日本と海外で事業を切り分け、さらなる成長をめざす……GREE INTERNATIONAL ENTERTAINMENTのVIPインタビュー

海外展開で足踏みが続く企業が多い中、着実な取り組みを続けているのがグリーだ。オーストラリア・メルボルンで開催されたゲーム開発者会議「GCAP(Game Connect Asia Pacific )2016」にあわせて、GIEでCEOをつとめるアンドリュー・シェパード氏と、グリーメルボルンのスティーブン・スパニョーロ氏、シェーン・スティーブンス氏に話を聞いた。


 
成功要因は「自由にやらせてもらっていること」

―――簡単に自己紹介をお願いします。

シェパード:2014年秋にグリーの経営に加わり、GIE設立にともないCEOに就任しました。グリーの前は5年間Kabamで働き、EAで家庭用ゲームのF2P戦略に携わったこともあります。グリーからお話をいただいた時、AAAのモバイルタイトルを手がけていましたが、せっかくのチャンスなので挑戦してみようと思いました。

 
アンドリュー・シェパード氏


スパニョーロ:グリーメルボルンの前身となるTwiitchという開発会社をスティーブンスと二人で立ち上げ、そのままCEOを勤めていました。2015年にグリーに買収され、そのままスタジオヘッドとして経営に携わっています。二人とも肩書き的にはGIEの人間ですが、実際はメルボルンで仕事をしています。

 
スティーブン・スパニョーロ氏

 
シェーン・スティーブンス氏


スティーブンス:同じくグリーメルボルンで経営幹部をつとめています。TwiitchではスパニョーロがCEOで私がCTOでした。もっとも二人ともエンジニア出身なんですけどね。

―――お二人とも、オーストラリア出身なんですか?

スパニョーロ:そうですね。メルボルン大学を卒業後、最初に地元のゲーム開発会社であるBlue Tongue Entertainmentに就職しました。1995年に創業した会社で、当時はPS1やPS2のゲームを作っていましたね。その後2004年にTHQに買収され、そのままTHQの社員として働いていましたが、リーマンショックで雲行きが怪しくなりました。結局THQは2011年にオーストラリアから撤退することになります。自分はその前にスティーブンスと知り合い、2010年にTwiitchを創業しました。そして今、再びグリーに買収されてグリーメルボルンになりました。

スティーブンス:私はもともとHunter Babyという企業を立ち上げ、幼児向けの衣料通販サイトを運営していました。この会社は現在も事業を続けています。もっともスパニョーロと出会って、ゲームもおもしろそうだと思い、この業界に参入することにしました。


―――スパニョーロさんとスティーブンスさんがグリーメルボルンでゲームを開発する一方で、アンドリューさんがサンフランシスコから他の海外スタジオを含めて、全体を統括するという形なのでしょうか?

アンドリュー:そうですね。

―――日本でヒットしたゲームを海外展開する企業が多い中で、グリーとGIEは完全に別々の企業のようにも見えますね。実際にリリースしているゲームもずいぶん異なっています。

 
追憶の青(日本市場向け)

 
DRAGON SOUL(海外市場向け)


アンドリュー:はい、GIEでは本当に自由にやらせてもらっています。GIEのマネジメント層はCOOの島竜太郎さん以外、ほとんどが外国人です。会議も英語で行いますし、東京本社での会議では通訳がつきます。

―――世界中を飛び回られていると思いますが、それぞれ出張頻度はどのくらいですか?

アンドリュー:グリーメルボルンには6~8週間に1回、東京本社には四半期毎に1回というペースですね。

―――グリーは10月にミッドコア向けモバイルゲーム『DRAGON SOUL』を約29億円で買収しましたが・・・

アンドリュー:『DRAGON SOUL』は海外で非常に有力なIPで、今後はサンフランシスコスタジオが中心となってタイトル運営を続けていきます。一方でグリーメルボルンでも、新規IPのモバイルゲーム開発を行っています。『DRAGON SOUL』は2Dゲームですが、こちらはTwiitch時代の技術力を活かして、3DのオリジナルIPゲームになる予定です。

―――当然、こちらも海外向けのタイトルになるわけですね。

アンドリュー:グラフィックデザインなどは、まさに欧米向けのものになっていますね。発表は来年を予定しています。

―――つまり、日本と海外で完全に切り分けているわけですね。

アンドリュー:そうなりますね。もちろん全世界でヒットするタイトルの開発は理想ですし、日本と海外で双方のゲーム開発者が刺激をうけあうことも重要です。ただし、現段階では両者を分ける戦略を採用しています。


 
3Dゲームの開発技術で白羽の矢が立った

―――アンドリューさんが当初、グリーの経営に参加された時、どのように感じましたか?

アンドリュー:もっともっと海外市場に力を入れていきたい、そんなふうに思いました。もっとも、状況を把握するのに約半年くらいかかりました。それぞれの会社にはそれぞれの社風があり、当然Kabamとも違いましたから。

―――そうした中で、グリーは2015年7月にTwiitchを買収したわけですが、理由は何でしたか?


 
Twiitch公式サイト(http://www.twiitch.com/)


アンドリュー:欧米モバイル市場が成熟していく中で、よりグローバルな戦略が必用でした。その一方でGIEの前身となるグリーのサンフランシスコスタジオでは、2Dゲームの高い開発力がありました。そこで次は3Dゲームの開発力が求められていたのです。Twiitchとはカンファレンスなどを通して以前から親交がありました。いろいろと検討を重ねる中で、買収という選択肢が最適だろうと考えました。だいたい3〜6ヶ月くらい検討しましたね。

―――他にもさまざまな候補があったと思いますが、何が決め手でしたか?

アンドリュー:家庭用ゲームでの開発経験や、人脈、リーダーシップ、スタジオの持つ技術力、GIEとTwiitchでシナジーをどう発揮させるか、市場での成長戦略・・・考えることはたくさんありました。もちろんタイミングも重要でした。そういった個々の条件の結果ですね。

スパニョーロ:お互いがお互いを必用としていて、良い関係ができたと思います。

スティーブンス:実際、独立系企業のままでは、次第に生き残っていくことが難しい局面になっていたのも事実でした。そんな時にオファーがあり、会って話してみるとゲームに対する考え方が同じでした。そのため決断も比較的容易でしたね。


―――アンドリューさんから見て、オーストラリアのゲーム業界や市場はどのように見えますか?

アンドリュー:10年前のカナダに似ていますね。数多くの独立系スタジオがあり、優れた大学があり、政府の強力な支援があります。そのため、今後の成長に期待ができます。パブリッシャーが新作ゲームをリリースする前に、テストマーケティングとしてソフトロンチを行うことが多い点でも似ていますね。

―――3年前からメルボルンでゲーム見本市のPAX AUSがスタートして、さらに盛り上がってきました。

アンドリュー:そのとおりですね。EAもブリスベンのPandemic Studiosを2009年に閉鎖しましたが、2011年にメルボルンのFiremonkeys Studios(『Real Racing 3』など)を買収して、再びオーストラリアと強力な関係性を構築しています。


 
PAX AUS


―――実際にオーストラリアではモバイルゲームの初期から、さまざまなヒット作が産まれていますね。『フライトコントロール』『フルーツ忍者』『クロッシーロード』・・・。その理由はなんでしょうか?

スパニョーロ:もともとファミコン時代から20年以上にわたってゲーム開発の歴史があったことが大きいと思います。それがリーマンショックで外資系大手が撤退して、優秀なベテラン社員が四散しました。その過程で家庭用のAAAゲームの開発ノウハウがインディに継承されたんです。そこに若い人たちが入ってきて、両者が融合しました。おかげで小規模スタジオでも良質なゲームが開発できているのだと思います。

―――中でも中心になっているのがメルボルンですね。

アンドリュー:やはりビクトリア州の支援が大きいと思います。実際、グリーメルボルンがスタートしたときも支援をいただきました。Twiitchが創業した時も同様でしたよね?

スパニョーロ:そうですね。スタートアップ企業むけに資金面での支援をいただきました。



 
Unityを独自にカスタマイズして活用

―――グリーメルボルンの社員数はどれくらいですか?

スパニョーロ:40人くらいで、今後は60人から80人くらいには増やしていきたいですね。

―――先ほど新作3Dゲームの開発を進められていると話がありましたが、何ライン走っているのですか?

スパニョーロ:1本のみです。つまり、いま作っているゲームに全員で集中しています。これまでにない、すごいゲームを作っていますよ。

―――アンドリューさんから見て、今のグリーメルボルンをどのようにご覧になりますか?

アンドリュー:外部の立ち場からという意味ですよね。私は外資系企業が現地で成功するには3つのポイントがあると思っています。「どれだけ現地の会社と深く協業できるか」「どれだけ現地の市場と強力な関係性を構築できるか」。そして一番大切だと個人的に思っているのが、「状況や時代にあわせて変化し続けられるか」です。

―――わかります。

アンドリュー:グリーメルボルンのスタッフはみな若く、モバイルゲームしか知らないのも事実です。この両名は違いますが、多くのスタッフがPCもコンソールのゲーム開発も経験していません。ゲーム業界では今後も、いろいろなことが起きると思いますが、常に時代にあわせて適応しなくてはいけませんよね。その点について期待しています。

 
グリーメルボルンのオープニング記念パーティでは業界関係者が多数参加


―――グリーメルボルンの社員の平均年齢はどれくらいですか?

スパニョーロ:ものすごく若いですよね・・・私たちをのぞいて。

スティーブンス:だいたい20代半ばです。


―――男女比はどれくらいですか?

スパニョーロ:女性が1割くらいですね。もっとも性差で区別しているわけではありません。最適なポジションで最適な人材を雇用していった結果、このような割合になりました。

―――開発ツールは何を使っていますか?

スティーブンス:クライアントはUnityで、ネットワークインフラは独自開発ですね。CGツールはMayaが中心で、たまに3ds Maxも使います。もっともUnityもどんどん自分たちでカスタマイズして、使いやすくしていっているんですよ。ワークフローもUnityを中心に複数のミドルウェアを活用して、独自で整備しています。

―――ユニティ・テクノロジーズからの技術サポートはどのように受けていますか? メルボルンではゲーム開発者会議のUniteは開催されますが、そもそもオーストラリアに同社の支社はありませんよね?

スパニョーロ:そうですね。そのためメールサポートなど、インターネットでのサポートが中心です。ただ、我々もある程度の経験があるので、たいてい自分たちで何とかしてしまうんですよ。

スティーブンス:実際、いろいろな機能を自分たちでカスタマイズしています。昨年以来、Unityが詳細なロードマップを公開したことで、自社開発の焦点が絞りやすくなりました。



 
人材採用の決め手は「情熱があること」

―――人材採用はどのようにされていますか? たとえば新卒採用などは・・・

スパニョーロ:なかなか難しい質問ですね。正直にいって、必用なパートで必用な人材を必用な時に採用しているという感じです(注:オーストラリアには日本のような新卒一括採用の習慣がない)。新卒(ジュニア)と中途(シニア)採用の割合も、半々です。ジュニアの採用については大学とのネットワークも活かしています。

―――ジュニアに求めるものは何ですか? 日本では「可能性」が一番重要視されます。これには正社員の解雇規制が非常に厳しいという事情もあります。

スパニョーロ:オーストラリアはアメリカと同じく人材流動性が高い社会ですが、長く働いてもらうのはスタジオの文化を保つ上でも重要ですよね。一番大切なのは熱意があることです。シニアでは家庭用ゲームの開発経験も重視されます。もちろん、モバイルゲーム開発に対する理解も不可欠です。他にエンジニアでは一人で複数の役割がこなせること・・・。でも一番大事なのは、「これまでにない、ものすごいゲームを作り出す」ことへの情熱ですね。

スティーブンス:実際プログラマーの採用はけっこう大変で、地元で見つけるのが難しいのも事実です。高度なコンピュータサイエンスのスキルと、高い情熱の両方が必用です。


 
 
Twiichで募集中の職種一覧(公式サイトの一部をキャプチャ)


―――ゲームデザイナーの採用はどうでしょう?

スパニョーロ:ゲームデザイナーは・・・難しいですよね(笑)

―――ゲームデザインはビジネスモデルと不可欠なので、F2Pゲームではパッケージゲームの時代と違うゲームデザインが求められます。日本でもゲームデザイナーの採用と人材教育は重要な課題になっています。

アンドリュー:そのとおりですね。一口にゲームデザイナーといっても、モバイルのF2Pゲームでは「ゲームプレイデザイナー」「マネタイゼーションデザイナー」「PM的なデザイナー」などに分かれます。この点ではサンフランシスコは人材の宝庫です。一方でメルボルンには優れたインディゲーム開発者や学生がたくさんいます。基本は現地の人材を採用し、必用なパートをサンフランシスコでサポートする体制にしています。

スティーブンス:F2Pでは開発と運営を分けられないので、小さいパートからはじめて徐々に経験を積ませていくしかないんですよ。我々は昔から、開発と運営をどちらも社内でやってきました。どうやってゲームを作り、どうやってマネタイズするか。いずれも運営を通して学んできたことです。

スパニョーロ:THQ時代は家庭用ゲームを作っていましたが、Twiitchではモバイルゲームに最初から焦点を当てていました。その後、モバイルゲームでも次第にF2Pが中心となっていきました。その都度、ノウハウを積み上げてきました。

アンドリュー:実際、ちょっと前まであまり深く考えずに、モバイルゲームで高い利益率が上げられる時代がありましたよね。しかし今では家庭用ゲームのDLCなみに開発費がかかります。そのためモバイルのハードコア・ミッドコアユーザーを満足させて、課金につなげる施策を真剣に考える時代になっています。



 
まず現地に足を運んでみて欲しい

―――マーケティングはどのようにされているのですか? GIE側でやられているということでしたが・・・

アンドリュー:そうですね。もっともサンフランシスコから指示をするのではなく、よくマーケティングチームがメルボルンまで来て、一緒になって仕事をしています。実際、各々の市場には各々の特性があり、各々のマーケティングが必用ですからね。開発と運営が一緒になって仕事をして、そこにマーケティングがサポートする。この体制が理想だと思います。

―――それでは最後にオーストラリアやメルボルン進出に関心のある日本企業に、何かアドバイスをいただければ幸いです。

アンドリュー:まずはGCAPやPAX AUSのようなイベントに出席して、現地の雰囲気や市場の規模感を肌感覚でつかむことが大事です。そこで働く人たちに出会って、実際に彼らの思いを感じて欲しいですね。すべてはそこからです。実際、メルボルンには家庭用ゲーム、PCゲーム、モバイルゲームと、さまざまな開発哲学を持つ、さまざまな企業があります。それから政府の支援もあります。これも実際に担当者に会って話をされることをオススメします。

―――そのとおりですね。

アンドリュー:成田とメルボルンは直行便もあり、簡単に往復できます。それから大事なことですが、時差も少ないですしね。お互い、良いパートナーになれると思いますよ。

 


 
(取材・文:ライター  小野憲史)
グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高754億4000万円、営業利益124億9800万円、経常利益130億8600万円、最終利益92億7800万円(2023年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
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