【インタビュー】新たなコンセプトのゲームプラットフォーム「BlueStacks」…カントリーマネージャーに聞くその強みとは

 

昨今、ゲームのマルチデバイス化およびグローバル化が進んでいることは言うまでもないが、このいずれのトレンドにも一役買っているBlueStacksというゲームプラットフォームをご存知だろうか。BlueStacksは昨年末で2.5億ダウンロードを突破し、ある意味「業界の異端児」として世界中のゲーム業界に新風を吹かせている新たなコンセプトのゲームプラットフォームだ。

今回、日本におけるスマホゲームのPC展開の可能性について、 BlueStack Systems, Inc.の日本カントリーマネージャー松本千尋氏にインタビューを行った。(インタビューアー:美田和成)

 

◼︎優良ユーザーへのリーチと海外展開が強みのゲームプラットフォーム「BlueStacks」

 
 BlueStack Systems, Inc.
日本カントリーマネージャー
 松本千尋 氏

――:よろしくお願いいたします。まず、松本さんのご経歴について教えていただけますか。
 
BlueStacksには2017年7月にジョインし、それまでは約10年ほど住友商事に勤めていました。住友商事ではコンテンツ・メディア事業に長年携わっていましたが、2015年にシリコンバレーのベンチャーキャピタルに赴任する機会に恵まれ、その際に投資先であるBlueStacksと出会いました。私自身、シリコンバレーに戻りたいという想いや新たな環境でチャレンジしてみたいという気持ちがあり、帰国後CEOに声を掛けてもらい転職を決意しました。
 

――:現在は日本でお仕事をされているとの理解で宜しいですか。
 
はい、会社もビザ取得には協力的ですが、倍率が高く、思うようにすぐ渡米ということにはなりませんでした。ただ、日本のカントリーマネージャーとして事業立ち上げを担当していますので、業務のことを考えれば日本にいるほうが効率が良く、納得して取り組んでいます。
 

――:まず基本的なことを伺いたいのですが、日本での組織体制やお仕事内容について教えていただけますか。
 

日本法人はまだなく、日本人社員も私一人のため、オフィスもなく在宅勤務という非常に自由な勤務形態です。プロダクトのローカライゼーションから、営業、マーケティング、広報、QA、ユーザーサポートまで、日本に関係することは基本的にすべて一人で行っているので、やることが多く正直とても大変です。ただ、最初のうちにこうして一通りの業務を経験していると、ゆくゆくチームが大きくなっていったときに自分が隅々まで把握できているので、将来的に役立つだろうと感じています。
 

――:なるほど。日本人社員はお一人とのことですが、会社全体としてはどのような体制を取られているのですか。
 
社員は現在130名ほどです。本社はシリコンバレーですが、本社には10名ほどしかおらず、一番多いのがエンジニアを抱えるインドオフィスでCTO含めて70~80名ほどいます。あとは、中国はやはり特殊な市場なのでプロダクトも他とは分けて独立した運営行っており30~40名ほどいます。その他は私のようなカントリーマネージャーが各国に点在しています。最近ローカルスタッフの採用に特に注力しており、欧州、南米、トルコなどでも人員を増やしています。
 

――:かなりグローバルな体制ですね。日々のコミュニケーションはどうされているのですか。
 
週に一回定例会があり、そこで各国のカントリーマネージャーが業務報告をします。資料を画面で共有しながらのビデオ会議になりますが、最近は恐らく15ヶ国くらいからコールインしているのではないでしょうか。日本はお昼の時間帯なので助かっていますが、ヨーロッパのほうは朝5時くらいだと思います。私も深夜の電話会議に参加しなければならないときもありますが、誰かしらが犠牲にならないといけないので文句は言えません。自由な勤務体系とは言え不規則になりがちなので、そこは大変ですね。
 

――:次にBlueStacksの特徴について簡単にご説明いただけますか。
 
BlueStacksは仮想化技術を用いて、AndroidアプリをWindows上で動作させることをコンセプトとするゲームプラットフォームです。スマホゲームの性能がどんどん向上していく中で、ユーザーがスマホのバッテリーやメモリーを気にしながらゲームをプレイしなければいけないケースが増えてきていますが、BlueStacksはそのようなユーザーに気兼ねなくPCの大画面で迫力あるプレイを体験いただくための環境をご提供しています。技術的にはいわゆるエミュレータと呼ばれる括りに入ります。
 

――:エミュレータと言うとチートなどを連想されることが多いかと思いますが、実際はどうなのでしょう。その点でご苦労されることはありませんか。
 
海外ではエミュレータに対するゲーム会社様の受け入れが進んでおり、ここ数年では大手デベロッパーが先方のほうからぜひBlueStacksと組ませてほしいとラブコールをいただくことも多くなってきています。ただ、ご指摘のとおり日本ではまだまだそこまで至っていないというのが実情です。

確かにエミュレータをチートツールとして活用しようとするユーザーは一定数存在しますが、弊社はその問題に対してきちんと取り締まっていくためのクリーンなポリシーを掲げています。例えばルート化は禁止していますし、マクロを組んだりメモリ改ざんなどの不審なユーザー行為を検知するような仕組みも持っています。これは他のエミュレータの方針と大きく異なる点で、その結果、BlueStacksには優良なユーザーだけが残り、スマホでプレイする場合と比較しても高継続率、高ARPUといった結果に繋がることで大きな差別化要素になっています。

 
 
――:エミュレータのイメージを逆手に取って、あえて「アンチチーティング」を掲げられているということですね。ゲーム会社側にとってのメリットについて、他社との差別化と絡めてもう少し詳しく教えていただけませんか。
 
そうですね、今お伝えさせていただいたとおり、優良なユーザーに効率的にリーチできるということはやはり大きいと思います。もう一つは開発面でのメリットです。最近ではスマホ版のあとにPC版がリリースされるタイトルも増えてきていますが、あえてそのような開発コストと時間を掛けなくても、BlueStacksを介せばAndroid版をそのままPCでプレイしてもらえる環境を提供することができるのです。

また、技術関連で更に補足させていただくと、今年1月に世界で初めてAndroid 7 Nougatに対応したオープンベータを発表しました。シリコンバレーの会社だけあって技術力は非常に高く、この新バージョンによってアプリの互換性とパフォーマンスが更に向上します。

 

そして最後の点は海外展開です。冒頭にお伝えさせていただいたとおり弊社はワールドワイドでサービス展開していますので、日本以外の国々でもプロモーションのご協力が可能です。今やゲーム市場もグローバル化が急速に進んでいるので、こちらも大きなメリットになるかと思います。特に東南アジアや南米、中東といった地域はなかなかリーチが難しいと思いますので。
 

――:確かに既にAndroid版があるのであれば、それを活用しない手はないように思えますね。しかもそれがグローバルに展開できるとなると大きいですね。ちなみにマルチデバイス化という点においてはDMMさんともパートナーシップを組まれているかと思いますが、こちらの背景について教えてください。
 
DMMさんとは弊社からの技術提供という形でお取組みさせていただいています。DMM GAME PLAYERに弊社の技術が内臓され、DMMさんと提携されるAndroid版のゲームがPCで遊べるようになります。DMMさんの場合は弊社の技術以外にもいくつかPC展開の方法をご準備されていますが、その中でもエミュレータの技術に対する需要は大きいとお伺いしています。ゲーム会社様にとって開発の手間と時間と費用が圧倒的に圧縮されるため、マルチデバイス化のハードルが一気に下がり、マネタイズのイメージがしやすいのだと思います。
 

――:なるほど。一方で松本さんはBlueStacksの立場としてどのようなビジネスモデルをゲーム会社にご提案されているのですか。
 
現在BlueStacksの収益は主に広告売上で成り立っています。お取組みをさせていただいているタイトルに関しては、BlueStacksのトップページなどで積極的にプロモーションを行い、それに対するCPIとして成功報酬をいただく形のビジネスモデルです。最近では事前登録の誘導も開始し、リリース前からタイトルを盛り上げていくお手伝いもさせていただいています。このような案件を日本でもどんどん増やしていきたいですね。
 
 
――:ジャンルとしてはどのようなタイトルがBlueStacks上で人気がありますか。
 
最近ですと一番人気なのは『荒野行動』です。Google Playでも1位なのでそこのトレンドはスマホと一致しているというか、そもそも人気のコンテンツだと言えると思いますが、このようなFPS系はマウスやキーボードへの操作設定の割り当てがプレイ面にも大きく影響を与えるので、BlueStacksとの相性は非常に良いと言えますね。こちらのタイトルはスマホユーザーとそれ以外でサーバーを分けられているので、プレイ面での公平さも担保されています。

FPS以外ですと、スマホの小さな画面だとプレイしづらいMMO系ですとか、オートプレイが可能な放置系、大きな画面でミュージックビデオを堪能できるアイドル系のタイトルも上位に見られます。弊社側でBlueStacks上での想定アプリ内課金額をトラッキングしているのですが、相性の良いタイトルは本当に驚くような数字が出ています。

 

――:それは興味深いですね。ちなみに日本のユーザー数はどれくらいいるのでしょう。
 
日本はMAUが数十万前半です。正直決して大きいとは言えませんが、昨年8月末に最新バージョンのBlueStacks 3をリリースして以降DAUは2倍になりましたし、まだまだ伸びしろはあると思います。また、やはりARPUが他の地域と比較して圧倒的に高いので、会社全体としても重要市場として注力しています。B2B、B2Cいずれにおいてもエミュレータに対するアレルギー反応があるので開拓にはもう少し時間が掛かりますが、そのためにはやはりコンテンツを保有しているゲーム会社様との関係構築が最も重要だと思っているので、業界内でのBlueStacksのプレゼンス向上と、皆様に正しいご理解をいただけるような啓蒙活動に積極的に励んでいます。
 

――:海外はいかがですか。どのような地域が強いのでしょう。
 
最も大きいのは中国ですが、他にも台湾、韓国とやはりアジアがユーザーベース、売上面ともに強いです。また、環境が異なりますが、スマホのスペックが追い付いていなかったり、通信環境に恵まれないといった理由からPCでゲームをするカルチャーが根付いている東南アジアもポテンシャルがありますし、最近ローカルスタッフを配置したロシア、ドイツ、フランス、トルコなどの国々でも盛り上がりが見られます。毎週各国の担当者からそれぞれの国の新たな取組みについて聞けるのはとても面白いです。

 
――:最後に、BlueStacksとして目指す方向性や、今後の日本における展望についてお聞かせください。
 
BlueStacksはもともとはAndoridをWindows上で動作させるというコンセプトから始まったサービスですが、ただ動作させるだけでは意味がなく、ユーザーの皆さんにPCでプレイするにあたっていかに快適に違和感なくご利用いただけるかが重要であると思っています。あくまでB2C向けのサービスですので、そういった意味では私自身もユーザーの皆さんからのお問い合わせやコメントはすべて目を通していますし、その一つ一つにお応えできるよう本社にフィードバックすることに個人的にはとても重きを置いています。

本社側ではこのような各国からのフィードバックを吸い上げた上で、プラットフォームとしてどのような改善をすべきか、どのような新機能をご提供すべきかといった議論が常に行われています。機能面では既に独自のポイントシステムを導入したり、今後はよりコンテンツ面でユーザーの皆さんに役立つ情報を充実させていく方針です。個人的には日本独自の機能も追加していきたいですね。シリコンバレーのスタートアップだけあってこのあたりの検討、取り進めは非常にスピーディーですので、今後も楽しみにしていただければと思います。
 

――: 本日はありがとうございました。
 

 
デロイト トーマツ

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