【CEDEC2016】人々がソーシャルゲームにハマる理由を"行動経済学"の観点から紐解く…『ポケモンGO』普及の要因についても言及

 
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)が、8月24日~26日の期間、パシフィコ横浜にて開催した、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2016」(CEDEC 2016)。
 
本稿では、8月24日に実施された講演「人がゲームにハマる心理~行動経済学とソーシャルゲーム~」についてのレポートをお届けしていく。
 
本セッションでは、アサツーディ・ケイの橋本之克氏が登壇。行動経済学の知見をもとに、ゲームをする欲求や行動を起こすためのヒントや、人がゲームにハマる仕組みについて言及した。
 

▲アサツーディ・ケイ 第1アクティベーション・プランニング本部 第1アクティベーション・プランニング局の橋本之克氏。
 
まず橋本氏は、金融に関する調査を例に挙げ、「行動経済学」の概要を説明した。下記の通り、人間の実行動と調査結果には矛盾があるため、”人間とは不合理なもの”であるとのこと。橋本氏は、人は1日に3万5000回の選択を迫られていることから、常に合理的な判断ができずとも不思議なことではないと話す。こういった不合理な判断について研究しているのが行動経済学であるという。
 


 
・行動経済学とは
典型的な経済学のように経済人(ホモ・エコノミカス)を前提とするのではなく、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の一分野である。
 

▲通常、経済学では、人間は合理的で自制的で利己的なものと捉えられているが、行動経済学では、ここに疑問を投げかけている。
 
さらに橋本氏は、ゲームに限らず全般的に、ターゲット(消費者)の基本的な消費意識の中で「収奪されない」という意識が強まっていることを強調。これからのゲーム開発において、こういった中でゲームを届けて覚えてもらい、遊んでもらい、愛してもらうことが重要であると語った。
 

■「行動経済学」視点で、ソーシャルゲームを考える



 
さて、ここからは、「行動経済学」視点で、ソーシャルゲームを考える、という本題へ。橋本氏曰く、ソーシャルゲームにおいて非常に重要なのは、ポジティブな意味で「ターゲットがゲームにはまる」こと、「やめられない、止まらない」ことであるとのこと。そのための仕組みが、「レアアイテムやガチャ」、「ゲームを継続させるための工夫」、「複数プレイ」などであるという。本講演では、これらの仕組みを導入することによって、何故止められなくなるのかということを行動経済学の視点から解き明かしていく。
 
●「レアアイテム、ガチャ」で止められなくなる理由
 

まず始めに、レアアイテムやガチャを導入することにより、ユーザーには「もっと強くしたい!次に進みたい!」、「あと少しでアイテムが全て揃う」、「次にもう一度回したら出るかも!」という心理が働くという。
 
こういった心理からゲームが止められなくなる原因には、「フレーミング効果」のひとつである「サンクコスト効果」が働いているのだと説明した。
 
・「フレーミング効果」とは
同じ内容であっても、問題の提示の仕方、焦点のあて方により、人の判断や選択が変わるもの。一例として、「給料の2割を貯金してみて」と「給料の8割で生活してみて」という風に言い方を少し変えただけで、内容が同じでも受け止め方が大きく変わることを挙げた。
 

 
そんなフレーミング効果の中にある「サンクコスト効果」により、失われた効果が生み出すコスト、つまり自分がかけた「時間」や「お金」、「労力」によって得られた資産が足かせとなって無意識のうちにゲームが止められなくなるという。払ったお金が戻ってこないことを気にしてしまうのが良い例で、食べ放題などで「もとを取ろう」(払ったお金を取り返そう)と考え、許容を超えて食べて過ぎてしまうのもサンクコスト効果の影響による人間の行動であるとの話だ。
 

 
さらに、サンクコスト効果の心理がこじれることで、「機会費用の軽視」や「損失先送り」といった下記のような心理が生まれてしまうのだとか。そのほか、フレーミング効果の一種として「決定麻痺」や「メンタル・アカウンティング(心的会計)」といった心理が行動に影響に与えていることも説明した。こういった心理については、ゲームにハマったことのあるユーザーであれば一度は身に覚えがあるのではないだろうか。
 


 


●「継続(自分のものにする)」で止められなくなる理由
 
次に、「ゲームを継続させるための工夫」で止められなくなる理由については、「保有効果」というものが働くからであるとのこと。これは、「だんだん、上手くなってきた」、「自分向きのゲームかも!」、「自信が出てきた!」という心理から、手に入れた技術や資産を手放すことを損と考える「損失回避」という効果が働くからであるという。
 


▲保有効果について、人は富そのものではなく、富の変化に価値を感じるものであるという「プロスペクト理論」を紹介。人間は、得をした喜びに対して、損をしたときに2倍以上の悲しみを感じてしまうとのこと。この理論をもとに発生する心理が損失回避であるという。
 
また、保有効果は資産や技術だけでなく、お金や健康など、さまざまな価値に置き換えられることも説明した。
 

 
このほか、損失回避によって起きる現象の中に、新たな取り組みによる損失を避けようとする「現状維持バイアス」や、競馬・競輪で負けが続いた日に最終レースで取り返してやろうという心理が働く「反転効果」といったものも紹介した。
 


 

●「複数プレイ」で止められなくなる理由
 
最後に、多人数で遊ぶ仕組みから「同調効果」でゲームが止められなく理由を紹介。「あいつもこのゲームをやっている!」、「こんな時間までやってるのは自分だけじゃない!」、「そんなにたくさんの人がやってるんなら、試そう!」という思考が生まれるのだという。
 

 
自分の友人やゲームをプレイしているユーザー、または世の中の人々に同調することでゲームが止められなくのだという。
 

 

●「行動経済学」視点で、『ポケモンGO』を考える
 
ここまで、人々がソーシャルゲームにハマる理由を分析したうえで、昨今、社会現象まで巻き起こした『ポケモンGO』が普及した理由を行動経済学の視点から解説した。
 

 
橋本氏は、『ポケモンGO』においても、これまで紹介した行動経済学による心理効果が適応されると話す。橋本氏は、『ポケモンGO』では課金に頼らない部分がほかより大きいと前置きしつつも、「もっとレアポケモンが欲しい!」、「図鑑を完成させたい!」、「もっと歩いたら出てくるかも!」という思考から、使った時間、頑張りにより止められなくなる「サンクコスト効果」による働きは同じであることを解説。また、「だんだん自分の図鑑ができてきた!」、「ボールをうまく投げられるように!」、「捕まえた自分のポケモンは可愛い!」といった思考から、時間をかけて作った図鑑や身に付けた技術、自分のポケモンに愛着を感じることで止められなくなる「保有効果」。さらに、「周りの人も始めた!」、「いろいろな場所で捕まえたらしい!」、「世界で流行っているゲームだ!」と、友人や世の中の人々に同調することで止められなくなる「同調効果」も働いていることを説明した。
 
日本でリリース前に世界各国で様々なニュースが報道されたことが、「そこまで面白いのか!?」という思考に繋がり、行動経済学において非常に有効なPRになったのではないかという。
 
そのほか、橋本氏は、『ポケモンGO』に見られる特徴的な「ハマる仕掛け」についても解説。
 
【ハマる仕掛け①】

▲歩くだけでポケモンやアイテムが手に入れられる状態が平常になることで歩く機会を無駄にすることを損と捉えてしまい、損失回避の心理が働く。
 
【ハマる仕掛け②】


▲また、ボール投げのモチーフに「ヒューリスティクス」の中の「利用可能性ヒューリスティクス」という効果があるという。
 
・ヒューリスティクスとは
問題解決の際、簡略化されたプロセスを経て結論を得る方法。ヒューリスティクスは、必ず正しい結論に達するわけではないが、短時間で結論が出る。
 


▲ボールを投げて捕まえるという行為が、昆虫採集の楽しい、または懐かしいという想いを想起させること、または原作の設定を追体験できることが、よりゲームを楽しく感じさせているのだとか。
 
【ハマる仕掛け③】

▲3つ目に、外に出るゲームであることが、ゲーム=不健康だという「認知的不協和」を解消したことを挙げた。



▲今までゲームをプレイしなかったユーザーを取り込めた理由の中に、この「認知的不協和」の解消があるという。
 
以上の3点から橋本氏は、『ポケモンGO』は自然に損失回避できる仕組みを取り入れ、健康的な遊びをモチーフにし、スマホゲームのネガティブな印象を払拭した、従来のソーシャルゲームの枠を越えたゲームであると言及した。
 

▲また、『ポケモンGO』が普及した理由は、心理的要素のみでなく「スポンサード・ロケーション」や「社会貢献の仕掛け」によるビスネス的効果や社会的要素もあるという。
 
ここまでの講義から、行動経済学は人の心理を突く「武器」になり得るとしつつも、重要なのは「ハマらせる」ゲーム作りをベースとして、「人の心理」、「ビジネススキーム」、「社会貢献」まで含め、WIN-WINの構造を作ることであるとコメントし、本講演の締めとした。
 



 
(取材・文:編集部 山岡広樹)


 
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