【インタビュー】トイロジックの位置情報RPG『八百万クエスト』を陰で支えるゼンリンデータコム「ゲームマップSDK」 実装の経緯や今後の展望をキーマンに訊いた


トイロジックから、2月1日より配信を開始している『八百万(やおよろず)クエスト』。本作は、プレイヤーが実際に歩いて遊ぶ、スマートフォン向け位置情報RPGで、位置情報・地図情報を用いた独自のアルゴリズムにより、「道」さえあれば日本全国どこでもプレイが可能。プレイヤーの住む街や通勤・通学路が冒険の舞台となって、クエストを進めたり、仲間を集めたり、敵と戦闘したりと、本格的なRPGを楽しむことができる。

そんな『八百万クエスト』、ゼンリンデータコムが提供する位置情報ゲームの開発を支援する「ゲームマップSDK」が導入されているのも大きな特長であり、「ゲームマップSDK」がゲームに採用された初の事例となっている。

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そこで今回、『八百万クエスト』の村田克己プロデューサーと、ゼンリンデータコムの天野寿氏、本間雅章氏へのインタビューを実施。『八百万クエスト』に「ゲームマップSDK」を導入することになったキッカケや、実装するにあたってのエピソード、今後の展望についてお話をうかがった。
 

◼︎『八百万クエスト』で初のゲーム採用となった「ゲームマップSDK」 実装の経緯を振り返る



(写真左から)
■株式会社ゼンリンデータコム
本間 雅章氏(プラットフォーム開発部 リーダー)
天野 寿氏(プラットフォーム開発部 マネージャー)
■株式会社トイロジック
村田 克己氏(『八百万クエスト』プロデューサー)


――まず、『八百万クエスト』がどのようなゲームなのか簡単にお聞かせください。

村田 本作は和をモチーフにした位置情報を使ったRPGです。従来の位置ゲームと比べて、本当にRPGを遊んでいる感覚が味わえるというものをコンセプトに開発いたしました。ユーザー層については、昔RPGを遊んでいた30代をターゲットにしております。

――2月1日に配信されましたが、現時点でアプリの調子はいかがでしょうか?

村田 初期のユーザーさんは、位置ゲームに対してモチベーションが高いと感じています。一度ゲーム内でアンケートを実施いたしまして、本気で遊んでいただいており、好意的な意見も多く、我々としても参考になっています。今後アップデートするにあたって、長く続けていただけるユーザーさんを大事にしながら『八百万クエスト』を育てていきたいと考えています。

――『八百万クエスト』ではゼンリンデータコムのゲームマップSDKを導入されているということですが、ゲームマップSDKとはどのようなものなのでしょうか?

天野 対象OSは、iOSとAndroidです。基本的には地図の描画を行うSDKになります。検索やナビなどはまだ入っていませんが、高速に描画することを目的に作られたSDKです。

――ゲームマップSDKは元々どのような経緯で開発されたのでしょうか?

天野 弊社ではいくつかSDKがあるのですが、そのひとつとしてGLを使って描画するSDKを作りましょう、というのがそもそものキッカケでした。ゲーム向けではなく、いままで通り地図アプリ向けに使うことを想定して作ったものです。



本間 元々はゲーム向けにという形でスタートしたわけではなかったので、ゲームで使うことは全然考えていませんでした(笑)

――では、トイロジックからのオファーを受けて、ゲーム向けに移行したと。

本間 そうですね。それで一気に仕様もゲームに特化させたというところはあります。

――村田さんはなぜゼンリンデータコムのゲームマップSDKを導入しようと思ったのでしょうか?

村田 位置ゲームを作るということで、色々な会社さんに問い合わせをさせていただきました。各社PVを使った料金形態だったり、ビットマップを落としてくるサービスになっておりまして、ゲームを作るときになかなか対応しにくい部分がありました。

ゼンリンデータコム様からはそれ以外にもレベニューシェアなど別のプランの提案もありましたし、もともとゼンリンデータコム様の使っているデータはゼンリンの地図データがベースということで安心感もありました。いろいろお話をしていくにあたって、地図のデータに関しても道路を区別する為の情報を持っていたりと、我々がやりたいことに対応いただける環境でした。そしてゲームに対してもっとも前向きに対応してくださったこともあり、最終的にゼンリンデータコム様とご一緒させていただくことになりました。


――トイロジックからオファーを受けたときはどのように思いましたか?

本間 まさかゲーム会社さんとやるとは思っていなかったのでびっくりしました。

天野 そうですね。会社としてもゲーム会社さんとご一緒するのは初めてのことでしたので。



――そこから実際にやることになって、どのくらいの期間がかかりましたか?

村田 実は某有名位置ゲームがリリースされる前から、今回のお話を進めさせていただいておりまして、かれこれ1年半前くらいから開発していました。元々8ヵ月くらいの期間で開発してリリースしようと考えていたのですが、ゲームを作り込む為に1年半に計画を変更しました。

――ゲームマップSDKについて、例えば実際の街で新しい道ができた場合、どのタイミングで更新するのでしょうか。

本間 データ更新は3ヶ月に1回の定期更新です。これはゼンリンのチームが実際に歩いて、目で見て確認しています。大型の高速道路などになると、ナビゲーションでも使われるので逐次更新、臨時更新しています。今回のSDKはすべてそれをベースにしていますので、3ヶ月に1回の定期更新をかけています。

村田 『八百万クエスト』側もそれに合わせて自動で地図が変わります。また何らかの理由により、道がまったくないところに宝箱が置かれてしまうこともあり得るので、ユーザーさんから問い合わせが来たときに日本地図に対して、いつもNAVI APIを使った専用のバックオフィスから禁止エリアを設定しています。

――ちなみに『八百万クエスト』に関わられたゼンリンデータコムのチームメンバーの人数は?

本間 8名くらいの体制になります。基本的に、GLができる人間が限られているので、そういう意味では精鋭が集まっています。

――今回、『八百万クエスト』にゲームマップSDKを導入するにあたり、難しかったことなどはありましたか?

本間 トイロジック様からのご要望で一番驚いたのが、地図は通常文字をどうやって綺麗に出すか、どういう風に描画させるかを考えて作っているんですが、そこは一切いらないと。いままで我々が考えていた地図という概念が、ゲームの世界では全然違っていたのが最初の取っ掛かりとしてあったので、どこをゴールにして目指せばいいのかという感じでした(笑)

村田 これはトイロジックだけではないのかもしれませんが、ゲームをわかりやすくするために必要なものだけ表示したい、という欲求があるんです。『八百万クエスト』は「アマハラ」という異世界を舞台にしているので、現実世界の地図データを使っているものの、世界観を大事にするために画面上のマップに皆さんが知っているような建物の名前は見せないほうがいいだろうということになったんです。それでゼンリンデータコム様にゲームの世界観に合わせていただいたというわけです。

――そのほかにどのような要求がありましたか?

村田 UnityというSDKを使ってゲームを開発するということで、Unityから使えるようにしてほしいというお話はしました。そもそも最初は描画エンジンも独自に作っておられて、描画する際にUnityとゲームマップSDKで競合してしまうことも起こっていました。それは調整していただいきましたが無茶ぶりだったかなと思います(笑)

当時はUnityに対しての対応は無くて、それぞれ別のエンジンを合体させていた感じなので苦労されたのかなと思います。最初はUnityのSDKという形ではなく、Android、iOSのSDKという形だったので、Unityから地図のSDKをどう呼び出そうかというところで苦労しました。




ゼンリンデータコム様の提供してくれたSDKで描画自体はUnityからでも簡単に呼び出せるようになりましたが、『八百万クエスト』は道に対して宝箱とかを配置していくので、ゼンリンデータコム様が生成した画像から、道を抽出しないといけないことになりました。道の画像に対してUnityからアクセスできない状況だったので、弊社からゼンリンデータコム様に我々から用意したサーフェスを直接書き換えてください、とお願いしてゲーム部分から画像にアクセスできるようにご対応いただいたので、そこは大変だったと思います。

本間 かなり大変でしたね(笑)

天野 我々はUnityの知見が全くなく、サンプルを見ながら何とか作ったという形ですね。

村田 実は弊社も初めてのUnityプロジェクトだったので、お互い探り探りだったと思います(笑)


――そのほか、振り返ってみてここは苦労したというところは?

天野 ゲームに実際に乗せたときにFPSが全然出なくて、FPSをあげる作業には苦労しましたね。

本間 処理でループが多い所って時間がかかるのですが、そこをなるべくループしないように余計なところを削っていくという作業は大変でした。


――今回一緒にやってみてここは挑戦したなというところは?

村田 我々としては、位置ゲーム自体がチャレンジでした。それ以外に、私どものアプリの方針につながるところですが、ユーザーさんに安全に遊んでもらいたいというところで、ゼンリンデータコム様に提供してもらった地図を使っていかに安全なポイントを作るか。そのために画像解析をやらせていただいているんですが、その画像解析をするときに色々な調整をしていただいたところも挑戦でした。

画像処理を使うために、欲しい情報だけ埋め込んでください、というやりとりを時間をかけてやりました。それだけだとゲームとしての見栄えがよろしくないので、それを解消するための色の調整も含めて大変でした。画像としてゲームから読み込むというところが一番のチャレンジでしたね。でも、そこはやはりゼンリンデータコム様にそういう柔軟性もあったので、我々も完成までたどり着けたし、ここまで来れたと思っています。


――ゼンリンデータコムは今回のプロジェクトを通じて何か新しい発見はありましたか。

天野 一番の発見は、僕たちが作ったSDKがゲームでも使えるんだ、ということです。ゲームという新しい分野にゲームマップSDKが広まったのは良かったと思っています。

本間 普通の地図アプリのデータがゲームという新しい分野に乗ったのは大きな発見でした。


――今後、ゲーム会社からのオファーが増えるかもしれません。

天野 そうですね、ご相談や問い合わせは増えてきています。

――今後、ゲームマップSDKに対して期待することはありますか?

村田 実は要望は多少あったのですが、正式版のSDKがリリースされるということで、そこで解決される部分もあるかもしれません。いまは割とiOS、Android別々で実装している部分もあって、その一部2重化しているところが解決されればいいなと思います。結局最初にそれぞれのOSのSDKで実装してしまっていますが、正式版のSDKがリリースされるということで、トイロジック側もそのSDKに合流して調整すれば、それだけで十分解決できると思っています。

――正式版ではどのような機能が追加されるのでしょうか?

本間 僕らが作っているSDKは2種類ありまして、トイロジックさんに出しているUnity版とiOS、Androidで使われている通常版。4月に出そうとしているのは通常版にある機能を盛り込んでいるUnity版になります。例えば、三角形を自分で描いたり、ポイントに文字を書いたりできる機能などですね。



――今後、ほかのゲームメーカーさんとやられる可能性もあると思いますが、サポート体制はいかがでしょう。

天野 基本的にバグがあっても即対応いたします。OSのバージョンアップやそれに対応したSDKに関してもOSのバージョンアップ時期を見計らった検証をして、柔軟になるべく早く対応、リリースしてユーザー様に使っていただこうという体制をとっています。4月にUnityに対応したものをリリースしますので、それをゲーム会社さんがご覧になられて、そこから色々なご要望など来ると思うので、そこでまた積み重ねていって使っていただければと思っております。

――今後、課題に思っていることや展望があればお聞かせください。

村田 SDKに関しては、新しく追加される3D表示などもゲームに使えるようなら使っていきたいし、ユーザーさんも色々求めてくると思うので、そこにも対応していければなと考えております。

また、『八百万クエスト』については、リリースしてみて色々な可能性を感じています。地図や位置を使うのは普通のゲームにはないものなので、例えば地方の有名な場所を絡めたり、観光地でウォーキングしながら特別なことが起きたりすると、もっと色々な人に遊んでもらえると思うので、そういうところにも力を入れていきたいです。もちろんゲームとしておもしろくすることも重要ですし、我々のゲームは歩いて遊ぶことに特化しておりますが、場合によってはユーザーさんのご意見を参考に調整していくこともあるかもしれません。


本間 ゲームマップSDKについては、描画しているのがUnityじゃなく別で描画しています。そうすると別々でつかんでいるものがあるので持って行きづらいので、描画もUnityでできるようなると、もっとリッチになると思うので何とかできればなと思います。

天野 とにかく使いやすいSDKを提供したいと思っています。アプリを作っている方に寄り添って、使いやすいインターフェースや安定感を最低限の目標にしていきます。




 
■『八百万(やおよろず)クエスト』
 

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2006年12月
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