VRの時代は早く終わればいい 水口哲也氏らが見据えるその先の世界とは 「ゲームクリエイティヴ&ビヨンド」【JCFF】


 
11月20日、虎ノ門ヒルズで開催された「TOKYO SHINTORA MATSURI」。同イベントでは、東京と東北のあらゆる魅力やカルチャーを紹介や、ゲーム、アニメ、音楽などの最前線で活躍する人たちのトークセッションが行われた。

今回は、その中でもThe Game Awards 2016で"Best VR Game"を受賞した『Rez Infinite』のクリエイター水口哲也氏、UnrealEngineを提供しているEpic Games Japan代表の河崎高之氏。

聞き手として、ライゾマティクス代表取締役の齋藤精一氏、wired日本語版編集長の若林恵氏による「Japan Culture Future Forum」のトークセッション "ゲームクリエイティヴ&ビヨンド~VRとゲームエンジンがもたらす創造の拡張~"のレポートを複数回に渡ってお届けする第3回目、最終回だ。

前回お伝えしたUnrealEngineの進化。そして、ゲームエンジンとして想定していなかった使用方法などが明かされる中、話はこの先、未来の話へ。

第1回
やっと面白い時代がきた 水口哲也氏が「ゲームクリエイティヴ&ビヨンド」で語ったバーチャルリアリティとは【JCFF】
第2回
ゲームエンジンはAIの学習にも? EpicGamesの河崎氏が 「ゲームクリエイティヴ&ビヨンド」で語ったUnrealEngineの魅力と想定しなかった使用例とは【JCFF】


■VRの時代は早く終わればいい、登壇者が見据えるその先の世界とは 
 

これから未来、色んな意味で解像度が上がって欲しいと水口氏は言う。UnrealEngineの問題だけではない、と前置いた上で、全体的に早く臨界点を超える状態になるのが願いだという。

今の進化のスピードを見ていくと、10年かかると思ってたものが、5年といった期間で実現するスピードになってきており、シンギュラリティも早めに来るのではないか、という肌感覚があるとのこと。今後フレームレートの向上などで酔いはなくなっていき、解像度が8Kを超えると、人間の目が判別できないと加えた。

そして、今見ているリアルなものと、UnrealEngineで生成されたものの判別がつかなくなる。そういう8K解像度のクオリティが10年とか15年で実現されるのでは、と見解を述べた。

現実と非現実の境目がなくなるのでは、そういった世界を恐ろしいと考える人もいる。それについても水口氏は楽観的に考えているという。

というのも、イマジネーションを外在化した、ビジョンや世界、それはもう"現実"になっているというのが、その理由だ。例えばディズニーランドに行って、「あれを現実ではない」とは、皆、もう思っておらず、既に現実の中の一部に存在していると。形があるとか、ないとか。触れられる、触れらない、といったものではないと説明した。

VRの時代は早く終わればいいのに、と思うんですよ。真面目に思うんです。」と水口氏は続ける。

VRは没入するし、あっち側の世界に旅するような感覚になる。しかしクリエイター達が、色んな体験、ビジョンを積み上げていくと、それを現実の世界にインストールしたいというシチュエーションが、いっぱい生まれてくると思う。それがVRやARにマージされてきたところからが、本当のイノベーションが始まるのではないかと想いを語った。
 

一方で斎藤氏は、本来の使い方を見つけるのは、一段落して初めて道具として、物を想像する人などに使われるようになった時に存在意義が発揮できる気がすると。というのも、色々なところで、VRと言われる昨今。独り歩きしているとこがあり、VRは本来何に使えるのか。本当の"コンテンツ"ができていないのではないか、と疑問を投げかける。2020年に開催されるオリンピックでのVRといったものより、前のオリンピックの時の東京はどんなものであったかといった事はVRでしか体験できないという例を挙げ、説明した。
 

「VRはすごく魔法の力が強いんですけど、強すぎるんですよね。」というのは河崎氏の発言だ。体験しないとわからず、映像を見て、想像したものと感じが違い、その差がものすごく大きい。そして、大きいが故に体験した人はVRというだけで満足してしまうのでは、と語った。

VRが市場に出るようになって1、2年位経った今の状況として、VRの魔法にはしゃいでいるところがあると指摘する。VRでやるからおもしろいのであって、それ自体コンテンツとしての価値はあまりないものが多いのではないか?と考えを示した。

初めてHMDを被り、その体験自体の凄さに感嘆するため、一時的にはなんとなく盛り上がる。けれど、恐らく近い将来"VRショック"、つまりは昔の"アタリショック"のような消費者離れのような出来事が、特にゲームに関しては遠からず来るのでは、と予測しているという。

ただそれはビデオゲームやモバイルでも過去に同じ道を辿ってきており、一旦飽和し、その後当たり前の状況になる。そこから2周目になり、はじめてVRの本気、VRならではのコンテンツが出てくる。「そこまでいかないとゲームに関しては、VRの本当の姿は見えないのではないか」と見解を述べた。

ここで、若林氏から、一周したその先どういったものがあるか仮設や予測はあるかという問いかけに対して、河崎氏は続ける。

「VRではないと遊べない、だからこそできる表現が言えれば僕もお金持ちになれると思う」と会場を和ませつつ、以下のような予想をした。

VRではゲームを作る人にとってカメラを奪われており、既存のゲームだとカメラを切り替えることで表現していたものが、VRだとユーザーがどこを向くか、どのタイミングで見るか、そもそもどこにいるかわからない。そのためみんな苦労してると思うが、それを逆手に取るコンテンツが出てくるのでは、とのことだ。
 

過去のパターンとか、通用しないような気がしている。実際に気分や効能といったものをもたらしてくれるのもの、そういった方向ではないか、と考えを述べたのは水口氏だ。週末に体験すると元気になるといったものや、ものすごい旅をして帰ってきたような"感覚"が必要になるのでは、と説明。ゲームから飛び出た話ではあると前置きした上で、それは実像というか、実写のVRとUnrealEngine的なものの融合ではないかと予想しているという。

水口氏が例として挙げたのは「FOVE」というヘッドマウントディスプレイの会社だ。
 

FOVE の取り組みで非常に感動的だったのは、寝たきりになったおばーちゃんが孫の結婚しにいくことができないため、VRで会場の様子を体験するというもの。​身体の自由が効かなくなったけど、意識はそこに居たり、あそこに居たいといった想いがあり、水口氏は凄く人間的な感じがしたという。

またVRやAI、そしてブロックチェーン。更に過去の時代に繋がるといった要素を、立体的に考えると、VRはその一角でしかないけれど、全部通しで考えると未来のイメージが出てくることが、沢山あるのではないかと語った。

体験という意味では、河崎氏も面白い経験をしたという。Epic Gamesは本社がアメリカの東海岸にある。現在、同社で実験的に作っているVRコンテンツが有り、オンラインマルチプレイで、卓球やフリスビーを投げあったりできるというものだ。

日本のスタジオとアメリカの本社はオンラインでつながっており、日本で夜11時か12時位(本社は朝の早い時間)で誰も居ないだろうと思ってログインしたところ、たまたま作業してる人間がいた。アプリ内は表示はリアルなものではなく、真っ青なマネキンであるという。誰もいないと思って入った驚いた所作が、相手には凄く伝わっており、本社から見れば、日本は真夜中なのにまだ仕事してるのかといった内容が真っ青なマネキンで、表情も何もない。でも表情はバッチリ伝わり、ソーシャルで組み合わせることの可能性を感じたと説明した。
 

トークは進み、話はホロレンズから実像とVR的にスキャンされたものが融合する世界へ。水口氏が見せたいものがあるとして共有してくれたのが上記の映像だ。映像は『Rez Inifinite』をホロレンズを使用して実験的なことしているのだが、彼の部屋にあるものは実際ほとんどなくて、ホロレンズを通して見ている映像だという。

将来的には、コワーキングスペースなどで、大阪にいようが京都にいようが、仮想空間を混ぜた状態で皆がそれらを共有しながら仕事ができる環境。現在のテクノロジーでできることはまだ限界はあるとしながらも、それが未来の1つではないかと予測した。

複数のカメラで、この場所を同時に撮ると、場所自体をスキャンすることができると、水口氏は続ける。この複数の視点でスキャンした世界は、データも少なくてすみ、リアルタイム転送の可能性も秘めているのだという。いま会場で頷いたり、動いたりするということが、5年、10年経った際には、VRを使ってデータを見てる人たちは、おおよそリアルタイムで、CGで表現されたリアルな人を空間ごと捉えられるのではないかと展望を語った。
 

最後に若林氏は、コンテンツをコンテンツとして"眺める"ことに慣れていると指摘。受動的な状況、そういったものを突破しないと、VRやMRのおもしろさは、なかなか発見できないのではと語った。そういった意味で実験をする空間として常に先に走っているエンターテイメントの存在は、そのためにあるのではないか、と見解を示した。