プラットフォーム抗争、そしてgumiショックで國光宏尚氏は何を思ったのか 第2回クリエイターたちの失敗談から学ぶ赤裸々セミナー取材


クリーク・アンド・リバー社とSocial Creator Info は、8月17日、ゲームDJ・安藤武博さんを司会に迎えたセミナー「クリエイターたちの つうこんの大ダメージ!」第2弾を開催した。このセミナーはゲーム業界の第一線で活躍しているクリエイターたちを招き、これまでに経験した失敗談を赤裸々に語ってもらおうというものだ。
 
第2弾となる今回は、gumiの代表取締役社長 國光宏尚氏がゲストとして登場。映画・テレビドラマのプロデューサーとしてさまざまなコンテンツを手掛けてきた國光氏は2007年にgumiを設立。しかし当時はゲーム業界が劇的な変化をするタイミングであり、國光氏もその中でたくさんのトラブル、失敗に巻き込まれてきた。このセミナーは、そんな國光氏だからこそ話せるトークが満載の貴重な時間となった。


 

■登壇者プロフィール


■司会:安藤武博(あんどう たけひろ)
株式会社シシララ 代表取締役/ゲームDJ/ゲームプロデューサー

過去スクウェア・エニックスにて、1998年からコンシューマゲームやスマートフォンゲーム事業に携わる。 スマホ事業ではF2P/売り切り型を問わず『拡散性ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』など、複数のヒット作を生み出す。 2015年9月にスクエニを退社し独立起業。ゲームプロデュースとメディア事業を手がける株式会社シシララを設立。ゲームDJとしても新たな挑戦をはじめている。最新作は『コスモスリングス』と『ブレイジング オデッセイ』。


■ゲスト:國光宏尚(くにみつ ひろなお)
株式会社gumi 代表取締役社長

1974年生まれ。米国Santa Monica College卒業後、2004年5月株式会社アットムービーに入社。 同年に取締役に就任し、映画・テレビドラマのプロデュース及び新規事業の立ち上げを担当する。2007年6月、株式会社gumiを設立。代表取締役社長に就任する(現任)。

  

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■VR普及のカギはゲーマー向けコンテンツ



最初のトークテーマになったのは、gumiが特に力を入れているVR。國光氏によると、VR市場の躍進を感じたのは昨年の9月ごろと、比較的最近のことであったという。現在は社内での開発に加えインキュベーションプログラム「Tokyo VR Startups」にも着手している。インキュベーションプログラムというとなかなか実現までに至らないケースもあるが、gumiに関しては順調な動きを見せているという。

安藤氏も「絵に描いた餅になりがち」と話すインキュベーションプログラムだが、國光氏はメンターとして前ソニー・コンピュータエンタテインメントの取締役会長・丸山茂雄氏など業界トップクラスの人物を招き入れ、忌憚のない意見を交わしたことが成功の裏側にあったという。

さらにgumiは海外へ向けたファンドにも積極的だ。これにより日本が持つ草の根の開発者と海外を結ぶ役割になることを期待している。國光氏は「スマートフォンアプリは日本が始まりだったので、国内で成功してから海外へ目を向けていました」と語る。しかしVRは海外が先行していることもあり、今回のようなファンドが必要になってくると話した。一方でグローバルな視野を持てることは強みでもあり、VRであれば「全世界、全ジャンル制覇も狙える」と國光氏は語る。
 

続いて話題に挙がったのはVRにおけるビジネスモデルだ。PSVRではこれまでのコンシューマと同じくパッケージ販売を踏襲している。またスマートフォンで一般的なガチャとVRを組み合わせた作品も存在する。國光氏によるとビジネス面とコンテンツ面の2つがあり、ビジネス面で言うとPCゲームと同じ売り方がひとつの形であるという。初期である程度のパッケージ代をもらい、その後追加パッケージを販売していく方法だ。

コンテンツの面ではいつの時代も同じで、そのデバイスならではの魅力を引き出すことだという。例えばスマートフォンではタッチする、こするといったアクションを取り入れた作品がヒットしている。その代表例が『モンスターストライク』だが、安藤氏いわくなにかを引っ張るというアクションの元祖はカヤックがリリースした『バウンドモンスターズ』だという。当時のスタッフはDeNAで新たに『キン肉マン マッスルショット』を開発し、ヒットを記録した。『バウンドモンスターズ』での経験は成功に結びついたのだ。

VRも同じようにデバイスならではの魅力を引き出すことが重要なのだが、現状は既存のコンシューマ向けゲームの発想をスライドさせているだけだと両氏は話す。ここで考えが止まっている間に、VRを駆使したゲームを開発するインディーが出てくると國光氏は予測する。そしてインディーが盛り上がることで、それを支えるツールも現れ、市場が形成されていくという流れだ。
 
國光氏はさらに踏み込んで、「最終的にはゲーマー向けのコンテンツがなければ普及しない」とも述べた。初期のころは流行のアイテムとして持てはやされるが、流行が過ぎ去ったときにゲーマーが残ってくれないと市場が成り立たない。かつてのWiiにゲーマーが存在しなかったことを例に挙げながら、「ゲーマーが唸ってくれるところまでどう持っていくか」が課題とのことだ。


 

■プラットフォーム抗争からネイティブシフト、gumiショック



 
ここからは國光氏が体験した失敗談のひとつとして、MobageとGREEの間で巻き起こったプラットフォーム抗争の話が展開。MobageとGREEは今でこそプラットフォームとして根付いているが、発足当時に駆け足で普及していく様子に驚いたことを安藤氏は振り返る。その一方で國光氏は、自社で立ち上げたgumiプラットフォームが実績を残せなかったことに言及。

失敗の要因としては、MobageとGREEは以前からSNSとしての盛り上がりを見せ、一定のユーザーを獲得していたことにあったと分析する。その後gumiはメーカーとしてゲームを提供する側になるのだが、MobageとGREEのどちらでリリースするかも迷ったところであった。当時はGREEでヒット作がなかなか現れず、Mobageはそれに乗じてサードパーティを獲得しようとした時期。そんな中でgumiは、Mobageではライバルが多いと考え、GREEに参入したのだ。

そこからはありとあらゆるジャンルのゲームを開発してはGREE向けにリリースしたが、ことごとく失敗に終わったという。それでも『任侠道 覚醒』などのヒット作が徐々に生まれてきたが、そこへたどり着くまでの苦労は相当なものだった。國光氏はGREEと協力したことを、「Mobageで埋もれる可能性もあったため、結果的には良い選択だった」とも付け加えていた。同氏は立て続けに「成功するためには誰よりも早く挑戦し、誰よりも早く失敗し、そして誰よりも早く復活することが大切」と持論を述べた。
 
スマートフォンアプリはMobage、GREEをはじめとするプラットフォームから、やがてネイティブへとシフトしていく。この際多くの会社がネイティブシフトのタイミングややり方で苦労したが、それはgumiも例外ではない。
 
というのも、このときgumiはエレクトロニック・アーツと協業し『FIFA』のアプリをリリースし、大ヒットを記録。しかし契約上の問題で、約1年で配信が終わってしまう。困ったgumiは、実際に『FIFA』の配信が停止するまでの期間で細かいIPの取得に奔走する。だがこれも大ヒットとはならず、その過程で発生したコストのみが重くのしかかってしまった。
 
しかしそんな最中に転機が訪れる。急速なネイティブシフトを実現するため、それまでGREE向けに走っていたラインをすべて止め『ドラゴンジェネシス』を開発。その後、エイリムから『ブレイブフロンティア』も配信し、相次いでヒットを記録した。海外でもこの2作品をリリースするなど積極的な動きを見せたが、國光氏は「このヒットがなければ会社はやばかった」と振り返っていた。
 

ネイティブシフトの難しさは安藤氏も感じており、当時スムーズに移行できたメーカーは、大手以外の小規模なスタジオがひとつ。そして大手メーカーではゲリラ的にこっそりとネイティブアプリを作っていたところくらいだという。國光氏も同じ意見を持っているようで、「今の人気アプリは先見性があったわけではなく、ガラケーで出遅れたからこそ」と話していた。

そして最後のトークテーマとして挙がったのは「gumiショック」。gumiショックといえば一般的には、同社が上場直後に業績を大幅に下方修正し、株価が急落したことを指す。國光氏は「スマートフォンアプリはリリースするまでどのくらい当たるか分からない」と語ると、「サイコロを振ったらすべて裏目に出た時期」と付け加えた。また当時は『ブレイブフロンティア』の盛り上がりが一段落したタイミングでもあり、さまざまな要因が重なったことが大きかった。

当時準備していたスマートフォンアプリがことごとく遅延してしまったのもgumiショックが起きた原因のひとつだ。「これだけのタイトル群が出るから大丈夫」という計画が崩れてしまった。安藤氏はこの時のことを、「戦艦大和のようだった」と表現する。つまり作って完成させることが目的になり、売れることが目的から外れてしまったのだ。
 

 
これに対して國光氏は「どんなゲームも面白くなるまで作り続ければ、当然すべて面白くなる。だけどそれを実現するには余裕が必要」と持論を展開。そのうえで、余裕を持った制作体制を構築している任天堂などのメーカーを絶賛していた。またゲームからは離れるがピクサーも制作の遅れをカバーすることが上手いという。ピクサーの場合は最初の段階で摺り合わせをきっちり行い、絵コンテだけでなく簡単に動かすところまで初期のうちに作っているというのだ。作品の大枠を全スタッフが最初から共有できるから、スムーズな作業に移行できるというのだ。
 
最後に安藤氏はこれまでの話の総括として、「國光さんはかなり理詰めで戦略的に動いていたんだな」とコメント。それまでは場当たり的な印象を持っていたそうだが、それも覆ったそうだ。そんな國光氏は「絶えず新しいプラットフォームを見ていくことが重要」であると話し、「新しいプラットフォームの登場で、ピンチと思うかチャンスと思うかで変わってくる」という。新しさを切り捨てるのではなく、徹底的に研究をすることが会社はもちろん個人の命運にも関わってくるとまとめた。
 

 
……なお、当日はとても記事化が出来ないようなぶっちゃけトークも展開。参加者だけが持ち帰られる金言も豊富にあるので、ぜひ次回は会場に訪れてみてはいかがだろうか。
 
(取材・文:ライター  ユマ)

 
 

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■第3弾は9月28日に開催 締切間近…参加(無料)受付中!


第3弾では、株式会社サイバーコネクトツーの代表取締役 松山洋さんが登場。

グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートした松山さんは、2001年に同社の代表取締役に就任。以来、大規模メディアミックス展開でスマッシュヒットを記録した『.hack』シリーズをはじめ、原作ファンからも高い評価を受けている『NARUTO-ナルト- ナルティメット』シリーズなど、数々のゲームを創出してきた。そんな順風満帆に見える松山さんですが、その陰には様々な難航や幾多もの決断があったようです……。

【日程】
2016年9月28日(水)19:45~21:45(受付19:15~)

【場所】
株式会社クリーク・アンド・リバー社 本社 セミナールーム
東京都千代田区麹町2丁目10番9号 C&Rグループビル 2F 地図はこちら

■ゲスト:松山洋(まつやま ひろし)
株式会社サイバーコネクトツー 代表取締役

博多に本社を持つ元気なゲーム制作会社サイバーコネクトツーの代表兼ディレクター。開発の傍らで毎月60冊の漫画誌を読んでいる大の漫画好き。アニメや映画、もちろんゲームも漫画も幅広く、こよなく愛している。非常に“濃く”“熱い”人間である。

【参加費】
無料

【定員】
70名
※席数追加しました。
※定員を超えた場合は抽選とさせていただきます。あらかじめご了承ください。

【持ち物】
受付時に名刺が2枚必要です

【対象】
ゲームや映像などエンタメ業界に身を置く方

【こんな方に特にオススメ】
・プランナー、ディレクター、プロデューサーの方
・現在の働き方について悩んでいる方
・若手クリエイターの方

 

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