【TGS2016】幕張メッセでも制服が舞う 社長自ら語るVRアトラクション『CIRCLE of SAVIORS』での「やる楽しさ」と「見る楽しさ」


9月15日から9月18日までの期間、千葉幕張メッセにて開催された「東京ゲームショウ2016(以下 TGS2016)」。開催前は色々評されたが、蓋を開けてみればVRを始めとする展開が非常に熱く、実感や体感できるものばかりだった。その中でも多くの観客を沸かせたのが、PDトウキョウが手掛ける『CIRCLE of SAVIORS』のブースである。

PDトウキョウは、元々イベント用映像やテレビ番組のオープニングCGなどを制作していた企業で、某有名ジャーナリストの冠番組や教育委員会的なクイズ番組、アイドルが農村や離島で活躍する番組など、その仕事は幅が広く多種多彩。ゲーム業界からではなく、映像系とはいえ他業界からの出展となるところがポイントだ。


 

■「もう、これはスポーツだ…!」



そんな文言が踊る『CIRCLE of SAVIORS』。実際ゲームのスポーツ感は凄まじく、また各方面からの評価も高い。幅3mほどのサークル上で向かい来る敵モンスターと戦うこの作品は、7月に秋葉原で実施された「Unity VR EXPOAKIBA」においてもグッドコンテンツアワード1位を得るなど、実績も折り紙つきだ。それはTGS2016の会場内でも遺憾なく発揮されており、アクション女優の辻彩加さんが一時間ごとに行ったデモンストレーションには多くの人が集まってきた。
 

▲アクション女優の辻彩加さん


何が見事かと言えば、彼女の動きもさる事ながら、ラグなく表示されるプレイ画面だろう。通常、プレイヤーの表示と画面描画にズレが生じる事の多いVR。しかし、この『CIRCLE of SAVIORS』においてそれは当てはまらない。クロマキー合成の緑の中でHTC Viveのコントローラーを振る彼女の動きと同期して、観客の見ている「クロマキー合成後の映像」が驚くほどスムーズにかつライムラグ無く動く。実際にプレイヤーが活躍している映像を、観客も同時に楽しむ事ができるのだ。
 

同会場内には他にクロマキー合成を行っているブースもあったが、こと違和感を感じないという部分において、『CIRCLE of SAVIORS』に並ぶブースは少なかったのではないだろうか。VRと言えば「体験・体感する事」が第一であり、同時に「プレイヤーしか体験・体感できない」事が弱点ともなるもの。そこを逆手に取りブラッシュアップ、現在の位置まで開発を進めている。

ここで話題にするのは「MR BOX」。決して「Mr」ではない。「MR(ミックスドリアリティ)」である。「MR」とは複合現実の事で、『CIRCLE of SAVIORS』においては現実にあるバーチャルスタジオとHTC ViveのVRという2つを掛けあわせた技術となる。ハードウェアで遅延を軽減させて、リアルタイム送出を可能とした。TGSの会場ではプロのカメラマンによる動的な撮影が行われていたが、固定カメラで撮影する事もそれらを複数で行う事も可能。より臨場感のある映像を、様々な場で活用できるだろう。
 
 
今会場でも引き合いは多く、展開としてアミューズメントパークはもちろんの事、場所は広くなくともOKであるため、ショッピングモールやスーパーなどの空いている場所に設置も可能。撮影された動画を投稿する機能などもあれば、全国的に、世界的に広まる事も考えられる。ただプレイする人だけが楽しいのではなく、観ている人間も楽しめる『CIRCLE of SAVIORS』。今後の広まりには大いに期待したい。


 

■次はここで試遊できる!


TGS2016にて体験できた『CIRCLE of SAVIORS』だが、多くの人が集まりプレイできなかった方もおられるのではないだろうか。そんな方のために、来る2016年10月1日、秋葉原はドスパラ秋葉原本店5階「ドスパラVRパラダイス」にて無料体験会が実施される。コスプレイヤー優先レーンなどもあるため、レイヤーの参加も求めているようだ。時間は12:00~19:00を予定しているので、都合の合う方は是非参加してみよう。

○ドスパラ秋葉原本店5階「ドスパラVRパラダイス」
 『CIRCLE of SAVIORS』無料体験会

場所 東京都千代田区外神田3-11-2
時間 12:00~19:00

 

■代表取締役社長・谷川高義氏に聞く『CIRCLE of SAVIORS』


――:『CIRCLE of SAVIORS』を作るきっかけはなんだったんですか?

谷川氏:そこでHMDを外している彼、彼の入社がきっかけでした。10年間そんな人間を待っていたんです。ある日、彼が自分の余暇を使って作った『CIRCLE of SAVIORS』のプロトタイプを持ってきました。それを見て「どういうものになるか、進めるか」が想像できたけれど、当時のものは現在のものとはかなり違い、まだまだ荒削りな部分が多いものでした。

それとは別件で、20年以上一緒にやっている技術の取締役……放送技術とグラフィックに詳しい彼と、以前から合成方法について様々な話をしていました。VRってやると楽しいけれど周りから見る事ができないよね、じゃあそれをどう解消するかなどの話です。

『CIRCLE of SAVIORS』はHTC Viveを使用していまして、Viveの方式ではどうしても遅延してしまう。そこで「僕らの扱っている放送業界の技術を用いれば遅延0でできるのでは?」というところから実験を始めて、『初期段階のCIRCLE of SAVIORS』と放送業界での技術の2つを合わせてしまったんです。

当社では、古くからVRコンテンツを手掛けてきました。壁面三面に映像を投射して電車のコンパネで操作する『電車でGO!』のようなものや、クレーン車を操作しての高所体験VRのようなものですね。だから経験とノウハウは十分持っていたんです。


――:それが『CIRCLE of SAVIORS』の制作につながったと。

谷川氏:ゲームとして売る事を考えると、『CIRCLE of SAVIORS』の自由度は難しいんです。やれるのは分かるし、楽しいのも分かっている。でも、ゲームメーカーさんはやれる環境にないんですよ。「PDトウキョウ」はゲームメーカーではありませし、でも技術は持っている。後は自分の金をかけるだけ……「じゃあやっちまえ!」と制作を開始しました。『CIRCLE of SAVIORS』を作る事で色んな面でキツくはなっていますが、自信があったんです。これを世の中に出す事で変われる、変えられるという自信が。

『CIRCLE of SAVIORS』を見せた時に必ず聞かれる事が、「マネタイズはどうするんですか?」という事。しかし何かいいものを作る時って、「世の中に対して何を問うか?」という事が重要だったりしますよね。そうしないとブレイクスルーできない。お金を問う事で動けないのであれば、腹をくくって不問にして、今VRでできる最大の事をやってみようというのが今回の最大の理由です。


――:『CIRCLE of SAVIORS』はVRに対する逆転の発想が多く使われていると感じています。

谷川氏:『CIRCLE of SAVIORS』の名前の由来は、「サークル上からは動けませんよ」という事にもあり、動くとVR酔いや操作の煩雑化も生まれてきます。それはハードの限界だと思っていて、「ならばハードの特性範囲内でゲームを成立させよう」と考えたのです。ではどうすればいいか? 「動けない」ではなく、「動かない」にしようというのがスタート。動かないためにはどうすればいいか、何かを守る、離れられない状況をセッティングしました。
 
……VRの場合は長時間プレイをやらせてはいけないと考えています。VR酔いもそうなんですが、長時間のVR体験は「戻って来られなくなる人」が出る可能性もあるからです。実際に長時間のデバッグ作業で気持ち悪くなってしまう事もあったので、まず考えたのは「ヘッドセットを外すゲーム性にしよう」というところと、「没入しすぎて現実との乖離性を生まないようにしよう」というところ。

あくまでゲームを遊んで戻ってくる。だからゲーム時間を区切っているんです。今後は武器選択や地形選択を実装予定ですが、その選択時はヘッドセットを外し、タッチデバイス用意してそこで行う予定です。コンシューマーだとプレイ時間が長くなるため、基本はアーケードでの展開ですね。
 
VRとリアルとの切り替え点を作ってあげないと、例えば子供がプレイした時に行ったっきりになってしまって……そうなると新たな法規制なども考えられますしそれがすごく嫌なのです。ゲームというものは影響力が大きく、どこまでやっていいのか、何をやっちゃいけないのか作り手がよく考えていかないと危ない。特に新しいものは毒にも薬にもなりますので、その辺りを注意して作っています。ですから、作っても『CIRCLE of SAVIORS』に実装できなかったものが多くあるんですよ。

実は、当初TGS2016バージョンではグラフィックを超リアルにする予定でした。しかし、そうすると様々な事がリアルになり「やってはいけない事」につながってしまいかねない。仮に敵が人であった場合のモラル的な部分もありますし……一番怖かったのは、「やられる相手の目が分かる」事なんです。攻撃して、自分の攻撃した相手の瞳の色が消えていく事が怖かった。そんな理由もあって、攻撃もリアルなものではなく、敵がバルーンのように飛んでいくものにしています。

これを大人数でやるとまとまらないので、僕とプログラマーと技術の役員の3人で決めました。僕(谷川氏)は言うなればテストプレイヤー。開発者は「慣れ」が出てしまいますから、調整役も兼ねています。後はグラフィックとモーションを作る二人を合わせた5人で作りました。
 


――:今後の展開なども教えてください!

谷川氏:まずは施設です。このままスポーンと入るようなところ。ジョイポリスさんやデパート系、地方のスーパーなどの場所が余っているところもそうです。考えているのは、都内にはまず出さないという事。または、面白さをすぐに体感して即分かってくれるアメリカや中国などの海外展開です。そして、コンテンツを求めている地方ですね。


――:地方と言うと、例えばゆるキャラの敵みたいなものが出てきたり?

谷川氏:そういう事も想定して、わざと「当社でのIP」を強くしていません。始めは可愛い女の子も出していましたが、キャラもロゴも変えたのは、IP性を薄くするためです。「あくまでプレイしている自分が主人公」という考え方ですね。ロゴのような女の子でもプレイできる、自分でもできそう、と思ってもらう。プレイする内にみんな「カッコいい動き」をするようになるのが楽しいですよ。


――:実際に遊ばれている方々、慣れると「カッコよく」なっていきますよね。

谷川氏:TGSに出した本当の理由は、プレスの方々へのPRもそうなんですが、最大の目的はコスプレ! コスプレイヤーの方々に『CIRCLE of SAVIORS』をプレイしてもらいたい! それが僕らの最大の目的なんです。「コスプレイヤーにやってもらったら、どんな映像になっちゃうんだろう!?」って。双剣にした理由もSAOに似ていると言われた事がきっかけ。だからSAOのコスプレイヤー(キリト)もやりに来てくれるんではないかと期待しています。実は、元々二刀流をやる予定は無かったんですよ(笑)
 
ヘッドセットの改造を始め、衛生面もよく考えて改造を施したり対処したりしていますが、まだまだ考える事はありますので、今後もどんどんブラッシュアップしていきます!


――:ありがとうございました!
 

これから先、ビジュアル面でも技術面でもVR業界を沸かすであろう『CIRCLE of SAVIORS』。「思考の視覚化」を目指すPDトウキョウが世に送り出す、期待のコンテンツだ。まずは10月1日の秋葉原で体験できるので、汗を拭くタオルとスポーツドリンク、そして「筋肉痛になってもカッコよく遊びたい!」という意思を持って参加してみてはいかがだろう? こらからのVRの流れの一つとなる可能性を大いに秘めたコンテンツであるだけに、それを味わう機会を逃さないようにしたい。
 
(取材・文:ライター  平工泰久)