2016年8月6日・7日に東京工芸大学中野キャンパスで開催された、日本デジタルゲーム学会2016年夏期研究大会では、二日間で7セッション、18本の口頭発表と、18本のインタラクティブセッション(ポスターセッション)が開催された。
本稿ではそのうち「セッション7 レベルデザイン」から、「ゲーム研究における難易度工学」と「競映パックマンを用いた、内発的難易度の階層化及び構造化の実証実験」についてレポートする。
本学会に限らず、学会発表には一般的に論文執筆にむけた中間発表という側面が含まれる。そのため、ある発表がさらに大きな研究に含まれる一分野であったり、これから取り組む研究の全体像紹介であったりすることがある。
今回行われた二本の口頭発表も同様で、前者において「ゲームの難易度工学」という大テーマが紹介され、後者ではその中に含まれる「内発的難易度の階層化及び構造化」という概念について、実証実験の結果が示された。
なお、前者は立命館大学映像学部准教授の渡辺修司氏によって発表され、後者は同大学大学院映像研究科の河本公亮氏が担当した。渡辺氏の発表は、古くは2012年2月に開催された日本デジタルゲーム学会2011年次大会で中村彰憲氏と共同で行われた「ゲーム性の最小単位『ルド』と世界の観察からゲーム性を見出す手法『アソビタイズ』の提案」にまでさかのぼる。
今回の発表も従来の研究内容を踏まえて、新たに「難易度工学」という概念を新たに提唱した点が特徴的だった。
▲渡辺修司氏
「難易度工学」について解説する前に、渡辺氏は従来からの持論である「デジタルゲーム」と「現実世界」を「内発的難易度」によって接続するという考え方から解説をはじめた。
もともとゲーム開発者として『ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国』などの開発を手がけた渡辺氏は、「ゲームからゲームをデザインするのではなく、現実世界を観察し、抽象化することでゲームをデザインするべき」だと指摘。両者に共通して見られるのが、プレイヤー自身が持つ「内発的難易度」であるという。
例としてあげられたのが、『スーパーマリオブラザーズ』のBダッシュと、「横断歩道の崖化」という現象だ。
『スーパーマリオ』ではBボタンを押しながら移動すると、マリオの移動速度がアップする。この時、Bボタンを押す頻度はプレイヤーの上達度によって増減する。これにはゴールした時の残り時間が少ないほどボーナス点がもらえるというルールが関係している。しかし、プレイヤーが自らの技量に伴い、最適な難易度を設定して挑戦しているとも考えられる。
同じように横断歩道の白線部分を崖に見立てて、そこから足を踏み外さないように歩いていく行為は、多くの人が無意識的に体験している「遊び」である。
このことから、人間は何らかの認知パターンによって、「自発的に難易度を発見して、それに挑戦してしまう」ことがわかる。これが「内発的難易度」である。渡辺氏は「内発的難易度」をベースに、さらにこれを拡張させる概念として「難易度工学」を新たに提唱。さらなる考察と分析を進めていきたいとした。
なお、渡辺氏によると「内発的難易度」には「階層化」と「構造化」という現象が見られるという。階層化は「下階層の難易度からはじめて、ゲームになれるにつれて、次第に上階層の難易度にステップアップしていく(例:『パックマン』ではじめはドット餌を食べつつ、モンスターから逃げることに集中していたプレイヤーが、徐々に慣れていくとパワーエサを食べてモンスターに反撃するようになる)」というものである。
これに対して構造化とは「上階層の難易度について習熟するうちに、次第に下階層の難易度の意味合いが変化していく(例:はじめは無我夢中でモンスターから逃げるだけだったが、ゲームになれるにつれて、パワーエサを食べたときに反撃しやすいように、複数のモンスターと適切な距離を保ちながら移動するようになる)」というものになる。渡辺氏は同様の現象が、スポーツについて習熟していく過程でも観察できるとした。
また、小惑星イトカワの名付け親として知られる糸川秀夫氏の寄稿文「『遊び』の復権」から、「遊びとは環境変化への対応と、豊かな創造性を導くもの」という一節を引用した。
その上で「内発的難易度」における階層化や構造化には、本来むかうべき「上方向」だけでなく、一般的には無駄とされる「下方向」にも進展すると指摘。「上方向」への進化は生物にとって「利得の追求」をめざす行為であり、これに対して「下方向」の進化は「利得の多様性への追求」であると分析した。
このほか、フロー理論や日本の伝統芸能の習熟などで良く説かれる「守・破・離」との関係性など、短い時間で縦横無尽に議論を展開した渡辺氏。しかし「難易度工学」の実態については、まだ漠然としたものに留まっており、さらなる研究を進めていきたいという。
また、今回提唱された様々な概念についても、単なる提唱に留まっており、工学的に実証されたわけではない。これらについても並行して取り組んでいきたいとした。
※「競映パックマンを用いた、内発的難易度の階層化及び構造化の実証実験」については次回掲載。
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本稿ではそのうち「セッション7 レベルデザイン」から、「ゲーム研究における難易度工学」と「競映パックマンを用いた、内発的難易度の階層化及び構造化の実証実験」についてレポートする。
本学会に限らず、学会発表には一般的に論文執筆にむけた中間発表という側面が含まれる。そのため、ある発表がさらに大きな研究に含まれる一分野であったり、これから取り組む研究の全体像紹介であったりすることがある。
今回行われた二本の口頭発表も同様で、前者において「ゲームの難易度工学」という大テーマが紹介され、後者ではその中に含まれる「内発的難易度の階層化及び構造化」という概念について、実証実験の結果が示された。
なお、前者は立命館大学映像学部准教授の渡辺修司氏によって発表され、後者は同大学大学院映像研究科の河本公亮氏が担当した。渡辺氏の発表は、古くは2012年2月に開催された日本デジタルゲーム学会2011年次大会で中村彰憲氏と共同で行われた「ゲーム性の最小単位『ルド』と世界の観察からゲーム性を見出す手法『アソビタイズ』の提案」にまでさかのぼる。
今回の発表も従来の研究内容を踏まえて、新たに「難易度工学」という概念を新たに提唱した点が特徴的だった。
▲渡辺修司氏
■現実世界とゲーム世界の接点とは何か?
「難易度工学」について解説する前に、渡辺氏は従来からの持論である「デジタルゲーム」と「現実世界」を「内発的難易度」によって接続するという考え方から解説をはじめた。
もともとゲーム開発者として『ガラクタ名作劇場 ラクガキ王国』などの開発を手がけた渡辺氏は、「ゲームからゲームをデザインするのではなく、現実世界を観察し、抽象化することでゲームをデザインするべき」だと指摘。両者に共通して見られるのが、プレイヤー自身が持つ「内発的難易度」であるという。
例としてあげられたのが、『スーパーマリオブラザーズ』のBダッシュと、「横断歩道の崖化」という現象だ。
『スーパーマリオ』ではBボタンを押しながら移動すると、マリオの移動速度がアップする。この時、Bボタンを押す頻度はプレイヤーの上達度によって増減する。これにはゴールした時の残り時間が少ないほどボーナス点がもらえるというルールが関係している。しかし、プレイヤーが自らの技量に伴い、最適な難易度を設定して挑戦しているとも考えられる。
同じように横断歩道の白線部分を崖に見立てて、そこから足を踏み外さないように歩いていく行為は、多くの人が無意識的に体験している「遊び」である。
このことから、人間は何らかの認知パターンによって、「自発的に難易度を発見して、それに挑戦してしまう」ことがわかる。これが「内発的難易度」である。渡辺氏は「内発的難易度」をベースに、さらにこれを拡張させる概念として「難易度工学」を新たに提唱。さらなる考察と分析を進めていきたいとした。
なお、渡辺氏によると「内発的難易度」には「階層化」と「構造化」という現象が見られるという。階層化は「下階層の難易度からはじめて、ゲームになれるにつれて、次第に上階層の難易度にステップアップしていく(例:『パックマン』ではじめはドット餌を食べつつ、モンスターから逃げることに集中していたプレイヤーが、徐々に慣れていくとパワーエサを食べてモンスターに反撃するようになる)」というものである。
これに対して構造化とは「上階層の難易度について習熟するうちに、次第に下階層の難易度の意味合いが変化していく(例:はじめは無我夢中でモンスターから逃げるだけだったが、ゲームになれるにつれて、パワーエサを食べたときに反撃しやすいように、複数のモンスターと適切な距離を保ちながら移動するようになる)」というものになる。渡辺氏は同様の現象が、スポーツについて習熟していく過程でも観察できるとした。
また、小惑星イトカワの名付け親として知られる糸川秀夫氏の寄稿文「『遊び』の復権」から、「遊びとは環境変化への対応と、豊かな創造性を導くもの」という一節を引用した。
その上で「内発的難易度」における階層化や構造化には、本来むかうべき「上方向」だけでなく、一般的には無駄とされる「下方向」にも進展すると指摘。「上方向」への進化は生物にとって「利得の追求」をめざす行為であり、これに対して「下方向」の進化は「利得の多様性への追求」であると分析した。
このほか、フロー理論や日本の伝統芸能の習熟などで良く説かれる「守・破・離」との関係性など、短い時間で縦横無尽に議論を展開した渡辺氏。しかし「難易度工学」の実態については、まだ漠然としたものに留まっており、さらなる研究を進めていきたいという。
また、今回提唱された様々な概念についても、単なる提唱に留まっており、工学的に実証されたわけではない。これらについても並行して取り組んでいきたいとした。
(取材・文:ライター 小野憲史)
※「競映パックマンを用いた、内発的難易度の階層化及び構造化の実証実験」については次回掲載。
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