【インタビュー】ノックノート社UIデザイナー原田氏にきくスマートフォンゲーム開発におけるUIデザインの重要性


ここ数年で、スマートフォンゲームは市場の激しい競争と、端末のスペック向上などを背景に、ゲームのクオリティが年々向上し、完成度の高いタイトルが増えてきた。そのため、スピーディーな開発が求められる中で、早期にプロダクトのゴールとUXを確定し、品質を十分に確保することが重要になっている。

今回、そうした中で、スマートフォンゲーム開発におけるUIデザインの重要性について、株式会社ノックノート UIデザインチーム・マネジャーの原田俊人氏にインタビューを行った。(インタビューアー:美田和成氏)
 
 

◆UIデザイナー動向の変遷や今後の展望


ーー原田さんのこれまでご経歴を教えていただけますでしょうか?
 
はい。大手ゲーム会社、WEB会社、映像制作会社において、映像やWEBサイト、アニメーション作品、VRコンテンツなどで使用するグラフィック素材やUIなどを作成してきました。ゲームコンテンツとしては、2009年頃からブラウザゲームやFlashコンテンツなどWEB上で動くゲームのUI制作を行い、2013年頃からスマートフォン向けのゲームのUIデザインをメインで行うようになりました。

現在はノックノート社に在籍しておりますが、当社はUIデザインにも非常に注力をしておりUIデザイナーからなる専門チームを組成しております。私はこのチームのリーダーとしてIPタイトルやオリジナルタイトルのUI構築に携わっております。

 
ーー UIデザインに従事されているという立場から、スマートフォンゲーム開発におけるUIデザインというお仕事の変遷や今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか?
 
業界全体としてUIのクオリティは年々上がっているなという印象です。プラットフォームが完全にスマートフォン向けに移行して、画面設計の自由度向上によって表現の幅が拡がったり、ハードのスペックの向上によってアニメーションを使いやすくなったりしたことで、以前よりもゲームの作り込みができるようになっています。

近年リリースされているスマートフォンゲームもゲーム性や世界観が素晴らしいタイトルがどんどん増えてきていて、UIデザインに求められるハードルはとても高くなっていると思います。


ーーなるほど。スマートフォンゲームのクリエーターにとってはとても良い方向へ進んでいるということですね。
 
そうですね。数年前のソーシャルゲームは複数のバナーが乱雑に配置されているなど、画面がごちゃごちゃしていることもありましたが、今ではどのタイトルもプロダクトのデザインが改善されています。2012年のスマートフォンへの移行後はスマートフォンゲームで遊んだことのあるユーザーが増えたこともあり、ユーザーのゲームを見る目は肥えてきていてゲームらしさのクオリティが要求されてきました。

最近ではクオリティの高さは前提として、ゲームとして本当におもしろい体験をユーザーに提供できているタイトルだけが遊び続けられております。UIも年々少しずつ進化しているので、新しいリリースアプリは触っているだけでおもしろいものが多いですね。

今後も開発時は、新しいユーザー体験を模索する上で、操作性の良いUIやそのグラフィックが美麗であることが前提となるので、プロジェクト内でのUIデザイナーの役割が非常に重要になっていくと感じています。

 
 

◆ゲーム開発におけるUIデザイナーの役割

 
ーーゲーム開発においてUIデザイナーはどのような役割なのでしょうか。
 
実際にUIデザイナーがやっていることは、企画書からゲーム画面のGUI(Graphical User Interface)開発、具体的には画面の設計や要素のグラフィック作成になります。ゲームプランナーが企画で実現したいことを、より具体的イメージできるようにしたり、ユーザーが画面を操作した時に一連の思考の流れができるよう画面構成や要素の表現方法などのルールを考えたりします。

初期段階から、「どのようなゲームにするか?」というコンセプトやアイデアなどがチーム内で共通認識として常に持てるようにするための、言語化・視覚化された資料がストックされていきますが、UIデザイナーもその段階でもゲームの中心となる画面を作成したり、テイストを模索したり、チームのメンバー間でゲームの完成がリアルに感じられるようゲーム画面としたりしてビジュアライズを行います。


私個人としては、初期段階からUI画面を完成に近いクオリティで作成することを大事にしています。それには、幾つかメリットがあります。初期段階でのゲームのおもしろさが発見できることや、見た目の魅力をUIが阻害してしまわないようにすることと、その後の画面展開のしやすさやブラッシュアップの時期により高いクオリティに引き上げる余地が生まれること、開発中のものをチーム以外の人や社外の人に見せる際に安心して見せられる状態しておくことなどがメリットとしてあげられます。

初めからクオリティを引き上げておくことは、そのプロジェクト自体が他所から信頼を得るためにも、UIデザイナーがチーム内で信頼されるためにもとても大事ですね。UIデザインのクオリティを上げること自体は、企画やイラストを完成させる時間ほど工数がかからないので、初期段階においてはUIデザイナーはとにかく速く完成に近い形をアウトプットして、開発期間ずっと高いクオリティを維持し続けることが求められます。

 
ーーパブリッシャーやコンテンツホルダーなどがゲームに対して出資を検討する際も、開発段階からUIの良し悪しはしっかりとチェックされますが、それほどUIはプロダクトの品質を左右し、売上に影響を与えるものと感じています。
 
そうですね。UIはプロダクトとして最初に目に留まる上に開発の進捗度として意識されてしまうため、既にあるゲームに見劣りしないクオリティを保持したいところです。そういう意味でもUIデザイナーのポジションはプロジェクトにとってとても重要なものになっています。

しかしながら、現状としてスマートフォンゲーム市場の盛り上がりに反してUIデザイナーは非常に少なく、その中でも、新規開発に関わりプロダクトのリリースまで持っていけるスキルセットを持っている人材は限定的です。
 
ーーそれほど重要なポジションであるにもかかわらず人材がいない、その理由はどのあたりにあるのでしょうか。
 
それは、スマートフォンゲームのUIデザイナーというポジションがまだデザイナーの一つのキャリアとして普及していないために、目指す人が少ないこと、また、短いスパンのプロジェクトを用意しづらく新人を充てづらいことなどが背景にあります。

新規タイトルの開発へアサインされるUIデザイナーの人数はだいたい1~2人なので、既にUIデザイナー経験があっても新規開発の経験を積む機会が回ってこないこともあり、そもそもゲームUIの制作に必要となるスキルセットや知見が多様でそれらを学ぶ期間がかかるという点でも、新規開発でゲームを完成まで持っていけるデザイナーというのはかなり希少になっております。

 
 

◆UIデザイナーの役割と持つべき視点

 
ーーなるほど。新規開発の現場では、プランナーが考えているゲームの企画をできるだけ速く視覚化して、プロジェクト全体で共通認識が持てるようにすることが大事ということですね。
 
はい。実際その時の成果物は、今作っているゲームがおもしろさのコアを体現できているか、表現として適切か、どういう絵の素材を用意すればよいかなど、プロジェクト内で様々な判断を具体的に下すことのできる状態にしていくことに繋がります。

また、そのフェーズでは、UIデザイナーの中でも、ラフな段階からゲームの世界観をどう表現するのか等、全体のUIルールの設計などを考えておきます。

このUIデザイナーが作成したルールに基づいてプランナーがより具体的な仕様書を作成でき、UIデザイナーは次に必要な画面の作成へと進めることができるため、開発のプロセスで好循環が生まれます。その上で多くの要素と制約を考慮して画面に収めたとき、操作感や見映えが最良の状態になるように考えなければなりません。

そのために、ゲームリテラシーとしてのゲーム特有の表現のセオリーを知っておくことや、スマートフォンの画面のサイズ感で複雑で高速な操作がなされることなどを前提として設計することが求められます。また、iOSのUIを基軸としたトレンドの変化が速いため、すでに現場で働いているUIデザイナーでも日頃から新しいアプリの情報収集と分析も必要です。

 
 
ーーなるほど。具体的にUI設計の手順はどのように行われているのですか?
 
基本的なUIルールはベンチマークとしているタイトルに準拠しているところがほとんどかと思います。その中で、企画として作ろうとしているものを汲み取り、情報を整理し、スマートフォンの画面に収まる形としてゲームの内容に適した状態に組み立てていくことになります。

その画面を設計する際、ゲームのUIの情報整理において基本的な3つのフェーズがあります。「ユーザーストーリー」「ビジュアルヒエラルキー」「ゲーム的ビジュアル表現」です。

 
これらはユーザーがアプリの目的や操作内容を理解し、説明がなくともアプリをプレイしてもらうために最初に整理しておくべき事項です。
 
まず一つ目が「ユーザーストーリー」です。ゲームはその性質上、カスタマイズさせたり、遷移させたり、何かを受け取ったりとインタラクションとその目的が多様です。そのため、一つの画面においてもユーザーにやってもらいたいこと、できることがたくさんあります。いったんこのユーザーが実行することを全て箇条書きで書き出しますが、複雑なゲームであっても多くて10前後になるかと思います。なかには「~~時は~~できる」というように条件分岐が含まれる場合もあると思います。

これらのユーザーストーリーを、全て適切な表現で画面上にて起こるように考えていきます。並んだユーザーストーリーの中から、この画面のコアとなる操作(やってもらいたい操作)と想定される使用頻度で一番重要なものを選びます。この時、もし重要なものが2つあって、それぞれが全然ちがう機能のものであった場合、そのユーザーストーリーは別画面に遷移して行うべきことである場合があることも考慮しないといけません。それは画面遷移の煩わしさやコンテクスト、機能の重要さなどをもとに総合的に判断したいです。
 
二つ目は「ビジュアルヒエラルキー」です。ユーザーストーリーをスマートフォンゲームの基本的なセオリーをもとにビジュアルヒエラルキーを考えていきます。小さな画面の中に、ユーザーの情報の拾いやすさ(ゲーム上で何がおきているかの認識のしやすさ)と何のアクションを取るべきかが分かるように、要素を重要性・必要性等で優先順位づけをします。

そして、UIとして出た時に、差別化された情報、並列の情報、関係性のある複数の情報として整理していきます。それらは、UIとしてビジュアライズされた時にサイズ、色、形状、デザインとしてその情報の意味するところが伝達するものとして形になります。UIデザインを実行する際には複雑な情報を整理し、情報が認識できるための視覚言語表現を適切に選んでいく必要があります。

ビジュアルヒエラルキーと視覚言語表現はほぼ同軸で整理されていくもので、ユーザーストーリーの段階でリストアップした事柄を、ゲーム的なテイストで、かつ、スマートフォンのパッケージの特性を考慮しつつ、できるだけ全てのユーザーストーリーが決めておいた優先順位が守られながら、適切に画面上の操作体系として配置されていきます。

 
ーーユーザーストーリーを元にビジュアルヒエラルキーを構築していくのですね。最後三つ目はいかがでしょうか?
 
三つ目は「ゲーム的なビジュアル表現」の考慮です。ゲームのUIの特殊な部分として、テキストよりも絵の情報によって画面が成立しているところがあります。スマートフォンゲームにとっての絵は単なる賑やかしではなく、そのものがゲーム上で意味のある要素です。その様なこともあり、必ず画面上にはキャラクターの絵かそのゲームの世界となる背景絵があります。その画面の役割を考慮し、なおかつ、登場するキャラクターと操作するプレーヤーの立ち位置はどういう関係にあるのかを頭に入れておく必要があります。

キャラクターはプレーヤーの分身(アバター)であり、プレーヤーが神の目線でキャラクターを動かしているので、それらが画面上に表示する情報としても、判断の一つになっていきます。また、ビジュアルヒエラルキーとして並列の文字要素の情報がある場合でもそれがユニークのものであれば、デザインを追加することを考えます。それは見た目の楽しさと要素の覚えやすさ、判別のしやすさなどの情報をユーザーに提供することになります。
 
この3つがネイティブゲームのUIデザインをする上での基本的な情報整理の考え方とアプローチです。これらは難しいことではないので、もし設計が苦手なUIデザイナーでも簡単に実践できると思います。

 

◆UIデザイナーとしてのキャリア

 
ーーこのようなお話を聞くとUIデザイナーはゲームクリエーターとしても魅力的なキャリアだなと感じました。一方でまだ業界全体としてUIデザイナーが不足していることを考えるととてももったいないように思います。
 
そうですね。開発におけるUIデザイナーの役割はますます増える一方、UIデザイナーの方は本当に少なく活躍の場は非常にたくさんあります。またスマートフォンゲームは長期間ユーザーに触れてもらえて、コンテンツとしてずっと残っていくので、デザイナーにとってはとてもやりがいのある仕事ですね。ですので、ゲーム業界以外で働かれているデザイナーの方にも是非ゲーム業界に来ていただき、今後のスマートフォンゲーム市場を一緒に盛り上げて行っていただきたいと思います。
 
ーー本日はお忙しい中ありがとうございました。
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