【連載】ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- 第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」


株式会社ファリアー 代表取締役 社長の馬場保仁氏が、ゲーム業界の人材・採用に関して語っていく連載記事「ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN-」。同氏は、セガで家庭用ゲームの開発を、DeNAではスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任していた。ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に注力していく。開発現場・採用担当、双方の視点からゲーム業界における“人”に対してスポットをあてた連載記事。
 

■第六十回「按図索駿(あんずさくしゅん)」






みなさん、あけましておめでとうございます!

松の内も相当にすぎて、何を言っているのか?という感じですし、そもそもこの連載も自然消滅か?というくらいに書いておりませんでした。すみません。

書くことがなくなったわけではなく、逆に、いま、目の前に、肌で感じる問題が山積しており、はたしてどうまとめて、皆さんにお伝えするといいか?を考えておりました…

今回のタイトル、ほとんどの方があまり目にしたことない言葉だと思います。漢書の中にでてくる言葉なのですが、

「実際の馬を見ることなくして、情報や図のみで、考えたり、意見を持つこと」

をさします。ざっくりな意味ですがw

弊社のイベントなどにもでてくる「馬」がからむ言葉だったので、これにかけてまずは、新年一発目を記そうと思い至りました。

そもそも、なぜ、この言葉を年初のコラムに選んだか?と申しますと、よくいろんな企業さんの採用担当者や学校の先生方にお話をお聞きしていると、共通してでてくる言葉があります。

それは、

「いい子」

という言葉です。

【企業】
「いい子」が欲しいですねぇ
・今回のイベントには、あまり、「いい子」いなかったですね
・もうこのタイミングだと、「いい子」がいれば採りますけど…

【学校】
・今年は、これといって「いい子」が少ないです
・もっと「いい子」ばかりだったら…

などなどなどなど…どれほど、耳にタコができるくらいこの「いい子」という言葉を聞いたことか……結論から言うと、

「いい子」なんてものはいない!

ということです。逆に言えば、

「みんな、「いい子」ですけどね!」

ということですw

もちろん、企業において必要な人材は、その会社ごとによって異なります。

わたしも現場で開発をしてきている人間なので、新卒・中途問わず、現場はできるだけ「即戦力」に近い人材が欲しいのは、痛いほど理解いたします。でも、それは、中途採用や、業務委託、派遣会社さんと協力して満たせばよいところかと思います。

わたしは、中途に関しては、カルチャーアジャストに少し時間はかかれども、基本、Join初日からバリューを出せる人であってほしい!と思っていますし、わたし自身、セガさんからDeNAさんに転職したときもそれを心がけていました。

もちろん、最近では、「第二新卒」的な転職も多くみられるようになりましたし、今後1社でキャリアを終える人は減ってくると思うので、この「Join即日バリュー」は、場合によっては(経験や、年齢)やや基準を緩和しないといけないかもしれませんけどねw

ただ、キャリアを積んできているからこその中途採用であり、そもそも、どのプロジェクトで、どう活躍してほしいまでがイメージできて採用されているはずですので…それが、業務委託や、派遣契約となれば、なおのことより具体的に求められると思います。

でも、だからこそ、プロジェクトニーズにあった方とご契約されたい!となるのも当然のことかと思います。

まあ、中途採用の場合は、20代、30代、40代以上と年齢で、求められるものが異なります。若いほど、育成も視野に入れておられるでしょうし、この部分で人が必要!と、ディテイルがはっきりしていることが多いかと思います。

ですが、年齢が高くなるほど、経験が多い方が増えてくるので、具体的なタスクはもちろんのことですが、それ以外の付加価値も期待しての採用となることが多くあると思います。

・ゲーム開発の力(自分で考え、手を動かす)
・マネジメント力
・社外との連携の経験
・ツテを多く持っているかどうか?
・若手の見本となるかどうか?

など

単に、1人のプレイヤーとしてゲーム開発できるだけでなく、それ以外のものも、あると「なおよい」感じで求められてくると思います。その分、給料にも反映されるわけですからね! 転職したら給料があがる!ってわけじゃないんです。ここも勘違いをされている方がたまにいらっしゃいます。

転職時には、基本、フェアバリューと言われるある程度の幅に収まる、経験と能力からかんがみた「適正年収」が存在していると思います。

もちろんこれは、時代や国、地域によってかわります。また、フェアバリューを上回っても、その人にJoinしていただきたい!と採用企業側が思えば、フェアバリューに上乗せしてでても、良い影響をもたらしてくれる人=インパクトプレイヤーとして、オファーをだしてこられることでしょう。

ただ、給料があがるということは、それだけ「期待に応えないといけないハードルも高くなっている」ということです。そして、無理して給料をフェアバリュー以上にあげてしまうと、その次の転職が、簡単にはいかなくなるということを念頭においておかないといけないということですね。

各人の人生なので、判断はおまかせしますが、わたしのところに相談があった場合は、本来エージェントはたくさんの給料を勝ち取った方が、自身のフィーも増えるので多くするように動く会社が多いと思いますが、結局、

長くそこで働いていける

ような契約を勝ち取ることが、企業、求職者、両者にとってのメリットになりますので、そこを間違えたくはないと考えています。

さて、話戻って…
では、新卒で「いい子」とは何を求められているのでしょう?

<プランナー・ゲームデザイナー>
・面白い企画を立てられる
・アイデア豊富
・ロジカルシンキング
・プレゼンがうまい
・書類をまとめるのが早い、うまい
・数値に強い
・絵も少しはかける
・プログラムの経験や、知識もある
・ゲームをすごく遊んでいる
・教養深く、引き出しが多い

などなど

プランナー職を例にとってあげてみましたが、まだまだあると思いますが、プランナーだけとってみても、どんどん、

「あるといいな、の条件項目」

が出てきます。これら全部ができる子をさすがにほしい!と思っている企業はそんなにないと思います。ゼロです、と言えないところがまあ、難しいところなんですがw

これらを全部満たしている学生もいなくはありません。でも、1学年に、数人いるかどうか?だと思います。

そして、そんな素晴らしいポテンシャルを持った学生を採用したい!と企業が思うのは間違っていませんし、ぜひ、そのための活動をされたほうがいいと思います。

ですが、正直、「運」です。巡り合えるか?も運ですし、面接官との相性も言うなれば運でしょう。あとは、

・会社の知名度
・会社の安定
・会社のチャレンジしていること
・給料
・福利厚生
・社風
・やりがい
・先輩

などなど

企業が学生に「いい子」を求めるなら、学生も企業に求める「いい会社」があるわけです。このお互いがかみ合い、かつ、よきタイミングで出会う、なんていうのは、かなり「運」だと思いませんか?

ただ、問題は、その「運」があって出会えたのに、そのことに、気づかない、ものにできない、ということが往々にしておきていることです。それは、学生にも、企業にも言えます。

学生は、自分をアピールしきれない、もしくは、まだ場慣れしてなくてポテンシャルを発揮できないまま、出会いを終えてしまう、ということがよくあります。なので、ふだんから、アウェイの環境に身を置き、厳しい状況に慣れていくことが大事です。

それこそ、弊社の「駿馬~ゲームクリエイター育成講座」などに、何度も足を運んでくれる学生さんなどは、知らない学校の学生と喧々諤々やらないといけないので、ふつうに、2、3度経験すると、ある程度物おじせずに、話すことができるようになってきます。

駿馬に限らず、いまは全国各地でグローバルゲームジャムはじめ、いろいろなイベントや勉強会が実施されているので、積極的に参加していくことで、

・大人と話すことに慣れる
・他校の学生と話すことに慣れる
・大学生⇔専門学校生の違いに慣れる

など

企業は、どこか「すべてを満たすいい子」を探しすぎているところがあると思います。

もしくは、「いいところを見ずに、穴を見て落としてしまう」という場合も散見されます。たしかに正社員登用は、企業にとって慎重を期すところなので、なんとなく、まあいいか、では採用してはいけないと思っています。でも、「採ってやる」も違うと思っています。

働く側からすると、人生で一番貴重なリソース=時間を提供するのですから、そこまで企業と労働者に上下関係はないはずなんです。

そして、採用担当者とて、昔は、新卒のときがあったはずなんですが、どこかで、このあら捜しをして、とってやるになっているところがないでしょうか?(もちろん、みんながみんなってことではないですよw きていただく、とまではいわないまでも、少子化にむけて、いかに自社の魅力を伝え、納得して入ってきてもらう、を実行されている企業さんも多くみられますので!)

そして、その企業にとって最初から「都合のいい子」なんて、そんなにいないはずですし、いても出会えるかどうか?がかなり難しいと思います。で、あるならば、

・ゲームクリエイターとしての土壌を持ち
・自社の風土にマッチしそうである


学生を採用して「育てる」ことが、最終的には、一番近道ではないでしょうか?

新卒は、へんな癖がついていません。凝り固まったところも、経験がない分だけなく、プロ・先輩の言うことを素直に聞くところが多いです。裏を返せば、

・素直でない
・努力しない
・継続できない…
・ゲームが好き!と言えない…


というような「基本的な土壌」がない人は、どの業界にいっても(ゲームが好き!を除く)なかなか、「仲間として」受け入れられづらいでしょう。

「いい子」は、「いいところ」をいくつ持っていて、且つ、自社でどう育て上げられそうか?の原石であることを気づくことができるか?だと思います。

なので、見たこともない、会ったこともないような「理屈上の名馬」像から、「走りそうな馬」像をつくるのではなく、より多くの学生に会い、且つ、自社の育成フローや課題を見つめ、ポテンシャルを見極め採用していくこと。

そして、一気通貫で、採用した新卒を1~3年ほどの間、どういったプランで育成していくか?どういう成長パターンがあるか?などを考えて、実施していき、振り返り再度採用につなげていくことこそが大事なのではないでしょうか?

ちなみに今回の冒頭の画像は、里山乗馬クラブさん(http://satoyama-jouba.com/)にご協力いただき、まだ鞍もつけたことのない新馬を地道に人に慣れるところから始める「馴致(じゅんち)」作業の一部を見せていただいた時のものです。

この馬に可能性があったとしても、そもそもの土壌として「人を乗せることができる」ようにならないと話にならないからですね!この馴致をミスると「人嫌い」とかになる馬もでてくるので、馬を育てる方には言葉も通じないでしょうに、本当に頭が下がります…

我々は人間同士なので、コミュニケーションをじっくりとっていくことで、分かり合えることも多いですからね!採用とは別に、学校の先生方も、学生のポテンシャルを寄り添って見出していってあげられると、未来は明るいと思います!

今回は以上です。


第22回 駿馬 YOKOHAMA
https://shunme-22.peatix.com/



 
ご相談、お問い合わせは…

 

株式会社ファリアー

 


■著者 : 馬場保仁
株式会社ファリアー 代表取締役社長。過去、セガ(当時 セガ・エンタープライゼス)で『プロ野球チームをつくろう!』『Jリーグプロサッカークラブをつくろう!』など多数のゲーム開発に従事。その後DeNAにてスマホアプリ開発のプロデューサーを担うほか、人事・採用担当も兼任。現在は、ファリアー社を創業し、“人は人に活かされる”をモットーにゲーム開発、人材発掘・育成にこれまで以上に尽力している。著書に「ゲームの教科書」(ちくまプリマー新書)がある。



■ゲーム業界 -活人研 KATSUNINKEN- バックナンバー

第五十九回「”敬意” と “覚悟” ~採用チームと選考項目~」

第五十八回「学生から学ぶこと」

第五十七回「なにごとにも、準備が大切」

第五十六回「"When the student is ready, the teacher appears."」

第五十五回「削りだし、肉付けする」

第五十四回「最新を知らずして…

第五十三回「ヒトがひとを採る

第五十二回「誇り、やりがい、お金」

第五十一回「キャップは、誰が決める?」

第五十回「出口に対する意識〜後編〜」

第四十九回「出口に対する意識〜前編〜」​

第四十八回「ゲーム業界に就職すること」​

第四十七回「お金の話」​

第四十六回「伝える姿勢」​

第四十五回「どこをみるか?いつをみるか?」​

第四十四回「体験する重要性」​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十三回)​

「ゲーム教育トーク」【前編】(第四十二回)​

第四十一回「"いま"やるべきこと〜その②〜」

第四十回「"いま"やるべきこと」

第三十九回「ゲームをつくるのは楽しい!」

第三十八回「軸足をもつ」

第三十七回「どんな経験が?」

第三十六回「自分だけの面白いから脱却」

第三十五回「幸せのカタチ、面白さのカタチ」

第三十四回「プロの言葉・責任」

第三十三回「小さな成功、大きな成功」

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【後編】(第三十二回)

「ゲーム業界クリエイター教育トーク」【前編】(第三十一回)

第三十回「指導者に問われるもの」

第二十九回「そもそも、企画の仕事って…」

第二十八回「転職〜中級編・自分の価値を知る〜」

第二十七回「転職〜入門編〜」

第二十六回「リーダーシップとは」

第二十五回「思考のスタミナ」

第二十四回「出て行く勇気」

第二十三回「個人でつくる・集団でつくる」

第二十二回「指摘される勇気、指摘する気遣い」

第二十一回「どこを見るか? どう採るか?」

第二十回「100%の力を発揮するために……」

第十九回「まずは、”伝える”ことから始めよう!」

第十八回「カード少なく勝負に挑まない」

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【後編】(第十七回)

第二回「学校トーク!!」…三者鼎談【前編】(第十七回)

第十六回「新人事始」

第十五回「就職活動にみられる地方格差」

第十四回「【思いやり】の向こう側

第十三回「仕事選び 〜成長・夢・時間〜

第十二回「本当にそれは、ゲームに必要か?」

第十一回「ハッカソンの功罪」

第十回「会社選びと成長(プロ、アマ問わず)」

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【後編】(第九回)

「学校トーク!」 東京工芸大学 『パックマン』生みの親 岩谷徹氏に訊く【前編】(第八回)

第七回「学生さんにやっていただきたいこと~後編~」

第六回「学生さんにやっていただきたいこと~前編~」

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【後編】(第五回)

「社長トーク!」第1弾 コロプラ 馬場功淳 社長【前編】(第四回)

第三回「若手のチャンスとキャリアパス」

第二回「企業×学校×学生」

第一回「ゲーム業界って本当に人手不足なの?」
株式会社ファリアー
http://farrier.jp/

会社情報

会社名
株式会社ファリアー
設立
2016年7月
代表者
代表取締役社長 馬場 保仁
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