【CEDEC 2017】『Shadowverse』の行動ログから見た「デッキのトレンド分析」…流行を把握してよりゲームを面白く改善する手法とは

 
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月30日~9月1日の期間、パシフィコ横浜にて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2017」(CEDEC 2017)を開催している。
 
本稿では、8月30日に実施された講演「Shadowverseにおける「デッキのトレンド分析」を題材としたデータマイニング技術の活用手法紹介」についてのレポートをお届けしていく。
 
本セッションでは、Cygames データマイニング アナリストの鈴木貴都氏、技術本部 サーバサイドエンジニアの草野友弘氏が登壇。デジタル・トレーディングカードゲーム『Shadowverse』における使用デッキ流行の推移について、分析手法や直面した問題点、そこから得られた知見についての話を展開した。
 

▲『神撃のバハムート』『Shadowverse』のデータアナリストを務める鈴木貴都氏(写真左)と、サーバーサイドエンジニアとしてカードスキルの開発やバトルの通信機能を開発を担当している草野友弘氏(写真右)。
 
 

■『Shadowverse』における「デッキのトレンド分析」手法を公開


まず鈴木氏は、本セッションにおいて、ゲームの「面白さ」に貢献するデータマイニング活用の事例として、ゲーム内アクションのデータ分析手法を紹介していくと説明。ユーザーのゲーム体験向上に取り組むための分析姿勢や、ゲームの特性に応じた”分析手法の選択”、”データの意味付け”についての解説を行っていくとセッションの主旨を述べた。
 
なお今回、題材として取り上げる「Shadowverseにおけるデッキのトレンド分析」については現在開発中のため、本日(8月30日)リリースされるカードの能力調整には分析結果が利用されていないとのこと。
 
ソーシャルゲーム業界では、現在、分析対象のデータとしてKPI(重要業績評価指標)などを用いることが主流となっているが、『Shadowverse』においては、ユーザーのゲーム体験向上を目指してユーザーの対戦記録やアイテムの獲得記録といった「行動ログ」を用いることを重視しているという。
 

▲Cygamesでは、より面白いゲームを目指すためゲーム内アクションに対する分析を重視している。
 
ここからは、データマイニングによる分析をゲーム設計応用する研究を行っている草野氏へバトンタッチ。まずは『Shadowverse』がどういったゲームであるかを紹介したうえで、デッキトレンド分析が重要視されている理由、具体的な分析手法についての紹介をした。
 
【『Shadowverse』とは】
Cygamesが配信する『Shadowverse』は、スマホおよびPCで展開される対戦型オンラインTCGだ。対戦における「進化」システムが最大の特徴となっており、フルボイスで展開されるストーリーモードや、2017年8月時点で800種を超えるカードと7つのクラスで自分だけのデッキを構築できるのが魅力となっている。 
 
 
 
また、『Shadowverse』では、3ヶ月に1度のペースで新弾カードパックとして100枚ほどの新カードを追加している。カードバランスの調整については、社内のTCGプランナーが実物でカードを作成し、実際に対戦しながら既存カードとのシナジーやリーダーごとのデッキバランスを調整している。草野氏は、プロジェクト内部で調整&検証を十分に行ったうえで実際のプレイ動向を調査し、反映する必要があると「カード開発のポイント」を挙げた。
 

 
デッキ環境が重要な理由としては、有利・不利の関係がサイクルで推移するとユーザーの使うデッキが固定されにくくなり、いろんなデッキのユーザーと対戦できることで新鮮味が損なわれず長く楽しめるゲームになると解説。一方、幅広いデッキに対して有利なデッキが生まれると、ユーザーが使うデッキも固定されやすくなり同じようなマッチングしか生まれないため飽きを早める構造なってしまうと説明した。
 

▲写真の左図にあるような環境が理想的とのこと。
 
このことから、まずはユーザーのプレイ動向をキャッチすることが必要不可欠となる。これを、「データマイニング技術」によって解決できないか、というのが本セッションのテーマとなる。そこで、”ユーザーが使っているデッキタイプのグループ分け”と、”どのようなタイミングで主流デッキが推移するか”が今回の分析でも重要になるという。
 

 
なお、草野氏は分析手法を紹介する前に要件定義を下記の通りに示した。
 
【分析の要件定義】
目的:カードの開発調整に役立つ、現在のプレイ環境が把握できるような客観的な情報が欲しい。
使用可能な情報:『Shadowverse』における全対戦データ
アウトプット:各デッキグループの「使用率」「勝率」「構成カード」とこれらの推移
 

▲こちらは分析の大まかな流れ。本セッションでは、各項目についての詳細や、当時発生した問題点や解決法についても語られた。
 
まずは、近い特徴を持ったデータ同士のグループ化を図る「クラスタリング」を実施。『Shadowverse』では、全体的な傾向が似たデッキをひとつのグループにまとめることが目的となる。
 

 
この際、クラスタリング手法として最も有名なk-meansを使用したが、使用率が明らかに高いデッキグループの数値が低くなっており、実際の環境とかけ離れた結果が出てしまったという。k-meansとは、各データを最も中心点の近いクラスタに割り当て、それぞれのクラスタの平均を中心点として更新することを繰り返す手法である。
 
 
 
ここで問題となったのは「手法の特徴を理解していない」「ゲーム特性に合ったチューニングをしていない」という2点だ。
 
①手法の特徴を理解していない
k-meansが外れ値に弱いという性質があることを理解していない
 
『Shadowverse』では、強いデッキを重視するユーザーのほかにも、コンボが決まったときの爽快感など、プレイ感を重視したデッキを使用するユーザーも存在するため、環境には常に多種多様なデッキが存在する。これが、k-meansの性質と合わないため正確な結果が得られないという。
 
 
▲右下の値(プレイ感を重視したデッキなど)に引っ張られてしまうことにより、クラスタリングの結果が大きくずれてしまう。
 
そこで対策として挙がったのが、k-meansと非常に近いが、クラスタの中心点がデータ点そのものになるk-medoidsという手法だ。k-medoidsは、外れ値に強い性質を持っているため、先のようなグラフでも適切なクラスタリングが可能になる。
 

 
ここでは、手法の特徴をよく理解し、ゲーム特性に合った手法を選択することが重要であるとまとめた。
 
②ゲーム特性に合ったチューニングをしていない
デッキ間の距離について考えていない
 
続けて、草野氏はk-medoidsを適用するためにはデータ間の距離を定義する必要があると説明。そこで、デッキが近い/遠いということがどういうことかについての説明を行った。
 

▲k-medoidsでは、指定がなければユークリッド距離というものが適応されるが、『Shadowverse』においては写真内にあるような問題が発生することからも適切な手法にはならない。
 

▲そこで、『Shadowverse』では、デッキが等しい状態になるためにカードを1枚追加する/削除するという行動が何回必要かで距離を測る「デッキ編集距離(マンハッタン距離)」を採用している。
 
デッキ編集距離を適用することにより、距離の値にゲーム上の意味に対応させることができる。ここでは、手法とその結果を理解し、対象となるゲームにとって結果を解釈しやすい手法を選択することが大事だと結論をまとめた。
 
クラスと数を客観的に決めるための工夫がない
 
さらに「ゲーム特性に合ったチューニング」からもう1点。ここからは再び鈴木氏が登壇し、問題点を振り返った。
 

▲k-means 、k-medoidsどちらにおいても予めクラスタ数を指定する必要があるが、どの手法も精度がイマイチという問題点が挙がる。
 
そこで、ゲームの特性・データの特徴に合わせて「kを大きめにとっておき、後から絞りこむ」という方法を実施。これは、予めクラスタ数を多めに決め打ちして手法を適用。コアカードの似通ったデッキをマージしていくことで最終的なクラスタ数を決定していくという方法だと説明した。
 

▲例として6つのクラスタを用意し、その中でも「次元の超越」という特定のカードが使用されているデッキをひとつのクラスタとしてまとめていく。
 
また、ここでコアカードを選定する基準や概念について紹介。デッキを区別する際には「コンボの鍵となる(複数・単体の)カード」「フィニッシャーとなるカード」のうち、”他のデッキには含まれていないカード”がそのデッキの特徴を表していると仮定し、コアカードに定義するとのことだ。
 

▲新しい能力など、デッキ構築において重要な意味を持つ「レジェンド」「ゴールド」の2種をコアカードとして抽出している。
 
しかし、このままでは偶然そのクラスタの特徴があまり反映されていないものが選ばれている可能性があり、特徴を代表する点と考えるにはリスクが大きいという。そこで、メドイドではなく、メドイドに近い点の平均を取ることに。クラスタの平均的なデッキのデータから一定数より多く入っているレジェンド、ゴールドのカードを抽出。その組み合わせから、同じセルに割り当てられたクラスタは本質的には同じものとしてひとつにまとめるに至ったと経緯を説明した。
 

▲例として挙げられたグラフでは、レジェンドなし、ゴールド「ノノの秘密研究室」が入ったDとEのデッキはコアカードが同じという分析からひとつのクラスタとしてまとめられる。
 

▲同じコアカードを使用しているという分類を距離によって決めたいため、ここではクラスタ数を事前に決めないという特徴がある「階層クラスタリング」という手法を採用していると解説。
 
【可視化実例】
 
 
 
▲ここでは、最終的にAとCがワンターンキルを狙ったエルフという点でひとつのクラスタにまとめられる。
 
最後に、鈴木氏はクラスタ数決定についての問題点と解決法を下記のように振り返った。ここでは、分析を行う上で重要な”特徴量設計”を行うために、分析対象に影響を与えているモノが何か把握することが必要であるとまとめた。
 

 
その他、新弾追加の際などクラスタ数とコアカードは時間経過と共に変化していくという。
 

 
しかし、クラスタリングの結果は日によってそれぞれ独立しているため、各日のクラスタとクラスタを結びつける必要が出てきた。そこで、解決策となったのが「代表点のみを取り出して低次元空間に射影し、その空間上でクラスタリングを行う」という方法だ。
 
 

▲低次元空間で同じ分類にクラスタリングされたものは基の空間でも同じタイプのデッキとして扱うことによって、時間軸を越えた分類を可能にしている。
 
鈴木氏は最後に、実運用に向けた今後の課題として下記の2点を挙げた。
 

▲何ターン目に何のカードがプレイされたか、前後に使用されたカードは何かなど、プレイデータの分析が進めば、より精度の高いクラスタリングが可能になるとのこと。
 
そのうえで、データマイニングで大切にしていることとして、ユーザーの行動ログを分析することで、表には出てこない声をゲームに反映し、コンテンツをより面白くしていけると魅力を語り、セッションの締めとした。
 


 
(文・撮影 編集部:山岡広樹)
 

 
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