【寄稿】モバイルゲームのパフォーマンスを測るときに覚えておきたいKPI~新規ユーザーの獲得から収益化、ユーザーの維持に有効な指標までを各フェーズ別に紹介~



マーケターは、自社で開発したアプリがマーケットに出たあと、新規ユーザーの獲得からアプリの収益化、そして継続的にユーザーにプレイしてもらうという各フェーズで、パフォーマンスを正確に測る必要があります。そのための KPI(Key  Performance  Indicator = 重要業績評価指標)は数えきれないほどあり、重要なKPIはフェーズ毎に違います。
 
モバイルゲームアプリの場合、多種多様なものが乱立しているため、世に出てからもユーザーの注目を集めるために厳しい競争に直面します。しかも、たとえユーザーにダウンロードしてもらうことができたとしても、ユーザーに継続的に利用してもらうため、ダウンロード後もユーザー体験やエンゲージメントを最適化しなくてはなりません。
 
また、アプリマーケターとゲームプロデューサーはゲームの収益化のためにアプリ内課金、広告、サブスクリプション(月額課金)、アップグレードなどを駆使したゲームデザインを構築する必要があります。この寄稿では、グローバルでモバイルマーケティング・プラットフォームを提供している米AppLovinの日本法人代表・林宜多がマーケティングの観点からモバイルゲームアプリの最適化をはかる上で重要なKPIを次の4つのフェーズに分けてご紹介します。
 
 
● 新規ユーザー獲得
● ユーザー体験とエンゲージメント
● 収益化と評価システム
● 継続率の向上
 

 
■新規ユーザー獲得のKPI
 
現在、iOSとAndroid向けのアプリは520万個あるといわれており、競争が激しく、ユーザーを獲得するのは容易ではありません。新規ユーザー獲得においては、インストールからユーザー登録、チュートリアル完了、その他ゲームKPI達成から課金までの各段階に進むにつれてユーザー数が減っていくものです。
 
マーケターは、新規ユーザーがアプリをダウンロードしてから課金に至る段階で、ユーザーがインストールした経路を洗い出し、収益と投資回収率を特定する必要があります。この章では、新規ユーザーを獲得する上で有効なKPIを3つ紹介します。
 
 
1. 新規ユーザー獲得経路の最適化
ユーザーが自社で開発したアプリをストア内で発見してインストールを決めるプロセスは、多くのマーケターにとって重要な意味を持ちます。この段階ではアプリストアの最適化(ASO)も大切ですが、新規ユーザーを獲得するに至った経路にも注目するべきです。この経路の中で、特定すべき 指標 は2つあります。
 
●インストールに至るまでの閲覧回数:アプリをインストールするまでにユーザーがそのブランドを目にした回数(この指標は、広告とブランド戦略の成果を測るのに最適です。)
●インストール経路のアトリビューション:ユーザーをアプリに呼び込み、インストールを得るのに貢献した因子。
 
まとめ:新規ユーザー獲得の原因を追究すれば、成果の大きいユーザーの流入経路に投資したり、逆に成果の小さい経路への投資を削減できたりします。これがCPA (Cost  Per  Acquisition =利益につながる成果を1件獲得するのにかかるコスト)の削減につながります。 CPAの詳細は後述します。
 
 
2. ダウンロードからインストール、そしてアップグレード
ダウンロード数をトラッキングすることはもちろん重要ですが、ユーザーがアプリをダウンロードして、スマートフォンやタブレットなどのハードウェアに入れた時点ではまだスタートに過ぎません。実際にアプリを使用するためには、ユーザーはアプリをインストール後、個人データを入力・登録やアクセス許可をし、使用できる状態にする必要があります。また、ゲームジャンルによってはコンテンツのサブスクリプションやアップデートの設定を行う場合もあるかもしれません。そのため、このプロセスを完了できなかったユーザーの割合を調べ、インストールできなかった原因を特定することが重要です。
 
まとめ:マーケターは、「アプリをダウンロード後、インストールを完了できなかった」ケースだけを追うのではなく、 ユーザーがダウンロードからインストール、そしてその後のプロセスを完了するまでにどれくらいの時間を費やしたかを特定することに大きな意味があります(インストールに2分、登録に2時間、サブスクリプションに2日など)。
 
 
3. ユーザー獲得のコスト指標 CPI、CPA、CAC
ユーザー獲得にかかるコストの指標は、3つあります。
 
●  CPI(Cost  Per  Install=インストール単価): ユーザーにアプリをインストールしてもらうためにかかる費用を測る指標。この値は、広告費を獲得顧客数で除すると算出される。(例: 100万円の広告費用で5,000インストールが得られた場合、CPIは200円)
●  CPA(Cost  Per  Action =イベント指標を達成するためにかかるコスト):インストールの先のイベントで成果を測る指標。ゲームの場合、例えばチュートリアル完了あたりのコスト、レベル〇〇到達コスト、2週間の継続ユーザー獲得コストなどを数値化すること。施策にかかったコストを獲得した顧客数で除すると得られる。(例: 100万円分の配信で、チュートリアル突破した人数が2000人いた場合、CPAは500円)
●  CAC(Customer  Acquisition  Cost = 顧客獲得に要した営業・マーケティングのトータルコスト): CPAよりもさらに視野を広げた指標。コールセンターの対応や営業促進を目的にイベントを実施した場合など、マーケティング周辺の運用コストを加味する。
 
 
まとめ:マーケティングキャンペーンの全体的な成果を測る上で、CPI、CPA、CAC  を参考にすることはとても重要です。これによってキャンペーンを最適化し、費用や労力を有効活用することができます。
 

 
■ユーザー体験とエンゲージメントのKPI
 
ユーザーの行動を分析して、魅力的な体験を生み出すには、データに基づいてマーケティングをするのが効果的です。様々なタッチポイントから得られたユーザーの行動指標は、ユーザーのニーズを示すものです。そのため、これを特定し検証することは重要といえます。この章では、ユーザーの行動を知るための2つのKPIを紹介します。
 
 
1.   ユーザーと自社のゲームとの関与 (セッション)
マーケター中にはアプリ内行動データのトラッキングをやや軽視している場合もあるようですが、これはユーザー行動の背景を理解する一助になるばかりか、収益にも大きな影響を与えます。
 したがって、ユーザーが一定期間中に自社のゲームにどのように関与したか(レベルクリア、課金、エンゲージメントの低下など)ということ、すなわちセッションデータをトラッキングする必要があります。セッションを測定する指標は、4つあります。
 
●  セッション数:一般的に多い方が良い。
●  セッション時間:一般的に長い方が良いが、ゲーム短時間で完結するものの場合は当てはまらない。
●  セッションの間隔:ユーザーが各セッションを起こすまでに経過した時間
●  セッションの深さ:ユーザーがセッションでどれだけ進んだかを段階別に数値化・測定したもの。
 
 
2.   技術的な不具合がもたらす影響
アプリ内の技術的な不具合によってユーザー体験やエンゲージメントに悪影響が及ぶのは、マーケターにとって望ましくありません。ロード時間は、アプリのパフォーマンスの目安としてマーケターが重要視すべき指標の1つでしょう。ロード時間が長すぎる場合、セッションが短くなったり、インストールに繋がらなかったりして、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の低下を招くからです。 LTVの詳細は後述します。
 
また、アプリのクラッシュも大きな問題です。クラッシュでなくても長い待ち時間やフリーズはときにユーザーにクラッシュと受け取られ、アプリストアでの評価にもそうした印象が反映される場合があります。だからこそマーケターは、こうした技術的な不具合がユーザー体験や収益にもたらしている影響を理解し、解決策を探ることが重要になります。
 
まとめ:ロード時間やクラッシュなどの技術的な問題を軽視すべきではありません。最近のユーザーは数秒を待つことを苦痛に感じ、そのゲームを継続することを諦めてしまいますし、アプリストアでの悪い評価を招く恐れもあります。


 
■収益化とバリュエーションの KPI
 
マーケターの仕事は、ユーザーがアプリをインストールしてゲームをプレイし始めるところでは終わらず、収益についても考えなくてはなりません。この章では収益化のパフォーマンスを測る際にみるべき2つのKPIを紹介します。
 
 
1.   DAU、MAU、定着率の測定
●  DAU(Daily  Active  Users = 1日当たりのアクティブユーザー数)
●  MAU(Monthly  Active  Users = 1ヶ月当たりのアクティブユーザー数)
●  定着率(ユーザーがゲームに戻ってくる頻度): DAUをMAUで割ると得られる。この値が1に近い(DAUとMAUの値が近い)ほど、ユーザーがゲームに定着していると言える。
以上3つの指標は、エンゲージメントを測るものとしては一般的で、アクティブユーザーの数が多いほど収益も可能性が大きいといえます。
 
まとめ:DAU、MAU、そして定着率をトラッキングすれば、ゲームの潜在的な収益機会が想定できます。ゲームの滞在時間が長くプレイ頻度が高いほどユーザーの課金額や、そこから生まれる収益性が大きくなる可能性が高まります。
 
 
2. 課金までの期間、ARPU、LTV
●  課金までの期間:アプリをダウンロードしたユーザーが課金に至るまでにかかった期間
●  ARPU(Average  Revenue  Per  User = ユーザー1人当たりの平均収益):一定期間にユーザーから生まれた収益の平均
●  LTV(Lifetime  value = 顧客生涯価値、または  CLTV): 上記の2つよりも深く、大抵はコホート分析の一環として、ユーザーあたりの生涯の収益金額を予想する指標。


ARPU はゲームアプリのマーケターが必ずおさえるべき指標ですが、すべてのケースに当てはまるKPIというわけではありません。たとえば下図のように(出所:Developer  Economics)収益につながった経路を特定することで、収益性の最大化につながるヒントが得られることもあります。
 

 
 
 
また、ゲーム開発者向けのブログのApptaminでは、LTVを次の3つのカテゴリーにわけ、数値化をより簡単にしています。
 
●  収益化:インプレッション、サブスクリプションやアプリ内課金で、顧客がどれだけ収益を生んでいるか
●  リテンション:顧客の平均的なライフサイクルの長さなど、ユーザーのエンゲージメントのレベル
●  バイラリティ: 1人の顧客の口コミやネットワーク効果によって、得られるユーザー数の総価値
 
それでは、ここでLTV (CTV)の算出の例をみてみましょう。


(図: 上記の例の立式)

 
バイラリティは、熱心なオーガニックユーザーの評価や口コミが浸透しネットワーク効果を生むことで、収益が飛躍的に成長することです。このように自社で開発したアプリが「バイラルになる」ことは、マーケターにとっては理想的な展開でしょう。このバイラリティを分析しバイラル率を上げることで、ユーザー数の成長に大きく寄与します。バイラリティの標準的な指標 (バイラル成長率)を K ファクターと呼びますが、Kファクターをトラッキングする際に使用される方程式は以下ようになっています。
 
 
まとめ: 課金までの時間、ARPU、LTV  はゲームの潜在的収益性を測る目安になります。また、バイラリティを分析し、有効活用することでユーザー数の増加に役立ちます。
 
 
 
■ユーザー維持のKPI
 
この章では、ユーザー維持のためのKPIであるチャーンレートについて紹介します。チャーンレートはアプリをアンインストールした、またはサブスクリプションを停止したユーザーの割合を測定するものです。マーケターはゲームの収益化のために潜在顧客の獲得に力を注ぐのと同じくらい、離脱しそうなユーザーの維持または取り戻すための施策を実施する必要があります。チャーンレートはそのための重要な指標となるでしょう。また、離脱したユーザーの数を特定するのも重要ですが、その理由も特定する必要があります。ARPU と  LTV  がそのユーザーを取り戻す必要があるか否かを判断できるほど高水準なのかも理解すべきでしょう。
 
まとめ: チャーンレートはアプリをアンインストールし、離脱したユーザーの数を測る目安になります。離脱したユーザーの割合とその理由をあわせて分析することで、DAU/MAUの向上やゲームの収益化をより効率よく行うことができます。
 


 
■最後に
 
今回は、ユーザーの獲得から収益化・ユーザー維持までを4つのフェーズにわけ、最適化のためにそれぞれで注目すべきKPIを紹介してきました。もちろん今回紹介した以外にも有用なKPIはありますが、まずは多くのケースで重要となるこちらの指標を再度見直してはいかがでしょうか。
 


▼ AppLovinについて
AppLovin(アップラビン)が提供するスマートフォンアプリ向けモバイルマーケティング・プラットフォームは、モバイルやApple TVアプリケーション上で新たな消費者へのリーチを求めているブランドに、自動化されたリアルタイムの広告配信の最適化広告出稿、およびアナリティクス機能を提供します。このプラットフォームにより、広告主はリアルタイムのデータ信号を活用して、世界中の10億人以上のモバイルユーザーに広告効果の高い最適化された広告配信を行うことが可能。本社は、米カリフォルニア州パロアルト、社員数は約100人。サンフランシスコ、ニューヨーク、ロンドン、北京、東京、ベルリンにオフィスを構えている。

 
▼林 宣多(はやし・のりかず)
AppLovin日本法人代表取締役。GREE、Yahoo! Japanでの広告プロダクト立ち上げ後、米国に拠点を移し、設立直後のAppLovinに参画する。AppLovin本社の営業責任者として事業の成長をけん引した後、2016年4月にAppLovin日本法人の代表取締役に就任する。

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