【CEDEC+KYUSHU 2018】ゲーム音楽業界を活性化させるための著作権活用法…ノイジークローク坂本氏が「委嘱」システムを解説

 
CEDEC+KYUSHU 2018実行委員会は、12月1日、九州産業大学1号館(福岡市)にて、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2018」を開催した。
 
本稿では、当日に実施されたセッション「ゲーム音楽が作り出すゲームビジネスの新たな可能性」のレポートをお届けしていく。
 
こちらのセッションには、ノイジークロークの代表取締役CEOで作曲家の坂本英城氏が登壇。ゲーム音楽をゲームプロモーションの一環として運用や活用をしていく効果的な方法について紹介した。
 

▲ノイジークロークの坂本英城氏。坂本氏は、作曲・編曲・レコーディング・ディレクション・プロモーションなど、楽曲完成の最後まで自身が携わることをポリシーとしているとのこと。
 
本講演では、坂本氏のこれまでの経験から、ゲーム音楽をどのように利用すればユーザーや企業、作曲家自身が幸せになれるかを坂本氏の目線から説いていくという。その中で、まずはノイジークロークとしての活動の鉄則を紹介した。
 

 
ノイジークロークでは、ゲーム音楽を作るだけでなく、世の中の認知度を上げ普及に貢献し、ゲーム音楽市場を拡大・活性化することを活動の目標としている。そのため、ゲーム音楽を聴きたい・使いたいと思っている方の手が届くところにゲーム音楽がある環境を作っていくべきだと坂本氏は語る。
 
そして、今回の講演を行うにあたって、まずは坂本氏自身の生い立ちを知ってもらう必要があるとして自身の経歴を紹介した。
 
フリーランスとして働き出した当時、多くのゲームメーカーには作曲家に著作権を残すという発想がなかったという。これについて坂本氏は、そもそもゲーム音楽はゲームメーカーの社員が制作していたという歴史があるためではないかと分析する。そんな状況で少しずつ楽曲制作を受注していくうちに、だんだんと小さな不満が募るようになってきたという。また、当時の経験があったからこそ、ゲーム全体におけるサウンドの扱い方を俯瞰して見ることができたことが貴重な経験だったと話した。
 

▲業界内では、サウンドトラックの売上予想はゲームの売上本数の1%と言われているとか。
 
こうした状況を打破するため、坂本氏はまず起業をすることに。これは、大手企業と契約するために必要なことで、単身のフリーランスと直接付き合ってくれるような環境がなかったためと説明した。また、この頃から作曲や編曲、ミックス、効果音作成、MA、ミュージシャン・声優の手配など、ゲーム音楽制作に必要なものは何でもひとりでやるようになったとか。そうすることにより、新たなスタッフが入社した際に教えられるようにしていたという。坂本氏は、会社を設立して最も良かったのは、良い仲間たちと出会えたことだと述べた。
 

▲とはいえ、最初は取引先がゼロ、表に出せる実績もゼロという苦しい状態からのスタートすることに。そこで、世の中の需要を満たすため、当時は他にあまりなかったという「ゲーム専門」の音楽制作会社として売り込みをかけることに成功する。
 
そうして活動する中で気付いたのは、目の前にいる担当者から良い反応をもらえたとしても、その上司の承認が得られなければ仕事を任せてもらえないということ。そうしたハードルを越えるためには「ノイジークロークにお願いすると、こんなに”得”がある」という説得が必須となった。
 
その時に改めて、「これまで自分の名前や作品が広まらないのを人のせいばかりにしていて自分はなにもしていなかった」ということに気付いて反省したと坂本氏は続ける。そこで、先の不満を解決するために下記の答えを導き出したのだという。
 



▲こうした経緯があり、「ノイジークロークレコーズ」や「ゲームタクト」が誕生した。また、著作権を管理する音楽出版社「ココカラ株式会社」も設立した。
 
この際、クオリティの高い楽曲を作るのは最低条件で、それ以上に「どうやったら多くの人に聞いてもらえるか?」という施策が非常に重要になったと坂本氏は当時を振り返った。
 
ここで坂本氏は、みんなが結構忘れていることとして、ゲームは「企画」「シナリオ」「アート」「プログラム」「音楽」など、様々な要素が絡み合い構成されているが、音楽だけは「既にそれ単体で巨大な市場がある」という事実があると話す。配信先も数多く、4000万曲が配信されている市場にゲーム音楽が打って出ない理由はないと坂本氏は述べる。
  
さらに、ゲーム音楽には下記のような特徴もあることが紹介された。
 

 
以下は2017年に日本国内でリリースされたゲーム本数。仮に、1タイトル20曲収録されていた場合、8万曲が制作されていることになる。こうして楽曲が浪費されている状態を打開するためにも、なんとかしてゲーム音楽を活用する場を作れないかと坂本氏は日々考えているという。
 

 
また、コンサートの公演数やゲームサントラについてのデータも発表された。
 

▲コンサートで演奏される楽曲は人気が高いものに偏る傾向もあるため、良い音楽を埋もれさせないためにも数ではなく質を変えていかなければならないと強くコメント。
 


▲ちなみに、中国ではゲームのサウンドトラックはほとんどリリースされていないという。坂本氏は「ゲーム音楽を高音質で聴きたい」「サントラを手元に持っておきたい」という需要を作る必要があると述べた。
 
ここからは著作権について。そもそも著作権というのは、作曲家目線から見ると「自分の曲は使って欲しいけど、勝手にあれこれされたくない」という心情をフォローする仕組みであると坂本氏は語る。また、権利を活用する仕組みがある会社であれば「買取」に関して否定的ではないとも述べた。しかし、「あまり深く考えず、とりあえず面倒だから買い取っておこう」という買取にはマイナスしかなく、事実こうした場所も少なくないというのが現実のようだ。
 

 
そこで、こうした権利を一元管理しているシステムが「JASRAC」と「NexTone」だと坂本氏は紹介した。管理を委託した楽曲に関しては「JASRAC」や「NexTone」に利用申請を出さないと使えなくはなってしまう点には注意が必要だが、広く使ってもらうためには必須であるとコメントを続ける。
 


 
とはいえ、「著作権を預けたら利用の度にお金が掛かってしまうのでは?」「何か面倒なことが起きるのでは?」という漠然とした不安があるのもまた事実。そこで坂本氏はそうした不安を払拭すべく、「委嘱」というシステムについての説明を下記の通りに行った。
 

▲委嘱の申請は非常に容易な方法で済むという。検索コストや管理コストの観点からも「JASRAC」や「NexTone」に著作権を管理信託せずしてマスメディアに楽曲を使ってもらうことは限りなく不可能に近いため、ぜひ積極的に預けてほしいと坂本氏はアドバイスした。
 
また、著作権は以下の3つの総称となっているが、「いつどこで使用されるか教えて欲しい」「楽曲のこの部分のみの使用は止めて欲しい」などの著作人格権については主張しない方が良いと坂本氏は述べる。理由として、作曲者にとって大事なのは、ゲームが売れ、多くのお客様の耳に楽曲が届くことであり、そのための販売促進施策としてTVCMで楽曲の一部が使われるというような事態はよくあることで、その都度確認に時間を掛けているようでは話が前に進まないためと解説した。
 



▲原価比率はCDと配信でそれほど大きく変わらないことが分かる。
 
ここまでの話のまとめとして、各者の関係が下記のようにまとめられた。また、ノイジークロークでの理想的な実例についても紹介が行われた。
 

▲下から上に向かってお金が流れていく仕組みとなっている。逆に権利は上から下へと預けられていき、利用者が簡単に利用できる状態になる。坂本氏は窓口を一本化することが大事だと話した。
 


▲『文豪とアルケミスト』では、オリジナルサウンドトラックがヒットしたことをきっかけに、ピアノコンサートを主催、さらにコンサートに合わせてCDや楽譜をリリース。オーケストラコンサートも開催した。
 
一例を紹介したところで、ここからのポイントは「音楽を使った面白い仕掛けをほかの制作者と一緒になって考える」ことになると坂本氏は話す。
 
例えば、『無限回廊 光と影の箱』では「ギネスブックに載って欲しい」という要望から、世界一長いゲーム用書き下ろし楽曲でギネスに認定されている。さらに、そこまでするのであれば、ということでUSTREAMにてレコーディング生中継が実現。ゲーム発売前に楽譜データを配布するなど、様々な施策を経て10000人以上の視聴者が集まり話題となった。
 

▲通常の楽曲であれば長くとも100小節ほど。2636小節の演奏を依頼されたヴァイオリニストの方は、まずスポーツジムに通うことから始めたのだとか……。
 
また、『勇者のくせになまいきだ。』では、プロデューサーの「息子の演奏会が良かった」という一言から着想を得て小学校の楽器のみでノイジークロークの社員が本気のヘタウマ音楽を制作。
 

▲しかも、ヘタウマをプロが行うのは偽物という考えのもと、レコーディング日程を先に決め、1週間前に各メンバーに楽器を配るというサプライズ施策だったことが明かされた。
 

▲こうした活動を続けるうち、ロシアから「演奏して欲しい」という声が掛かって公演が実現する。
 
そのほか、『タイムトラベラーズ』のテーマ曲である「The Final Time Traveler」が、フィギュアスケート選手の羽生結弦さんの滑走曲に選ばれたことが大きな話題となった例を挙げ、これもノイジークロークによる積極的な著作権活用が奏功したケースだと語った。また、ノイジークロークでは、作曲家が演奏して世の中に届けていく、作り手がメッセージを発信するために「TEKARU」や「騒然のカウズ」、「LOST BOYS」というユニット活動を行っている。こうした点から坂本氏は、自社で作った作品を世の中にアウトプットしていく方法をいくつか持っておくことが重要であると話をまとめた。
 

▲こちらはゲーム音楽を後世に残すことを目的として毎年、開催されている「ゲームタクト」プロジェクト。多くの著名な作曲家が集まり自主的に制作しているのが特徴で、作り手にしか発信できないメッセージがあり、そこには音楽史においても計り知れない価値があると坂本氏は主張した。
 
講演の終盤では、近年のゲーム音楽活用の動きの一例として、『モンスターストライク』の吹奏楽譜が無償配布されたことにより、夏の甲子園で多くの方の耳に届くこととなったことが紹介された。こうした例からも、業界全体としてゲーム音楽を使いやすくしようという傾向になり始めたと坂本氏は話す。
 

▲当然ながら、ハードルが高い作品や楽曲は演奏がしにくい。プロモーションとして機会損失に繋がってしまうため、ノイジークロークとしても働きかけを行っているという。
 
最後にまとめとして、著作権を活用することで「メーカー」「作曲家」「ユーザー」それぞれがwin-winの関係になれることが理想的であるとして講演の締めとした。



 
(取材・文 編集部:山岡広樹)



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