【画像追加あり】発売の迫った『VR戦艦大和』ロングインタビュー。提督達もミリタリーマニアも、そしてあの人もこっそり参加中!

2016年10月29日から11月13日にかけて、横須賀は記念鑑三笠で開催される「VR戦艦大和 竣工記念式典」。今回は、その開催に先駆けて、「株式会社神田技研」代表の西野元章(仁志野六八)氏に事前インタビューを敢行した。

『VR戦艦大和』は、クラウドファンディングである「camp-fire」を利用した企画で、OculusのDK2時代から開発を続けてきている。これまでも記念艦三笠や秋葉原で体験会を行ってきただけに、すでに経験した方もいるだろう。筆者も過去に三笠にて体験したが、DK2当時とくらべて、CV1版は映像・作り込みともに比べ物にならない程変化。今回三笠で体験できるバージョンは製品版とスタート地点こそ違っているが、そのクオリティと熱意を十分に感じられる事請け合いだ。戦艦大和そのものだけでなく、乗艦している人物の所作や号令にも大注目していただきたい。


――:これまでの経緯を教えてください
西野氏:小学生の頃から軍艦マニアだったんです。車や電車と違い、軍艦だと海底に沈んでいたり解体されたりしていて、ほとんど現存していない。だからずっと作りたかったんですよ。そんな時、VRを体験して「VR空間の中に軍艦を復元したい!」と考えてしまった。だから2014年の12月に「camp-fire」で「戦艦大和VR復元計画」の資金募集をして、一日で100万円集まって、そこから「いけるんじゃないか」と改めて考え、体制強化のためにメンバーを集め始めました。最初は3人で一年続けて展示会などをやっていくうちにみなさんから応援していただいて、2015年の10月に法人化。現在の場所にオフィスを借りて会社組織として続けています。
 

UnityのVRエキスポへ出展したところNHKの番組で取り上げていただいて、そこから様々なところから「こんな事はできないか?」と打診がありました。今は大和に取りかかりっきりですが……。また、堤明夫さん(イージス艦きりしま4代艦長、元防衛大学校教授・海将補)、NHKの「坂の上の雲」等で昔の海軍工廠の考証他をやられていた方を始め、様々な方面からもご協力いただきました。模型だとメカしか表現しませんが、実際の人の配置や生活、どのように号令をかけていたか? などを聞きながら作っていて、人の動きを含めて表現できたのではないかと思います。乗員の動きを作った事により、軍事マニアやミリタリーマニアの方などにも楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

――:人物は一人一人処理しているんですか?
西野氏:そうです。「GPUインスタンシング」を使いながら処理落ちしないようにしています。現在もブラッシュアップを続けていますので、一ヶ月後にはもっと良くなります。
 

――:開発する中で面白かったのは?
西野氏:乗組員……本当は乗組士官と言うそうなんですが、その方々と知り合いになり連絡をつけて、実際にVR大和を観ていただいた事。都竹卓郎大尉(レイテ沖海戦時は中尉)、HPにも記載がありますが、その方に打診をして観ていただきました。都竹さんは現在94歳と高齢ですが、「レイテ沖の時はここに乗っていた」などVR大和で昔の事を思い出していただいたんです。

例えば第一艦橋を体験してもらったら「艦橋の左の方の、ここの台の横にいた」「同期の○○君が横で戦闘詳報をつけていて」「左に宇垣さん、右に栗田さんがいて」という話をしてもらって、それが楽しかったですね。「戦闘が始まった時は横から対空砲が撃ち上げられて、水上戦が起こった時は第一砲塔第二砲塔は撃たせてもらったけれど、第三砲塔はなかなか撃たせてもらえなかった」という話では、追撃したから前の方しか向いてなかったという事情などがあったようです。
 

また副砲長であった深井さんには、内部の構造を教えていただきました。「大和に蛍光灯が導入されていた」という話では、当時まだ珍しかった蛍光灯が1000本ほど導入されていて、それがどこにあったか分からなかったので、場所をヒアリングしたんです。その結果、副砲主砲の砲塔内部では使われていた事が分かりました。蛍光灯は当時導入されたばかりという事もあり、どなたもよく覚えています。昔の白熱電球って本当に黄色、赤色っぽい色で、「蛍光灯の白色は気分が滅入らなくていい」という事でした。

呉にも取材旅行をして、そこでも広一志(ひろかずし)さんという方にHMDを装着してもらい聞いたところ、やはり第一艦橋はすごく印象に残っているようなんです。計器や人の配置であるとか、山本長官がエレベーターで上がってきて「よっ」と挨拶するので敬礼した、とか(笑) 山本長官はすごく気さくな方だったようですね。広一志さんに第一艦橋を見せたら、信号兵と言いますか、旗を色々世話する方だったようで、伝声管の配置や号令のかけ方を教えていただきました。

――:設計図に加えて、実際にその場におられた方からもフィードバックを得られたんですね。
西野氏:そうです。後は、内部について通説と違うなあという事も話していただきました。艦橋の前の方に長官席と艦長席があるんですが、どの図面を見ても図面上では丸い腰掛けなんです。しかしみなさんにVR大和で見てもらうと「形が違うなあ」とおっしゃる。実際にはちゃんと背もたれ、寄りかかりがあったよ、という事も教えていただきました。都竹さんも広さんも仰っておられたので分かったんです。蛍光灯もそうですが、そういった部分は普通の図面では分からないので、実際にHMDをつけて体験してもらう事で復元に至りました。
 

――:確かに椅子なんかは図面から変わっていてもおかしくないですよね。
西野氏:一般にも外観に関して詳しい方はいらっしゃいますが、内部について詳しい状態を知らない方がほとんど。そこで、当時を知る方や専門家の方々から知見を得られた事は大変大きい。元乗組士官の方が3名、5名の専門家からご協力いただいています。後は陸上自衛隊で高角砲や機銃等を研究されている方ですね。

士官の方々は、みな現在100歳前後。当時の部下、若い人達がみんな死んでしまって悲しい思いをしたと話されます。映像作品の大和だと悲劇的なシーンしか作りませんが、それとは違ったものを作りたいと思ったんです。大和が竣工されて、乗組員に選ばれて誇り高かったというような、溌剌とした時代もあったはずですよね? そういうシーンを作りたいと思ったんですよ。そのあたり、射撃訓練のシーンで号令をかける部分などでもいい感じにできました。一方で、来年の第二期にはレイテ沖海戦なども作ろうとは考えています。実際はどんな視点で、飛行機がどう飛んできて、対空戦闘はどうやっていたとか、そういった事もやりたいなと。

――:武蔵の計画も進んでいますね。
西野氏:「武蔵」の2時間程の映像(ポール・アレン氏のあれ)を観るに、公開していない部分もかなりあるんですよ。しかしその2時間でも、潜水調査の前に研究者の調べていた情報がかなり正確な考証だったと分かりました。また、武蔵の潜水調査を見て分かったのが、「色んな場所に説明書きがあったんだな」という事でした。
 

――:実際と違ったところ、実際と同じだったところなど、多数あると。
西野氏:はい。例えば鋼板鉄板をつなぎ合わせる時は、リベットを使うか溶接するんです。当時は電気溶接だったという話だったんですが、都竹さんから個人所蔵の写真を見させていただいて、力のかかる部分についてはリベットが多く使われている事が分かりました。また、1/1モデルを作って艦内を歩いている内に、「どうも設計図とは違うな」という部分も出てきました。設計段階の図面なので、作っている内に変わっているんでしょうね。

他には、主砲内部の狭いところになると「ここは狭すぎないか?」という部分がありまして。「人の通れるスペースがないのに、どこから人が入ってきたんだろう?」というところもあります。本当に狭い測距儀付近だと、しゃがんで移動していたんだろうなあと。測距儀を動かすためのレールはありますからね。

――:主砲内部(上部)の人達は、撃つ時に退避したんでしょうか。
西野氏:実は主砲の内部は、そんなに音がしなかったそうです。分厚いし、それなりに静かであったと。それだけ精密に作られていて、射撃の圧力も外に出ていました。第一期をリリースしたら、射撃に関係する人達がどういう号令を受け取って、どう操作していくかというシーンも作っていきます。一部では「大和は大鑑巨砲主義だ」とか「時代遅れだ」とか言われますが、メカの精密さや主砲の内部を見てもらえれば、時代遅れという一言で片付けるわけにはいかなくなると分かっていただけるのではないかと考えています。
 

――:Oculus Riftを選ばれたきっかけはあるんですか?
西野氏:最初に出たからOculus Riftを使っていますが、今後はHTC ViveやPlayStationVRにも対応していきます! DKとCVの違いは、まず画面の解像度がキレイになりました。そして、ポジショントラックキングが良くなりました! またUnity5になってからフォトリアルな映像を作れるようになってきたので、そこは進化したと思います。

あまり苦労した部分はないんですが、強いて言えばポジショントラッキング。他は……遠くから見た時に解像度の低さから編み目状のものが目立つというご指摘は多くいただきましたね。CV1に変わってからは、目の前で見た時の美しさ、精密さは大きく変わりました。

――:桟橋の鉄錆の感じとか、甲板の鋼・木目など、リアリティがまるで違いました!
西野氏:Unity5、SubstancePainter2を使えるようになってから大分いい感じになりました。Unityの方から応援もしていただいています。VREXPOへの出展や各種連絡を含め、一年程前からですね。そして、プロジェクトを進めるにあたっては、camp-fireでお客さんから協力・ご支援していただけた事が本当に大きかったですね。ツイッターでつぶやいたりRTしてくれたり、イベントの時にも拡散してくれたりと、皆様には大変お世話になりました。
 

――:実は先日取材先で、偶然出資者の方にお会いしました。
西野氏:本当ですか! その出資額でしたら、顔もモデリングしています。前・横・斜めの写真をいただいて、それを見ながらモデリングするんですよ。実は「某お船のゲーム」のイラストレーターの方も武蔵に出資されていて、乗組員の名前に……また、ミリタリー雑誌に投稿されている有名な方などもいらっしゃいます。

――:『VR大和』のポイントとは?
西野氏:VRで新しい冒険をするための、一つのやり方を提案できたと思っています。戦艦の中に入って新しい事を知る、知的好奇心を満たすような、新しいジャンルのようなものができあがった。「実は大和は見上げるとこうなっていたんだ!」とか、調理室があって船員が入るための風呂があって、ちょっと発売日に間に合わない部分もあるんですが、マイナーアップで風呂場やトイレなども追加していきます。現在の内部移動時間は一時間強くらい。甲板を回れて、扉から中に入って、艦内は重要施設中心に作っています。艦長室や操舵室……舵のある場所を作って。通路は狭いので、そこを延々移動すると酔いやすいのが難点です。

「昔の日本軍というのは精神主義で、なんでも野蛮な解決をしていた」と思わせるものもありますが、色々ヒアリングしてみるとちゃんとしたメカを作っていて、弾を当てるためにどういう工夫をしていたか、という部分も分かります。確かに精神主義の一面もありましたが、それだけではないよ、と伝えていきたいですね。


――:大和って大鑑巨砲主義で古い技術を使ったというイメージを持っている方もいらっしゃいますが、実は当時の先端技術が多く使用されているんですよね。
西野氏:内部を見ると、ラムネ製造機とかアイスクリームとか(笑) 外観だけでは分からない、内部の精巧さも分かっていただけるようになっています。機械式の計算機もあって、それも作ります。歯車をモーターで回して、風速や距離を計算して、敵艦のスピードと方向があって、狙いがここで自分のスピードを入力して。そこに地球の自転や風速も入れて計算すると、砲をどっちに向けて仰俯角はこれくらいで……という計算機があったんです。

闇雲に訓練だけしていたわけではなくちゃんとしたロジックがあって、大砲の火薬の量や砲身がどれだけ磨耗していくかという諸表があって、「だから次弾はこれくらいしか飛ばない」という数値を入力していた。当然と言えば当然なんですが。測距儀についても距離を測るための装置が4つ付いていて、それをみんなで測って、測った結果を機械式の計算機で平均値を出してという感じですね。

分業が徹底しているんですよ。射撃に関しても一人が全部撃つわけではありません。狙う人がいて、艦長があれを狙えと言って、艦橋の上端、方位盤室の引き金で撃つ。方位盤射撃の時は砲塔の人達は仰俯角だけを操作します。作り出した頃はそこまで詳しくなかったんですが、ミリタリーマニアの方々も新鮮に感じられるものに仕上がったと思います。


――:拳銃型の発射装置って、宇宙戦艦大和の波動砲シークエンスと似た感じなんですねえ。ちなみにこの引き金って引けますか?
西野氏:今度発売される「touch」が必要なので、後ほど対応します。ただし、分業されているので艦長からの指示がきてから引き金を引く感じになるかと。弾着も望遠鏡で見えるようにしたいですね。覗いたらフェードアウトして、画面が切り替わるような感じ。1/10くらいの模型モードにして、誰がどう号令をかけて、命令がどう伝達されていくかというモードは作る予定です。


――:本当に一つの博物館のようになっているんですね。
西野氏:ここまで作れば色んな方に楽しんでいただけると思います。計器類の表示も、実物には銘板に日本電気(NEC)などの現存するメーカー名があって面白いんです。蛍光灯なんかは東京芝浦電気(東芝)が作っていて、測距儀は日本光学(ニコン)とか、計測器や望遠鏡はトプコン(東京光学)など、今でも残っているメーカーがあります。羅針儀を作っている会社も残っていました。(布谷計器製作所)

――:これだけ大きいと、謎解きや宝探しゲームみたいなものもできそうですね。
西野氏:ゲームとは違う部分があるので、意図的にそういったものは外しているんです。色々やってみたいネタはあるんで、面白いものがあればやっていきます。例えば……一日中ずっと料理を作っていたり、一日中ずっと甲板掃除をしていたり。それで就寝して、寝ていたら上官に呼び出されて「根性」を入れられる、みたいな(笑) 「キレイな部分だけじゃないだろ」的な部分もありますし、「海軍めしたき物語」みたいなものをやってみたいと考えています。戦闘中でも黙々とご飯を作る!
 

――:秋葉原の常設展示や三笠などのイベントで得たものは?
西野氏:年輩の方に喜んでいただけた事が新鮮でした。65歳以上の方です。大和だと60歳以上の方に人気なんです。60歳、70歳の方は少年時代に戦記漫画ブームがあって好きらしいです。

――:今回のイベントに向けての意気込みを!
西野氏:実物大で作ったので、新しい体験ができます。VRの3強が揃う中、まだまだ実験作なども多くありますが、『VR大和』はかなりガッツリした体験ができるのではないか、新しい体験、冒険を提供できるのではないかと考えています。是非大和の中を「冒険」して、新しい知識を得てください!


■西野元章(仁志野六八)プロフィール

ゲーム開発者&VRクリエイターであり、大の歴史・軍事マニアでもある。
1999年よりコナミJAPANでメタルギア3、Anubisなどの制作に従事。
2008年よりソニーコンピュータエンタテインメントでPSM、Unity for PSMの開発に従事。
2014年11月に独立開業。
2015年に「株式会社神田技研」設立

■「VR戦艦大和 竣工記念式典」
 

 
時間: 2016年10月29日~11月13日 9:00~16:30
場所: 横須賀、記念艦三笠内
協力: 横須賀鎮守府(仮)
協賛: 公益財団法人三笠保存会
(株)雪風エンタープライズ、麺屋はやぶさ
協力パートナー: G-Tune(mouse)
イベントHP: http://www.kanda-giken.co.jp/yamato.html
★当日券もあり!


■内部の高精細画像(10月26日 20時56分追加)

*高精細な画像をいただく事ができたので追加で公開しました。圧縮しない状態で公開しているため、PCでのダウンロード、スマートフォンではピンチアウトすることで、よりその精細さを確認することができます。
 

▲艦載機格納庫


▲射撃指揮所
 

▲第一艦橋内部


▲主砲内部


▲烹炊所

 

(取材・文:ライター  平工泰久)