NHKエンタープライズでのVRを制作を経て得た経験とその先に見える未知のもの 「緊急課題!?コンテンツビジネスとVRの近未来像」レポート3


10月24日月曜日~27日木曜日にかけて、「JapanContentShowcase2016(JCS2016)」が東京・お台場及び渋谷で開催された。JCS2016では、「緊急課題!?コンテンツビジネスとVRの近未来像」と題したセミナーが行われた。

VRコンソーシアムの藤井直敬氏がモデレーターとして、レコチョクの稲荷幹夫氏、NHKエンタープライズ神部恭久氏、日本アイ・ビー・エムの山口有希子氏がパネリストをつとめ、VRの過去、現在、今後の展望をなどを話し合うというもの。

本稿ではNHKエンタープライズの神部恭久氏による、NHKエンタープライズでVR動画を制作してきた中で培った経験や知見について、同社の見解ではなく、あくまでも個人的な経験談として語ってくれた内容をレポートする。

■動画を制作した知見や経験の先に見えてきた”何か”を求めて
 

放送局に関係する仕事をしておきながら、なぜVRなのか?同氏が所属する番組開発部という部署は、放送番組の企画・制作だけでなく、新しいコンテンツを開発するのを宿命付けられている。過去にはスマフォのアプリの開発もしており、そういった流れでVRの制作をしている、とまず語った。
 

2014年からVRから制作に携わっており、「RE:MINISCIA」というドラマで、VRコンソーシアム主催の「VRクリエイティブアワード2015」で賞をとり、その後、VRコンテンツを作りやすくなったという経緯を披露し会場を和ませた。
 

その後、2015年からは「謎解きライブ」という犯人探しを行う視聴者参加型の番組プロデューサーを担当。ホームページに現場検証をクリッカブルな全天球映像で公開。指紋の有無や、のちのちの推理に関係するような手がかりを探せるようにしたという。
 

そして2016年、10月に放送したNHKスペシャル「神の領域を走る」では、ホームページと番組を連動する形で、VRカメラを用いて、コースを取材しVRコンテンツの制作を行ったと語った。

同番組は、世界一過酷なレースと言われるトレイルランに日本人のランナーが挑戦。それをドキュメンタリーとして追いかけるというのが内容となる。 
使用したカメラ「JackIn Head」は暦本純一氏と、笠原俊一氏が制作。軽量なカメラで、かぶりながらカメラマンが走ることができたという。
 

また、11月にはNHK文化祭が行われ、この中でVR企画を行うことも明らかにした。NHKにもVRに興味を持った人間が少なからずおり、それぞれが今バラバラにあるので、まとめて見れるようするとのことだ。また子供にも見れる形で提供する予定だと同氏は語った。
 

▲横は時間軸。放送はあるタイミングで提供される。この放送を知ってもらうためにVRでプロモーションを行うといったもの。
 

個人的な見解だが、と前置きした上で、VRとTVは3つの関係があるのではないか、と同氏は語る。

まずはプロモーションだ。プロモーションは放送を知ってもらうためのもので、。入り口としての興味を提供するが、中の全ては出さない。体験の深度として、浅めに設定する。

次に素材だ。VRそのものが放送の素材として使えるもので、体験の深さはそれ相応の深さとなる。3つめは、放送と組み合わせることで、もっと深くに視聴者を誘うことができる"なにか"があるのではないかと語った。

というのも、「神の領域を走る」を作った時に、四角いフレームで一方的に流れていくTV番組をみることは、客観的にその事実を知ること。感情を移入することもあるが、客観的な視点であるということ。それに比べてVRは主観であり、コンテンツの制作に関しては、コメントを完全に自分の視点にしたという。

この客観的な番組と主観的なVRが組み合わさることで、おおげさに言えば、そのレースという事象への関わり方が別の次元に達するのではないかと、考えたとのこと。

また、VR元年から続くこの熱狂的な状況はプロモーションには最適だとした。VRというだけでニュースになるということは、十分プロモーションになるので、この間に色々なことをして経験を積むべきだとアピールした。

VRならではのストーリー、VRならではの文法、見せ方の方法論が出来ておらず、それができた際に未知の何かに到達できるのではないか。そして、それは見る側も同じで、まだ何を見るべきか、何を楽しむべきか、何を感じればいいのかわかっていない、というのが同氏の考えだ。

見る側と作る側が一緒に作っていき、なるべく深い世界にどれだけ早く到達できるか。これが映像産業とVRの間で重要なことで、実は今が正念場ではないか、と思っていると締めくくった。