【インタビュー】"日本らしさ"を武器にアンビションの海外事業が急成長…売上高3.3億円・利益1億円 少人数・国内運用の徹底で利益率30%の高採算実現



『萌えCanちぇんじ!』や『擬人カレシ』、『虹色カノジョ2d』、『星彼Days』など、個性的なゲームアプリを手がかるアンビションの海外事業が好調だ。今期に入って英語圏を中心に大きな成果をあげるようになっており、2016年4月~2017年1月の業績は、売上高が3億3000万円、営業利益が1億円となった。前々期(2015年3月期)の売上高は1億1000万円、前期(2016年3月期)売上高は約2億2000万円だったというから、急成長といえるものだ。

同社は、業績拡大のけん引役となったのが『虹色カノジョ2d』の英語版にあたる『Dream Girlfriend』だ。2015年9月より配信を開始した本作だが、グラフをみると、リリース以降、売上が大きく伸びていることが確認できるだろう。同時に、低コストかつ効率的な運用ができているため、利益創出も可能になっている。また一部には海外版の売上が国内版を凌駕するタイトルも出ているという。

 
アンビションの海外売上高の推移
 

それでは、アンビションでは、スマートフォン向けゲームアプリの海外展開について、どういった運用体制を採用しているのか。今回、アンビションの海外事業を担当する事業開発マネージャーの大和拓矢氏と、海外担当ディレクターのクリス・ブレイク氏にインタビューを行い、同社の海外運用の体制について話を聞いた。


 
■初期は失敗の連続も「改善すればイケるムードがあった」

アンビションが海外展開を始めたのは2013年だった。看板タイトルである萌え系育成ゲーム『萌えCanちぇんじ!』の海外版を2013年7月より配信を開始し、現在まで累計8タイトルを運用してきた。大手モバイルゲーム会社と異なり、海外拠点は設置せず、日本国内から配信していた。社内では2011年から機運が高まっていたが、「人材が思うように集まらず、なかなか実行に移せなかった」(大和氏)。
 
▲インタビューに答える大和氏(左)とクリス氏(右)


事業を担えるネイティブの人材が入ったことで、ようやく海外展開を始めたものの、右も左もわからず失敗の連続だった。例えばインフラについては国内サーバーから配信していたが、米国との物理的な距離のため、遅延が頻発していた。米国で確認したところ、分単位で遅延が発生しており、ユーザーが入ってもすぐに離脱する状況が続いていた。プロモーションも効果が低く、新規ユーザーは1日数人単位だったこともあった。

思うように結果が出ない状況が続いたものの、継続して海外向けサービスを行えていたのは、少人数チームで低コスト運用できていたことに加え、課金率や継続率など一部KPIの良好な状況が続いていたことがある。「日本好きのユーザーには確実に刺さっていることが確認できた。インフラやマーケティングでノウハウを積み、改善すればいけるというムードがあった。諦めずに続けることができた」と大和氏は振り返った。


 
■低コスト・高効率な運用体制を実現

その後、2015年~2016年にかけて海外事業が大きく変わった。マーケティングとインフラのノウハウの蓄積による運営の効率化に加え、コアとなるネイティブ人材の採用に成功したことで、海外ユーザーに受け入れられるローカライズと、"適度な"カルチャライズを行えるようになった。現地法人の設立など、初期から大掛かりな投資を行わなかったことも高い収益性の実現に寄与することになった。

こうしたなか、運用体制が急速に整う中、2015年9月にリリースした『Dream Girlfriend』がヒットし業績が急拡大。さらに2016年9月にリリースした女性向けコンテンツ『星彼Days』の英語版にあたる『Dream Boyfriend』もここにきて成長軌道に入り始め、同社の海外事業の収益成長に寄与しつつある。
 
 ▲『Dream Girlfriend』


成長を支えた同社の海外事業の運用状況は以下のとおりとなる。


(1)運用体制
国内の運用チームがあり、海外専門のチームを作った。当初はローカライズのみをやっていたが、マーケティングやプランニングも行なうようになった。チームは、翻訳担当、プランナー、マーケティング、QA、サポートの構成となり、配信に関わる全ての作業を一つのチームで担える為、非常に効率的な運用が可能になっている。 

 
▲海外の運用担当チーム。


(2)ローカライズ
最初の頃は、現地の言語に翻訳するのみだったが、『Dream Girlfriend』からカルチャライズに力を入れ始めた。日本語から英語にするだけで一定の売上が出ることを確認していたが、海外の日本好きのユーザーに向けて、セリフなど細かいチューニングを行なうことでより結果が出るようになったという。「開発チームから自由に変更を加えてもいいと言われていたが、過度のカルチャライズは日本らしさを失い、日本好きの人には伝わらない」(クリス氏)。
 
 

(3)運営方法
国内版で実施したイベントやキャンペーンを2、3週間遅れで実施している。国内版で実装データを開発し、海外チームがローカライズ・カルチャライズを行なう流れとなっている。大きく変更はせず、費用をかけずに効率的に運営するように努めている。ただし、クリスマスやバレンタインなどの季節イベントについては例外で、日本と同時に行っている。


(4)インフラ
すでに紹介したように、国内のデータセンターから配信していたが、遅延などの問題が多発したため、現在はクラウドサーバーを活用している。これにより、海外でも通信速度が上がり、遅延の問題が解消した。


(5)QA/サポート
当初は、英語のできるスタッフが少なかったが、ネイティブ並の英語が使えるスタッフが採用できるようになった。デバッグ・QAについては、テキストの英語が正確かどうかだけでなく、ニュアンスも含めて伝わるものになっているかまでチェックできるようになった。


(6)マーケティング
インフラと並んで独自のノウハウが構築できた分野となる。初期は、WEBマーケティングや、メディアでの記事広告などを行ったが、SNSを中心とするWEBプロモーションを展開しているという。当初は獲得単価が500円を超えるときもあったが、現在では平均で100円を切っており、調子の良いときには50円台も珍しくなくなってきたという。

この背景として、ターゲットをゲームユーザーから日本のコンテンツが好きな人に変更したことが大きい。日本が好きという人に日本のゲームを好きになってもらうように心がけたという。さらに昨年末からTokyo Otaku Modeと共同でマーケティングを行っている。Tokyo Otaku Modeのユーザーも日本好きが多く、親和性も期待できる。

同時に、広告クリエイティブも大きく変更した。日本で使っていたものを翻訳したものだったが、現在は独自でクリエイティブを作っているという。クリス氏をはじめとするネイティブのスタッフの意見を採用し、"日本のコンテンツであること"を前面に押し出したクリエイティブとなっているという。
 
▲クリス氏


このほか、Facebookページの運用も開始した。情報発信する場所を設けるだけでなく、ユーザー同士のコミュニティを提供したことで、お金をかけずにオーガニックを増やすことができた。現在は2000−3000人単位で自然流入があるという。広告配信についても最初は代理店を使っていたが、コスト面で割高だったため、2015年に自社配信に移行した。
 
 

 
■今後の展望

アンビションでは、海外にゲームアプリを配信したいと考える開発会社向けのサポート事業も開始した。ローカライズ、インフラ、サポート、マーケティング、運営などパブリッシング全般を請け負うプランと、一部の機能のみを提供するプランを用意しているそうだ。海外市場に魅力を感じているものの、リソースもノウハウもない開発会社の利用を念頭に置いてサービス開発を行ったとのこと。
 

 
最後に大和氏は「どのようなジャンルが売れるのかと聞かれるが、ジャンルはあまり関係ないと考えている。海外ではゲーム性だけで勝負するのは難しく、"日本らしさ"が感じられるかどうかが重要だ。これさえあれば、どんなジャンルでも日本好きなユーザーにアプローチでき、ユーザープールを作ることができる。低コストかつ効率的な運用があれば、売上ランキングが400~500位でも利益の創出は可能だ」と締めくくった。


 
(編集部 木村英彦)
株式会社アンビション
http://www.ambition.ne.jp/

会社情報

会社名
株式会社アンビション
設立
2005年4月
代表者
福島公則
直近業績
非公開
上場区分
非上場
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