企画はタイトルが最重要! 塩川洋介氏が語る「ゲームプランナーに”なるため”に知っておくべき企画書の作り方」セミナーレポート


ディー・エヌ・エー(DeNA)で開催中の「座・芸夢 若手ゲームプランナー育成塾 ~未来を担う人に伝えたいこと~」。業界でも珍しい、ゲームデザイナー(ゲームプランナー)むけのセミナーだ。当初は学生と若手のプロを対象に開催されていたが、8月に開催された初の関西開催から、「座・芸夢 for STU」として完全学生向けにリニューアル。9月30日に開催された第16回でも同様に、学生向けに特化した内容で開催された。

今回ゲスト講師として登壇したのは、ディライトワークスでFGO PROJECTクリエイティブディレクターをつとめる塩川洋介氏。過去にスクウェア・エニックスで『KINGDOM HEARTS』シリーズなどの開発を手がけ、書籍『おもしろいゲームシナリオの作り方』などの監訳者も担当。現在は『Fate/Grand Order』の開発責任者をつとめる一方で、専門学校で講師もこなすなど、多方面で活躍中のクリエイターだ。

そんな塩川氏は参加者属性もふまえて「ゲームプランナーに”なるため”に知っておくべき企画書の作り方」というテーマで講演を行った。多くの企業ではゲームデザイナー志望者に企画書の提出を課している。そこで高評価を得る企画書の書き方とは何か、という内容だ。セミナーは座学とグループワークで前後半にわかれ、最後に学生グループが「マンモス」をテーマに企画内容を発表。みな慣れないグループワークに悪戦苦闘しながらも、必死にアイディアを企画書にまとめていた。


 

■学生が制作した企画書を例に「駄目な点」を指摘



▲塩川洋介氏

はじめに塩川氏は学生が実際に作成した企画書を紹介し、講評するところから切り出した。企画書のタイトルは『マンモスパニック』。PS VRむけの企画で、プレイヤーの一人がVR HMDを被ってマンモス役となり、原始人役のプレイヤーと対戦するという内容だ。マンモス役のプレイヤーは実際に頭を動かしてマンモスの鼻を動かし、原始人を攻撃。原始人側は最大4人の協力プレイでマンモスに対峙する。グラフィックはリアル志向で、必殺技なども繰り出せる。

この企画に対して塩川氏は「マンモスというテーマがわかりやすい」「頭をふってマンモスの鼻を操作するというバカバカしさが良い」と評価した上で、多数のイマイチな点を上げた。いわく「なぜマンモスという題材が適しているのか説得力がない」「マンモスと原始人で軸がぶれている」「ターゲット考察が甘い」「なぜマンモスや原始人が必殺技を打つのか? それが本当に題材の良さを生かし切ったアイディアなのか」「PS VRでなければいけない理由は何か?」といった具合だ。

このように「ダメな具体例」を紹介した上で、塩川氏は改めて「就職活動用企画書」として大切な三要素を上げた。それが「①タイトル力」「②構成力」「③ネタ力」だ。中でも重要なのがタイトル力で、やりたいことのわかりやすさと、タイトルだけで読み捨てられないように、内容に対する「ひっかかり」の双方を兼ね備えることが重要だという。次いで企画内容の説明を行う構成力、企画自体のおもしろさを担うネタ力という具合に、比重が下がっていくとした。



「なにがおもしろいゲームなのか」を企画書内で言い切ることが大切だという説明もあった。「学生に『この企画書で表現されたゲームは何がおもしろいのか』と聞いても、ハッキリとした答えが返ってくることは希です。それだけ『おもしろさ』について、突き詰めて考えている学生が少ないのです。そのため、いざ作る段階になって迷走する学生がたくさんいます。かりに思い込みだとしても、心底から『この企画はここがおもしろい」と確信していることが重要です」(塩川氏)

塩川氏が指摘したのは、商品開発で用いられる企画書と、就職活動用に作成する企画書の違いだ。商品開発用の企画書では、文字通り企画の質が問われる。しかし就職活動では、企画書は内容以上に、学生の性格や可能性を推し量るツールとして使われる。論理的な思考ができるか、細かいところまで配慮が行き届いているか、コミュニケーション力があるかといったことが、企画書から浮かび上がってくるというわけだ。この点を勘違いしないことが重要だという。

その後、塩川氏が手を入れた企画書が紹介された。内容は博物館向けのVR体験アトラクションとなり、タイトルもずばり『VRマンモス』。空調や送風機、触覚表現などをもりこみ、体験者から「めっちゃ、マンモスぽかった!」と感想が漏れるような、唯一無二のアトラクションだ。企画書にはゲームのイメージ映像と体験者の写真が横に並び、キャッチやキーワードなどが多用される一方で、ゲームシステムなどは省略。シンプルな内容にまとめられた。

塩川氏は「企画内容の妥当性やおもしろさではなく、先ほどの『①タイトル力』『②構成力』『③ネタ力』に照らし合わせて考えて欲しい」と語った。『VRマンモス』というキャッチーなタイトル。やりたいことを数ページに整理した構成力。「マンモスっぽい体験ができる」ことを前面に押し出したネタ力といった具合だ。塩川氏は普段の企画書もこれと似たスタイルだと語り、「ことばを良く吟味して、できるだけ情報をそぎ落とし、簡潔な企画書にして欲しい」とまとめた。




 

■暴れる、絶滅回避・・・内容が似通ったグループワーク


後半では「マンモス」をテーマに、ゲームの企画書を30分で作成するグループワークを実施。最後にグループ単位で1分間のプレゼンテーションが行われ、塩川氏から講評が行われた。
 



初対面の学生たちにとって、この課題は難度が高かったようで、中にはタイトルだけ、またはタイトルが決まらない、といったグループもみられた。塩川氏は「先ほども言ったようにタイトルが最重要。タイトルだけの方が、タイトルがない企画よりずっといい」と苦言を呈していた。

発表された企画の中でもっとも多かったのが「マンモスになって街を破壊する」アクションゲームだった。『マンモスダッシュ』(マンモスの重さを体験して街を壊していく)。『マンモスが征く!1万年ごしの憂さ晴らし』(現代に復活させられたマンモスが都市を破壊する)。『怒れ!マンモス』(マンモスで暴れてストレスを発散する)などだ。これに対して塩川氏から「そもそもプレイヤーはマンモスになりたいのか」「マンモスが暴れるのは思い込みでは」などの指摘がみられた。

他に多かったのは「マンモスを絶滅から救う」というアイディアだった。『生き延びて!マンモス』(次々と迫り来る絶滅の危機を乗り越える)。『マンモスとして生きていく』(気候や天敵などの厳しい環境を生き延びる)。『DNAマンモス』(DNAをくみあわせてマンモスを復活させる)などだ。塩川氏は「歴史的事実を変える行為はゲームの目標としてわかりやすい。あとは『なぜマンモスなのか』という理由付けがあればもっと良かった」とアドバイスを送っていた。



ユニークなところでは『マンモステルス!』という企画もあった。マンモスの群れに取り残された主人公が、地形に隠れたり、地面に落ちているアイテムを拾うなどして、集落に帰り着くステルスゲームだ。塩川氏は「企画としてまとまっているように見えるが、原始人になってマンモスの群れから脱出したいと思うプレイヤーがどれくらいいるのか」とコメント。自分たちが本当におもしろいと思える企画になっているか、改めて考えて欲しいと語った。

全グループの発表が終わった後、塩川氏は「自分たちの企画を『マンモスパニック』で指摘した講評と見比べて欲しい」と投げかけた。そこで同様の指摘が入るようであれば、企画内容が詰め切れていないということだ。そうした企画書が就職活動用の資料として提出されるようでは、面接官から「ネタの勢いだけで、企画のおもしろさをチームメンバーに説明できる力がないのでは」などと判断されかねないという。そうした事態を回避するためにも、内容に力を入れて欲しいと語られた。

また「本当に皆さんが就職活動を突破したい、社内で企画を通したいと思ったら、一番大切なのはタイトル力です。しかし、比較的タイトルがないがしろにされていた印象を受けました」という指摘もあった。「企画書の一枚目でどんな印象を与えられるかが、その人の能力の8割を現しています」(塩川氏)。実際に本セミナーも準備にあたって「ゲームプランナーに”なるため”に知っておくべき企画書の作り方」というタイトルを決めるのに、もっとも時間をかけたという。



参加者から「ネタ力を鍛える方法を教えて欲しい」という質問もあった。これに対して塩川氏は「何でも良いから、悶々と自分の中で理由を考えつづける習慣をつけることが大切」だと回答した。実際に塩川氏は学生時代、コンビニで定番商品が新商品に切り替わると、その理由を延々と考え続けていたという。考えた結果が正しいか否かではなく、論理的に考え続けることで、自然とネタ力が磨かれていくと振り返られた。

最後に「座・芸夢」の旗振り役をつとめるファリアーの馬場保仁氏からも講評が行われた。馬場氏は「プロでも30分で議論を行い、企画書にまとめるのは難しい」と前置きした上で、どれだけ短い時間で考え抜き、グループ内で真剣に議論したかが重要だと指摘。重要なのは「正解か否か」ではなく、「どれだけ思考のスタミナをつけられるか」で、これからも「おもしろさ」について考え続けて欲しい。そして周りと話をして刺激を受けて欲しいと呼びかけられた。
 
(取材・文:ライター  小野憲史)
 


 

■ディー・エヌ・エーが送る秋のゲームデザイナー向けセミナー


セミナー修了後、ディー・エヌ・エーが主催する学生向けのイベント情報も紹介された。いずれも9月30日(金)から募集が開始されている。

【ゲームクリエイター 秋のインターン】
「おもしろい」を企画するインターン(ゲームデザイナー向け)
11月19日(土)開催/11月10日(木) 12:00まで受付
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【座・芸夢 for STU #17】
11月22日(火)
テーマ:コンセプトからゲーム設計(デザイン)へ
講演者:中村隆之氏(神奈川工科大学)
http://thegame4stu03.peatix.com