【インタビュー】『クラッシュフィーバー』はなぜ台湾・香港で成功したか? 自社運営の強みを活用 100本超の動画広告とPDCAによる改善も奏功



『クラッシュフィーバー』(ワンダープラネット)が、台湾・香港のアプリ売上ランキングにて、総合1位を獲得するなど日本発のグローバル向けアプリとして成功している。同社は、台湾や香港のプロモーションは、日本のゲーム会社では珍しく、パブリッシャーを使わずに自社で行っている。

今回はワンダープラネットの取締役兼執行役員COO(最高執行責任者)の久手堅憲彦氏(写真右)と、広告代理店として携わったサイバーエージェントのインターネット広告事業本部チーフコンサルタントの小島一輝氏(写真左)に「クラッシュフィーバー」の台湾や香港での成功の要因について話を聞いた。


 
プロフィール

■久手堅 憲彦(Norihiko KUDEKEN)氏
ワンダープラネット株式会社 取締役 兼 執行役員COO(最高執行責任者)
ワンダープラネットのマーケティング全般を担当。WEBのみならずマス含め包括的にみている。本件における担当業務は、WEBマーケティングにおける実績から目標KPIの算出をしたり、課題に対しての打ち手などをサイバーエージェント担当者と一緒にディスカッションし迅速な判断を仰いでいった。また、広告配信の媒体とも連携を密にしており、Google TrueViewの認知目的の広告配信など、常に新しい取り組みを実施・模索している。


■小島 一輝(KAZUKI KOJIMA)氏
株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部 チーフコンサルタント
ワンダープラネットのWEBプロモーションを担当し、Googleの広告配信・クリエイティブ全般を担う。市場環境が読めない中で、サイバーエージェントの社内グローバルチームと連携を図り、現地語の検索クエリの追加や、YOUTUBEのプレースメント分析などを実施し、Google TrueView広告を活用し配信を拡大。本件におけるポイントは、日本と違う各国のクリエイティブの傾向が不明の中、日本における勝ちクリエイティブの投入や、台湾・香港のキャストを利用した動画制作を高速PDCAで実施し、各国に最適な、勝ち動画の発掘に成功し配信拡大に寄与、結果ランキング1位に。

 


――:よろしくお願いいたします。「クラッシュフィーバー」のプロモーションについて台湾と香港でどのようなプロモーションを展開されたのでしょうか。

久手堅氏:基本的にはデジタルマーケティングを中心に行ないました。日本のデベロッパーさんは海外でパブリッシングを行う場合、現地のパブリッシャーさんにお願いすることが多いと思いますが、弊社は自社でパブリッシングしました。

パブリッシングを行うにあたり実際に台湾と香港にいって事前に調査をしました。調査の結果、デジタルマーケティングだけでなく、屋外広告や交通広告、TVCMを含めたオフラインの広告もメインの状況でしたが、弊社は数字を把握した上で迅速な判断を行いたかったのでデジタルマーケティングのみで、クラッシュフィーバーと親和性の高いユーザーに確実にリーチするプロモーションをローンチ時は実施しました。

最初は日本のゲームが好きなユーザーにリーチをしていきました。ゲーム自体もカルチャライズのような、仕様を大きく変えるようなことはしていません。現地の巴哈姆特(バハムート))などのメディアでスレが立っていたことから、日本版を遊んでくれているユーザーがいることは認識していました。このようなユーザーがどうすればローカルのバージョンを遊んでもらえるかを考えて、キャラクターやクエストなどの運営部分で工夫しました。

具体的に使った広告メニューは、Facebook広告とYouTube広告のTureViewになります。この二つを軸として、ローカルのネットワークも試しながら拡大させていきました。

 


――:サイバーエージェントさんは広告代理店としてどのような考えでプロモーションに取り組まれたのでしょうか?

小島氏:台湾や香港での配信にあたり最初はどのようなクリエイティブがあたるのかわからなかったこともあり、日本で効果の良かったクリエイティブから試していきました。配信したデータを分析すると日本と違った傾向が出てくるので、そこに合わせてクリエイティブの改善を随時行いました。

久手堅氏:極論を言うと効果的なクリエイティブに関しては実際に配信してみないとわからないです。日本人が仮説から台湾や香港の方が好きだろうというクリエイティブを作っても、本当に通用するのかわかりません。日本のゲームとして訴求していたこともあり、日本語のナレーションのまま現地語の字幕で説明するなどのクリエイティブでの広告配信もしました。これは日本語が格好いいという文化もある背景もあるかと思いますが、配信してみて実際に効果があることがわかりました。

クリエイティブの本数も大切だと思います。クラッシュフィーバーはもともと日本でもYouTubeにて広告をたくさん出していたこともあり、クリエイティブのストックがたくさんありました。日本で効果の高いクリエイティブから優先して配信していき、、その勝ちクリエイティブが台湾や香港においても効果が高かったことも初期プロモーションにおいて成功した大きな要因になったかと思います。



――:クリエイティブはどれくらいの本数を準備されていたのでしょうか?

小島氏: 日本での配信のために100本以上のクリエイティブを作っていました。そのなかで効果のあったクリエイティブを10本くらい優先して配信しました。また台湾と香港で配信するためにゲームを説明したクリエイティブも新たに約10本制作しました。最初はこの20本で配信を開始して、数値を見ながら改善を行いました。台湾や香港でも配信したクリエイティブの本数は最終的には100本以上になったと思います。

弊社には、高品質な動画クリエイティブをスピーディーに大量生成できる「Quvie(キュービィ)」という、海外配信に特化した動画広告クリエイティブの仕組みがあり、そのソリューションを利用しています。通常では、別々の動画クリエイティブを100本制作するのは大変だと思いますが、Quvieを活用することで、短期間に高品質な動画クリエイティブの大量生成を可能にしています。



――:Quvieを使うことでたくさんの動画を準備することができたのですね。プロモーションをやってみて最初から感触は良かったのでしょうか?

久手堅氏:最初から感触は良かったです。広告経由のユーザーさんの売上を広告費で割るROASという指標で回収率を見ていますが、獲得単価が低ければ費用回収はしやすくなります。開始当初から獲得単価は想定を上回り安価で獲得ができておりました。最初はある程度の予算で運用して、数値が良ければ積極的に予算を投下するような運用を行いました。
 


――:サイバーエージェントさんでは今回のようなやり方で海外のプロモーションを行った実績はあったのでしょうか?

小島氏:クリエイティブをここまで大量につくって配信したことは事例としてなかったと思います。積極的に予算を投下するところまで行かずにプロモーションが終了したクライアントさんも多いと聞きますので、今回いろいろチャレンジさせていただき改善しながらできたのは大きかったと思います。


――:他のゲーム会社さんがプロモーションに積極的に展開できないのは、何か理由があるのでしょうか?

小島氏:日本のゲーム会社は自社パブリッシングではなく、現地パブリッシャーにお願いしている印象があります。ビジネスのスキームにもよりますが、現地のパブリッシャーだとレベニューシェアが多く、パブリッシャーも広告費を使って売上が上がらなければ利益がなくなります。そのためゲームがヒットするという確固たる自信がないと、パブリッシャーも広告費を出しづらいというのが要因のひとつかもしれません。

久手堅氏:どこがリスクをとって運用するかはとても重要だと思います。弊社の場合は自社プロダクトということで、プロダクトに関してどこよりも理解しておりますし、今後の開発ロードマップも含めて把握しているので、自信を持ってプロダクトを送り出していました。広告に関しても数値をしっかり見ながら運用していましたので、きちんとリスクコントロールできたと思います。

 


――:今回は自社パブリッシングという形になりましたが、現地のパブリッシャーを使わなかった理由について教えてください。

久手堅氏:これは会社によっていろいろな考え方があると思います。弊社の場合はスタートアップの会社で、現時点で代表的なタイトルはクラッシュフィーバーのみという状況もありましたし、プロダクトを大事にして、一本のタイトルをどのように世界中の人々に届けるかを会社の思想としてあります。そのため外部に任せるのではなく、自分たちで作って自分たちの手で届けていくという考え方です。

マーケティングの点でも、任せてしまったらノウハウもたまらず会社としての成長はありありません。大きなゲーム会社の場合だと、ビジネス判断として外部に任せた分のリソースを他にあてたほうが良いという判断もあると思いますが。ワンダープラネットとしては、“一球入魂”でプロダクトを大事にしてユーザーに届けていきたいので、自社でやっています。任せていることで生まれるメリットもありますが、自分たちがやりたいことができなくなる、コントロールできない部分は生まれてくると思います。



――:他の会社と組んでやることでいろいろ問題もあるという話も聞きますね。『クラッシュフィーバー』の運営は名古屋のオフィスでされているのでしょうか?

久手堅氏:はい、『クラッシュフィーバー』の開発・運営は名古屋本社でメインに行っておりますが、台湾・香港・マカオ版『クラッシュフィーバー』においては東京のオフィスで運営していて、グローバル展開のチームには台湾人のスタッフが多く在籍しております。日本で運営していますが、台湾人のスタッフが現地のコミュニティを見るなどしながら現地のマーケットにあわせて運営しています。


――:海外展開にあたって、最初になぜ台湾と香港を選択されたのでしょうか?

久手堅氏:台湾と香港を選んだのは、マーケティングの効率性やコンテンツの親和性、規模感の三つが大きな理由です。この点から考えると、北米や欧州から攻めるのはリスクがありました。台湾と香港は、獲得単価が安くて、やりかたによってはヒットの可能性が高い市場といえます。またマーケットの親和性もあり『クラッシュフィーバー』を好んでくれている人がいるというのが現地のコミュニティでも顕在化していましたし、ある程度のマーケット規模感もあります。

今後はさらにグローバル展開を拡大するため、15言語にローカライズして、グローバル版という形でまずはアジア圏に10月末あたりから出していきます。



――:ワンダープラネットさんからみて今回の取り組みでのサイバーエージェントさんはいかがでしたか?

久手堅氏:おかげさまで台湾・香港はApp Storeの売上ランキングで1位を獲得できたこともあり、ユーザー獲得の部分では大成功かなと思っています。やはりクリエイティブは成功の大きな要因だと思います。



――:台湾においてオフライン広告が強いというのは何か特別な背景があるのでしょうか?

小島氏:タイやインドネシアも同様なのですが、中華系のゲーム会社向けのローンチ時の基本的な広告プランの中でもオフライン広告が多いと聞きます。こうした方法には私は懐疑的ですが、オンラインのメディアが少ないことも関係しているのかもしれません。また中華系のゲーム会社は新規タイトルのリリースサイクルが早いので、リリース直後の短期間で広告費をまとめて使う傾向もあるのかもしれません。
 


――:日本のマーケットと比較すると台湾や香港のマーケットの売上は大きいのでしょうか?

久手堅氏:もちろん、日本のマーケットは大きいので比較すると小さいですが、結構規模感はあります。クラッシュフィーバーに関しては、だいたい台湾・香港の売上は日本の1/3以上1/2以下といったところでしょうか。ユーザーの規模感も大きく、台湾・香港のピーク時で日本のユーザー数とほぼ同じくらいだと思います。


――:驚きました。かなり多くのユーザーさんが遊ばれていますね。

久手堅氏:たくさんのユーザーさんに遊んでいただいています。現地メディアの編集者のかたとも話をしても現地で多くのユーザーが遊んでくれているという話をしていました。肌感覚としても多くのユーザーさんに遊んでいただいていると考えています。


――:日本のゲーム会社の海外市場への展開を見ていると、日本の会社は初期に瞬間的にはランキング上位にくることはありますが、順位をキープできずに苦戦する傾向にあります。御社として今後こうしていく考えですか。

久手堅氏:ビジネス面の視点だけで見ると、現地のパブリッシャーさんとのビジネススキームの状況もあると思いますし、広告予算を初期にたくさん使ったなどの部分が関わっていると思います。

中華系のマーケットでは3か月くらいのサイクルでランキング上位のタイトルが変わる傾向があると聞きますが、『クラッシュフィーバー』は配信から4か月目で1位を獲得して現在5か月目に入っており、多くのユーザーさんに遊んでいただいています。ユーザーのボリュームを考えても、最初にターゲットとして考えていたユーザーさんにはリーチできたと思います。今後はユーザーさんとのコミュニケーションを重視して、ロイヤリティを上げるために顔の見えるような取り組みもやっていかなければいけないと思っています。


 
▼台湾App Store売上ランキングの推移
 
▼台湾Google Playの売上ランキングの推移
出所:AppAnnie


――:リアルイベントでしょうか?

久手堅氏:イベントも含めて考えています。台湾や香港のユーザーさんから見れば弊社は海外のゲーム会社と捉えられていると思いますので、もっとユーザーさんとの接点を大事にしていきたいと思っています。例えば「神魔之塔」は代表がコミュニティを管理しているという話を聞きます。弊社も代表がコミュニティを管理するくらいユーザーさんとの接点を大事にしています。台湾や香港のユーザーさんがクラッシュフィーバーの運営をもっと近くに感じられるようにしたいです。


――:他の地域でもサイバーエージェントさんと一緒に取り組みをされるのでしょうか?

久手堅氏:他の地域でもサイバーエージェントさんとご一緒に取り組む話を進めていきます。私の見解ですが、私自身も含めて日本のゲーム会社や代理店もまだグローバル展開へのプロモーションナレッジは十分ではないと思っています。しかし、今回のサイバーエージェントさんとの取り組みで、クリエイティブの本数を増やして勝ちパターンを見つければ、ある程度通用することが実証されているので、検証しながら運用を回していけばある程度やっていけるのではないかと思っています。


――:サイバーエージェントさんとしては他の地域の展開についてはいかがでしょうか?

小島氏:弊社全体ですと、今回のワンダープラネットさんでの台湾・香港配信以外にも、東南アジア、北米、南米、ヨーロッパなどの配信実績があり、これらも全て海外配信に特化した動画広告クリエイティブプラットフォーム「Quvie」を活用し、その国や地域に合わせて勝てるクリエイティブを検証してきました。今後はローカライズ対応できる地域を広げつつも、主要国の動画勝ちクリエイティブの新しい軸をチャレンジングに検証し、クリエイティブの勝ちパターンの幅を広げていきたいと思っています。


――:今回の台湾と香港で得たマーケティングのノウハウや経験は、他のマーケットでも通用するものでしょうか。

久手堅氏:通用すると思います。『クラッシュフィーバー』のグローバル版は、東南アジア向けの言語に関しては、「英語」「中国語(簡体)」「中国語(繁体)」「タイ語」「インドネシア語」「ベトナム語」「マレー語」の言語がローカライズされていますが、一方で広告のクリエイティブでは、ローカル言語のクリエイティブ制作やリーチなどきちんとされていないような話をよく聞きます。広告でもローカライズをきちんとやってPDCAを回すことでより高いパフォーマンスが出せるのではないかと考えてます。

例えば、すべて英語のクリエイティブで配信して、ある程度パフォーマンスが良いからそのままでやるのではなく、言語をローカライズしたらもっと数値が良くなった場合もあります。細かいところですが数値が変わるとボリュームを増やして広告予算を投下できるので良い循環につながります。一個一個しっかり数値を見て運用していくやり方は他の市場でも通用すると思います。

 


――:最後に、今後いろいろな国や地域でグローバル展開するにあたり抱負をお聞かせください。

久手堅氏:日本発のグローバル市場で成功する企業のリーディングカンパニーになりたいと考えていますので、それぞれの国や地域できちんと成功させていきたいと思っています。

小島氏:それぞれの国や地域において、効果の出せる運用とクリエイティブを数字をもとに細かく分析・追及し、今までの我々の経験やノウハウのみならず、新たな取り組みにもチャレンジしながら、今後グローバル展開を拡大されるワンダープラネットさんの成功に貢献できればと思っています。



――:ありがとうございました。

 
(取材・構成 木村英彦)
(編集・構成・森山晃義)
 
株式会社サイバーエージェント
http://www.cyberagent.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サイバーエージェント
設立
1998年3月
代表者
代表取締役 藤田 晋
決算期
9月
直近業績
売上高7202億0700万円、営業利益245億5700万円、経常利益249億1500万円、最終利益53億3200万円(2023年9月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
4751
企業データを見る
ワンダープラネット株式会社
http://wonderpla.net/

会社情報

会社名
ワンダープラネット株式会社
設立
2012年9月
代表者
代表取締役社長CEO 常川 友樹
決算期
8月
直近業績
売上高34億6400万円、営業利益4900万円、経常利益2800万円、最終損益2億3600万円の赤字(2023年8月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
4199
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