コンテキストからコンセプトにさかのぼる…遠藤雅伸氏が登壇したDeNA主催「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾」を取材


ディー・エヌ・エー<2432>(DeNA)が主催する学生&若手ゲームプランナー(=ゲームデザイナー)向けの勉強会「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾~未来を担う人に伝えたいこと~」。7月20日に渋谷ヒカリエ DeNA本社で開催された第14回では、元ナムコで『ゼビウス』『ドルアーガの塔』などを手がけ、現在は東京工芸大学でゲームデザイン研究を進める遠藤雅伸氏が登壇した。

今回のテーマは「アイディアの寄せ集めから企画は生まれない-コンセプトとコンテクスト-」だ。ゲームの企画はコンセプト主導であることが望ましいが、実際はさまざまなコンテクストに縛られることが多い。これに対して与えられたコンテクストを要素分解し、コンセプトを創出できれば、企画の精度が高まるというわけだ。

ちなみに本ワークショップは、遠藤氏が理事をつとめる日本デジタルゲーム学会「DiGRA JAPAN」の2015年度年次大会で発表された「ゲーム企画初心者のための要素分析グループ演習」がベースになっている。詳細は予稿集に詳しいので、本稿をきっかけに興味を抱かれた方がいたら、ぜひご高覧いただきたい(http://digrajapan.org/conf2015/digraj_conf2015_proc.pdf

 


 

■コンセプトではなくコンテクスト主導型になりやすい日本のゲーム開発



▲遠藤雅伸氏

欧米圏のゲームが技術主導で進化してきたのに対して、日本のヒットゲームは「コンセプト主導型」が多いとする遠藤氏。好例がステージ上のオブジェクトを巻き込みながら塊を大きくしていく『塊魂』だ。遠藤氏は「日本人なら誰もが知っている『雪だるま作り』がコンセプトになっている」と分析。ユニークなキャラクターや音楽も、すべてこのコンセプトから導き出されているという。

しかし、ゲーム開発現場ではコンセプトではなく、コンテクスト主導で作られることが多い。コンテクストは一般的に「文脈」「背景情報」などと訳されるが、ここでの意味は「会社の都合」とでもいうべきものだ。「特定のデバイスを使用したゲーム」「○○を題材にしたゲーム」「マーケティング主導型のゲーム」などは、コンテクスト主導型ゲームの好例となる。

なぜコンセプトではなく、コンテクストが先行するのか。遠藤氏は「コンセプト主導で作ってもヒットする保証はない。しかしコンテクスト主導の企画は、役職者にとって売上予測が立ちやすく、判子が押しやすい」と指摘する。その最たる例がヒットしたゲームを例に、柳の下で二匹目・三匹目のドジョウを狙うような企画というわけだ。

もっとも、こうしたプロジェクトは、往々にして迷走しやすく、駄作になりやすい。企画に軸がないからだ。上司から企画を差し戻されると、承認を得ることを目的に、修正も場当たりがちになりがち。企画がおもしろいと思うメンバーが存在しないまま、開発が始まることも少なくない。結果的に納期が遅れてしまい、酷い場合はメンバーが雲隠れしてしまうこともある。

これに対して遠藤氏は「コンテクストが内包する要素を分析し、コンセプトを新たに作り上げる」ことが重要だと指摘した。コンセプトをはっきりさせることで、プロジェクトが迷走するリスクが減り、ゲームがヒットする可能性が高まるというわけだ。「コンテクストの外見に囚われることなく、正体を見破れるようにしてください」(遠藤氏)


 

■カラオケの本質とは何か? 参加者がグループディスカッション


続いて参加者たちはグループ単位でワークショップに入った。最初のお題は「カラオケ」で、下記の手順で行われた。

①議論を進めるリーダーと、テーマに詳しいアンカーを設定する。

②テーマを特徴づける要素をあげていく(最低10個)

③あげられた要素のうち、他でも代替できる要素を消していく。この時アンカーは、その要素が重要だと感じたら、代替できるとされた物との差異を明示し、その差異を新たな要素として付け加えることができる。

④最後まで残った要素をもとに本質をまとめる。「**な++」「○○の××」といった具合に、二の単語をつなぎあわせる程度が望ましい。

 

参加者たちは「歌を歌うところ」「みんなで楽しめる」「大声を出せる」「ストレス発散」「飲み放題」「オールナイト」など、カラオケにまつわる様々な要素を上げていった。もっとも、要素を削除する段階になると、とたんに議論がスピードダウンすることに。これに対して遠藤氏はテーブルを周りながら「歌は風呂場でも歌える」「一人カラオケもある」と指摘し、固定概念を崩していった。

また、要素の入れ替えについて遠藤氏は「個室」を例に説明した。カラオケは個室で楽しむが、個室は居酒屋にもある。しかし、カラオケと居酒屋の個室では、防音設備の有無が異なる。そこで「個室」を削除するかわりに「防音設備」を追加するというわけだ。遠藤氏は「アンカーが要素の入れ替えを提案したら、他のメンバーも積極的にのってあげてください」と補足した。
 

このように議論が進み、あっという間に発表タイムとなった。グループごとに抽出された「カラオケの本質」とは、「手軽な私室」「自己を解き放つ」「安価なパーティ」「身近なライブステージ」などなど。これに対して遠藤氏は「自己解放は他の手段でもできるのでは?」「パーティなら、自宅でやった方が安いのでは?」などとコメントを返していった。

ひととおり発表が終わると、遠藤氏は「総じて良くできている」と評した上で、「『気兼ねなく声が出せること』がカラオケの本質であることが、わかってもらえたのではないか」と整理した。このように本質が抽出できれば、そこから「声の大きさを競い合うゲーム」といった具合に、具体的な企画を作り上げていくことも容易になる、というわけだ。

一方でイマイチな例の筆頭にあげられたのが「デンモクで選曲」という発表だ。「『デンモク』という時点で疑わないと。極めて見た目がハッキリしているものは、コンテクストに縛られた要素の可能性が高い」(遠藤氏)。また「大声が許容されるタイミング」という発表には、「『大声の許容』だけで良いのでは? もっと短くまとめる勇気を持ってください」などとコメントしていた。

 


 

■ベテランほど固定概念にとらわれがち?


次のテーマとしてあげられたのは人気テーマパーク。「カラオケ」で要領がつかめたのか、多くのグループで優れた発表が続いた。「全世代の夢」「空想の実体験」「お手軽非日常」などだ。中でも遠藤氏を唸らせたのが「管理された魔法」という発表だ。「大したモノだ。これをもとにいろいろなゲームが創れる」(遠藤氏)。

一方で容赦ないツッコミが入った発表もあった。「さめない夢が入れる場所」という発表には「なぜ『さめない夢』で終われなかったのか」。「東京の異国」という発表には「異国感を創り出している要素が何か、もう少し分析した方が良かった」。「三世代で異世界に入り込む」という発表には「『三世代の異世界』で良かったのに」といった具合だ。
 

演習にはDeNAのアーティストグループも参加した。もっとも彼らの「安全な合法トリップ」という発表に対して、遠藤氏は「『安全』と『合法』が被っている。プロでもこんなもの」とバッサリ。実際、企業の研修で実施することもあるが、総じてベテランほど固定概念が強く、コンテクストから離れることが難しいという。

本イベントの旗振り役である、DeNAの馬場保仁氏からも「ドライブ」というお題が出された。これに対する発表は「大人の自己陶酔」「体の拡張」「散歩の上位互換」「動かせる部屋」など。遠藤氏が「プライベートとか、自分だけのとか、そういう要素は捨てた方が良い」とコメントした直後、プロチームから「走るプライベート空間」という発表があり、苦笑される一幕もあった。
 

最後に馬場氏から「楽しくも大変な演習だったのではないでしょうか。ついついプロもコンテクストから企画を考えてしまいがちです。しかし、テーマが与えられたら、徹底的に要素をそぎ落として、本質を抽出し、そこから膨らませないとダメです。それが中途半端なままで、ギミックや仕掛けをいくら入れてもおもしろくなりません」と講評され、セミナーが終了した。


 

■ペラコン対策に本ワークショップは効果的



ワークショップの後に、遠藤氏と馬場氏から「ペラ企画コンテスト」の紹介も行われた。これはゲーム開発者会議「CEDEC」の名物企画で、テーマにそってゲームのアイディアをA4のシート1枚にまとめるというもの。プロ・アマ関係なく応募でき、上位入賞者は会場で表彰される。CEDEC2016は8月24日~26日までパシフィコ横浜で開催され、応募サイトは近くオープンする。

遠藤氏は「昨年のテーマは『Open』で、きっと大量に『扉をあけるゲーム』『箱を開けるゲーム』の企画が来るんだろうなあと噂していたら、本当にその通りになった」とあかした。「Open」に対して「扉」「箱」という連想はコンテクストに縛られすぎで、コンセプトまで落ちていないというわけだ。今回の演習は「ペラコン」対策としても有効だろう。
 

もっとも、昨年度の1位に輝いた企画は、「10秒以内に扉をどんどん開けていく」というもの。まさに「扉」が題材だったが、企画書の完成度が桁違いで、多くの審査員が太鼓判を押した。「テーマの本質をつくだけでなく、それをパッと見て伝わる形式にして企画書に仕上げてください。ペラコンの上位入賞がきっかけで就職した学生もいます。ぜひこの機会を活かしてください」(遠藤氏)
 
 
(取材・文:小野憲史)



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