【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」


 
株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。 
 


 

■第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」



 
日本ゲーム大賞アマチュア部門のエントリーが今年は、300を超え、これまでで一番多いものとなりました。まずは、ありがとうございます&おつかれさまでした。東京ゲームショウで表彰がおこなわれます。最終選考まで残っている皆さん、惜しくも今回は最終まで残れなかった皆さん、楽しみにしてお待ちください!

今年からは、一次選考の突破作品、二次選考の突破作品のタイトルや所属、名前も発表することにしました。学生さんにとっては、
 
「去年は一次で落ちていたけど、今年は二次までいったぞ!」

といったようなことができるでしょうし、学校さんにとっては、真剣にものづくりに挑んでいて、全国レベルで選考を突破している! と胸を張れるブランディングに役立つ情報だと思います。将来的には、大学さんはいざしらず、専門学校さんは、この日本ゲーム大賞アマチュア部門に、

・エントリーをしないようでは、恥ずかしい
・毎回、一次・二次を突破してくる学校は素晴らしい
(最終に残るか?は、ある種、運もあると思うので)


のようになれるくらいの、日本最高峰のアマチュアコンテストにできればいいと思っております。そのためには、審査方法や体制なども含めて、よりオープンで紛れの少ないものにしていきたいですし、エントリーのしやすいものにしていきたいと思います。学校関係者の皆さん、学生の皆さん、全部お答えできるわけではありませんが、ご要望などございましたら、おっしゃってくださいね。

さて、今年のゲーム大賞をみていて、「個人の作品が多いな…」というのが印象に残りました。もちろん、個人賞を設けてもいるので、個人でのエントリーを嫌っているわけではありません(笑)。

個人で頑張ることは、とても大事です。ゲームを開発し始めた頃は、自分で自分に「責任」をもって「1人で」やりきることもすごく大事な経験です。なので、学校のカリキュラムでも1人制作というのは、ぜひ取り入れていただきたいと思います。特にプログラマをめざす学生さんは、一度は自分で設計して、コーディングし、デバッグするという経験を責任もってやりきるという経験は必須だと思います。人間誰しもが強いわけではないので、ついチームでやっていると、誰かに甘えたくなる時もあります。でも、自分ひとりだけであれば、やらない限りは完成しない=終わらないですからね。

個人制作の意味は、ちゃんとあると思っています。

ただ、せっかく学校という、多くの仲間と出会える環境に、はいっているわけです。個人制作を何度か経たあとは、できれば、チーム制作を経験して欲しいと思います。理由としては、ゲーム会社に就職した時には、ほぼ1人で開発するということは「ない」からです。

これは、プランナーでも、デザイナーでも、プログラマであっても同じです。というか、そもそも、職種が複数あるわけですから、チームビルドの段階で、これらの人たちをいれてチームをつくるわけです。なので、会社でゲームを作る以上、プロトタイプをつくっているのでない限り、複数の人間でチームをつくってゲーム開発をすることになるわけです。

チームで開発するメリットは、やはり、多くの作り手がいることで短期間に大きな規模のものを開発することができることです。また、1人で考えるわけではないので、いろいろな、多様な価値観や考え方、アイデアがでてくるので、それらがぶつかり合い「自分だけ」では、思いつかないアイデアやコンセプトにたどり着くことができる可能性をもっています。逆に、デメリットとしては、やはり、他人と意思疎通することは難しいです。アイデアを字面で共有するだけではイメージ共有までたどり着かないことは、山ほどあります。そうなると、
 
・え?そういうことだったの? →もう作っちゃった。やり直しだ・・・
・え?きみも、そこ作ってるの?→2人の作業がかぶって時間を無駄にした・・・
・え?まだそこできてないの? →タスクの順序の整理が曖昧になりがち

などなど
 
考えるプランナーの作業領域だけでも、いろいろ問題が発生しかねません。

プログラマの領域にまで入ると、プログラム的な規約はもちろんのこと、マージしたらコンフリクトが発生することは、ままあります。(プロはこれを経験上、発生させないように必死に頑張ってるわけです)つまり、1人でやっている時と違って「確認」する頻度を非常に多くしなくてはいけないということです。
 
この経験を学生のうちにやれることは、とても貴重なことです。

ただ、学生のチーム制作で経験しづらいチーム制作ならではの発生する事象があります。それは、役職、先輩後輩、年齢といったヒエラルキーからくる理不尽な意思決定がなされる場面に遭遇することがなかなかありません。たいてい同学年でやることが多いですからね。でも、社会は、ゲーム開発に限らず、組織のうえで同期のみで仕事をすることは、逆に滅多にありません。必ずと言っていいほど、先輩や後輩、上司やスタッフと仕事をすることになります。

その時に、
 
・先輩の言うことだから、間違いないと盲信する →他責
・先輩の言うことだから、おかしいと思っても反論しない →無責任
・後輩なのだから、無理矢理でも言うこときかせる →モチベーションの低下

などなど

が、起こりえます。起きてはいけませんが、どの現場でもついつい発生してしまうことです。これをやはり、学生時代に経験しておくことができたら・・・ここは、学校さんのカリキュラムや取り組み次第である程度経験させられるとは思います。が、ここは、

・インディーズで学校などをこえた集団でつくる経験をする

というのでクリアすることができますが、なかなかその仲間を探すのは難しいと思います。やや空気感は前向きすぎる+短期ではあるので同じ効果を期待できるかわかりませんが、
 
・グローバルゲームジャム
 
などの、社会人、学生入り混じったハッカソンに参加することで体験することができます。

年に何度もは体験できませんけどね・・・(以前の連載でも書いてますが、ハッカソンにも功罪があるので安直に何度もやると効果がでなくなりますので、ご注意ください)
 
学生であることを最大限に活用するためにも、ぜひ、チーム制作は体験しましょう!

ただ、その時に、いきなり長期間(6ヶ月とか)開発は、リスクが高いです。この連載でも何度もいってますが、問題が起こることはNGではないのです。問題は、そのトラブルをいかに課題としてとらえ、振り返り、問題解決するためのNEXT ACTIONを設定して行動するか?が成長を促します。

なので、初めてのチーム制作が長期間で実施されますと振り返って、再度試す機会、回数が減ってしまうからです。ただ、1ヶ月で8人で制作とかは、やや確認だけで終わってしまうようにも思うので、2ヶ月、3ヶ月くらいで考えて欲しいと思います。
 
最後にまとめますと・・・
 

本日は、以上です!
 
 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。
 



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

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第七回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」