ市場は、アプリを多く開発してリリースするというよりは、時間をかけてしっかりと作ったゲームを出すような状況だという。7月20日にリリースした『オルタナティブガールズ』については「好調な滑り出し」とコメントした。



インターネット広告事業

またインターネット広告事業は、売上高418億円(QonQ1.1%減)、営業利益36億円(同13.3%減)だった。多くの企業が期末を迎える3月末の後の四半期ということもあり、例年、広告需要が弱い時期だが、QonQで横ばいをキープした。
 


同社では従前より、インフィード広告と動画広告に注力しているとのアナウンスを行っていたが、両分野ともに順調だったとのこと。インフィード広告は、QonQで0.5%減の76億円だった。6月から販売を開始した「LINE Ads Platform」が貢献し、大きく伸びた前四半期並を維持した。次の四半期以降、伸びを期待しているという。
 


また、動画広告については、22.4%増の28.9億円だった。「Facebook」と「LINE」、「Youtube」の動画広告がけん引したという。また、「AbemaTV」の営業も開始したが、「引き合いが強いので期待できるのではないか」。
 

メディア事業は、売上高50億円(同5.6%減)、営業損益31億円の赤字(前四半期7億円の黒字)と大幅な赤字となった。これまでも触れているように、「AbemaTV」への先行投資が主な要因だ。「それ以外は耐えており、売上・利益をしっかり出している」という。
 


決算説明会では、「AbemaTV」に関して多くの時間を割いて説明した。また会場からの質問も集中した。「AbemaTV」は、4月11日のリリース以来、ダウンロード数は500万件を突破し、WAU(週間アクティブユーザー数)についても244万人まで拡大した。WAUについては、開局した週が118万人だったことを考えると、わずか3カ月で2倍強に急拡大したことになる。
 


藤田社長は、「ネットサービス全般にいえるが、こういったサービスで重要なのは視聴習慣を付けてもらうことだ。タレントやコンテンツパワーで一時的に急拡大してもその後も継続的に利用していただかかないと意味がない」。そして、「次の週にはWAUは280万人に到達し、300万人達成も近いのでは」とコメントし、引き続き拡大するとの見方を示した。
 
同社では、コンテンツ拡充や機能強化とともに、プロモーションを行ってきたが、5億円をかけて新聞などに織り込みとして1000万部の番組表を配布した。これが効果を発揮し、アクティブユーザーでは2~3割のベースアップにつながっているという。「テレビCMなどのプロモーションをやっているが、口コミやアプリへの評価でしっかりと伸ばしている。大ヒットといっていい伸びではないか」と述べた。

ユーザー属性についても公開し、当初は30~40代のユーザーが多かったが、20~30代のユーザーの比率が60%強まで伸びている状況にあるという。ただ、女性ユーザーの割合が3割弱と少ないことが課題とのこと。ドラマなどの女性に人気のコンテンツを増やして、女性の比率を高めていく考えだ。年齢構成はテレビ視聴者と全く逆で、普段テレビを見なくなった若い世代を取り込めていると考えているという。
 


なお、収益化については、広告販売や月額課金モデルが主力となるが、先行投資を継続する方針で、収益化については全く考えていないとのこと。「収支の均衡は当面は全く考えていない。WAUやDAUがマスメディアといえるところまで伸びるまで投資を続ける」という。第4四半期だけで56億円を投資する予定だったが、好調な決算を受けてさらに積み増す考えも示した。

収益のイメージについては、従前より広告とユーザー課金がメインとしていたが、その割合としては、広告が7割、タイムシフト機能が使える月額課金が3割とイメージしているという。広告は、スポット広告のみで、今後、タイアップやインフォマーシャルなども展開していく考え。広告の引き合いは順調で、今期に関しては数億円レベルの売上になる見通し。
 


藤田社長は、「AbemaTV」の特徴として、CMを最初から最後までみる「完全視聴率」が8割とYoutubeなどと比べて非常に高いことも明かした。この点は広告主からも注目されているという。広告主は、テレビ局が入っていることもあり、ナショナルクライアントがほとんどになるとのこと。
 
 
▲「FRESH! by AbemaTV」については、プラットフォームとして、7月から課金機能、8月からは広告の収益モデルを導入する。動画配信者と再生数に応じて収益をシェアする仕組み。できるだけ多くの人に無料でみて欲しいという配信主に収益モデルを提供できるという。こちらも注力するサービスだ。



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(編集部 木村英彦)
株式会社サイバーエージェント
http://www.cyberagent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サイバーエージェント
設立
1998年3月
代表者
代表取締役 藤田 晋
決算期
9月
直近業績
売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4751
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